蚊頭囉岐王——小説20
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
赤裸々な絶叫。
聲はどこに?
ハイビスカスが食った。
腦のすべてが苦痛に燃えた。
燒き切りもせず。
鮮明にすべて殘したまゝに。
千切れた肉さえ。
腦のすべてが苦痛に燒けた。
だからあざやかななのだ。
明けの光は。
たゞあざやかなのだ。
苦痛のわなゝき。
瞬いた。
二つの眼差しはも。
瞬き続けた。
瞼はだから他人のもののようにも。
裏切った。
肉躰はすでに。
精神をさえ。
わたしの心。
精神をさえ。
故に。
死のうと?
まさか。
死のうと?
誰が?
まさにわたしは。
焦燥があった。
心にすでに。
赤裸々な焦燥の焰。
速やかに、と。
いま、と。
わたしはわたしを速やかに、と。
ただちにすぐに殺してあげるそのために、と。
いま、と。
いま!とだから刃を右の眼窩に差し込む。
痙攣の腕はも。
顏面のいたる所を傷つけながら。
小さな眼窩に刃を差し込む。
武骨な腕はも。
もはや他人の武骨さにわなゝきながら。
ひとり痛みわなゝき。
ひとりでにかなぐりながら。
かきむしれ。
指は。
イノチを毟れ。
故レ躬ヅからそノ躬を傷附かす布美伽が狂態そノ不器用なる上半身ノ不具合さらす苦闘ヲ見たル斗璃摩娑ハひとり息ヲ飲むとも我を忘れるとモなくテたダ捨て置かれテ笑みキそれ此の滑稽を死なンとシ死にきれズのたうツ此の肉の此のひたすらな戯れ事じミたル滑稽をこそ故レ斗璃摩娑は笑ムで邪氣も無く立チたるまマ倒れもせずテわなナき引き攣ル血まみレの体躯の向こうに朝ノ日差しはも紅蓮の色ヲ成し大氣雨の季節に霧れる雫の舞ヒ舞フ儘に色はかげろフ靄がカる大氣がうちに朝日ハ陽炎そノ色ノ鮮烈ヲし想はずに見蕩れル斗璃摩娑その唇は故レ娑娑彌氣囉玖
夜は今
感じていた
燃え上がる保牟羅
背中はひそかに
夜は今
背後にかがやく
舐めあがる保牟羅
傾く月は
明けの迦猊呂比に
ちいさくしかもあざやかに
音もなく
白くしかない
わたしのほかのまなざしもなく
その月は淸らかに
だれの爲でもなく夜はいま
その月はさやかに
かくて斗璃摩娑爾に
崩れ散れ夜は
都儛耶氣良玖
倒れふした。
終に。
前のめりに。
突き刺したまゝで。
その包丁を。
その刃を。
顔面から。
不意打ちのように。
わたしは見ていた。
その頽れるかたちを。
文果の肉躰。
もう壞れた?
思わずに見蕩れた。
もう死んだ?
朝日の紅蓮。
もう碎けた?
靄の翳ろうのその光の色にだけ。
わたしは。
見蕩れたまなざし。
わたしの眼にはそれは不意打ちだった。
あざやかな。
だから。
わたしは思わず驚愕した。
ひとりで。
だから。
わたしは思わず笑い聲さえ唇に立てる。
なぜ?
わたしの心さえ壞したから?
文果が?
いつか。
わたしは見ていた。
沈黙のかたちを。
上半身だけ。
微動だにしない。
微動だにもない。
纔かにさえ。
身動きをなくしたその上半身。
のたうちあばれた。
その兩足だけが。
騒ぎつゞけた。
その兩足だけが。
聲もなく。
見る。
わたしの兩眼は。
その不釣り合いを。
他人同士の同居の滑稽。
上半身と下半身の。
手の指はつかんだ。
爪を立てゝ。
土を抉ってそのままに靜止。
もう、たゞそのままに。
かクに聞きゝ阿波禮なル哉無慚なル哉そノ肉體いまダ死に絶エざりき故レ斗璃摩娑知らズに唇ノみ笑ミたるまマいつくシみ阿波禮なる哉無慚なル哉そノ御靈いまダ苦痛に叫ぶ聲もなきヲ斗璃摩娑厥れ六歳のか細キ腕に無理やりに顏に喰ヒ込みたる包丁ヲ抜けば斗璃麻裟知らズに微笑みたるまマに布美伽が頸を刺シきかクて刺シて切りきかクて斬リて吹き出ス死に懸ケの血ノ色を浴ビたりき故レ斗璃摩娑そノ躬くレなゐに綺羅めクかくてぬぐいモせずテ頸をかきキりたれば布美伽が肉やヤあツて數分ノ後にこと切れたりテしかすがに斗璃摩娑肉躰のそれ死にタるをだに気付かざりき所以者何四肢死後ノ筋肉の痙攣さかんに曝シたる故なりき且ツは斗璃麻裟飽かず死にタる肉刺し續けたりシが故なりき故レ娑娑彌氣囉玖
肉を切る
感じる?
あなたの華奢な
わたしの痛みは
手のひらに
すでに死に
握る刃は肉を切る
死に絶えたわたしは
戲れた
感じる?
吹き飛ぶ血にも
滅びて失せたもはや
ねじれる肉の
他人の神經の群れ
その切れ目にさえも
それでもなおも
おさないあなたは幾度もさして
神經の群れは
あなたの手をもて
わなゝいて
わたしを煞す
吐き散らし
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