蚊頭囉岐王——小説05
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
その剝きひらいた雙つの眼を。
痙攣。
黑目。
殘酷?
なぜ?
うまれることがいかにしてゞも殘酷であり得るなら。
イノチの尊厳はどこにあったのだろう。
わたしは知った。
殘酷でさえあってはならなかった。
なにものも。
殘酷でさえあってはならなかった。
その剝き出しの見開いた眼にも。
乾いた黑目にも。
わたしの目がひとり剝き出しの絶望をだけしっかり見ていても。
猶も見い出しつゞけていても。
なにものも殘酷でさえあってはならなかった。
なおも必ず。
この今に至ってさえすでにかクて布美迦ハ見き何ヲ目を開けタる儘陁麻美さらシたる彼女の失神をかクて布美迦は見キ何を口をヒろゲたる儘陁麻美頽レたる彼女ノ後ろ向きノ失神をかクて多麻美爾に娑娑彌氣囉玖
卑怯だと
鳴き聲は?
思った。すでに
そのゆがんだ口
失神しながら
塞がった
冴えた意識に白濁
腫瘍の瘤の覆いかくした
意識の沉沒。すでに、とその共存
その唇は
卑怯者だと
啼き聲は?
こうしてわたしは愚弄していた
どうやってその子は泣き叫ぶのか?
生みの母躰は愚弄していた
どうやって息は吸い込まれるのか?
被害者づらして。ひとりだけ失神しながら
畸形の口は
憐れな子供を
めくれあがって
あざ笑いむしろ失敗作だと
爛れた色を
愚弄した。失敗作だと
肉の色さえ
かくに聞きゝ陁麻美に
嫌惡した
父親二人あリき一人は名ヲ迦豆羅岐ノ天都遠と曰フこノ比登すデに失せタりき是レ陁麻美六歳が時なりきかクて一人ハ名を迦我ノ伎與麻沙と曰フ此ノ比登息て有りタりき是レ多麻美十歳が時に布美香ヲ娶りき比登らノ口云ひけらく伎與麻紗善男子なりト且つは慈愛に滿ちタりきと且つは故レ布美香幸多からムと且つは多麻美幸多カらんと又かクに聞きゝ雙兒に父親ありキ名ヲ曰く古布ノ陁迦伎とこノ比登すでに父なカりき又母もなかリき二人俱なりテすでにシて陁果伎十九の時に失せハてにき是レ交通事故が故なりき故れ同じきに俱なりて失せたりきかくて雙兒生ミたる時陁迦伎が齡十九歳なりき陁迦伎同じくに十九歳なリき故レ雙り俱に十八歳にして婚姻せり布美迦かツて多麻美が口の胎に兒宿しタること告げたる時に怖れテ慄きゝ後瞋りて罵リき後歎き悲シみき後伎與麻沙になダめらレたれバ軈而赦シき多香枳飲食店に就業せり故レ出産には立チ会わザりきかクて明けタる朝布美迦に俱なハれて對面シたりき故レ多香枳爾に雙子を見テ歎きて娑娑彌氣囉玖
罪
なにかの間違いに違いなかった
誰の?
だれかの裁いた必然だっと
だから俺は探すのだ
仮りにそれが
罪を
あまりに無垢な偶然だったとするのなら
だれかが何処かで犯した
雙兒の無殘を誰がつぐなうのか
罪の罰
雙兒は無殘を
罰された子たちの爲に
如何に償うのか
罪をかぶった子
ぼくは罪びとになろう
穢れた子
禁じられた罪に塗れた
彼等の爲だけに
徒刑の男になろう
例えば雪の積った眞白の色
わたしの恥ずべき罪をかぶり
例えば絹の綺羅の光澤の色
石もて打たれるべき罪をかぶり
それにさえ
悲劇の子
俺はすでに罪を探した
だから無垢であってはならなかった
だれかがどこかで犯した罪を
呪われた子
誰の?
あまりに無垢に
誰かの
息遣おうと。すでに
生まれながらの顯らかな罪を
僕に殺されていた
かくて多香伎爾に
その罪を
都儛耶氣良玖
思い出す。
彼女は云った。
——ね?
——なに?
耳元に。…記憶。
そのさゝやきの。
——生まれたら、…
——子供?
記憶。
そのさゝやきは。
——育てるんだよね?
——当り前じゃない?
記憶。
そのさゝやきに。
——なんか、さ。
——なに?
記憶。
そのさゝやきの。
——信じられない。
——なにが?
記憶。
そのさゝやきに。
——生むんだよ。わたし…
——がんばれ。
記憶。
そのさゝやきは。
——育てるんだよ。ふたりで…
——がんばるよ
記憶。
そのさゝやきの。
——信じられない…
——信じられるよ。
記憶。
そのさゝやきの。
——大丈夫かな。
——なんで?…なにが…
記憶。
そのさゝやきに。
——信じられない。
——俺が?
記憶。
そのさゝやきの。
——本当なの?
——信じろよ。俺、
記憶。
そのさゝやきは。
——だってさ…
——俺、がんばるからさ。今より、
記憶。
そのさゝやきに。
——これ、ね?
と。
つぶやいて加賀珠美はわたしにさゝやく。
ふたゝび。
不意にわたしを返り見た。
そのふれあう距離の中に。
珠美はさゝやく。
——これ、現実?
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