蚊頭囉岐王——小説31
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
その夢を
喰いちぎれ
夢?
食え
まぼろしを
咀嚼して
いや
唾を吐き
夢を?
したゝる唾液
まぼろしさえも
喰いちぎれ
わたしは見ていた
食え
息をひそめもせず
血をすゝり
なぜ?
すゝりあげても
息をするさえ忘れていたから
喰いちぎれ
息をするさえ忘れていたから
食え
かくて斗璃摩娑爾に
その一瞬には
都儛耶氣良玖
わたしだった。
それら。
無數のわたしが。
喰う齒。
わたしだった。
齒。
それら。
花々は。
わたし。
齒と齒の咀嚼
その花は。
わたしだった。
無數の私。
喰われた。
わたしは。
その齒。
齕みあう。
千切る。
囓みあう。
その齒。
母の。
その歯に
珠美の。
齒。
彼女は。
わたしは。
ひとり喰いちぎる。
私の肉を。
咀嚼した。
音を立てながら。
彼女は咬んだ。
母は喰った。
わたしの肉を。
母はしゃぶった。
私の骨を。
ゆらぐ花。
わなゝく。
散らされ。
喰う。
散る花ら。
喰う。
歯。
齧む齒。
歯。
齒が喰う。
わたしを喰う歯。
飛び散った。
わたしの血の珠。
珠散りながら。
花らは散った。
齒茎に散って
なぜ?
わたしの口は味を知る。
その花の。
齒の咀嚼。
齒と歯。
味を知った。
わたしの齒茎が。
肉の味。
花汁散らし。
わたしの肉の。
齒。
故レ爾に哿頭羅岐ノ又は古布ノ多摩美ひとり沙羅ノ双樹が北東の一本ノ枝の上によジ登りて見上げタる葉と葉ゝ又枝と枝ゝ又花と花ゝの逆光ノ翳り又至近の色又漏れる光のそれらサまザまの散乱ノ内に花なす花ゝ唇と齒又齒と舌又舌と顎又顎と喉とに喰ひ又咀嚼し又飲み又粘膜に散る花汁舐メて娑娑彌氣囉玖
見なかった
ゆれるのは
それら色彩の散乱
色がゆれるのは
そのうちには
ゆらがせた
わたしの姿を
此の唇の
見はしなかった
ふるわせたから?
わたしの目は
かくて斗璃摩娑
その内に猶も
爾に都儛耶氣良玖
笑ったのかと思った。
声を立てゝ。
だから思った。
笑ったのかと。
その葉と花と枝の向こうに見上げられた人。
その姿は。
見た。
わたしは。
踵を返して頭を下に。
彼女は。
猫のように
母は。
あるいはそれは蛇のように。
枝と葉。
葉と花。
花と幹。
卷き付いたそれ。
虵のように。
古布多摩美は。
あるいはそれは蜥蜴のように。
その姿。
その葉と花と枝の向こうに斷片として。
群れなす色彩。
光りの綺羅も。
だから見上げられていた。
缺片の群れとして。
見つめられたその姿は。
頭をさかさに這う蜥蜴のように。
彼女が樹木を這い下りるのを私は見ていた。
あくまでも葉と葉ゝと。
葉ゝと花。
千切れた斷片。
あくまでも花と花ゝと。
花ゝと枝。
途切れた断片。
枝と枝ゝと葉かげに花ゝ。
それらの翳り。
その向こうに。
それらの色めき。
その向こうに。
香り立つ。
そのむこうに散亂した斷片として。
群れた。
見上げられていた。
缺片の群れたちは。
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