妙法蓮華經法師品第十
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
法師品第十
爾の時に世尊、藥王菩薩に因せて八萬の大士に告げたまはく、
「藥王、汝、是の大衆の中の無量の諸天、龍王、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦樓羅、緊那羅、摩睺羅伽、人、非人、及び比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷の聲聞を求めし者、辟支佛を求めし者、佛道を求めし者を見るや。
是の如き等〔たぐ〕類〔ひ〕、咸く佛前に於て妙法華經の一偈一句を聞いて、乃至一念も隨喜せん者には我、皆、記を與へ授く。
當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。」
佛、藥王に告げたまはく、
「又、如來の滅度の後に、若し人有つて妙法華經の乃至一偈一句を聞いて一念も隨喜せん者には、我、亦、阿耨多羅三藐三菩提の記を與へ授く。
若し復、人有つて妙法華經の乃至一偈を受持、讀誦し、解說し、書寫し、此の經卷に於て敬ひ視ること佛の如くにして、種種に華、香、瓔珞、抹香、塗香、燒香、繪蓋、幢幡、衣服、伎樂を供養し、乃至合掌恭敬せん。
薬王、當に知るべし、是の諸人等は、已に曾て十萬億の佛を供養し、諸佛の所に於て、大願を成就して、衆生を愍れむが故に、此の人間に生まれたり。
薬王、若し人有つて、
「何等の衆生か、未來世に於て當に作佛することを得べき」と問はば、
應に示すべし、
「是の諸人等、未來世に於てかならず作佛することを得ん」と。
何を以ての故に。
若し善男子、善女人、法華經の乃至一句に於ても受持し、讀誦し、解說し、書寫し、種種に經卷に華、香、瓔珞、抹香、塗香、燒香、繪蓋、幢幡、衣服、伎樂を供養し、合掌恭敬せん。
是の人は一切世閒の贍奉すべき所なり。
如來の供養を以て之れを供養すべし。
當に知るべし、此の人は是れ大菩薩の阿耨多羅三藐三菩提を成就して、衆生を哀愍し願つて此の間に生れ、廣く妙法華經を演べ分別するなり。
何〔いか〕に況や、盡くして能く受持し、種種に供養せん者をや。
藥王、當に知るべし、是の人は自ら淸淨の業報を捨てて、我が滅度の後に於て、衆生を愍れむが故に惡世に生まれて廣く此の經を演ぶるなり。
若し是の善男子、善女人、我が滅度の後に、能く窃かに一人の爲にも法華經の乃至一句を說かん。
當に知るべし、是の人は則ち如來の使ひなり。
如來に遣はされて如來の事を行ずるなり。
何に況や、大衆の中に於て廣く人の爲に說かんをや。
藥王、若し惡人有つて不善の心を以て一劫の中に於て、現に佛前に於て常に佛を毀罵せんは、其の罪、尚、輕し。
若し人、一の惡言を以て、在家、出家の法華經を讀誦する者を毀訾せんは、其の罪、甚だ重し。
藥王、其れ法華經を讀誦すること有らん者は、當に知るべし、是の人は佛の莊嚴を以て自ら莊嚴するなり。
則ち如來の肩に荷擔せらるることを爲〔え〕ん。
其の所至の方には、應に隨つて向かひ禮すべし。
一心に合掌して恭敬、供養、尊重、讚嘆し、華、香、瓔珞、抹香、塗香、燒香、繪蓋、幢幡、衣服、肴膳をもつし、諸の伎楽を作し、人中の上供をもつて之れを供養せよ。
應に天の寶を持つて、以て之れを散ずべし。
天上の寶聚、應に以て奉獻すべし。
所以は何。
是の人、歡喜して法を說かんに、須臾も之れを聞かば、即ち阿耨多羅三藐三菩提を究竟することを得んが故なり。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『若‘し佛道に住して、(原作の今意改)
自然智を成就せんと欲せば、
常に當に勤めて、
法華を受持せん者を供養すべし。
・
其れ、疾く、
一切種智慧を得んと欲すること有らんは、
當に是の經を受持し、
幷びに持者を供養すべし。
・
若し能く、
妙法華經を受持すること有らん者は、
當に知るべし、佛の所使として、
諸の衆生を愍念するなり。
・
諸の能く、
妙法華經を受持すること有らん者は、
淸淨の土を捨てて、
衆を愍れむが故に此に生まれたなり。
・
當に知るべし、是の如き人は、
生まれんと欲する所に自在なれば、
能く此の惡世に於て、
廣く無上の法を說くなり。
・
天の華香、
及び天寶の衣服、
天上の妙寶聚を以て、
說法者に供養すべし。
・
吾が滅後の惡世に、
能く是の經を持たん者をば、
當に合掌し禮敬して、
世尊に供養したてまつるが如くすべし。
・
上饌の衆の甘美、
及び種種の衣服をもつて、
是の佛子に供養して、
須臾も聞くことを得んと冀〔ねが〕ふべし。
・
若し能く後の世に於て、
是の經を受持せん者は、
我、遣はして人中に在らしめて、
如來の事を行ぜしむるなり。
・
若し一劫の中に於て、
常に不善の心を懷いて、
色を作して佛を罵らんは、
無量の重罪を獲ん。
・
其れ、是の法華經を、
讀誦し持つこと有らん者に、
須臾も惡言を加へんは、
其の罪、復、彼に過ぎん。
・
人有つて佛道を求めて、
一劫の中に於て、
合掌して我が前に在つて、
無數の偈を以て讚めん。
・
是の讚佛に由るが故に、
無量の功德を得ん。
持經者を歎美せんは、
其の福、復、彼に過ぎん。
・
八十億劫に於て、
最妙の色聲、
及び香味觸を以て、
持経者に供養せよ。
・
是の如く供養し已つて、
若し須臾も聞くことを得ば、
則ち應に自ら欣慶すべし、
我、今、大利を獲つと。
・
藥王、今、汝に告ぐ、
我が所說の諸經あり、
而も此の經の中に於て、
法華、最も第一なり。』
〇
爾の時に佛、復、藥王菩薩摩訶薩に告げたまはく、
「我が所說の經典は無量千萬億にして、已に說き、今說き、當に說かん。
而も其の中に於て此の法華經、最も爲れ、難信難解なり。
藥王、此の經は是れ諸佛の祕要の藏なり。
分布して妄りに人に授與すべからず。
諸佛世尊の守護したまふ所なり。
昔より已〔この〕來〔かた〕、未だ曾て顯說せず。
而も此の經は如來の現在すら猶、怨嫉多し。
況や滅度の後をや。
藥王、當に知るべし、如來の滅後に、其れ能く書持し讀誦し供養し、他人の爲に說かん者は、如來、則ち衣を以て之れを覆ひたまふべし。
又、他方の現在の諸佛に護念せらるることを爲ん。
是の人は大信力、及び志願力、諸善根力有らん。
當に知るべし、是の人は如來と與に共に宿するなり。
則ち如來の手をもつてその頭を摩〔な〕でたまふことを爲ん。
藥王、在在處處に、若しは說き、若しは讀み、若しは誦し、若しは書き、若しは經卷の所住の處には、皆、應に七寶の塔を起てて、極めて高廣嚴飾ならしむべし。
復、舍利を安ずることを須〔もち〕ひざれ。
所以は何。
此の中には已に如來の全身、有します。
此の塔をば一切の華、香、瓔珞、繪蓋、幢幡、伎樂、歌頌を以て供養恭敬し、尊重讚嘆したてまるつべし。
若し人有つて此の塔を見たてまつることを得て、禮拜し供養せん。
當に知るべし、是の人は皆、阿耨多羅三藐三菩提に近づきぬ。
樂王、多く人有つて在家出家の菩薩の道を行ぜんに、若し是の法華經を見聞し、讀誦し、書持し、供養すること得ること能はずんば、當に知るべし、是の人は未だ善く菩薩の道を行ぜざるなり。
若し是の經典を聞くこと得ること有らば、乃ち能善く菩薩の道を行ずるなり。
其れ衆生の佛道を求むる者有つて、是の法華經を若しは見、若しは聞き、聞き已つて信解し受持せば、當に知るべし、是の人は阿耨多羅三藐三菩提に近づくことを得たり。
藥王、譬へば人有つて、渇乏して水を須ひんとして、彼の高原に於て穿鑿して之れを求むるに、猶、乾ける土を見ては水、尚、遠しと知る。
功を施すこと已まずして、轉た濕(沾)へる土を見、遂に漸く泥に至りぬれば、其の心、決定して水、必ず近しと知らんが如し。
菩薩も亦復、是の如し。
若し是の法華經を未だ聞かず、未だ解せず、未だ修習すること能はざらん。
當に知るべし、是の人は阿耨多羅三藐三菩提を去ること尚、遠し。
若し聞解し、思惟し、修習することを得ば、必ず阿耨多羅三藐三菩提に近づくことを得たりと知れ。
所以は何。
一切の菩薩の阿耨多羅三藐三菩提は皆、是の經に屬せり。
此の經は方便の門を開いて眞實の相を示す。
是の法華經の藏は深固幽遠にして人の能く到ること無し。
今、佛、菩薩を敎化し成就して、爲に開示す。
樂王、若し菩薩有つて是の法華經を聞いて驚疑し怖畏せん。
當に知るべし、是れを新發意の菩薩と爲〔な〕づく。
若し聲聞の人、是の經を聞いて驚疑し怖畏せん。
當に知るべし、是れを增上慢の者と爲づく。
樂王、若し善男子、善女人有つて、如來の滅後に、四衆の爲に是の法華經を說かんと欲せば、云何にしてか應に說くべき。
是の善男子、善女人は、如來の室に入り、如來の衣を著、如來の座に坐して、爾〔しか〕して乃し應に四衆の爲に廣く斯の經を說くべし。
如來の室とは、一切衆生の中の大慈悲心、是れなり。
如來の衣とは、柔和忍辱の心、是れなり。
如來の座とは、一切法空、是れなり。
是の中に安住して、然る後に不懈怠の心を以て、諸の菩薩、及び四衆の爲に、廣く是の法華經を說くべし。
藥王、我、餘國に於て、化人を遣はして其れが爲に聽法の衆を集め、亦、化の比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷を遣はして其の說法を聽かしめん。
是の諸の化人、法を聞いて信受し、隨順して逆らはじ。
若し說法者、空閑の處に在らば、我、時に廣く天、龍、鬼神、乾闥婆、阿修羅等を遣はして、其の說法を聽かしめん。
我、異國に在りと雖も、時時に說法者をして我が身を見ることを得せしめん。
若し此の經に於て句逗を忘失せば、我、還つて爲に說いて具足することを得せしめん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『諸の懈怠を捨てんと欲せば、
應當に此の經を聽くべし。
是の經は聞くことは得難し、
信受する者、亦、難し。
・
人の渇して水を須ひんとして、
高原を穿鑿するに、
猶、乾〔か〕燥〔わ〕ける土を見ては、
水を去ること尚、遠しと知る。
・
漸く濕へる土泥を見ては、
決定して水に近づきぬと知らんが如し。
藥王、汝、當に知るべし、
是の如き諸人等、
・
法華經を聞かざらんは、
佛智を去ること甚だ遠し。
若し是の深經の、
聲聞の法を決了して、
・
是れ諸經の王なるを聞き、
聞き已つて諦らかに思惟せん。
當に知るべし、此の人等は、
佛の智慧に近づきぬ。
・
若し人、此の經を說かば、
應に如來の室に入り、
如來の衣を著、
而も如來の座に坐して、
・
衆に處して畏るる所無く、
廣く爲に分別し說くべし。
大慈悲を室とし、
柔和忍辱を衣とし、
・
諸法の空を座とす。
此れに處して爲に法を說け。
若し此の經を說かん時、
人有つて惡口し罵り、
・
刀杖、瓦石を加ふとも、
佛を念ずるが故に應に忍ぶべし。
我、千萬億の土に、
淨堅固の身を現じて、
・
無量億劫に於て、
衆生の爲に法を說く。
若し我が滅度の後に、
能く此の經を說かん者には、
・
我、化の四衆、
比丘、比丘尼、
及び淸信士女を遣はして、
法師を供養せしめ、
・
處の衆生を引導して、
之れを集めて法を聽かしめん。
若し人ありて、
惡の刀杖、及び瓦石を加へんと欲せば、
・
則ち變化の人を遣はして、
之れが爲に衞護と作さん。
若し說法の人、
獨り空閑の處に在つて、
・
寂莫として人の聲、無からんに、
此の經典を讀誦せば、
我、爾の時に爲に、
淸淨光明の身を現ぜん。
・
若し章句を忘失せば、
爲に說いて通利せしめん。
若し人、是の德を具して、
或は四衆の爲に說き、
・
空處にして經を讀誦せば、
皆、我が身を見ることを得ん。
若し人、空閑に在らば、
我、天、龍王、
・
夜叉、鬼神等を遣はして、
爲に聽法の衆と作さん。
是の人、法を樂說し、
分別して罣礙無けん。
・
諸佛護念したまふが故に、
能く大衆をして喜ばしめん。
若し法師に親近せば、
速かに菩薩の道を得、
・
是の師に隨順して學せば、
恒沙の佛を見たてまつることを得ん。』
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