蚊頭囉岐王——小説09
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
白く。
白にただ白く染まって。
聞いていた。
歯茎のすべて。
歯の表面から。
歯噛みする。
そのきしむ音。
齒齧みした。
その歯茎に味。
血の。
鐵錆びた。
なまなましいだけ。
くさいだけ。
その。
血。
それ。
歯茎がながした血の味を舐める。
粘膜は。
齒の白いエナメル質が噴出させた。
血。
くれなゐの。
どす黑い。
赤すぎて。
黑。
その味を。
粘膜が舐めて。
かクに聞きゝ伎與麻紗爾に娘ヲ思ハずに懷かムとすルに多麻美いきなりに目ヲ開きテその胸を打チきかクて拒絶し伎與麻紗未だ驚き得もせザるを且つはゝ伎與麻紗未ダ我に返リ得ざルを且つはゝ伎與麻紗未だ恠みだに浮かビ得ざるを且ツは伎與麻紗未ダ慄き得もせざルを且つはゝ伎與麻紗未だ憤慨だにシ得せざるヲ且つはゝ伎與麻紗未だ哀シみだにシ得ざるヲ多麻美ひとり軈而ヒらきタる麻那古に伎與麻紗を見て覩をハりて視テ瞰タるまゝにつブやけらく——だれ?ト且つは多麻美つぶやけらク——ね?と且つハ多麻美つぶやケらく——あなた…ね?ト且つハ多麻美つぶやけらく——誰?と且つは多麻美つぶやけらク——あんただれよトつぶやく多麻美が唇そノ肉ノ薄きヲ見て伎與麻紗ひトり覩をはりて且ツは視て伎與麻紗ひとり観をハりもせざるにオもハずに伎與麻紗が眉は泣ケるかたちに震ルえんとシ且ツは伎與麻紗が目は微笑まんトし且つはゝ伎與麻紗が唇はわなゝかムとシ且つはゝ伎與麻紗が鼻は息吸ヒこまんとシひらかんとシ大きにひろがらムとシなにごともなシ得ずそれら終に狀チなしヲはラざるに耳ハ聞きゝ伎與麻紗が耳ハ多麻美が聲を聞きゝ是レ爾に多麻美云さく——あんただれなの?と思ハずにつぶやキたる躬ヅからが聲を多麻美が耳ハ聞きゝ——あんただれなの?トかクて時にゝ伎與麻紗立ちあがりテ云さく——しっかり…
と
しろ。しっかり…して
と
しっかり…まだ…しっかり…だいじょうぶ
と
きっと…しろ。しっかり…いま…
と
な?
と
しっかり…な?…しろ。だいじょうぶ…な
とかくテ伎與麻紗我に返りテ想ひけらく——俺は何を?
と
いま何を?
と
俺はなにを?
と
ひとりでなにを?
と爾にゝ伎與麻紗ひとり我が絶望シたる心地シ我が絶望シたル思ひに咬まれたル心地シ何事をか躬ヅからが心に思フかも知ラぬまマにも思はずにヒとり走り出でたレば集中醫療室を詣でかノ異形の雙兒を覗き見たりき爾に雙兒ノ一をゝ伎與麻紗名ヅけて曰く斗璃麻沙と故レ雙兒の一をゝ伎與麻紗名付けテ曰く斗璃伎與とかくてかクなり故レ是レ雙兒そノ名をおのおノに得タる始なりき而しテ斗璃麻沙そノ異形の肉の内にヒとり娑娑彌氣囉玖
見る
雪のふる
夢を
ふるゆきの
みていた
その雲のいろ
ゆめを
色だにも
いまも猶
はく濁の
みた
色はなお
夢を
その海に
あざやかに
海をおおうて
あきらかな夢を
降るゆきに
いる
はい色に
夢を
くらみながらも
とめどなく
きざされた
つきることなく
靑みをちらして
き羅らかなまでに
あざやかな
みた
白とくろみと
夢を
そのあおの
みる
すさまじいまでの
ゆめを見ていた
たん調な
故レ斗璃伎與ひとり娑娑彌氣囉玖
みる
いろの中にも
夢を
ゆきは降る
見ていた
海はなみ立ち
ゆめを
さざなみの
いまも猶
その音もとおく
見た
聞こえずに
夢を
ゆきはふる
あざやかに
靑くらいひかり
あきらかなゆめを
灰いろの
見る
ひたすらなしろ
夢を
なみさえも
とめどなく
しらみ綺ららぎそのあおみ
つきることなく
きらめきもせず
き羅らかなまでに
うみにゆき
見た
ゆきは浪にも
夢を
きえるのか?
みる
雪はなみにも
ゆめを見ていた
かくてひとり
とけて失せしも
爾に
その雪は
多麻美ひとり都儛耶氣良玖
拒絶する気などなかった。
たとえあなたを一度たりとも父と見止めなくとも。
あなたを。
拒絶する?
そんな気など。
纔かにさえもなかった。
傷つける氣など。
纔かにさえも。
侮辱した。
むしろわたしは私をこそを。
赤裸々に。
侮辱した。
なぜ?
心につぶてに殴打した。
なぜ?
あざ笑った。
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