蚊頭囉岐王——小説11
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
いかにあなたが穢らわしくとも。
いかにあなたがいびつであろうと。
むしろ。
死んだ方が樂であっても。
死にさえすれば色も馨もない静寂に。
にもかかわらずに。
思った。
生きてあれと。
それでもなおも。
赤裸々なおそろしいばかりのただの残酷。
その剥き出しの。
肯定を齧む。
齒が。
Yesとつぶやき。
無慈悲なまでに。
その他人のイノチに。
かク聞きゝ布美迦気付けバ已にシて多麻美狂ひきいツよりぞ多麻美狂フやそノ時をハ知らズかクて布美迦気付ケばそれ已にシて多麻美狂ひき故レ貪りき狂へル多麻美部屋に飾レるそノ花さまザまなル花を多麻美ひとり貪りキ口に咀嚼しタりき齒に嘔吐シたりき唇に下シたりき腹に貪りタるはそレ百合の花なりき貪るハそれハイビスカスなりき貪るハそれ霞見草なりき貪るハそレ寶泉花なりき貪るハそれ極楽鳥花そノ色づきたる花弁なりテ貪れる多麻美そノ瞳に虹彩をひらき聲もナく虹彩をひらキ鼻に息シて貪り狂ヒき故レ時に呻ク多麻美の傍ら伎與麻沙は時にさゝヤきゝ多麻美ノ傍ら伎與麻沙は時に喚きゝ多麻美ノ傍ら伎與麻沙ハ時に叫きゝ多麻美の傍ら伎與麻沙ハ時に默止シき多麻美の傍ら伎與麻沙ハ布美迦と相ヒ語らひテ娑娑彌氣囉玖
どうする?
なにを?
どう…
なにを?
鳥雅と…
酉淨?
このふたり…
ね?
どうする?このまゝ
ね?
だって、このこたち…
まって
このまゝ
まって
なにを?
もうすこし
なにを
ね?
わからない
なにが?
どうする?
なに?
どうすれば?
…ね、
かくて伎余摩沙ひとり爾に都儛耶氣良玖
掩う肉。
膨張した。
喰いつくように。
唇を。
鼻を。
食事はチューブで流し込む。
呼吸の騒音。
こすれ合う皮膚。
化膿した倦み。
ガーゼの黃變。
匂う馨り。
臭気?
その皮膚からの。
嘔吐したへどにお香の香りを撫でつけたような。
つぶれかけた眼。
瞼の肥大。
温度の無い肉。
皮膚に包まれた塊り。
曲がった背骨。
レントゲン写真にあばらの奇形。
おしつぶされて体の内部に流された内臓。
太ももを迄も掩う肉片。
それ。
腫瘍。
小便は切開した肉の開口部で。
時には心臓の音を聞いた気がした。
耳に聞こえない筈のそれを。
耳に。
肛門は常に閉じることなく曝す。
埀れ流された体液の色。
その色は曝す。
体調を。
今日は元気?
熱は38度。
いつも。
発熱する。
思う。
もしも自然に生きるのならば。
葉に這う蟲のように。
莖にへばりつくちいさな丸蟲のように。
野の獸のように。
梢の鳥のように。
野良猫のようにも。
彼等のように生きるならすでに。
思う。
ならばなぜ?
なぜその命は活きてあるのか。
今それははたして生きていたのか?
生きあるのか?
目舞う。
私は。
イノチを前に。
それは何か。
わたしは何をしていたのか。
わたしたちは。
だからわたしは目舞う。
何も知らない。
すでにして。
自分の名さえ意識しない。
すでにして。
自分がだれかも意識しない。
多麻美は壁に背を靠れた。
日差し。
斜めに差しこむ。
窓越しの。
光。
午前の明るい光の中に。
斜めの火照り。
肌の白濁。
靑む翳り。
喰った。
多麻美はわたしの目の前で。
それ。
だから喰い切られる。
歯と歯茎に。
今日の花。
音のない咀嚼。
六月の紫陽花。
蹴り転がされた花瓶の中の。
床をぬらした。
板張りの。
水が煌めく。
零れた水の。
踏み散らされた水の足跡。
かク聞きゝ多麻美退院直後よりそノ古古呂變樣させタりき故レ是レを狂人と名づく故レ錠剤囓ミき又久癡毗琉ひらいテときにさゝやきかクてそノ小聲多麻美躬づかラにだにも聞き取られざりき故レ多麻美已にシて無言の比登なりき所以者何多麻美が耳さゝやき聲の數多ノ群レなすに占領さレたる故なりき故レさまざまに連なルさゝやきに自分の喉の聲なキ聲をも幾重にかサねて厥レらさゝやきの又はつぶやきノ又はひそめタる又はゆらラギたる聲の群レらガ響きに埋もれたレば多麻美すでにシて轟音の比登なりきかクて唇ノふくむ花をふクみて喰らひかクて齒の齧む花ヲ噛ミて喰らひかクて花に塗レて花汁にまミれて喰らへバ麻那古は見き躬ヅからを見たルそノ伎與麻娑が兩ツの麻那古又波那ノ孔又久癡の久癡毗琉を且ツは麻那古は見き躬づカらを見たルそノ布美迦が兩つの麻那古又波那の孔又久癡の久癡毗琉ヲ故レ多麻美が久癡毗琉花汁に濡れテひぢたるまマに且ツは齒花汁に濡レて唾液に濡レてひぢたるまゝに多麻美こゝろに娑娑彌氣囉玖波
きくがいゝ
そのままゝで
わたしがむしろ
目を醒ましたまゝ
きくがいゝ
あくまでも
わたしのみゝこそ
覺め切ったまま
騒音のむれ
それら
聞きとれない
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