蚊頭囉岐王——小説16


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



 羽衣に玉散る色。

 その周囲に。

 その聲。

 こだますように。

 とめどもなく。

 ひびきあって。

 こだますように。

 かさなりあって。

 ただとよめきたって。

 こだますように。

 だから女たちは笑った。

 その唇に邪気もなく。

 だから女等は游んだ。

 その瞼を閉じもしないで。

 天を飛んで。

 野蠻な口の狂暴な唇。

 その色。

 夢に見るべき桃の肌。

 あわいうす桃。

 その歯の笑い。

 とよめきの中に。

 ぶっ殺してちゃえよ、と。

 さゞめきの中に。

 いらないよ、と。

 ひびく聲に。

 この糞、と。

 見苦しいやつ、と。

 穢いイノチ、と。

 イノチの息物、と。

 殺しちゃえ、と。

 棄てちゃえよ、と。

 羽衣の女。

 蠻族の女。

 狂うために生まれた。

 だからひとりでに狂っただけの女たち。

 女のひとりの唇が咬みつく。

 その息づく腫瘍に。

 つぶしちゃえ、と。

 喰いちぎる。

 女のひとりの陶器の前歯が。

 殺しちゃえ、と。

 喚き散らす。

 女の櫻いろの肌の喉に。

 その獸の聲に。

 わなゝく聲に。

 その唇に。

 その齒にさえも。

 腫瘍の肉を。

 その骨格。

 畸形の軟骨。

 又皮膚を。

 黑ずむ血の珠。

 玉散る珠は。

 女は咬んだ。

 かみ碎く。

 咀嚼の音響。

 わなゝきながら。

 笑い聲だけに。

 わなゝきながら。

 海はさざなむ。

 ただ靜かにも。

 羽衣の綺羅。

 ひたすらな色。

 綺羅らしく。

 血は吹きあがった。

 喰いちぎる肉に。

 海はさゞなむ。

 故にさゞなむ。

 聞いた。

 羽衣の女。

 そのひとりのさゝやき。——この瘤は、と。

 瘤は、と。——この瘤こそは、と女たちは。

 さゝやき聲に——この瘤は、と。

 だらかさゝやく。

 穢いイノチの幸きみ玉。

 この、と。——瘤は、と。この。

 穢いイノチの、と——この瘤は。

 幸キ御珠、と。

 だから殺しちゃえ。

 喰いちぎり。

 壞しちゃえ。

 幸き御珠。今。

 わたしは貪る。

 喰いあらし。

 幸きみ玉。

 貪り食って。

 此のさきみたま。

 穢れた命。この幸き御珠を。

 こゝに食い荒らす。

 さゝやきながら。

 喰い千切る女。

 羽衣の。

 女。

 さゝやき笑う。

 わらい聲にも飛び散った。

 野生の齒ぐきに。

 その血は散った。

 鳥雅の血。

 だから飛び散る。

 だから珠散り故レ爾に腫瘍貪り喰はレたる斗璃麻沙貪り荒ラされ喰はれ荒ラされたる肉躰ヲ曝したりきひトり息遣ひかクて腫瘍無き躬を始メて外氣に曝シたりき故レその肢体に白濁ノ空ソの光澤と翳りトを投げて照らシき爾に多麻美ひトり娑娑彌氣囉玖

 うつくしい

  白い肌

 その肉躰は

  なまめきわたる

 だから匂いたち

  そのなめらかな

 だからあざやかな

  肌の色

 芳香を纏う

  やわらかな

 その肉躰に

  筋肉の息吹き

 鳥雅はひとり

  しなやかな

 初めて二本の足に立って

  うつくしい

 そして返り見た

  その人のかたちを

 女たちの

  哄笑し

 羽衣の色のその向こう

  女らは口に

 それでも海はさゞなんだものを

  のゝしり散らして

 咆哮を

  あざ笑いたてゝ

 鳥雅の人の

  鳥雅は

 その口はその時

  ひとりでまばたく

 咆哮を

  その瞼

 鳥雅が叫ぶ

  嘲弄の聲

 鳥雅の喉が

  その飛び交う下に

 あきらかに叫び

かクて多麻媺爾に都儛耶氣良玖

 哥え。

 女は耳元に云った。

 さゝやき聲で。

 謌ゑ、と。

 酉淨の。

 腫瘍に曲がったその耳元に。

 歌エ、と。

 女たちは。

 膿みを薰らせたその耳元に。

 あたゝかな。









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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