妙法蓮華經藥王菩薩本事品第二十三
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
藥王菩薩本事品第二十三
爾の時に宿王華菩薩、佛に白して言さく、
「世尊、藥王菩薩は云何にしてか娑婆世界に遊ぶ。
世尊、是の藥王菩薩は若干百千萬億那由佗の難行苦行有らん。
善哉、世尊、願はくは少し解說したまへ。
諸の天、龍神、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦樓羅、緊那羅、摩睺羅伽、人、非人等、又、佗(他)の國土より諸の來たれる菩薩、及び此の聲聞衆、聞いて皆、歡喜せん。」
爾の時に佛、宿王華菩薩に告げたまはく、
「乃往過去無量恒河沙劫に佛、有ましき、日月淨明德如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號づけたてまつる。
其の佛に八十億の大菩薩摩訶薩、七十二恒河沙の大聲聞衆有り。
佛の壽ひは四萬二千劫、菩薩の壽命も亦、等し。
彼の國には女人、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅等、及び諸難有ること無し。
地の平かなること、掌の如くにして、瑠璃の所成なり。
寶樹莊嚴し、寶帳上に覆ひ、寶の華幡を垂れ、寶瓶、香爐、國界に周徧せり。
七寶を臺と爲して一樹に一臺あり。
其の樹、臺を去ること一箭道を盡くせり。
此の諸の寶樹に皆、菩薩、聲聞有つて其の下に坐せり。
諸の寶臺の上に各、百億の諸天有つて天の伎樂を作し、佛を歌歎して以て供養を爲す。
爾の時に彼の佛、一切衆生喜見菩薩、及び衆の菩薩、諸の聲聞衆の爲に、法華經を說きたまふ。
是の一切衆生喜見菩薩、樂つて苦行を習ひ、日月淨明德佛の法の中に於て、精進經行して一心に佛を求むること、萬二千歳を滿じ已つて、現一切色身三昧を得。
此の三昧を得已つて、心、大いに歡喜して即ち念言を作さく、
「我、現一切色身三昧を得たる、皆、
是れ、法華經を聞くことを得る力なり。
我、今、當に日月淨明德佛、及び、
法華經を供養すべし。」
即時に是の三昧に入りて、虛空の中に於て曼陀羅華、摩訶曼陀羅華、細抹堅黑の栴檀を雨らし、虛空の中に滿てて雲の如くにして下し、又、海此岸の栴檀の香を雨らす。
此の香の六銖は價直娑婆世界なり、以て佛に供養す。
是の供養を作し已つて、三昧より起つて、自ら念言すらく、
「我、神力を以て佛を供養すと雖も、
身を以て供養せんには如かじ。」
即ち諸の香、栴檀、薰陸、兜樓婆、畢力迦、沈水、膠香を服し、又、瞻蔔、諸の華香油を飮むこと千二百歳を滿じ已つて、香油を身に塗り、日月淨明德佛の前に於て、天の寶衣を以て自ら身に纏ひ已つて、諸の香油を潅ぎ、神通力の願を以て自ら身を燃して、光明、徧く八十億恒河沙の世界を照らす。
其の中の諸佛、同時に讚めて言たまはく、
「善哉、善哉。
善男子、是れ眞の精進なり。
是れを眞の法をもつて如來を供養すと名づく。
若し華、香、瓔珞、燒香、抹香、塗香、天繪、幡蓋、及び海此岸の栴檀の香、
是の如き等の種種の諸物を以て供養すとも、及ぶこと能はざる所なり。
假使ひ、國城、妻子をもつて布施すとも、亦、及ばざる所なり。
善男子、是れを第一の施と名づく。
諸の施の中に於て最尊最上なり。
法を以て諸の如來を供養するが故に」と。
是の語を作し已つて各、默然したまふ。
其の身の火、然(燃)ゆること千二百歳、是れを過ぎて已〔の〕後〔ち〕、其の身、乃ち盡きぬ。
一切衆生喜見菩薩、是の如き法の供養を作し已つて、命終の後に亦、日月淨明德佛の國の中に生じて、淨德王の家に於て結跏趺坐して忽然に化生し、即ち其の父の爲に而も偈を說いて言さく、
『大王、今、當に知るべし、
我、彼の處に經行して、
即時に一切、
現諸身三昧を得、
・
大精進を勤行して、
所愛の身を捨てにき。』
是の偈を說き已つて父に白して言さく、
「日月淨明德佛、今、故〔なほ〕、現に在ます。
我、先に佛を供養し已つて解一切衆生語言陀羅尼を得、
復、是の法華經の八百千萬億那由佗、甄迦羅、頻婆羅、阿閦婆等の偈を聞けり。
大王、我、今、當に還つて此の佛を供養すべし」と。
白し已つて即ち七寶の臺に坐し、虛空に上昇ること高さ七多羅樹にして、佛所に往到し、頭面に足を禮し、十の指爪を合せて、偈を以て佛を讚めたてまつる。
『容顏、甚だ奇妙にして、
光明、十方を照らしたまふ。
我、適〔むか〕昔〔し〕、供養し、
今、復、還つて親覲したてまつる。』
爾の時に一切衆生喜見菩薩、是の偈を說き已つて、佛に白して言さく、
「世尊、
世尊、甚〔な〕故〔ほ〕、世に在ます。」
爾の時に日月淨明德佛、一切衆生喜見菩薩に告げたまはく、
「善男子、
我、涅槃の時到り、滅盡の時至りぬ。
汝、牀座を安施す可し。
我、今夜に於て當に般涅槃すべし。」
又、一切衆生喜見菩薩に敕したまはく、
「善男子、
我、佛法を以て汝に囑累す。
及び諸の菩薩大弟子、幷びに阿耨多羅三藐三菩提の法、
亦、三千大千の七寶の世界、諸の寶樹、寶臺、
及び給侍の諸天を以て悉く汝に付す。
我が滅度の後、所有の舍利、亦、汝に付囑す。
當に流布せしめ廣く供養を設くべし。
應に若干千の塔を起つべし。」
是の如く日月淨明德佛、一切衆生喜見菩薩に敕し已つて、夜の後分に於て涅槃に入りたまひぬ。
爾の時に一切衆生喜見菩薩、佛の滅度を見て悲感懊惱して佛を戀慕したてまつり、即ち海此岸の栴檀を以て‘積〔つみき〕と爲して、佛身を供養して以て之れを燒きたてまつる。(積字、草冠)
火、滅えて已後、舍利を収取し、八萬四千の寶瓶を作つて、以て八萬四千の塔を起つること三世界より高く、表刹莊嚴して諸の幡蓋を垂れ、諸の寶鈴を懸けたり。
爾の時に一切衆生喜見菩薩、復、自ら念言すらく、
「我、是の供養を作すと雖も、心、猶、未だ足らず。
我、今、當に更〔また〕、舍利を供養すべし。」
便ち諸の菩薩大弟子、及び天、龍、夜叉等の一切の大衆に告ぐ、
「汝等、當に一心に念ずべし。
我、今、日月淨明德佛の舍利を供養せん」と。
是の語を作し已つて、即ち八萬四千の塔の前に於て、百福莊嚴の臂を燃すこと七萬二千歳にして以て供養す。
無數の聲聞を求むる衆、無量阿僧祇の人をして、阿耨多羅三藐三菩提の心を發こさしめ、皆、現一切色身三昧に住することを得せしむ。
爾の時に諸の菩薩、天、人、阿修羅等、其の臂無きを見て憂惱悲哀して、是の言を作さく、
「此の一切衆生喜見菩薩は是れ、我等が師、我を敎化したまふ者なり。
而るに今、臂を燒いて身、具足したまはず。」
時に一切衆生喜見菩薩、大衆の中に於て此の誓言を立つ、
「我、兩つの臂を捨てて必ず當に佛の金色の身を得べし。
若し實にして虛しからずんば、
我が兩つの臂をして還復すること、故〔もと〕の如くならしめん。」
是の誓ひを作し已つて自然に還復しぬ。
斯の菩薩の福德、智慧の淳厚なるに由つて致す所なり。
爾の時に當つて三千大千世界、六種に震動し、天より寶華を雨らして一切天、人、未曾有なることを得たり。」
佛、宿王華菩薩に告げたまはく、
「汝が意に於て云何。
一切衆生喜見菩薩は、豈に異人ならんや、今の藥王菩薩、是れなり。
其の身を捨てて布施する所、是の如く、無量百千萬億那由佗數なり。
宿王華、若し發心して阿耨多羅三藐三菩提を得んと欲すること有らん者は、能く手の指、乃至足の一指を然(燃)して佛塔に供養せよ。
國城、妻子および三千大千國土の山林、河池、諸の珍寶物を以て供養せん者に勝らん。
若し復、人有つて、七寶を以て三千大千世界に滿てて、佛及び大菩薩、辟支佛、阿羅漢に供養せん。
是の人の所得の功德も、此の法華經の乃至一四句偈を受持する、其の福の最も多きには如かじ。
宿王華、譬へば一切の川流、江河の諸水の中に、海、爲れ、第一なるが如く、此の法華經も亦復、是の如し。
諸の如來の所說の經の中に於て最も爲れ、深大なり。
又、土山、黑山、小鐵圍山、大鐵圍山、及び十寶山の衆山の中に、須彌山、爲れ第一なるが如く、此の法華經も亦復、是の如し。
諸經の中に於て最も爲れ、其の上なり。
又、衆星の中に月天子最も爲れ第一なるが如く、此の法華經も亦復、是の如し。
千萬億種の諸の經法の中に於て最も爲れ、照明なり。
又、日天子の能く諸の闇を除くが如く、此の經も亦復、是の如し。
能く一切不善の闇を破す。
又、諸の小王の中に轉輪聖王、最も爲れ第一なるが如く、此の經も亦復、是の如し。
衆經の中に於て最も爲れ、其の尊なり。
又、帝釋の三十三天の中に於て王なるが如く、此の經も亦復、是の如し。
諸經の中の王なり。
又、大梵天王の一切衆生の父なるが如く、此の經も亦復、是の如し。
一切の賢聖、學、無學、及び菩薩の心を發こす者の父なり。
又、一切の凡夫人の中に須陀洹、斯陀含、阿那含、阿羅漢、辟支佛、爲れ第一なるが如く、此の經も亦復、是の如し。
一切の如來の所說、若しは菩薩の所說、若しは聲聞の所說、諸の經法の中に最も爲れ第一なり。
能く是の經典を受持すること有らん者も亦復、是の如し。
一切衆生の中に於て亦、爲れ第一なり。
一切の聲聞、辟支佛の中に菩薩、爲れ第一なり。
此の經も亦復、是の如し。
一切の諸の經法の中に於て最も爲れ第一なり。
佛は爲れ諸法の王なるが如く、此の經も亦復、是の如し。
諸經の中の王なり。
宿王華、此の經は能く一切衆生を救ひたまふ者なり。
此の經は能く一切衆生をして諸の苦惱を離れしめたまふ。
此の經は能く大いに一切衆生を饒益して、其の願を充滿せしめたまふ。
淸凉の池の能く一切の諸の渇乏の者に滿つるが如く、寒き者の火を得たるが如く、裸なる者の衣を得たるが如く、商人の主を得たるが如く、子の母を得たるが如く、渡りに船を得たるが如く、病に醫を得たるが如く、暗に燈を得たるが如く、貧しきに寶を得たるが如く、民の王を得たるが如く、賈客の海を得たるが如く、炬〔ともしび〕の暗を除くが如く、此の法華經も亦復、是の如し。
能く衆生をして一切の苦、一切の病痛を離れ、能く一切の生死の縛を解かしめたまふ。
若し人、此の法華經を聞くことを得て、若しは自らも書き、若しは人をしても書かしめん。
所得の功德は佛の智慧を以て多少を籌量すとも其の邊を得じ。
若し是の經卷を書いて華、香、瓔珞、燒香、抹香、塗香、幡蓋、衣服、種種の燈、蘇燈、油燈、諸の香油燈、瞻蔔油燈、須曼那油燈、波羅羅油燈、婆利師迦油燈、那婆摩利油燈をもつて供養せん。
所得の功德、亦復、無量ならん。
宿王華、若し人有つて是の藥王菩薩本事品を聞かん者は、亦、無量無邊の功德を得ん。
若し女人に有つて、是の藥王菩薩本事品を聞いて能く受持せん者は、是の女身を盡くして後に復、受けじ。
若し如來の滅後、後の五百歳の中に、若し女人有つて是の經典を聞いて說の如く修行せば、此に於て命終して即ち安樂世界の阿彌陀佛の大菩薩衆の圍遶せる住處に往いて、蓮華の中の寶座の上に生ぜん。
復、貪欲に惱されじ。
亦復、瞋恚、愚痴に惱されじ。
亦復、憍慢、嫉妬、諸垢に惱されじ。
菩薩の神通、無生法忍を得ん。
是の忍を得已つて眼根淸淨ならん。
是の淸淨の眼根を以て、七百萬二千億那由佗恒河沙等の諸佛如來を見たてまつらん。
是の時に諸佛、遙かに共に讚めて言たまはん、
「善哉、善哉。
善男子、汝、能く釋迦牟尼佛の法の中に於て、
是の經を受持し讀誦し思惟し、佗(他)人の爲に說けり。
所得の福德無量無邊なり。
火も燒くこと能はず、
水も漂はすこと能はず、
汝の功德は、千佛共に說きたまふとも、盡くさしむること能はず。
汝、今、已に能く處の魔賊を破し、
生死の軍を壞し、諸餘の怨敵、皆、悉く摧滅せり。
善男子、百千の諸佛、神通力を以て共に汝を守護したまふ。
一切の世間の天、人の中に於て、汝に如く者無し。
唯、如來を除いて其の諸の聲聞、辟支佛、乃至菩薩の智慧、禪定も、
汝と等しき者有ること無けん」と。
宿王華、此の菩薩は是の如き功德、智慧の力を成就せり。
若し人有つて是の藥王菩薩本事品を聞いて、能く隨喜して善しと讚めば、是の人、現世に口の中より常に靑蓮華の香を出だし、身の毛孔の中より常に午頭栴檀の香を出ださん。
所得の功德、上に說く所の如し。
是の故に宿王華、此の藥王菩薩本事品を以て汝に囑累す。
我が滅度の後、後の五百歳の中、閻浮提に廣宣流布して、斷絕して惡魔、魔民、諸天、龍、夜叉、鳩槃荼等に其の便りを得せしむること無かれ。
宿王華、汝、當に神通の力を以て是の經を守護すべし。
所以は何。
此の經は則ち爲れ、閻浮提の人の病の良藥なり。
若し人、病有らんに是の經を聞くことを得ば、病、即ち消滅して不老不死ならん。
宿王華、汝、若し是の經を受持すること有らん者を見ては、靑蓮華を以て抹香を盛り滿てて、其の上に供散すべし。
散じ已つて是の念言を作すべし、
「此の人、久しからずして、必ず當に草を取つて道場に坐して、
諸の魔軍を破すべし。
當に法の螺を吹き、大法の鼓を擊つて、
一切衆生の老、病、死の海を度脫すべし」と。
是の故に佛道を求めん者、是の經典を受持すること有らん人を見ては、應當に是の如く恭敬の心を生ずべし。」
是の藥王菩薩本事品を說きたまふ時、八萬四千の菩薩、解一切衆生語言陀羅尼を得たり。
多寶如來、寶塔の中に於て宿王華菩薩を讚めて言たまはく、
「善哉、善哉、宿王華。
汝、不可思議の功德を成就して、乃し能く釋迦牟尼佛に此の如きの事を問ひたてまつりて、無量の一切衆生を利益す。」
0コメント