蚊頭囉岐王——小説19


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



かクて斗璃麻娑ひとりシて見き何を見たルや失意の伎與麻裟捨テ置きタる布美伽やがテ山道をノぼるその後ろ姿ヲかくて斗璃麻娑ひとりシて後を追ひき布美迦ノ布良都久古登モなき步ミの慥かヲ故レ不美迦むシろ踊るようにひトり步ミ行く又ハ舞へる樣にひとり步ミ行く故レ爾にひとり斗璃麻娑足音ひソめるともナくに且ツは足音忍ばせルともなクにしかスがに布美伽が耳は聞かずそノ足音を布美伽が心ハ知らずそノあえぐ喉ノ息を故れ誰も見ざりキ布美迦の背に隨フ綺羅らノ斗璃麻娑の稀なる姿アるを故レ布美伽ひとりシて山を登りき山ヲ上りて山の頂きノその六角堂に出デたるときにようやくに空斬れタりき是れ東に本州の陸ノ翳りなす上に朝の光ノ上りゆけれバなりかクて明ケの紅蓮ノ色のきざすを見テまばたけバ爾に布美伽ひとりシて娑娑彌氣囉玖

 わなゝくのだ

  最後だよ

 すでに光は

  これでもう

 まなざしの中に

  最後だよ

 朝の光は

  お前がわたしを照らすのは

 きらゝぐのだ

  纔かの音さえ

 すでに光は

  吐息の音さえもなく

 まなざしの中に

  いつしか燒く

 慥かに

  肌の白い

 いまだにそこに

  眞白の肌を

 わずかな光の裂けめにすぎない

  黑く染める

 やがて靑む色なす色をさえ

  その光り

 顯らかにはしない

  強烈な

 それでも既に

  光がわたしを

 さわぎたつのだった

  照らそうとするのは

 その曉

  最後だよ

 うまれたばかりの

  これでもう

 純粋な光

  最後だよ

かくて布美伽

  息吹きはじめた

爾に

  その光りの最後

都儛耶氣良玖

 死のうと?

 まさか。

 死のうと?

 誰が?

 わたしは見ていた。

 わたしの腕は持ち上がる。

 わたしの入れた力に素直に。

 抵抗もなく。

 抗いもなく。

 赤裸々に。

 擧げられた腕に。

 その掌のつかんだ刃。

 死のうと?

 まさか。

 死のうと?

 誰が?

 わたしは見ていた。

 それ。

 包丁が。

 大ぶりの光。

 肉を斷つ。

 つめたい。

 刃の光。

 痛みだけが燒けた。

 死のうと?

 まさか。

 死のうと?

 誰が?

 わたしは見ていた。

 厥れは煞す爲。

 光も傷みも。

 あきらかに誰かを。

 その肉を斷つ。

 皮を抉る。

 骨をも切り裂く爲に。

 その光はも。

 その傷みはも。

 吹き出す血。

 血しぶきをちらす爲に。

 わたしは見ていた。

 包丁は。

 迷うことなく突き刺すそれらの須臾。

 その苦痛。

 肉躰はも。

 傷みにのみ突き刺されたそれ。

 肉躰はも。

 傷みのみを生きていたそれ。

 瑞みずしい生きものはもうだいなしにされた。

 手の施しようもなく。

 もう取り返しさえつかないほどに。

 瑞みずしい生きものはすでにだいなしにされた。

 突き刺されていく。

 その首は。

 何度目かにも。

 それ。

 胎は。

 何度目かにも。

 それ。

 胸は。

 何度目かにも。

 それ。

 思い誤った不意の肩越し。

 血まみれに。

 吹き出す血の色。

 ハイビスカス飛び散れ。

 死のうと?

 まさか。

 死のうと?

 誰が?

 わたしは見ていた。

 灼熱の温度。

 頭の中に。

 灼熱の息吹き。

 まなざしの中に。

 熱の焰。

 熱狂の。

 それ。

 焰がわなゝいて目の前に。

 網膜を嘗めた。

 焰の指が。

 網膜を咬んだ。

 死のうと?

 まさか。

 死のうと?

 誰が?

 わたしがまさに。

 知った。

 まさにそのときに。

 知った。

 わたしは慥かに突き刺していた。

 私の肉に。

 突き刺してしかし切り刻むそんな力などない腕の痙攣。

 だから他人の腕が。

 もはやその他人の物にすぎない腕が。

 わたしだけを刺す。

 まさに気付く。

 まさに感じた。

 全身に。

 だからまさに感じていたのは苦痛。

 肉を壊し骨に罅なすその刃の綺羅に。

 わたしの神経だけが苦痛にあえぐ。

 わたしの神経だけが苦痛にあえぐ。

 だから。

 わたしはまさに痛みそのもの。

 聲もなく沈黙のままに息遣いわたしは猶も叫んでいた。








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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