蚊頭囉岐王——小説12

以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

　　夢のむれ

　それら

　　さまざまな

　音響の

　　夢のカタチたち

　むれかさなった

　　色をなす

　音と音のむれ

　　夢のカタチたち

　ひびきあい

　　わたしは見ていた

　塊りをさらす

　　なぜ？

　きくがいゝ

　　見えたから

　わたしは騒音

　　なぜ？

　きくがいゝ

　　閉じた目にさえ

　わたしのみゝこそ

　　見えたから

　笑い聲

　　なぜ？

　さゝやき聲と

　　まばたきのその

　だれかのたてた独り散ちの

　　一瞬にさえも

　無限の音たち

　　夢を見た

　体内の

　　わたしはなんども

　躰外の聲なすひゞき

　　いくつもの

　窓のひかり

　　かさなりあった

　ひかりの聲なすひゞき

　　夢を見ていた

　きくがいゝ

　　その夢は

　無言のまゝで？

かくて多麻美

　咀嚼の音響

爾にひとり

　きくがいゝ

都儛耶氣良玖爾

　崩れ落ちる。

　轟音と俱に。

　それ。

　何が？

　崩れ落ちるた。

　なにが？

　轟音と俱に。

　なぜ？

　空が。

　靑の空。

　同じく崩れ落ちていた。

　白濁の。

　曇る雲の色。

　鈍い雲母の黑ずみ。

　崩れ落ちたのだ。

　何が？

　雨の日の鬱悒しい色。

　それらかたちある色。

　轟音のうちに。

　墜ちたのだ。

　せめても花を。

　だから投げつければいい。

　せめても花を。

　それ。空らの残骸。

　紅の？

　花。

　眞っ白い？

　花。

　白に紫。

　花。

　紫の縁取り。

　花。

　或はむしろ黃點の点在。

　花。

　寄生されたにもにた靑の點在。

　花。

　白地の花ににじんだオレンジ。

　花たちをせめて。

　その色をせめて道づれにして。

　香りこそ。

　墜ちた。

　見い出した。

　あざやかな眼差し。

　わたしの兩眼に。

　片時も。

　目隠しされてあるときも。

　あなたに。

　兩手に閉じられてさえも。

　見い出していた。

　わたしの兩眼は。

　それは空を。

　崩れ落るその空の向こうにふたゝびの空。

　あたらしい。

　空。

　崩れ墜ちた。

　轟音とともに。

　せめても花を。

　崩れ落ちた。

　そのあたらしい空も。

　幾度も。

　崩れ墜ち續けた。

　だから轟音を。

　なにが？

　繰り返す轟音。

　だから聽く。…耳は。

　なにを？

　ひびきつづけた。

　轟音は。

　なにも崩れなどしなかった。

　赤裸々に。

　その鮮明な崩壞。

　なにも崩れ落ちなどしなかった。

　ただ赤裸々に。

　響き合う。

　轟音はとどろく。

かクて布美迦花喰フ多麻美を部屋にヒとり閉じ込めタる儘庭に樹木ノ翳りに憩ヒきかくテ返り見背後なル彼伎與麻沙が麻那古ヲ見上げテ白さく——生きてる？と故レ伎與麻沙答へらク——たぶん俺たちはト故レ布美迦白さく——わたしいまもと故レ伎與麻沙答へラく——もうすでに、むしろと故レ布美迦白さク——じゃなくてむしろト故レ伎與麻沙答へらく——自分勝手にってわけじゃなくてと故レ布美迦白サく——生きてた？わたしたちと故レ伎與麻沙答へラく誰かの爲に…だれの？と故レ布美迦白さク——いまもすでにと故レ伎與麻沙答へらク誰かの…ほかのだれかの…おれたちふくめたみんなの爲にと故レ布美迦白さク——今この時にもと故レ伎與麻沙答へラく決斷するべきだったト故レ布美迦白さく——生きてるの？と故レ伎與麻沙答へらく殺しちゃおうあれ…と故レ布美迦白さク——わたしたちみんなと故レ伎與麻沙答へらくあのこたちも、あのこも、みんな、おれたちもト故レ布美迦白サく——あなたもわたしもと故レ伎與麻沙答へらく違う？と故レ布美迦白さく——生きてるの？と故レ伎與麻沙答へラくもうすでにと故レ布美迦白さく——いま？と故レ伎與麻沙答へらく俺たちはとかクて爾に俱なりテ娑娑彌氣囉玖

　ぼくらは今

　　死んでいた

　このときにまさに

　　わたしたちはすでに

　すべてを解決するべきだった

　　死んでいた

　ぼくたちはもう

　　生まれる前から

　昨日にさえも

　　その前から

　すべてを解決しているべきだった

　　死んでいた

　迯げるのでも

　　わたしたちはすでに

　放棄するでも無くて

　　いつでも常に

　ぼくらはひとつの解決を

　　見ひらいた眼差し

　取り返しようもなく

　　視ている風景の

　故に