般若理趣分(般若經理趣分)3
底本は大正大藏般若07。(※)はその校異。
又、◎は『國譯大藏經經部第三卷』の書き下し文。※はその註釋。譯者椎尾辨匡識の署名有り。
又奧書云、大正七年四月廿八日印刷、同三十日發行。昭和十年十二月廿八日四版發行。發行所國民文庫刊行會。
■02
爾時世尊復依遍照如來之相。爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多一切如來寂靜法性甚深理趣現等覺門。
謂金剛平等性現等覺門。以大菩提堅實難壞如金剛故。
義平等性現等覺門。以大菩提其義一故。
法平等性現等覺門。以大菩提自性淨故。
一切法平等性現等覺門。以大菩提於一切法無分別故。
◎
爾の時世尊は復、`遍照如來の(之)相に依りて諸の菩薩の爲に般若波羅蜜多、一切の如來の寂靜法性、甚深の理趣、現等覺門を宣說しまたふ。
謂ゆる金剛平等性現等覺門とは、大菩提の堅實にして壞し難きこと金剛の如くなるを以ての故に。
義平等性現等覺門とは、大菩提其の義一なるを以ての故に。
法平等性現等覺門とは、大菩提の自性淨なるを以ての故に。
一切法平等性現等覺門とは、大菩提の一切の法に於て分別無きを以ての故にと。
※正宗分第二`遍照理趣章。
密に毗盧遮那理趣會品と云へり。
毗盧遮那身を以て般若の理趣現等覺門を説く。
二あり、一は現等覺門の體相、二は聞持の功德。
※現等覺門。正等覺を現成する義にして大菩提を明かす。
金剛、義、法、一切法の四あり。
※金剛は喩にして不壞を表らはす。
空不可得なればなり。
※義は差別を要するも今は平等一如を義とす。
等しく空不可得なるが故に。
※法は軌持別體を常とするも今は無自性の性平等にして取著なきを云ふ。
佛說如是寂靜法性般若理趣現等覺已。告金剛手菩薩等言。
若有得聞如是四種般若理趣現等覺門。信解受持讀誦修習。乃至當坐妙菩提座。
雖造一切極重惡業。而能超越一切惡趣。疾證無上正等菩提。
◎
佛、是の如く寂靜法性、般若の理趣、現等覺を說き已りて金剛手菩薩等に告げて言たまはく、
「若し有得聞是の如き四種の般若の理趣、現等覺門を聞くことを得て、信解受持し、讀誦修習するもの有らば、乃至當に`妙菩提の座に坐すべし。
一切の極重惡業を造くると雖も而も能く一切の惡趣を超越して、疾く無上正等菩提を證せん。」
※二に聞持の功德を明かす。
■03
爾時世尊復依調伏一切惡法釋迦牟尼如來之相。
爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多攝受一切法平等性甚深理趣普勝法門。
謂貪欲性無戲論故瞋恚性亦無戲論。
瞋恚性無戲論故愚癡性亦無戲論。
愚癡性無戲論故猶預性亦無戲論。
猶豫性無戲論故諸見性亦無戲論。
◎
爾の時、世尊は復、調伏一切惡法釋迦牟尼如來の(之)相に依りて、
爲諸の菩薩の爲に般若波羅蜜多、一切の法平等性を攝受せる甚深の理趣、普勝の法門を宣說したまふ。
謂ゆる貪欲の性、戲論無きが故に瞋恚の性も亦戲論無し。
瞋恚の性、戲論無きが故に愚癡の性も亦戲論無し。
愚癡の性、戲論無きが故に猶預の性も亦戲論無し。
猶預の性、戲論無きが故に諸見の性も亦戲論無し。
※正宗分第三釋迦調伏章。
密に降三世品と云ふ。
釋迦身を以て般若の理趣普勝法門を説く。
文二、一に體相、二に功德。
※普勝の法門。一切の惡法を調伏し勝たざるなし。
取相計著せざれば貪事なく欲性なし。
諸惡皆空なり。
力を以て有を空ならしむるにあらず。
※猶預は疑惑不信なり。
※諸見。無量の邪見、略して六十二、更に攝して斷常二見とし、我見とす。
我見に依る故に憍慢あり。
諸見性無戲論故憍慢性亦無戲論。
憍慢性無戲論故諸纒性亦無戲論。
諸纒性無戲論故煩惱垢性亦無戲論。
煩惱垢性無戲論故諸惡業性亦無戲論。
◎
諸見の性、戲論無きが故に憍慢の性も亦戲論無し。
憍慢の性、戲論無きが故に諸纒の性も亦戲論無し。
諸纒の性、戲論無きが故に煩惱垢の性も亦戲論無し。
煩惱垢の性、戲論無きが故に諸惡業の性も亦戲論無し。
※諸纏。纏縛結使等皆煩惱なり。
諸惡業性無戲論故諸果報性亦無戲論。
諸果報性無戲論故雜染法性亦無戲論。
雜染法性無戲論故淸淨法性亦無戲論。
淸淨法性無戲論故一切法性亦無戲論。
一切法性無戲論故當知般若波羅蜜多亦無戲論。
◎
諸惡業の性、戲論無きが故に諸果報の性も亦戲論無し。
諸果報の性、戲論無きが故に雜染法の性も亦戲論無し。
雜染法の性、戲論無きが故に淸淨法の性も亦戲論無し。
淸淨法の性、戲論無きが故に一切法の性も亦戲論無し。
一切法の性、戲論無きが故に當に知るべし、般若波羅蜜多も亦戲論無しと。
佛說如是調伏衆惡般若理趣普勝法已。告金剛手菩薩等言。
若有得聞如是般若波羅蜜多甚深理趣。信解受持讀誦修習。
假使殺害三界所攝一切有情。而不由斯‘復墮於地獄傍生鬼界。
(※復字三本无)
以能調伏一切煩惱及隨煩惱惡業等故。常生善趣受勝妙樂。
修諸菩薩摩訶薩行。疾證無上正等菩提。
◎
佛、是の如く衆惡を調伏する般若の理趣、普勝の法を說き已りて金剛手菩薩等に告げて言たまはく、
「若し是の如きの般若波羅蜜多、甚深の理趣を聞くことを得て信解受持し讀誦修習するもの有らば、假使ひ、三界所攝の一切の有情を殺害すとも而も斯れに由りて復、地獄傍生鬼界に(於)墮せず、能く一切の煩惱及び隨煩惱惡業等を調伏するを以ての故に、常に善趣に生じて勝妙の樂を受けて、諸の菩薩摩訶薩の行を修し、疾く無上正等菩提を證せん。
※二に聞持功德。
※假使等。殺人殺事共に空にして罪報得可からざる義を論ずるのみ。
實に殺害を行ぜず私を空じて公に殉ずべし。
■04
爾時世尊復以性淨如來之相。爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多一切法平等性觀自在妙智印甚深理趣淸淨法門。
謂一切貪欲本性淸淨極照明故能令世間瞋恚淸淨。
一切瞋恚本性淸淨極照明故能令世間愚癡淸淨。
一切愚癡本性淸淨極照明故能令世間疑惑淸淨。
一切疑惑本‘性淸淨極照明故能令世間見趣淸淨。
(※性字明本作極字)
◎
爾の時、世尊は復、性淨如來の(之)相に依りて諸の菩薩の爲に般若波羅蜜多、一切の法平等の性、觀自在妙智印甚深の理趣、淸淨の法門を宣說したまふ。
謂ゆる、一切の貪欲、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の瞋恚をして淸淨ならしむ(令)。
一切の瞋恚、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の愚癡をして淸淨ならしむ(令)。
一切の愚癡、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の疑惑をして淸淨ならしむ(令)。
一切の疑惑、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の見趣をして淸淨ならしむ(令)。
※正宗分第四性淨法の門章。
密に觀自在菩薩理趣會品と云ふ。
文二段同前。
※性淨如來。淸淨法身なり。
その相は妙觀察智として現らはる。
これを觀自在菩薩とするなり。
※性淨如來の相に依りて云々。麗本には「依」を「以」に作くる。
※貪欲等。調伏に依て善化するに非らず。
本性淨明なり。
一切見趣本性淸淨極照明故能令世間憍慢淸淨。
一切憍慢本性淸淨極照明故能令世間纒結淸淨。
一切纒結本性淸淨極照明故能令世間垢穢淸淨。
一切垢穢本性淸淨極照明故能令世間惡法淸淨。
◎
一切の見趣、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の憍慢をして淸淨ならしむ(令)。
一切の憍慢、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の纒結をして淸淨ならしむ(令)。
一切の纒結、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の垢穢をして淸淨ならしむ(令)。
一切の垢穢、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の惡法をして淸淨ならしむ(令)。
一切惡法本性淸淨極照明故能令世間生死淸淨。
一切生死本性淸淨極照明故能令世間諸法淸淨。
以一切法本性淸淨極照明故能令世間有情淸淨。
一切有情本性淸淨極照明故能令世間一切智淸淨。
以一切智本性淸淨極照明故能令世間甚深般若波羅蜜多最勝淸淨。
◎
一切の惡法、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の生死をして淸淨ならしむ(令)。
一切の生死、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の諸法をして淸淨ならしむ(令)。
一切の法、本性淸淨にして極めて照明なるを以ての故に能く世間の有情をして淸淨ならしむ(令)。
一切の有情、本性淸淨にして極めて照明なるが故に能く世間の一切の智をして淸淨ならしむ(令)。
一切の智、本性淸淨にして極めて照明なるを以ての故に能く世間甚深の般若波羅蜜多をして最勝淸淨ならしむ(令)。
佛說如是平等智印般若理趣淸淨法已。告金剛手菩薩等言。
若有得聞如是般若波羅蜜多淸淨理趣。信解受持讀誦修習。
雖住一切貪瞋癡等客塵煩惱垢穢聚中。而猶蓮華不爲一切客塵垢穢過失所染。
常能修習菩薩勝行。疾證無上正等菩提。
◎
佛、是の如く平等智印般若の理趣、淸淨の法を說き已りて金剛手菩薩等に告げて言たまはく、
「若し有得聞如是の如きの般若波羅蜜多淸淨の理趣を聞くことを
得て、信解受持し、讀誦修習するもの有らば、一切の貪瞋癡等、客塵煩惱垢穢聚の中に住すと雖も而も蓮華の猶〔如〕く一切の客塵垢穢の過失の爲に(所)染せられず、常に能く菩薩の勝行を修習して疾く無上正等菩提を證せん。」
※客塵。性淨の貪法をして他が塵埃あらしむるを云ふが如きも、塵煩惱實に存せず、汚すべきものなし、客は無主を表らはし實を遮するなり。
但し此の前後の二意は後人各各依て宗をなす所の差なり。
■05
爾時世尊復依一切三界勝主如來之相。爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多一切如來和合灌頂甚深理趣智藏法門。
謂以世間灌頂位施。當得三界法王位果。
以出世間無上義施。當得一切希願滿足。
以出世間無上法施。於一切法當得自在。
若以世間財食等施。當得一切身語心樂。
◎
爾の時、世尊は復、一切三界勝王如來の(之)相に依りて諸の菩薩の爲に般若波羅蜜多一切の如來の和合灌頂甚深の理趣、智藏の法門を宣說したまふ。
謂ゆる世間灌頂の位を以て施して當に三界法王の位果を得べし。
出世間無上の義を以て施して當に一切の希願を滿足することを得べし。
出世間無上の法を以て施して一切の法に於て當に自在なることを得べし。
若しは世間の財食等を以て施して當に一切の身語心の樂を得べし。
※正宗第五分勝王如來智藏章。
密に虛空藏品と云ふ。
文段同前。
※和合灌頂。能所和合の灌頂なり。
※智藏。甚深般若なり。
※世間等。世出世小因大果融即を明かす。
法空無自性なればなり。
※身語心。身口意に同じ。
若以種種財法等施。能令布施波羅蜜多速得圓滿。
受持種種淸淨禁戒。能令淨戒波羅蜜多速得圓滿。
於一切事修學安忍。能令安忍波羅蜜多速得圓滿。
於一切時修習精進。能令精進波羅蜜多速得圓滿。
◎
若しは種種の財法等を以て施して能く布施波羅蜜多をして速やかに圓滿することを得しめ(令)、
種種の淸淨の禁戒を受持して能く淨戒波羅蜜多をして速やかに圓滿することを得しめ(令)、
一切の事に於て安忍を修學して能く安忍波羅蜜多をして速やかに圓滿することを得しめ(令)、
一切の時に於て精進を修習して能く精進波羅蜜多をして速やかに圓滿することを得しめ(令)、
於一切境修行靜慮。能令靜慮波羅蜜多速得圓滿。
於一切法常修妙慧。能令般若波羅蜜多速得圓滿。
◎
一切の境に於て靜慮を修行して能く靜慮波羅蜜多をして速やかに圓滿することを得しめ(令)、
一切の法に於て常に`妙慧を修して能く般若波羅蜜多をして速やかに圓滿することを得しむと。
佛說如是灌頂法門般若理趣智藏法已。告金剛手菩薩等言。
若有得如是灌頂甚深理趣智藏法門。信解受持讀誦修習。
速能滿足諸菩薩行。疾證無上正等菩提。
◎
佛、是の如く灌頂の法門、般若の理趣、智藏の法を說き已りて金剛手菩薩等に告げて言たまはく、
「若し有得如是の如きの灌頂甚深の理趣、智藏の法門を聞くことを得て信解受持し讀誦修習するもの有らば、速やかに能く諸の菩薩の行を滿足して疾く無上正等菩提を證せん。」
■06
爾時世尊復依一切如來智印持一切佛祕‘密法門如來之相。
爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多一切如來住持智印甚深理趣金剛法門。
(※密字明本作蜜字)
謂具攝受一切如來金剛身印當證一切如來法身。
若具攝受一切如來金剛語印於一切法當得自在。
若具攝受一切如來金剛心印於一切定當得自在。
若具攝受一切如來金剛智印能得最上妙身語心。
猶若金剛無動無壞。
◎
爾の時、世尊は復、一切の如來智印持一切佛祕密法門如來の(之)相に依りて、
諸の菩薩の爲に般若波羅蜜多、一切の如來の住持智印、甚深の理趣、金剛の法門を宣說したまふ。
謂ゆる具さに一切の如來の金剛身印を攝受せば當に一切の如來の法身を證すべし。
若し具さに一切の如來の金剛語印を攝受せば一切の法に於て當に自在を得べし。
若し具さに一切の如來の金剛心印を攝受せば一切の定に於て當に自在を得べし。
若し具さに一切の如來の金剛智印を攝受せば能く最上の妙身語心を得ること、猶、金剛の動無く壞無きが若しと。
※正宗第六智印金剛章。
密に金剛拳理趣品と云ふ。
※住持智印。此こに云ふ金剛法門にして、正慧により身語心智印を具足するものなり。
佛說如是如來智印般若理趣金剛法已。告金剛手菩薩等言。
若有得聞如是智印甚深理趣金剛法門。信解受持讀誦修習。一切事業皆能成辦。
常與一切勝事和合。所欲修行一切勝智。諸勝福業皆速圓滿。當獲最勝淨身語心。
猶若金剛不可破壞。疾證無上正等菩提。
◎
佛、是の如く如來の智印、般若の理趣、金剛の法を說き已りて金剛手菩薩等に告げて言たまはく、
「若し有得聞如是の如きの智印甚深の理趣、金剛の法門を聞くことを得て信解受持し讀誦修習するもの有らば、一切の事業皆、能く成辦せん。
常に一切の勝事と(與)和合して修行せんと欲する所の一切の勝智、諸の勝福業、皆速やかに圓滿して當に最勝の淨身語心を獲べく、猶、金剛の破壞す可からざるが若く、疾く無上正等菩提を證せん。」
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