妙法蓮華經妙莊嚴王本事品第二十七
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
妙莊嚴王本事品第二十七
爾の時に佛、諸の大衆に告げたまはく、
「乃往古世に、無量無邊不可思議阿僧祇劫を過ぎて佛、有ましき、雲雷音宿王華智、多陀阿伽度、阿羅訶、三藐三佛陀と名づけたてまつる。
國を光明莊嚴と名づけ、劫を喜見と名づく。
彼の佛の法の中に王あり、妙莊嚴と名づく。
其の王の夫人、名を淨德と曰ふ。
二子有り。一を淨藏と名づけ、二を淨眼と名づく。
是の二子、大髮力、福德、智慧有つて、久しく菩薩所行の道を修せり。
所謂、檀波羅蜜、尸羅波羅蜜、羼提波羅蜜、毘梨耶波羅蜜、禪波羅蜜、般若波羅蜜、方便波羅蜜、慈、悲、喜、捨、乃至、三十七品の助道の法、皆、悉く明了に通達せり。
又、菩薩の淨三昧、日星宿三昧、淨光三昧、淨色三昧、淨照明三昧、長莊嚴三昧、大威德藏三昧を得、此の三昧に於て亦、悉く通達せり。
爾の時に彼の佛、妙莊嚴王を引導せんと欲し、及び衆生を愍念したまふが故に此の法華經を說きたまふ。
時に淨藏、淨眼の二子、其の母の所に到つて、十指爪掌を合せて白して言さく、
「願はくは母、雲雷音宿王華智佛の所に往詣したまへ。
我等、亦、當に侍從して親近し供養し禮拜すべし。
所以は何。
此の佛、一切の天、人衆の中に於て法華經を說きたまふ、
宜しく聽受すべし。」
母、子に告げて言はく、
「汝が父、外道を信受して深く婆羅門の法に著せり。
汝等、往いて父に白して共〔と〕與〔も〕に去らしむべし。」
淨藏、淨眼、十指爪掌を合わせて母に白さく、
「我等は是れ法王の子なり。
而るに此の邪見の家に生まれたり。」
母、子に告げて言はく、
「汝等、當に汝が父を憂念して爲に神變を現ずべし。
若し見ることを得ば、心、必ず淸淨ならん。
或は我等が佛所に往至することを聽〔ゆる〕されん。」
是に於て二子、其の父を念ふが故に、虛空に踊在すること高さ七多羅樹にして、種種の神變を現ず。
虛空の中に於て行、住、坐、臥し、身の上より水を出し、身の下より火を出し、身の下より水を出し、身の上より火を出し、或は大身を現じて虛空の中に滿ち、而も復、小を現じ、小にして復、大を現じ、空中に於て滅し、忽然として地に在り、地に入ること水の如く、水を履〔ふ〕むこと地の如し。
是の如き等の種種の神變を現じて其の父の王をして心、淨く信解せしむ。
時に父、子の神力、是の如くなるを見て心、大いに歡喜し未曾有なることを得、合掌して子に向かつて言はく、
「汝等が師は爲〔さだ〕めて是れ誰ぞ、誰の弟子ぞ。」
二子、白して言さく、
「大王、彼の雲雷音宿王華智佛、
今、七寶菩提樹下の法座の上に在しまして坐したまへり。
一切世閒の天、人衆の中に於て廣く法華經を說きたまふ。
是れ、我等が師なり。
我は是れ、弟子なり。」
父、子に語つて言はく、
「我、今、亦、汝等が師を見たてまつらんと欲す。
共俱に往く可し。」
是に二子、空中より下りて其の母の所に到つて、合掌して母に白さく、
「父の王、今、已に信解して阿耨多羅三藐三菩提の心を發こすに堪任せり。
我等、父の爲に已に佛事を作しつ。
願はくは母、彼の佛の所に於て、
出家し修道せんことを聽されよ。」
爾の時に二子、重ねて其の心を宣べんと欲して、偈を以て母に白さく、
『願はくは母、
我等、出家して沙門と作ることを放〔ゆる〕したまへ。
諸佛には甚だ値ひたてまつること難し。
我等、佛に隨ひたてまつりて學せん。
・
優曇波羅の如く、
佛に値ひたてまつることは復、是れよりも難し。
諸難を脫がるること亦、難し。
願はくは我が出家を聽したまへ。』
母、即ち告げて言わく、
「汝が出家を聽す。
所以は何。
佛には値ひたてまつること難きが故に。」
是に二子、父母に白して言さく、
「善哉、父母。
願はくは時に雲雷音宿王華智佛の所に往詣して親覲し供養したまへ。
所以は何。
佛には値ひたてまつること得難し。
優曇波羅華の如く、又、
一眼の龜の浮木の孔に値へるが如し。
而るに我等、宿福深厚にして佛法に生れ値へり。
是の故に父母、當に我等を聽して出家することを得せしめたまふべし。
所以は何。
諸佛には値ひたてまつること難し。
時にも亦、遇ふこと難し。」
彼の時に妙莊嚴王の後宮の八万四千人、皆、悉く是の法華經を受持するに堪任しぬ。
淨眼菩薩は法華三昧に於て久しく已に通達せり。
淨藏菩薩は已に無量百千萬億劫に於て、離諸惡趣三昧を通達せり。
一切衆生をして諸の惡趣を離れしめんと欲するが故なり。
其の王の夫人は諸佛集三昧を得て、能く諸佛の祕密の藏を知れり。
二子、是の如く方便力を以て善く其の父を化して、心に佛法を信解し好樂せしむ。
是に妙莊嚴王は、群臣眷屬と俱に、淨德夫人は後宮の采女眷屬と俱に、其の王の二子は四萬二千人と俱に、一時に共に佛所に詣る。
到り已つて頭面に足を禮し、佛を遶ること三匝して、却つて一面に住す。
爾の時に彼の佛、王の爲に法を說いて示敎利喜したまふ。
王、大いに歡悅す。
爾の時に妙莊嚴王、及び其の夫人、頸の眞珠瓔珞の價直百千なるを解いて、以て佛の上に散ず。
虛空の中に於て化して、四柱の寶臺となる。
臺の中に大寶の牀あつて、百千萬の天衣を敷けり。
其の上に佛、有まして結跏趺坐して大光明を放ちたまふ。
爾の時に妙莊嚴王、是の念を作さく、
「佛身は希有にして端嚴殊特なり。
第一微妙の色を成就したまへり。」
時に雲雷音宿王華智佛、四衆に告げて言たまはく、
「汝等、是の妙莊嚴王の、我が前に於て合掌して立てるを見るや不や。
此の王、我が法の中に於て比丘となり、
助佛道の法を精勤修習して、當に作佛することを得べし。
娑羅樹王と號づけん。
國を大光と名づけ、劫を大高王と名づけん。
其の娑羅樹王佛は、無量の菩薩衆、及び無量の聲聞有つて、其の國、平正ならん。
功德、是の如し。」
其の王、即時に國を以て弟に付して、王と夫人、二子、幷びに諸の眷屬と、佛法の中に於て出家し修道しき。
王、出家し已つて、八萬四千歳に於て常に勤め精進して、妙法華經を修行す。
是れを過ぎて已後、一切淨功德莊嚴三昧を得たり。
即ち虛空に昇ること高さ七多羅樹にして、佛に白して言さく、
「世尊、此の我が二子、已に佛事を作し、
神通變化を以て我が邪心を轉じて、佛法の中に安住することを得、
世尊を見たてまつることを得せしむ。
此の二子は是れ我が善知識なり。
宿世の善根を發起して我を饒益せんと欲する爲つての故に、
我が家に來生せり。」
爾の時に雲雷音宿王華智佛、妙莊嚴王に告げて言わく、
「是の如し、是の如し。
汝が所言の如し。
若し善男子、善女人、善根を種ゑたるが故に世世に善知識を得。
其の善知識は能く佛事を作し、
示敎利喜して阿耨多羅三藐三菩提に入らしむ。
大王、當に知るべし、善知識は是れ大因緣なり。
所謂、化導して、
佛を見、阿耨多羅三藐三菩提の心を發すことを得せしむ。
大王、汝、此の二子を見るや不や。
此の二子は已に曾て六十五百千萬億那由佗恒河沙の諸佛を供養し、
親近し恭敬して、諸佛の所に於て、
法華經を受持し、邪見の衆生を愍念して正見に住せしむ。」
妙莊嚴王、即ち虛空の中より下りて佛に白して言さく、
「世尊、如来は甚だ希有なり。
功德、智慧を以ての故に。
頂上の肉髻、光明顯照す。
其の眼、長廣にして紺靑の色なり。
眉閒の毫相、白きこと珂月の如し。
齒、白く齊密にして常に光明あり。
唇の色、赤好にして頻婆果の如し。」
爾の時に妙莊嚴王、佛の是の如き等の無量百千萬億の功德を讚嘆し已つて、如來の前に於て一心に合掌して、復、佛に白して言さく、
「世尊、未曾有なり。
如來の法は不可思議微妙の功德を具足し成就したまへり。
敎戒の所行、安穩快善なり。
我、今日より復、自ら心行に隨はじ。
邪見、憍慢、瞋恚、諸惡の心を生ぜじ。」
是の語を說き已つて、佛を禮して出でにき。」
佛、大衆に告げたまはく、
「意に於て云何。
妙莊嚴王は豈に異人ならんや、今の華德菩薩、是れなり。
其の淨德夫人は今、佛前にある光照莊嚴相菩薩、是れなり。
妙莊嚴王、及び諸の眷屬を哀愍せんが故に彼の中に於て生ぜり。
其の二子は今の藥王菩薩、藥上菩薩、是れなり。
是の藥王、藥上菩薩は是の如き諸の大功德を成就し、已に無量百千萬億の諸佛の所に於て諸の德本を植ゑ、不可思議の諸善功德を成就せり。
若し人有つて是の二菩薩の名字を識らん者は、一切世閒の諸天、人民、亦、應に禮拜すべし。」
佛、是の妙莊嚴王本事品を說きたまふ時、八萬四千人、遠塵離垢して諸法の中に於て法眼淨を得たり。
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