蚊頭囉岐王——小説22


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



 何だよ。…それ…

  …ね?

 血?

  もう死んじゃった?

 じゃないの?…血?

  …ね?

 どこに行ってた?

  …もう、おばあちゃん

 今…

  血だよ。

 どこに?

  これ…

 今まで…

  おばあちゃん

 いつから?

  山の上

 誰?

  六角堂で

 誰にあったの?

  死んじゃった?

 なに?

  もう…

 なにがあった?

  おばあちゃん

 なにを見た?

  もう死んだのかな?

 なにが起こった?

  死んだ

 なにをした?

  殺された

 なに?…それ。

  ぼくに

 血?…

  …ね

 それ。

  もう死んだかな?

 なに?…血?

  殺されたかな?

 だれの?

  おばあちゃん死んだんだよ

かくて伎與麻娑

  ひとりで殺された。

爾に登る山道に都儛耶氣良玖

 ゆらゝぐ水滴。

 こまやかな水。

 飛沫散らすほどでもなくて。

 ふれて衣服に染みて消え。

 いつかすべて濡らしてひぢさす。

 ゆらゝぐ水滴。

 靄の。

 山道を上る。

 耳に聞く。

 下るひとりの足音。

 ちいさく。

 足音を聞き片山の保の御爺は山道に。

 軈て今更に返り見いきなりに彼は。

 ひとりでそこに正氣付いた。

 詰まった溝を掘り返しながら保の御爺は。

 雨水の溝を掘り返しながら保の御爺は。

 その明け方に。

 だから駆け込んでさゝやく。

 躬づからの喉の渇きも知らずに。

 ——お前の處の子、あれ

 ——なに?

 ——どうしたの?

 ——だれですか?

 ——あれ、今、朝に

 ——どっち?

 ——あれ、どうしたんなら?

 ——どっちの?

 ——なにごとなら?

 さらさない。

 ぼくたちはふたりして。

 目にさえぼくたちの表情を。

 さらしはしない。

 唇と言葉の気配にだけ。

 何の邪気も無く微笑あって。

 わたしの足はすでに保の御爺を見捨てゝ行った。

 俱に向かったその山道に。

 その山道を上る。

 靄の水滴。

 きらゝとも。

 ゆらゝとも。

 かがやきさえもしないこまかな。

 靄の水滴。

 背後に保の御爺は見ていた。

 ぼくを。

 ぼくの焦燥を?

 いそぐ背中を。

 息をしのまばせ。

 保の御爺は。

 目を凝らすともなくに。

 わたしは已に知っている氣がしたのだった。

 山道の上。

 こだかい丘地の傾斜する平ら。

 樹木の茂りの傍らの空き地に。

 たゝずむいつか誰かが立てた古い六角堂に。

 その草を散らした土の上に。

 布美香は死んでいるに違いなかった。

かクてひとりシて登唎摩娑そノ美夜島の迦豆羅岐の家に殘さレたれバ二階なル自分の部屋に登唎伎與ヲ詣づ此ノ斗璃伎與異形の胎と背に蛇ノ無數に卷きつくにも似タ幸キ陁麻の腫瘍ト瀛ミとヲ戴く見るにその部屋未だカーテンに塞がれたるくらがりを留まらせ爾に斗璃摩娑ひとり目に厭ヒき故れひキあけたる時そノ須臾に部屋の暗きノあざやかなル消滅まばタく間もなく眩ム目を一度閉じかくてヒらき斗璃麻裟ひトり娑娑彌氣囉玖

 あふれかえる

  吐いた

 光り

  荒れた息

 あふれかえる

  肺を必死で掻き毟るような

 散り舞い

  喉にやすりをかけつゞけるような

 漂う塵さえも

  だから息遣う

 あふれかえる

  イノチは息吹く

 光り

  酉淨の

 綺羅きらと

  息は纔かに温度も放つ

 光り

  胎内の温度

 きらめきの

  湿めり氣と俱にいつかの冬の

 光り。音もない

  その雪の日にも

 そしてすさまじい氾濫

  息の白んだ

かくて斗璃摩娑

  それを思った

爾に都儛耶氣良玖

 確保するのだ。

 俺の眼の前で。

 かろうじてお前は。

 やっとのことで。

 そのイノチを。

 そのカタチを確保するのだ。

 あやうく。

 息吹く肺ども。

 あやうく。

 流す血管。

 その血を。

 あやうく。

 淀んだ血。

 極度の糖分と汚穢と脂肪と淀みの過剩と酸素の不足に噎ぶ。

 知ってる?

 酸素は燃えるんだよ。

 知ってる?

 だから穢い爆發物だよ。

 あやうく。







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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