妙法蓮華經妙音菩薩品第二十四
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
妙音菩薩品第二十四
爾の時に釋迦牟尼佛、大人相の肉髻の光明を放ち、及び眉閒白毫相の光を放つて、徧く東方百八萬億那由陀恒河沙等の諸佛の世界を照らしたまふ。
是の數を過ぎ已つて世界あり、淨光莊嚴と名づく。
其の國に佛、有ます、淨華宿王智如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號づけたてまつる。
無量無邊の菩薩大衆の恭敬し圍遶せるを爲つて、而も爲に法を說きたまふ。
釋迦牟尼佛の白毫の光明、徧く其の國を照らしたまふ。
爾の時に一切淨光莊嚴國の中に一りの菩薩あり、名を妙音と曰ふ。
久しく已に衆の德本を植ゑて、無量百千萬億の諸佛を供養し親近したてまつりて、悉く甚深の智慧を成就し、妙幢相三昧、法華三昧、淨德三昧、宿王戲三昧、無緣三昧、智印三昧、解一切衆生語言三昧、集一切功德三昧、淸淨三昧、神通遊戲三昧、慧炬三昧、莊嚴王三昧、淨光明三昧、淨藏三昧、不共三昧、日旋三昧を得。
是の如き等の百千萬億恒河沙等の諸の大三昧を得たり。
釋迦牟尼佛の光、其の身を照らしたまふ。
即ち淨華宿王智、佛に白して言さく、
「世尊、我、當に娑婆世界に往詣して、釋迦牟尼佛を禮拜し親近し供養し、及び文殊師利法王子菩薩、藥王菩薩、勇施菩薩、宿王華菩薩、上行意菩薩、莊嚴王菩薩、藥上菩薩を見るべし。」
爾の時に淨華宿王智佛、妙音菩薩に告げたまはく、
「汝、彼の國を輕しめて下劣の想ひを生ずること莫かれ。
善男子、彼の娑婆世界は高下不平にして、土石、諸山、穢惡充滿せり。
佛身、卑小にして、諸の菩薩衆も其の形、亦、小なり。
而るに汝が身は四萬二千由旬、我が身は六百八十萬由旬なり。
汝が身は第一端正にして百千萬の福あつて光明殊妙なり。
是の故に汝、往いて、彼の國を輕しめて、若しは佛、菩薩、及び國土に下劣の想ひを生ずること莫かれ。」
妙音菩薩、其の佛に白して言さく、
「世尊、我、今、娑婆世界に詣らんこと、皆、是れ如來の力、如來の神通遊戲、如來の功德智慧莊嚴ならん。」
是に於て妙音菩薩、座を起たず身、動揺せずして三昧に入り、三昧力を以て耆闍崛山に於て法座を去ること遠からずして、八萬四千の衆寶の蓮華を化作せり。
閻浮檀金を莖と爲し、白銀を葉と爲し、金剛を鬚〔しべ〕と爲し、甄淑迦寶を以て其の臺と爲せり。
爾の時に文殊師利法王子、是の蓮華を見て佛に白して言さく、
「世尊、是れ何の因緣あつてか先づ此の瑞を現ぜる。
若干千萬の蓮華有つて、閻浮檀金を莖と爲し、白銀を葉と爲し、金剛を鬚と爲し、甄淑迦宝を以て其の臺と爲せり。」
爾の時に釋迦牟尼佛、文殊師利に告げたまはく、
「是れ、妙音菩薩摩訶薩、淨華宿王智佛の國より、八萬
四千の菩薩の圍遶せると與に、而も此の娑婆世界に來至して、我を供養し、親近し、禮拜せんと欲し、亦、法華經を供養し聽きたてまつらんと欲せるなり。」
文殊師利、佛に白して言さく、
「世尊、是の菩薩は何なる善本を種ゑ、何なる功德を修してか、能く是の大神通力ある。
何なる三昧を行ずる。
願はくは我等が爲に是の三昧の名字を說きたまへ。
我等、亦、之れを勤め修行せんと欲す。
此の三昧を行じて、乃ち能く是の菩薩の色相の大小、威儀、進止を見ん。
唯、願はくは世尊、神通力を以て、彼の菩薩の來たらんに我をして見ることを得せしめたまへ。」
爾の時に釋迦牟尼佛、文殊師利に告げたまはく、
「此の久滅度の多寶如來、當に汝等が爲に而も其の相を現じたまふべし。」
時に多寶佛、彼の菩薩に告げたまはく、
「善男子、來たれ。
文殊師利法王子、汝が身を見んと欲す。」
時に妙音菩薩、彼の國に於て沒して、八萬四千の菩薩と俱に共に發來す。
所經の諸國、六種に震動して皆、悉く七寶の蓮華を雨らし、百千の天樂、鼓せざるに自ら鳴る。
是の菩薩の目は廣大の靑蓮華の葉の如し、正使ひ、百千萬の月を和合せりとも、其の面貌端正なること復、此れに過ぎん。
身は眞金の色にして、無量百千の功德莊嚴せり。
威德熾盛にして光明照曜し、諸相具足して那羅延の堅固の身の如し。
七寶の臺に入つて虛空に上昇り、地を去ること七多羅樹、諸の菩薩衆、恭敬し圍遶して、此の娑婆世界の耆闍崛山に來詣す。
到り已つて七寶の臺を下り、價直百千の瓔珞を以て、持つて釋迦牟尼佛の所に至り、頭面に足を禮し、瓔珞を奉上して、佛に白して言さく、
「世尊、淨華宿王智佛、世尊を問訊したまふ。
少病少惱起居輕利にして安樂に行じたまふや不や。
四大調和なりや不や。
世事は忍びつ可しや不や。
衆生は度し易しや不や。
貪欲、瞋恚、愚癡、嫉妬、慳慢多きことなしや不や。
父母に孝せず、沙門を敬わず、邪見なること無しや不や。
善心なりや不や。
五情を攝むるや不や。
世尊、衆生は能く諸の魔怨を降伏するや不や。
久滅度の多寶如來は七寶塔の中に在しまして、來つて法を聽きたまふや不や。
又、多寶如來を問訊したまふ。
安穩少惱にして堪忍し久住したまふや不や。
世尊、我、今、多寶佛の身を見たてまつらんと欲す。
唯、願はくは世尊、我に示して見せしめたまへ。」
爾の時に釋迦牟尼佛、多寶佛に語りたまはく、
「是の妙音菩薩、相ひ見たてまつることを得んと欲す。」
時に多寶佛、妙音に告げて言はく、
「善哉、善哉。
汝、能く釋迦牟尼佛を供養し、及び法華經を聽き、幷びに文殊師利等を見んが爲の故に此に來至せり。」
爾の時に華德菩薩、佛に白して言さく、
「世尊、是の妙音菩薩は、何なる善根を種ゑ、何なる功德を修してか是の神力ある。」
佛、華德菩薩に告げたまはく、
「過去に佛、有ましき、雲雷音王、多陀阿伽度、阿羅訶、三藐三佛陀と名づけたてまつる。
國を現一切世閒と名づけ、劫を喜見と名づく。
妙音菩薩、萬二千歳に於て、十萬種の伎樂を以て雲雷音王佛に供養し、幷びに八萬四千の七寶の鉢を奉上す。
是の因緣の果報を以て、今、淨華宿王智佛の國に生じて是の神力有り。
華德、汝が意に於て云何。
爾の時の雲雷音王佛の所に、妙音菩薩として伎樂をもつて供養し寶器を奉上せし者、豈に異人ならんや、今、此の妙音菩薩摩訶薩、是れなり。
華德、是の妙音菩薩は已に曾て無量の諸佛に供養し親近して、久しく德本を植ゑ、又、恒河沙等の百千萬億那由陀の佛に値ひたてまつる。
華德、汝、但、妙音菩薩、其の身、此に在りとのみ見る。
自るに是の菩薩は種種の身を現じて、處處に諸の衆生の爲に是の經典を說く。
或は梵王の身を現じ、或は帝釋の身を現じ、或は自在天の身を現じ、或は大自在天の身を現じ、或は天大將軍の身を現じ、或は毘沙門天王の身を現じ、或は轉輪聖王の身を現じ、或は諸の小王の身を現じ、或は長者の身を現じ、或は居士の身を現じ、或は宰官の身を現じ、或は婆羅門の身を現じ、或は比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の身を現じ、或は長者、居士の婦女の身を現じ、或は宰官の婦女の身を現じ、或は婆羅門の婦女の身を現じ、或は童男、童女の身を現じ、或は天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦樓羅、緊那羅、摩睺羅伽、人、非人等の身を現じて是の經を說く。
諸有の地獄、餓鬼、畜生及び諸の難處、皆、能く救濟す。
乃至、王の後宮に於ては、變じて女身と爲つて是の經を說く。
華德、是の妙音菩薩は能く娑婆世界の諸の衆生を救護する者なり。
是の妙音菩薩は是の如く種種に變化し身を現じて、是の娑婆國土に在つて諸の衆生の爲に是の經典を說く。
神通、變化、智慧に於て損減する所無し。
是の菩薩は若干の智慧を以て明らかに娑婆世界を照らして、一切衆生をして各、所知を得せしむ。
十方恒河沙の世界の中に於ても亦復、是の如し。
若し聲聞の形を以て得度すべき者には、聲聞の形を現じて爲に法を說き、辟支佛の形を以て得度すべき者には、辟支佛の形を現じて爲に法を說き、菩薩の形を以て得度すべき者には、菩薩の形を現じて爲に法を說き、佛の形を以て得度すべき者には、即ち佛の形を現じて爲に法を說く。
是の如く種種に度すべき所の者に隨つて爲に形を現ず。
乃至、滅度を以て得度すべき者には滅度を示現す。
華德、妙音菩薩摩訶薩は大神通、智慧の力を成就せること、其の事、是の如し。」
爾の德に華德菩薩、佛に白して言さく、
「世尊、是の妙音菩薩は深く善根を種ゑたり。
世尊、是の菩薩、何なる三昧に住してか、能く是の如く在所に變現して衆生を度脫する。」
佛、華德菩薩に告げたまはく、
「善男子、其の三昧を現一切色身と名づく。
妙音菩薩、是の三昧の中に住して能く是の如く無量の衆生を饒益す。」
是の妙音菩薩品を說きたまふ時、妙音菩薩と俱に來たれる者、八萬四千人、皆、現一切色身三昧を得、是の娑婆世界の無量の菩薩、亦、是の三昧、及び陀羅尼を得たり。
爾の時に妙音菩薩摩訶薩、釋迦牟尼佛、及び多寶佛塔を供養し已つて、本土に還歸す。
所經の諸國、六種に震動して寶蓮華を雨らし、百千萬億の種種の伎樂を作す。
既に本國に到つて、八萬四千の菩薩の圍遶せると與に、淨華宿王智佛の所に至つて、佛に白して言さく、
「世尊、我、娑婆世界に到つて衆生を饒益し、釋迦牟尼佛を見たてまつり、及び多寶佛塔を見たてまつりて禮拜供養し、又、文殊師利法王子菩薩を見、及び藥王菩薩、得勤精進力菩薩、勇施菩薩等を見る。
亦、是の八萬四千の菩薩をして現一切色身三昧を得せしむ。」
是の妙音菩薩來往品を說きたまふ時、四萬二千の天子、無生法忍を得、華德菩薩、法華三昧を得たり。
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