妙法蓮華經陀羅尼品第二十六
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
陀羅尼品第二十六
爾の時に藥王菩薩、即ち座より起つて偏へに右の肩を袒らはにし、合掌し佛に向かひたてまつりて佛に白して言さく、
「世尊、若し善男子、善女人の能く法華經を受持すること有らん者、若しは讀誦し通利し、若しは經卷を書寫せんに、幾所の福をか得ん。」
佛、藥王に告げたまはく、
「若し善男子、善女人有つて八百萬億那由佗恒河沙等の諸佛を供養せん。
汝が意に於て云何、其の所得の福、寧ろ多しとせんや不や。」
「甚だ多し、世尊。」
佛の言たまはく、
「若し善男子、善女人能く是の經に於て、乃至一四句偈を受持し讀誦し解義し說の如くに修行せん。
功德、甚だ多し。」
爾の時に藥王菩薩、佛に白して言さく、
「世尊、我、今、當に說法者に陀羅尼呪を與へて、以て之れを守護すべし。」
即ち呪を說いて曰さく、
『安〔ア〕爾〔ニ〕[一]
曼〔マ〕爾〔ニ〕[二]
摩〔マ〕禰〔ネ〕[三]
摩〔マ〕摩〔マ〕禰〔ネ〕[四]
旨〔シ〕隷〔レイ〕[五]
遮〔シヤ〕梨〔リ〕弟〔テイ〕[六]
賒〔シヤ〕咩〔ミヤ〕[七]
賒〔シヤ〕履〔ビ〕多〔タ〕瑋〔ヰ〕[八]
羶〔セン〕帝〔テイ〕[九]
目〔モク〕帝〔テイ〕[十]
目〔モク〕多〔タ〕履〔ビ〕[十一]
娑〔シャ〕履〔ビ〕[十二]
阿〔ア〕瑋〔ヰ〕娑〔シヤ〕履〔ビ〕[十三]
桑〔ソウ〕履〔ビ〕[十四]
娑〔シヤ〕履〔ビ〕[十五]
叉〔シヤ〕裔〔エイ〕[十六]
阿〔ア〕叉〔シヤ〕裔〔エイ〕[十七]
阿〔ア〕耆〔ギ〕膩〔ニ〕[十八]
羶〔セン〕帝〔テイ〕[十九]
賒〔シヤ〕履〔ビ〕[二十]
陀〔ダ〕羅〔ラ〕尼〔ニ〕[二十一]
阿〔ア〕盧〔ロ〕伽〔カ〕婆〔バ〕娑〔シャ〕簸〔ハ〕蔗〔シヤ〕毘〔ビ〕叉〔シヤ〕膩〔ニ〕[二十二]
禰〔ネ〕毘〔ビ〕剃〔テイ〕[二十三]
阿〔ア〕便〔ベン〕哆〔タ〕邏〔ラ〕禰〔ネ〕履〔ビ〕剃〔テイ〕[二十四]
阿〔ア〕亶〔ダン〕哆〔タ〕波〔ハ〕隷〔レイ〕輸〔シユ〕地〔ダイ〕[二十五]
究〔ク〕隷〔レ〕[二十六]
牟〔ム〕究〔ク〕隷〔レ〕[二十七]
阿〔ア〕羅〔ラ〕隷〔レ〕[二十八]
波〔ハ〕羅〔ラ〕隷〔レ〕[二十九]
首〔シユ〕迦〔ギヤ〕差〔シ〕[三十]
阿〔ア〕三〔サン〕磨〔マ〕三〔サン〕履〔ビ〕[三十一]
佛〔ブツ〕駄〔ダ〕毘〔ビ〕吉〔キ〕利〔リ〕袠〔ヂツ〕帝〔テイ〕[三十二]
達〔ダル〕磨〔マ〕波〔ハ〕利〔リ〕差〔シ〕帝〔テイ〕[三十三]
僧〔ソウ〕伽〔ギヤ〕涅〔ネ〕瞿〔ク〕沙〔シヤ〕禰〔ネ〕[三十四]
婆〔バ〕舍〔シヤ〕婆〔バ〕舍〔シヤ〕輸〔シユ〕地〔ダイ〕[三十五]
曼〔マン〕哆〔タ〕邏〔ラ〕[三十六]
曼〔マン〕哆〔タ〕邏〔ラ〕叉〔シヤ〕夜〔ヤ〕多〔タ〕[三十七]
郵〔ウ〕樓〔ル〕哆〔タ〕[三十八]
郵〔ウ〕樓〔ル〕哆〔タ〕憍〔ケウ〕舍〔シヤ〕羅〔ラ〕[三十九]
惡〔ア〕叉〔シユ〕邏〔ラ〕[四十]
惡〔ア〕叉〔シユ〕冶〔ヤ〕多〔タ〕冶〔ヤ〕[四十一]
阿〔ア〕婆〔バ〕盧〔ロ〕[四十二]
阿〔ア〕摩〔マ〕若〔ニヤ〕那〔ナ〕多〔タ〕夜〔ヤ〕[四十三]』
「世尊、是の陀羅尼神咒は六十二億恒河沙等の諸佛の所說なり。
若し此の法師を侵毀すること有らん者は、則ち爲れ是の諸佛を侵毀し已れるなり。」
時に釋迦牟尼佛、藥王菩薩を讚めて言たまはく、
「善哉、善哉、薬王。
汝、此の法師を愍念し擁護するが故に是の陀羅尼を說く。
諸の衆生に於て饒益する所、多からん。」
〇
爾の時に勇施菩薩、佛に白して言さく、
「世尊、我、亦、法華經を讀誦し受持せん者を擁護せんが爲に陀羅尼を說かん。
若し此の法師、此の陀羅尼を得ば、若しは夜叉、若しは羅刹、若しは富單那、若しは吉蔗、若しは鳩槃荼、若しは餓鬼等、其の短を伺ひ求むとも能く便りを得ること無けん。」
即ち佛前に於いて咒を說いて曰さく、
『痤〔ザ〕隷〔レイ〕[一]
摩〔マ〕訶〔カ〕痤〔ザ〕隷〔レイ〕[二]
郁〔ウツ〕枳〔キ〕[三]
目〔モク〕枳〔キ〕[四]
阿〔ア〕隷〔レイ〕[五]
阿〔ア〕羅〔ラ〕婆〔バ〕弟〔テイ〕[六]
涅〔ネ〕隷〔レ〕弟〔テイ〕[七]
涅〔ネ〕隷〔レ〕多〔タ〕婆〔バ〕弟〔テイ〕[八]
伊〔イ〕緻〔チ〕柅〔ニ〕[九]
韋〔ヰ〕緻〔チ〕柅〔ニ〕[十]
旨〔シ〕緻〔チ〕柅〔ニ〕[十一]
涅〔ネ〕隷〔レ〕墀〔チ〕柅〔ニ〕[十二]
涅〔ネ〕犁〔リ〕墀〔チ〕婆〔バ〕底〔チ〕[十三]』
「世尊、是の陀羅尼神咒は恒河沙等の諸佛の所說なり。
亦、皆、隨喜したまふ。
若し此の法師を侵毀すること有らん者は、則ち爲れ是の諸佛を侵毀し已れるなり。」
〇
爾の時に毘沙門天王護世者、佛に白して言さく、
「世尊、我、亦、衆生を愍念し、此の法師を擁護せんが爲の故に是の陀羅尼を說かん。」
即ち咒を說いて曰さく、
『阿〔ア〕梨〔リ〕[一]
那〔ナ〕梨〔リ〕[二]
㝹〔ト〕那〔ナ〕梨〔リ〕[三]
阿〔ア〕那〔ナ〕盧〔ロ〕[四]
那〔ナ〕履〔ビ〕[五]
拘〔ク〕那〔ナ〕履〔ビ〕[六]』
「世尊、是の神咒を以て法師を擁護せん。
我、亦、自ら當に是の經を持たん者を擁護して、百由旬の内に諸の衰患、無からしむべし。」
〇
爾の時に持國天王、此の會中に在つて、千萬億那由佗の乾闥婆衆の恭敬し圍遶せると與に前んで佛所に詣りて、合掌し佛に白して言さく、
「世尊、我、亦、陀羅尼神咒を以て法華經を持たん者を擁護せん。」
即ち咒を說いて曰さく、
『阿〔ア〕伽〔キヤ〕禰〔ネ〕[一]
伽〔キヤ〕禰〔ネ〕[二]
瞿〔ク〕利〔リ〕[三]
乾〔ケン〕陀〔ダ〕利〔リ〕[四]
旃〔セン〕陀〔ダ〕利〔リ〕[五]
摩〔マ〕蹬〔トン〕耆〔ギ〕[六]
常〔ジヤウ〕求〔グ〕利〔リ〕[七]
浮〔ブ〕樓〔ロ〕莎〔シヤ〕柅〔ニ〕[八]
頞〔アツ〕底〔チ〕[九]』
「世尊、是の陀羅尼神咒は四十二億の諸佛の所說なり。
若し此の法師を侵毀すること有らん者は、則ち爲れ此の諸佛を侵毀し已れるなり。」
〇
爾の時に羅刹女等有り、一を藍婆と名づけ、二を毘藍婆と名づけ、三を曲齒と名づけ、四を華齒と名づけ、五を黑齒と名づけ、六を多髮と名づけ、七を無厭足と名づけ、八を持瓔珞と名づけ、九を皐諦と名づけ、十を奪一切衆生精氣と名づく。
是の十羅刹女、鬼子母、幷びに其の子、及び眷屬と與に俱に佛所に詣りて、同聲に佛に白して言さく、
「世尊、我等、亦、法華經を讀誦し受持せん者を擁護して其の衰患を除かんと欲す。
若し法師の短を伺ひ求むる者有りとも、便りを得ざらしめん。」
即ち佛前に於て咒を說いて曰さく、
『伊〔イ〕提〔デ〕履〔ビ〕[一]
伊〔イ〕提〔デ〕泯〔ミン〕[二]
伊〔イ〕提〔デ〕履〔ビ〕[三]
阿〔ア〕提〔デ〕履〔ビ〕[四]
伊〔イ〕提〔デ〕履〔ビ〕[五]
泥〔デ〕履〔ビ〕[六]
泥〔デ〕履〔ビ〕[七]
泥〔デ〕履〔ビ〕[八]
泥〔デ〕履〔ビ〕[九]
泥〔デ〕履〔ビ〕[十]
樓〔ロ〕醯〔ケイ〕[十一]
樓〔ロ〕醯〔ケイ〕[十二]
樓〔ロ〕醯〔ケイ〕[十三]
樓〔ロ〕醯〔ケイ〕[十四]
多〔タ〕醯〔ケイ〕[十五]
多〔タ〕醯〔ケイ〕[十六]
多〔タ〕醯〔ケイ〕[十七]
兜〔ト〕醯〔ケイ〕[十八]
㝹〔ト〕醯〔ケイ〕[十九]』
「寧ろ我が頭の上に上るとも法師を惱ますこと莫からしめん。
若しは夜叉、若しは羅刹、若しは餓鬼、若しは富單那、若しは吉蔗、若若は毘陀羅、若しは犍駄、若しは烏摩勒伽、若しは阿跋摩羅、若しは夜叉吉蔗、若しは人吉蔗、若しは熱病せしむること若しは一日、若しは二日、若しは三日、若しは四日、乃至七日、若しは常に熱病せしめん。
若しは男形、若しは女形、若しは童男形、若しは童女形、乃至夢の中にも亦復、惱ますこと莫からしめん。」
即ち佛前に於て偈を說いて言さく、
『若し我が咒に順ぜずして、
說法者を惱亂せば、
頭、破れて七分と作ること、
阿梨樹の枝の如くならん。
・
父母を殺する罪の如く、
亦、油を壓〔お〕すの殃〔つみ〕、
斗秤もつて人を欺誑し、
調達が破僧罪の如く、
・
此の法師を犯さん者は、
當に是の如き殃を獲べし。』
〇
諸の羅刹女、此の偈を說き已つて佛に白して言さく、
「世尊、我等、亦、當に身、自ら是の經を受持し、讀誦し、修行せん者を擁護して、安穩なることを得、諸の衰患を離れ衆の毒藥を消せしむべし。」
佛、諸の羅刹女に告げたまわく、
「善哉、善哉。
汝等、但、能く法華の名を受持せん者を擁護せんに、福、量る可からず。
何に況や、具足して受持し、經卷に華、香、瓔珞、抹香、塗香、燒香、幡蓋、伎樂を供養し、種種の燈、蘇燈、油燈、諸の香油燈、蘇摩那華油燈、瞻蔔華油燈、婆師迦華油燈、優鉢羅華油燈を然(燃)し、是の如き等の百千種をもつて供養せん者を擁護せんをや。
皐諦、汝等及び眷屬、應當に是の如き法師を擁護すべし。」
此の陀羅尼品を說きたまふ時、六萬八千人無生法忍を得たり。
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