妙法蓮華經常不輕菩薩品第二十
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
卷の第七
常不輕菩薩品第二十
爾の時に佛、得大勢菩薩摩訶薩に告げたまはく、
「汝、今、當に知るべし、若し比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の法華經を持たん者を、若し惡口、罵詈、誹謗すること有らば、大いなる罪報を獲んこと前に說く所の如し。
其の所得の功德は向〔さき〕に說く所の如く眼、耳、鼻、舌、身、意淸淨ならん。
得大勢、乃往古昔に無量無邊不可思議阿僧祇劫を過ぎて佛、有ましき。
威音王如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と名づけたてまつる。
劫を離衰と名づけ、國を大成と名づく。
其の威音王佛、彼の世の中に於て、天、人、阿修羅の爲に法を說きたまふ。
聲聞を求むる者の爲には應ぜる四諦の法を說いて、生、老、病、死を度し涅槃を究竟せしめ、辟支佛を求むる者の爲には應ぜる十二因緣の法を說き、諸の菩薩の爲には、阿耨多羅三藐三菩提に因せて、應ぜる六波羅蜜の法を說いて佛慧を究竟せしめたまふ。
得大勢、是の威音王佛の壽ひは四十萬億那由佗恒河沙劫なり。
正法、世に住せる劫數は一閻浮提の微塵の如く、像法、世に住せる劫數は四天下の微塵の如し。
其の佛、衆生を饒益し已つて、然して後に滅度したまひき。
正法、像法、滅盡の後、此の國土に於て復、佛、出でたまふこと有りき。
亦、威音王如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號づけたてまつる。
是の如く次第に二萬億の佛、有ます。
皆、同じく一號なり。
最初の威音王如來、已に滅度したまひて、正法滅して後、像法の中に於て、增上慢の比丘、大勢力有り。
爾の時に一りの菩薩比丘有り、常不輕と名づく。
得大勢、何の因緣を以てかか常不輕と名づくる。
是の比丘、凡そ見る所有る若しは比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷を皆、悉く禮拜讚嘆して、是の言を作さく、
「我、深く汝等を敬ふ。
敢て輕慢せず。
所以は何。
汝等、皆、菩薩の道を行じて、當に作佛することを得べし」と。
而も是の比丘、專ら經典を讀誦せずして、但、禮拜を行ず。
乃至、遠く四衆を見ても、亦復、故〔ことさら〕に往いて禮拜讚嘆して是の言を作さく、
「我、敢て汝等を輕しめず。
汝等、皆、當に作佛すべきが故に」と。
四衆の中に瞋恚を生じて心、不淨なる者あり、惡口罵詈して言く、
「是の無知の比丘、何れの所より來つてか、
自ら我、汝を輕しめずと言つて、
我等が爲に當に作佛することを得べしと授記する。
我等、是の如き虛妄の授記を用ひず」と。
此の如く多年を經歷して常に、罵詈せらるれども瞋恚を生ぜずして常に、是の言を作す、
「汝、當に作佛すべし」と。
是の語を說く時、衆人、或は杖木、瓦石を以て之れを打擲すれば、避け走り遠く住して、猶、高聲に唱へて言わく、
「我、敢て汝等を輕しめず。
汝等、皆、當に作佛すべし」と。
其の常に是の語を作すを以ての故に、增上慢の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷、之れを號して常不輕と爲づく。
是の比丘、終りなんと欲する時に臨んで、虛空の中に於て、具さに威音王佛の先に說きたまふ所の法華經二十千萬億の偈を聞いて、悉く能く受持して、即ち上の如き眼根淸淨、耳、鼻、舌、身、意根淸淨を得たり。
是の六根淸淨を得已つて、更に壽命を增すこと二百萬億那由佗歳、廣く人の爲に是の法華經を說く。
時に增上慢の四衆の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の、是の人を輕賤して爲に不輕の名を作せし者、其の大神通力、樂說辨力、大善寂力を得たるを見、其の所說を聞いて皆、信伏隨從す。
是の菩薩、復、千萬億の衆を化して阿耨多羅三藐三菩提に住せしむ。
命終の後、二千億の佛に値ひたてまつることを得、皆、日月燈明と號づく。
其の法の中に於て是の法華經を說く。
是の因緣を以て復、二千億の佛に値ひたてまつる。
同じく雲自在燈王と號づく。
此の諸佛の法の中に於て受持読誦して、諸の四衆の爲に此の經典を說くが故に、是の常眼淸淨、耳・鼻、舌、身、意の諸根の淸淨を得て、四衆の中に於て法を說くに、心、畏るる所無かりき。
得大勢、是の常不輕菩薩摩訶薩は、是の如き若干の諸佛を供養し、恭敬、尊重、讚嘆して、諸の善根を種ゑ、後に復、千萬億の佛に値ひたてまつり、亦、諸佛の法の中に於て是の經典を說いて、功德成就して當に作佛することを得たり。
得大勢、意に於て云何。
爾の時に常不輕菩薩は豈に異人ならんや、則ち我が身、是れなり。
若し我、宿世に於て此の經を受持し讀誦し、他人の爲に說かずんば、疾く阿耨多羅三藐三菩提を得ること能はじ。
我、先佛の所に於て此の經を受持し讀誦し、人の爲に說きしが故に、疾く阿耨多羅三藐三菩提を得たり。
得大勢、彼の時の四衆の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷は、瞋恚の意を以て我を輕賤せしが故に、二百億劫常に佛に値はず、法を聞かず、僧を見ず、千劫阿鼻地獄に於て大苦惱を受く。
是の罪を畢へ已つて、復、常不輕菩薩の阿耨多羅三藐三菩提に敎化するに遇ひにき。
得大勢、汝が意に於て云何。
爾の時の四衆の、常に是の菩薩を輕しめし者は、豈に異人ならんや、今、此の會中の跋陀婆羅等の五百の菩薩、師子月等の五百の比丘、尼思佛等の五百の優婆塞の、皆、阿耨多羅三藐三菩提に於て退轉せざる者、是れなり。
得大勢、當に知るべし、是の法華經は大いに諸の菩薩摩訶薩を饒益して、能く阿耨多羅三藐三菩提に至らしむ。
是の故に諸の菩薩摩訶薩、如來の滅後に於て、常に是の經を受持し、讀誦し、解說し、書寫すべし。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『過去に佛、有ましき、
威音王と號づけたてまつる。
神智無量にして、
一切を將導したまふ。
・
天、人、龍神の、
共に供養したてまつる所なり。
是の佛の滅後、
法盡きなんと欲せし時、
・
一りの菩薩有り、
常不輕と名づく。
時に諸の四衆、
法に計著せり。
・
不輕菩薩、
其の所に往き到つて、
而も之れに語つて言はく、
「我、汝を輕しめず。
・
汝等、道を行じて、
皆、當に作佛すべし」と。
諸人、聞き已つて、
輕毀罵詈せしに、
・
不輕菩薩、
能く之れを忍受しき。
其の罪、畢へ已つて、
命終の時に臨んで、
・
此の經を聞くことを得て、
六根淸淨なり。
神通力の故に、
壽命を增益して、
・
復、諸人の爲に、
廣く是の經を說く。
諸の著法の衆、
皆、菩薩の、
・
敎化し成就して、
佛道に住せしむることを蒙る。
不輕、命終して、
無數の佛に値ひたてまつる。
・
是の經を說くが故に、
無量の福を得、
漸く功德を具して、
疾く佛道を成ず。
・
彼の時の不輕は、
則ち我が身、是れなり。
時の四部の衆の、
著法の者の、
・
不輕の、
「汝、當に作佛すべし」と言ふを聞きしは、
是の因緣を以て、
無數の佛に値ひたてまつる。
・
此の會の菩薩、
五百の衆、
幷〔な〕及〔ら〕びに四部、
淸信士女の、
・
今、我が前に於て、
法を聽く者、是れなり。
我、前世に於て、
是の諸人を勸めて、
・
斯の經の、
第一の法を聽受せしめ、
開示して人を敎へて、
涅槃に住せしめ、
・
世世に、
是の如き經典を受持しき。
億億萬劫より、
不可議に至つて、
・
時に乃し、
是の法華經を聞くことを得。
億億萬劫より、
不可議に至つて、
・
諸佛世尊、
時に是の經を說きたまふ。
是の故に行者、
佛の滅後に於て、
・
是の如き經を聞いて、
疑惑を生ずること勿れ。
應當に一心に、
廣く此の經を說くべし。
・
世世に佛に値ひたてまつりて、
疾く佛道を成ぜん。」
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