妙法蓮華經如來神力品第二十一
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
如來神力品第二十一
爾の時に千世界微塵等の菩薩摩訶薩の地より涌出せる者、皆、佛前に於て一心に合掌し尊顔を瞻仰して、佛に白して言さく、
「世尊、我等、佛の滅後、世尊分身所在の國土、滅度の處に於て、當に廣く此の經を說くべし。
所以は何。
我等も亦、自ら是の眞淨の大法を得て、受持し讀誦し、解說し書寫して、之れを供養せんと欲す。」
爾の時に世尊、文殊師利等の無量百千萬億の舊住娑婆世界の菩薩摩訶薩、及び諸の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦樓羅、緊那羅、摩睺羅伽、人、非人等の一切の衆の前に於て、大神力を現じたまふ。
廣長舌を出だして上梵世に至らしめ、一切の毛孔より無量無數色の光りを放つて、皆、悉く徧く十方世界を照らしたまふ。
諸の寶樹の下の師子の座の上の諸佛も亦復、是の如く、廣長舌を出だし、無量の光を放ちたまふ。
釋迦牟尼佛、及び寶樹の下の諸佛、神力を現じたまふ時、百千歳を滿ず。
然して後に還つて舌相を攝めて、一時に謦欬し、具〔と〕共〔も〕に彈指したまふ。
是の二つの音聲、徧く十方の諸佛の世界に至つて、地、皆、六種に震動す。
其の中の衆生、天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦樓羅、緊那羅、摩睺羅伽、人、非人等、佛の神力を以ての故に、皆、此の娑婆世界の無量無辺百千萬億の衆の寶樹の下の師子の座の上の諸佛を見、及び釋迦牟尼佛、多寶如來と共に寶塔の中に在して、師子の座に坐したまへるを見たてまつり、又、無量無邊百千萬億の菩薩摩訶薩、及び諸の四衆の、釋迦牟尼佛を恭敬し圍遶したてまつるを見る。
既に是れを見已つて、皆、大いに歡喜して未曾有なることを得。
即時に諸天、虛空の中に於て高聲に唱へて言はく、
「此の無量無邊百千萬億阿僧祇の世界を過ぎて國あり、娑婆と名づく。
是の中に佛有ます、釋迦牟尼と名づけたてまつる。
今、諸の菩薩摩訶薩の爲に、大乘經の妙法蓮華、敎菩薩法、佛所護念と名づくるを說きたまふ。
汝等、當に深心に隨喜すべし。
亦、當に釋迦牟尼佛を禮拜し供養すべし。」
彼の諸の衆生、虛空の中の聲を聞き已つて、合掌して娑婆世界に向つて是の如き言を作さく、
「南無釋迦牟尼佛、南無釋迦牟尼佛」と。
種種の華、香、瓔珞、幡蓋、及び諸の嚴身の具、珍寶、妙物を以て、皆、共に遙かに娑婆世界に散ず。
所散の諸物、十方より來ること、譬へば雲の集まるが如し。
變じて寶帳と成つて、徧く此の間の諸佛の上に覆っふ。
時に十方世界、通達無礙にして一佛土の如し。
爾の時に佛、上行等の菩薩大衆に告げたまはく、
「諸佛の神力は是の如く無量無邊不可思議なり。
若し我、是の神力を以て無量無邊百千萬億阿僧祇劫に於て、囑累の爲の故に此の經の功德を說かんに、猶、盡くすこと能はじ。
要を以て之れを言はば、如來の一切の所有の法、如來の一切の自在の神力、如來の一切の祕要の藏、如來の一切の甚深の事、皆、此の經に於て宣示顯說す。
是の故に汝等、如來の滅後に於て、應當に一心に受持し讀誦し、解說し書寫し、說の如く修行すべし。
所在の國土に、若しは受持し讀誦し、解說し書寫して、說の如く修行しすること有らん、若しは經卷所住の處、若しは園中に於ても、若しは林の中に於ても、若しは樹の下に於ても、若しは僧坊に於ても、若しは白衣の舍にても、若しは殿堂に在つても、若しは山谷曠野にても、是の中に皆、塔を起てて供養すべし。
所以は何。
當に知るべし、是の處は即ち是れ、道場なり。
諸佛、此に於て阿耨多羅三藐三菩提を得、諸佛、此に於て法輪を轉じ、諸佛、此に於て般涅槃したまふ。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『諸佛救世者、
大神通に住して、
衆生を悅ばしめんが爲の故に、
無量の神力を現じたまふ。
・
舌相、梵天に至り、
身より無數の光を放つて、
佛道を求むる者の爲に、
此の希有の事を現じたまふ。
・
諸佛、謦欬の聲、
及び彈指の聲、
周く十方の國に聞えて、
地、皆、六種に動ず。
・
佛の滅度の後に、
能く此の經を持たんを以ての故に、
諸佛、皆、歡喜して、
無量の神力を現じたまふ。
・
是の經を囑累せんが故に、
受持の者を讚美すること、
無量劫の中に於てすとも、
猶〔な〕故〔ほ〕、盡くすこと能はじ。
・
是の人の功德は、
無邊にして窮まり有ること無けん。
十方の虛空の、
邊際を得可からざるが如し。
・
能く是の經を持たん者は、
則ち爲れ、已に我れを見、
亦、多寶佛、
及び諸の分身者を見、
・
又、我が今日、
敎化せる諸の菩薩を見るなり。
能く是の經を持たん者は、
我、及び分身、
・
滅度の多寶仏をして、
一切、皆、歡喜せしめ、
十方現在の佛、
幷びに過去、未來、
・
亦は見、亦は供養し、
亦は歡喜することを得せしめん。
諸佛、道場に坐して、
得たまへる所の祕要の法、
・
能く是の經を持たん者は、
久しからずして亦、當に得べし。
能く是の經を持たん者は、
諸法の義、
・
名字、及び言辭に於て、
樂說窮盡無きこと、
風の空中に於て、
一切、障礙無きが如くならん。
・
如來の滅後に於て、
佛の所說の經の、
因緣、及び次第を知つて、
義に隨つて實の如く說かん。
・
日月の光明の、
能く諸の幽冥を除くが如く、
斯の人、世閒に行じて、
能く衆生の闇を滅し、
・
無量の菩薩をして、
畢竟じて一乘に住せしめん。
是の故に智、有らん者、
此の功德の利を聞いて、
・
我が滅度の後に於て、
應に斯の經を受持すべし。
是の人、佛道に於て、
決定して疑ひ有ること無けん。』
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