妙法蓮華經勸持品第十三
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
勸持品第十三
爾の時に藥王菩薩摩訶薩、及び大樂說菩薩摩訶薩、二萬の菩薩眷屬と與に俱に、皆、佛前に於て是の誓言を作さく、
「惟、願はくは世尊、以て慮〔うらおも〕ひしたまふべからず。
我等、佛の滅後に於て當に此の經典を奉持し讀誦し說きたてまつるべし。
後の惡世の衆生は、善根、轉た少なくして增上慢多く、供養を貪利し、不善根を增し、解脫を遠離せん。
敎化す可きこと難しと雖も、我等、當に大忍力を起して、此の經を讀誦し持說し書寫し、種種に供養して身命を惜しまざるべし。」
〇
爾の時に衆中の五百の阿羅漢の受記を得たる者、佛に白して言さく、
「世尊、我等、亦、自ら誓願す、異の國土に於て廣く此の經を說かん。」
復、學無學の八千人の受記を得たる者有り、座より而も起つて合掌し、佛に向かひたてまつりて是の誓言を作さく、
「世尊、我等、亦、當に佗(他)の國土に於て廣く此の經を說くべし。
所以は何。
是の娑婆國の中は、人、弊惡多く、增上慢を懷き、功德淺薄に、瞋濁諂曲にして心、不實なるが故に。」
〇
爾の時に佛の姨〔い〕母〔も〕、摩訶波闍波提比丘尼、學無學の比丘尼六千人と與に俱に、座より而も起つて一心に合掌し、尊顔を瞻仰して目、暫くも捨てず。
時に世尊、憍曇彌(摩訶波闍波提)に告げたまはく、
「何が故ぞ憂ひの色にして如來を視る。
汝が心に將に我、汝が名を說いて阿耨多羅三藐三菩提の記を授けずと謂ふこと無しや。
憍曇彌、我、先に總じて一切の聲聞に皆、已に授記すと說きき。
今、汝、記を知らんと欲せば、將來の世、當に六萬八千億の諸佛の法の中に於て大法師と爲るべし。
及び六千の學無學の比丘尼も俱に法師と爲らん。
汝、是の如く漸漸に菩薩の道を具して、當に作佛することを得べし。
一切衆生喜見如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號づけん。
憍曇彌、是の一切衆生喜見佛、及び六千の菩薩、轉次に授記して阿耨多羅三藐三菩提を得ん。」
〇
爾の時に羅睺羅の母、耶輸陀羅比丘尼、是の念を作さく、
「世尊は授記の中に於て獨り我が名を說きたまはず。」
〇
佛、耶輸陀羅に告げたまはく、
「汝、來世、百千萬億の諸佛の法の中に於て、菩薩の行を修し大法師と爲り漸く佛道を具して、善國の中に於て當に作佛することを得べし。
具足千萬光相如來、應供、正睺知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號づけん。
佛の壽は無量阿僧祇劫ならん。」
〇
爾の時に摩訶波闍波提比丘尼、及び耶輸陀羅比丘尼、幷びに其の眷屬、皆、大いに歡喜し未曾有なることを得、即ち佛前に於て偈を說いて言さく、
『世尊導師、
天人を安穩ならしめたまふ。
我等、記を聞いて、
心安く具足せり。』
〇
諸の比丘尼、是の偈を說き已つて、佛に白して言さく、
「世尊、我等、亦、能く他方の國土に於て、廣く此の經を宣べん。」
〇
爾の時に世尊、八十萬億那由佗の諸の菩薩摩訶薩を視そなはしたまふ。
〇
是の諸の菩薩は皆、是れ阿惟越致にして、不退の法輪を轉じ、諸の陀羅尼を得たり。
即ち座より起つて佛前に至り、一心に合掌して是の念を作さく、
「若し世尊、我等に此の經を持說せよと告勅したまはば、當に佛の敎の如く廣く斯の法を宣ぶべし。」
復、是の念を作さく、
「佛、今、默然として告勅せられず。
我、當に云何んがすべき。」
時に諸の菩薩、佛意に恭順し、幷びに自ら本願を滿ぜんと欲して、便ち佛前に於て獅子吼を作して、誓言を發こさく、
「世尊、我等、如來の滅後に於て、十方世界に周旋往返して、能く衆生をして此の經を書寫し、受持し、讀誦し、其の義を解說し、法の如く修行し、正憶念せしめん。
皆、是れ佛の威力ならん。
惟、願はくは世尊、他方に在しますとも遙かに守護せられよ。」
〇
即時に諸の菩薩、俱に同じく聲を發して、偈を說いて言さく、
『惟、願はくは、慮ひしたまふべからず。
佛の滅度の後、
恐怖惡世の中に於て、
我等、當に廣く說くべし。
・
諸の無知の人の、
惡口罵詈等し、
及び刀杖を加ふる者有らんに、
我等、皆、當に忍ぶべし。
・
惡世の中の比丘は、
邪智にして心、諂曲に、
未だ得ざるを爲れ得たりと謂ひ、
我慢の心、充滿せん。
・
或は阿練若に、
納衣にして空閑に在つて、
自ら眞の道を行ずと謂つて、
人間を輕賤する者有らん。
・
利養に貪著するが故に、
白衣の爲に法を說いて、
世に恭敬せらるること、
六通の羅漢の如くならん。
・
是の人、惡心を懷き、
常に世俗の事を念ひ、
名を阿練若に假りて、
好んで我等が過を出さん。
・
而も是の如き言を作さん、
「此の諸の比丘等は、
利養を貪るを爲〔も〕つての故に、
外道の論議を說く。
・
自ら此の經典を作つて、
世間の人を誑惑す。
名聞を求むるを爲つての故に、
分別して是の經を說く」と。
・
常に大衆の中に在つて、
我等を毀〔そし〕らんと欲するが故に、
國王、大臣、
婆羅門、居士、
・
及び餘の比丘衆に向つて、
誹謗して我が惡を說いて、
「是れ邪見の人、
外道の論議を說く」と謂はん。
・
我等、佛を敬ひたてまつるが故に、
悉く是の諸惡を忍ばん。
斯れに輕しめて、
「汝等は皆、是れ佛なり」と言はれん。
・
此の如き輕慢の言を、
皆、當に忍んで之れを受くべし。
濁劫惡世の中には、
多く諸の恐怖有らん。
・
惡鬼、其の身に入つて、
我を罵詈毀辱せん。
我等、佛を敬信したてまつりて、
當に忍辱の鎧を著るべし。
・
是の經を說かんが爲の故に、
此の諸の難事を忍ばん。
我、身命を愛せず、
但、無上道を惜しむ。
・
我等、來世に於て、
佛の所囑を護持せん。
世尊、自ら當に知ろしめすべし、
濁世の惡比丘は、
・
佛の方便、
隨宜所說の法を知らずして、
惡口して顰蹙し、
數數擯出せられ、
・
塔寺を遠離せん。
是の如き等の衆惡をも、
佛の告勅を念ふが故に、
皆、當に是の事を忍ぶべし。
・
諸の聚落、城邑に、
其れ、法を求むる者有らば、
我、皆、其の所に到つて、
佛の所囑の法を說かん。
・
我は是れ、世尊の使ひなり。
衆に處して畏るる所無し。
我、當に善く法を說くべし。
願はくは佛、安穩に住したまへ。
・
我、世尊の前、
處の來りたまへる十方の佛に於て、
是の如き誓言を發こす、
佛、自ら我が心を知えおしめせ。』
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