妙法蓮華經授學無學人記品第九
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
授學無學人記品第九
爾の時に阿難、羅睺羅、是の念を作さく、
「我等、每に自ら思惟すらく、設〔も〕し授記を得ば、亦、快からずや。」
即ち座より起つて佛前に到り、頭面に足を禮し、俱に佛に白して言さく、
「世尊、我等、此れに於て亦、應に分有るべし。
唯、如來のみ有しまして、我等が歸する所なり。
又、我等は爲れ、一切世閒の天、人、阿修羅に知識せらる。
阿難は常に侍者と爲つて法藏を護持す。
羅睺羅は是れ、っ佛の子なり。
若し佛、阿耨多羅三藐三菩提の記を授けられなば、我が願ひ、既に滿じて、衆の望み亦、足りなん。」
〇
爾の時に學無學の聲聞の弟子二千人、皆、座より起つて偏へに右の肩を袒らはにし、佛前に到り、一心に合掌し世尊を瞻仰して、阿難、羅睺羅の所願の如くにして、一面に住立せり。
〇
爾の時に佛、阿難に告げたまはく、
「汝、來世に於て當に作佛することを得べし。
山海慧自在通王如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號づけん。
當に六十二億の諸佛を供養し、法藏を護持して、然る後に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。
二十千萬億恒河沙の諸の菩薩等を敎化して、阿耨多羅三藐三菩提を成ぜしめん。
國をば常立勝幡と名づけん。
其の土、淸淨にして瑠璃を地と爲さん。
劫をば妙音徧滿と名づけん。
其の佛の壽命は無量千萬億阿僧祇劫ならん。
若し人あり、千萬億無量阿僧祇劫の中に於て算數校計すとも知ることを得ること能はじ。
正法、世に住すること壽命に倍し、像法、世に住すること復、正法に倍せん。
阿難、是の山海慧自在通王佛は、十方の無量千萬億恒河沙等の諸佛如來に、共に其の功德を讚嘆し稱せらるることを爲(得)ん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『我、今、僧中にして說く、
阿難持法者は、
當に諸佛を供養して、
然る後に正覺を成ずべし。
・
號をば、
山海慧自在通王佛と曰はん。
其の國土、淸淨にして、
常立勝幡と名づけん。
・
諸の菩薩を敎化すること、
其の數、恒沙の如くならん。
佛、大威德有しまして、
名聞、十方に滿ち、
・
壽命は量り有ること無けん、
衆生を愍れむを以ての故に。
正法、壽命に倍し、
像法、復、是れに倍せん。
・
恒河沙等の如き、
無數の諸の衆生、
此の佛の法の中に於て、
佛道の因緣を種ゑん。』
〇
爾の時に會中の新發意の菩薩八千人、咸く是の念を作さく、
「我等は尚、諸の大菩薩の是の如き記を得ることを聞かず。
何の因緣有つて、諸の聲聞、是の如きの決を得る。」
〇
爾の時に世尊、諸の菩薩の心の所念を知ろしめして、之れに告げて曰たまはく、
「諸の善男子、我、阿難等とは俱に等しく空王佛の所に於て、同時に阿耨多羅三藐三菩提の心を發こしき。
阿難は常に多聞を樂ひ、我は常に勤め精進す。
是の故に我は已に阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得たり。
而るに阿難は我が法を護持し、亦、將來の諸佛の法藏を護つて、諸の菩薩衆を敎化し成就せん。
其の本願、是の如し。
故に斯の記を獲。」
〇
阿難、而〔まのあた〕り佛前に於て、自ら授記、及び國土の莊嚴を聞き、所願具足し、心、大いに歡喜して、未曾有なることを得たり。
即時に過去の無量千萬億の諸佛の法藏を憶念するに、通達無礙なること、今の所聞の如し。
亦、本願を識んぬ。
〇
爾の時に阿難、偈を說いて言さく、
『世尊は甚だ希有なり、
我をして過去を念はしむ。
無量の諸佛の法、
今日の所聞の如し。
・
我、今、復、疑ひ無くして、
佛道に安住しぬ。
方便をもつて侍者と爲つて、
諸佛の法を護持せん。』
〇
爾の時に佛、羅睺羅に告げたまはく、
「汝、來世に於て當に作佛することを得べし。
蹈七寶華如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と號けん。
當に十世界微塵等數の諸佛如來を供養したてまつるべし。
常に諸佛の爲に而も長子と作ること、猶、今の如くならん。
是の蹈七寶華佛の國土の莊嚴、壽命の劫數、所化の弟子、正法、像法、亦、山海慧自在通王如來の如くにして異ること無けん。
亦、此の佛の爲に而も長子と作らん。
是れを過ぎて已〔の〕後〔ち〕、當に阿耨多羅三藐三菩提を得べし。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『我、太子爲〔た〕りし時、
羅睺は長子と爲り、
我、今、佛道を成ずれば、
法を受けて法子と爲る。
・
未來世の中に於て、
無量億の佛を見たてまつりて、
皆、其の長子と爲つて、
一心に佛道を求めん。
・
羅睺羅の密行は、
唯、我のみ能く之れを知れり。
現に我が長子と爲つて、
以て諸の衆生に示す。
・
無量億千萬、
功德、數ふ可からず。
佛法に安住して、
以て無上道を求む。』
〇
爾の時に世尊、學無學の二千人を見そなはしたまふに、其の意、柔輭に、寂然淸淨にして、一心に仏を觀たてまつる。
〇
佛、阿難に告げたまはく、
「汝、是の學無學の二千人を見るや不や。」
「唯〔ゆゐ〕然〔ねん〕、已に見る。」
「阿難、是の諸人等は當に五十世界微塵數の諸佛如來を供養し、恭敬尊重し、法藏を護持して、末後に同時に十方の國に於て、各、成佛することを得べし。
皆、同じく一號にして、名づけて寶相如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と曰はん。
壽命、一劫ならん。
國土の莊嚴、聲聞、菩薩、正法、像法、皆、悉く同等ならん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『是の二千の聲聞、
今、我が前に於て住せるに、
悉く皆、記を與え授く、
未來に當に成佛すべし。
・
供養したてまつる所の諸佛は、
上に說ける塵數の如くならん。
其の法藏を護持して、
後に當に正覺を成ずべし。
・
各、十方の國に於て、
悉く同じ一名號ならん。
倶〔ぐ〕時〔じ〕に道場に坐して、
以て無上慧を證し、
・
皆、名づけて寶相と爲さん。
國土、及び弟子、
正法と像法と、
悉く等しくして異なり有ること無けん。
・
咸く諸の神通を以て、
十方の衆生を度し、
名聞、普く周徧して、
漸く涅槃に入らん。』
〇
爾の時に學無學の二千人、佛の授記を聞きたてまつり、歡喜踊躍して、偈を說いて言さく、
『世尊は慧の燈明なり、
我、授記の音を聞きたてまつりて、
心に歡喜充滿せり、
甘露をもつて潅〔そそ〕がるるが如し。』
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