妙法蓮華經分別功德品第十七
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
分別功德品第十七
爾の時に大會、佛の壽命の劫數長遠なること、是の如くなるを說きたまふを聞きたてまつりて、無量無邊阿僧祇の衆生、大饒益を得たり。
〇
時に世尊、彌勒菩薩摩訶薩に告げたまはく、
「阿逸多、我、是の如來の壽命長遠なるを說く時、六百八十萬億那由他恒河沙の衆生、無生法忍を得。
復、千倍の菩薩摩訶薩有つて、聞持陀羅尼門を得。
復、一世界微塵數の菩薩摩訶薩有つて、樂說無礙辯才を得。
復、一世界微塵數の菩薩摩訶薩有つて、百千萬億無量の旋陀羅尼を得。
復、三千大千世界微塵數の菩薩摩訶薩有つて、能く不退の法輪を轉ず。
復、二千中國土微塵數の菩薩摩訶薩有つて、能く淸淨の法輪を轉ず。
復、小千國土微塵數の菩薩摩訶薩有つて、八生に當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
復、四四天下微塵數の菩薩摩訶薩有つて、四生に當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし
復、三四天下微塵數の菩薩摩訶薩有つて、三生に當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
復、二四天下微塵數の菩薩摩訶薩有つて、二生に當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
復、一四天下微塵數の菩薩摩訶薩有つて、一生に當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
復、八世界微塵數の衆生有つて、皆、阿耨多羅三藐三菩提の心を發こす。」
〇
佛、是の諸の菩薩摩訶薩の大法利を得ることを說きたまふ時、虛空の中より曼陀羅華、摩訶曼陀羅華を雨らして、以て無量百千萬億の寶樹の下の師子の座の上の諸佛に散じたてまつり、幷びに七寶塔中の師子の座の上の釋迦牟尼佛、及び久滅度の多寶如來に散じたてまつり、亦、一切の諸の大菩薩、及び四部の衆に散ず。
又、細抹の栴檀、沈水香等を雨らし、虛空の中に於て天鼓、自ら鳴つて妙聲深遠なり。
又、千種の天衣を雨らし、諸の瓔珞、眞珠瓔珞、摩尼珠瓔珞、如意珠瓔珞を垂れて九方に徧ぜり。
衆寶の香鑪に無價の香を燒き、自然に周〔あまね〕く至つて大會に供養す。
一一の佛の上に諸の菩薩有つて、旛蓋を執持して次第に上つて梵天に至る。
是の諸の菩薩、妙なる音聲を以て無量の頌を歌して、諸佛を讚嘆したてまつる。
〇
爾の時に彌勒菩薩、座より而も起つて、偏へに右の肩を袒らはにし、合掌し佛に向かひたてまつりて、偈を說いて言さく、
『佛、希有の法を說きたまふ。
昔より未だ曾て聞かざる所なり。
世尊は大力有しまして、
壽命、量る可からず。
・
無數の諸の佛子、
世尊の分別して、
法利を得る者を說きたまふを聞いて、
歡喜身に充徧す。
・
或は不退の地に住し、
或は陀羅尼を得、
或は無價の樂說、
萬億の旋總持あり。
・
或は大千界、
微塵數の菩薩有つて、
各各に皆、能く、
不退の法輪を轉ず。
・
復、中千界、
微塵數の菩薩有つて、
各各に皆、能く、
淸淨の法輪を轉ず。
・
復、小千界、
微塵數の菩薩有つて、
餘り各、八生在つて、
當に佛道を成ずることを得べし。
・
或は四三二、
此の如き四天下、
微塵數の菩薩有つて、
數の生に隨つて成佛せん。
・
或は一四天下、
微塵數の菩薩、
餘り一生在つて、
當に一切智を得べし。
・
是の如き等の衆生、
佛壽の長遠なることを聞いて、
無量無漏淸淨の
果報を得、
・
復、八世界の
微塵數の衆生有つて、
佛の壽命を說きたまふを聞いて、
皆、無上の心を發こしつ。
・
世尊、
無量不可思議の法を說きたまふに、
多く饒益する所有ること、
虛空の無邊なるが如し。
・
天の曼陀羅、
摩訶曼陀羅を雨らして、
釋梵、恒沙の如く、
無數の佛土より來れり。
・
栴檀沈水を雨らして、
繽粉として亂れ墜つること、
鳥の飛んで空より下るが如くにして、
諸佛に供散したてまつる。
・
天鼓、虛空の中にして、
自然に妙へなる聲を出だし、
天衣、千萬億、
旋転して來下し、
・
衆寶の妙へなる香鑪に、
無價の香を燒いて、
自然に悉く周徧して、
諸の世尊に供養したてまつる。
・
其の大菩薩衆は、
七寶の旛蓋の、
高妙にして萬億種なるを執つて、
次第に梵天に至る。
・
一一の諸佛の前に、
宝幢に勝幡を懸けたり。
亦、千萬の偈を以て、
諸の如來を歌詠したてまつる。
・
是の如き種種の事、
昔より未だ曾て有らざる所なり。
佛壽の無量なることを聞いて、
一切、皆、歡喜す。
・
佛の名、十方に聞えて、
廣く衆生を饒益したまふ。
一切の善根を具して、
以て無上の心を助く。』
〇
爾の時に佛、彌勒菩薩摩訶薩に告げたまはく、
「阿逸多、其れ衆生有つて、佛つの壽命の長遠なること、是の如くなるを聞いて、乃至、能く一念の信解を生ぜば、所得の功德、限量有ること無けん。
若し善男子、善女人有つて、阿耨多羅三藐三菩提の爲の故に、八十萬億那由他劫に於て五波羅蜜を行ぜん。
檀波羅蜜、尸羅波羅蜜、羼提波羅蜜、毘棃耶波羅蜜、禪波羅蜜なり。
般若波羅蜜をば除く。
是の功德を以て前の功德に比ぶるに、百分、千分、百千萬億分にして其の一にも及ばず。
乃至算數、譬喩も知ること能はざる所なり。
若し善男子、是の如き功德有つて、阿耨多羅三藐三菩提に於て、退すといはば、是の處〔ことわり〕有ること無けん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『若し人、佛慧を求め、
八十萬億、
那由他の劫數に於て、
五波羅蜜を行ぜん。
・
是の諸の劫の中に於て、
佛、及び緣覺弟子、
幷びに諸の菩薩衆に
布施し供養せん。
・
珍異の飮食、
上服と臥具と、
栴檀をもつて精舍を立て、
園林を以て莊嚴せる、
・
是の如き等の布施、
種種に皆、微妙なる、
此の諸の劫數を盡くして、
以て佛道に廻向せん。
・
若し復、禁戒を持つて、
淸淨にして欠漏無く、
無上道の諸佛の
歎めたまふ所なるを求めん。
・
若し復、忍辱を行じて、
調柔の地に住し、
設〔たと〕ひ衆の惡來り加ふとも、
其の心、傾動せず、
・
諸の有らゆる法を得といふ者の、
增上慢を懷ける、
斯れに輕しめ惱まされん、
是の如きをも亦、能く忍ばん。
・
若し復、勤め精進し、
志念常に堅固にして、
無量億劫に於て、
一心に懈怠せざらん。
・
又、無數劫に於て、
空閑の處に住して、
若しは坐し若しは經行し、
睡りを除いて常に心を攝めん。
・
是の因緣を以ての故に、
能く諸の禪定を生じ、
八十億萬劫に、
安住して心亂れず、
・
此の一心の福を持つて、
無上道を願求し、
我、一切智を得て、
諸の禪定の際を盡くさんと、
・
是の人、百千
萬億の劫數の中に於て、
此の諸の功德を行ずること、
上の諸說の如くならん。
・
善男女等有つて、
我が壽命を說くを聞いて、
乃至一念も信ぜば、
其の福、彼に過ぎたらん。
・
若し人、悉く、
一切の諸の疑悔有ること無くして、
深心に須臾も信ぜん、
其の福、此の如くなることを爲(得)。
・
其れ諸の菩薩の、
無量劫に道を行ずる有つて、
我が壽命を說くを聞いて、
是れ則ち能く信受せん。
・
是の如き諸人等、
此の經典を頂受して、
我、未來に於て、
長寿にして衆生を度せんこと、
・
今日の世尊の、
諸釋の中の王として、
道場にして獅子吼し、
法を說きたまふに畏るる所無きが如く、
・
我等も未來世に、
一切に尊敬せられて、
道場に坐せん時、
壽を說くこと亦、是の如くならんと願せん。
・
若し深心有らん者、
淸淨にして質直に、
多聞にして能く總持し、
義に隨つて佛語を解せん。
・
是の如き諸人等、
此に於て疑ひ有ること無けん。』
〇
「又、阿逸多、若し佛の壽命長遠なるを聞いて、其の言趣を解する有らん。
是の人の所得の功德は限量有ること無くして、能く如來の無上の慧を起さん。
何に況や、廣く是の經を聞き、若しは人をしても聞かしめ、若しは自らも持ち、若しは人をしても持たしめ、若しは自らも書き、若しは人をしても書かしめ、若しは華、香、瓔珞、幢幡、繪蓋、香油、蘇燈を以て經卷を供養せんをや。
是の人の功德は無量無邊にして、能く一切種智を生ぜん。
阿逸多、若し善男子、善女人、我が壽命長遠なるを說くを聞いて深心に信解せば、則ち是れ佛、常に耆闍崛山に在しまして、大菩薩、諸の聲聞衆の圍遶せると共に說法するを見、又、此の娑婆世界、其の地、瑠璃にして坦然平正に、閻浮檀金、これを以て八道を界ひ、寶樹行列し、諸臺樓觀、皆、悉く寶をもつて成じて、其の菩薩衆、咸く其の中に處せるを見ん。
若し能く是の如く觀ずること有らん者は、當に知るべし、是れを深心解の相と爲づく。
又復、如來の滅後に、若し是の經を聞いて毀訾せずして隨喜の心を起さん。
當に知るべし、已に深心解の相と爲づく。
何に況や、讀誦し受持せん者をや。
斯の人は則ち爲れ、如來を頂戴したてまつるなり。
阿逸多、是の善男子、善女人は我が爲に復、塔寺を起て、及び僧坊を作り、四事を以て衆僧を供養することを須ひざれ。
所以は何。
是の善男子、善女人の是の經典を受持し讀誦せん者は、爲れ、已に塔を起て僧坊を造立し衆僧を供養するなり。
則ち是れ佛舍利を以て七寶の塔を起て、高廣漸小にして梵天に至り、諸の幡蓋、及び諸の寶鈴を懸け、華、香、瓔珞、抹香、塗香、燒香、衆鼓、伎樂、簫笛、箜篌、種種の舞戯あつて、妙へなる音聲を以て歌唄讚頌するなり。
則ち爲れ、已に無量千萬億劫に於て是の供養を作し已るなり。
阿逸多、若し我が滅後に是の經典を聞いて能く受持し、若しは自らも書き、若しは人をして書かしむること有らんは、則ち爲れ僧坊を起立し、赤栴檀を以て諸の殿堂を作ること三十有二、高さ八多羅樹、高廣嚴好にして、百千の比丘、其の中に於て止み、園林、浴池、經行、禪窟、衣服、飮食、牀褥、湯藥、一切の樂具、其の中に充滿せん。
是の如き僧坊、堂閣、若干百千萬億にして其の數無量なる、此れを以て現前に我、及び比丘僧に供養するなり。
是の故に我、說く、如來の滅後に、若し受持し讀誦し、他人の爲に說き、若しは自らも書き、若しは人をしても書かしめ、經卷を供養すること有らんは、復、塔寺を起て、及び僧坊を造り、衆僧を供養することを須ひざれ。
況や復、人有つて能く是の經を持ち、兼ねて布施、持戒、忍辱、精進、一心、智慧を行ぜんをや。
其の德、最勝にして無量無邊ならん。
譬へば虛空の東、西、南、北、四維、上下、無量無邊なるが如く、是の人の功德も亦復、是の如し。
無量無邊にして疾く一切種智に至らん。
若し人、是の經を讀誦し受持し、他人の爲に說き、若しは自らも書き、若しは人をしても書かしめ、復、能く塔を起て、及び僧坊を造り、聲聞の衆僧を供養し讚嘆し、亦、百千萬億の讚嘆の法を以て菩薩の功德を讚嘆し、又、他人の爲に種種の因緣を以て義に隨つて此の法華經を解說し、復、能く淸淨に戒を持ち、柔和の者と與に共に同止し、忍辱にして瞋り無く、志念堅固にして常に坐禪を貴び、諸の深定を得、精進勇猛にして諸の善法を攝し、利根智慧にして善く問難を答へん。
阿逸多、若し我が滅後に諸の善男子、善女人、是の經典を受持し讀誦せん者は、復、是の如き諸の善功德有らん。
當に知るべし、此の人は已に道場に趣き、阿耨多羅三藐三菩提に近づいて道樹の下に坐せるなり。
阿逸多、是の善男子、善女人の若しは坐し、若しは立し、若しは經行せん處には、此の中には便ち應に塔を起つべし。
一切の天、人、皆、供養すること佛の塔の如くすべし。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『若し我が滅度の後に、
能く此の經を奉持せん、
斯の人の福、無量なること、
上の所說の如し。
・
是れ則ち爲れ、
一切の處の供養を具足し、
舍利を以て塔を起て、
七寶をもつて莊嚴し、
・
表刹、甚だ高廣に、
漸小にして梵天に至り、
寶鈴、千萬億にして、
風の動かすに妙へなる音を出だし、
・
又、無量劫に於て、
此の塔に、
華、香、諸の瓔珞、
天衣、衆の伎樂を供養し、
・
香油蘇燈を燃して、
周匝して常に照明するなり。
惡世末法の時、
能く是の經を持たん者は、
・
則ち爲れ、已に上の如く、
諸の供養を具足するなり。
若し能く此の經を持たんは、
則ち佛の現在に、
・
牛頭栴檀を以て、
僧坊を起てて供養し、
堂三十二有つて、
高さ八多羅樹、
・
上膳、妙へなる衣服、
牀臥、皆、具足し、
百千衆の住處、
園林、諸の浴池、
・
經行、及び禪窟、
種種に皆、嚴好にするが如し。
若し信解の心有て、
受持し讀誦し書き、
・
若しは復、人をしても書かしめ、
及び經卷を供養し、
華、香、抹香を散じ、
須曼、薝蔔、
・
阿提目多伽の、
薫油を以て常に之れを然(燃)さん。
是の如く供養せん者は、
無量の功德を得ん。
・
虛空の無邊なるが如く、
其の福も亦、是の如し。
況や復、此の經を持つて、
兼ねて布施し持戒し、
・
忍辱にして禪定を樂ひ、
瞋らず、惡口せざらんをや。
塔廟を恭敬し、
諸の比丘に謙下し、
・
自高の心を遠離して、
常に智慧を思惟し、
問難すること有らんに瞋らず、
隨順して爲に解說せん。
・
若し能く是の行を行ぜば、
功德、量る可からず。
若し此の法師の、
是の如き德を成就せるを見ては、
・
應に天華を以て散じ、
天衣を其の身に覆ひ、
頭面に足を接して禮し、
心を生じて佛の想ひの如くすべし。
・
又、應に是の念を作すべし、
久しからずして道場に詣して、
無漏、無爲を得、
廣く諸の天、人を利せん、と。
・
其の所住止の處、
經行し若しは坐臥し、
乃至一偈をも說かん、
是の中には應に塔を起てて、
・
莊嚴し妙好ならしめて、
種種に以て供養すべし。
佛子、此の地に住すれば、
則ち是れ佛、受用したまひ、
・
常に其の中に在しまして、
經行し若しは坐臥したまはん。』
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