妙法蓮華經授記品第六
底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)
奥書云、
大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。
發行者、國民文庫刊行會
授記品第六
爾の時に世尊、是の偈を說き已つて、諸の大衆に告げて是の如き言を唱へたまはく、
「我が此の弟子、摩訶迦葉は、未來世に於て當に三百萬億の諸仏世尊を奉覲して、供養し、恭敬し、尊重し、讚嘆し、廣く諸佛の無量の大法を宣ぶることを得べし。
最後身に於て佛に成ることを得ん。
名をば光明如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、仏、世尊と曰はん。
國をば光德と名づけ、劫を大莊嚴と名づけん。
佛の壽ひは十二小劫、正法世に住すること二十小劫、像法亦、住すること二十小劫ならん。
國界嚴飾して、諸の穢惡、瓦礫、荊棘、便利の不淨無く、其の土、平正にして、高下、坑坎、堆阜有ること無けん。
瑠璃を地と爲して、寶樹、行列し、黃金を繩と爲して以て道の側を界(境)ひ、諸の寶華を散じ、周徧して淸淨ならん。
其の國の菩薩、無量千億にして、諸の聲聞衆、亦復、無數ならん。
魔事有ること無く、魔、及び魔民有りと雖も、皆、佛法を護らん。」
〇爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『諸の比丘に告ぐ、
我、佛眼を以て、
是の迦葉を見るに、
未來世に於て、
・
無數劫を過ぎて、
當に作佛することを得べし。
而も來世に於て、
三百萬億の、
・
諸佛世尊を、
供養し奉覲して、
佛の智慧の爲に、
淨く梵行を修し、
・
最上の、
二足尊を供養し已つて、
一切の、
無上の慧を修習し、
・
最後身に於て、
佛と成ることを得ん。
其の土、淸淨にして、
瑠璃を地と爲し、
・
諸の寶樹、多くして、
道の側りに行列し、
金繩道を界ひて、
見る者、歡喜せん。
・
常に好香を出だし、
衆の名華を散じて、
種種の奇妙なる、
これをもつて莊嚴と爲し、
・
其の地、平正にして、
丘坑、有ること無けん。
諸の菩薩衆、
稱計す可からず。
・
其の心、調柔にして、
大神通に逮し、
諸佛の、
大乘經典を奉持せん。
・
諸の聲聞衆の、
無漏の後身にして、
法王の子なる、
亦、計る可からず。
・
乃し天眼を以ても、
數へ知ること能はじ。
其の佛は當に、
壽ひ十二小劫なるべし。
・
正法、世に住すること、
二十小劫、
像法、亦、住すること、
二十小劫ならん。
・
光明世尊、
其の事、是の如し。』
〇
爾の時に大目犍連、須菩提、摩訶迦旃延等、皆、悉く悚慄し、一心に合掌し、世尊を瞻仰して目、暫くも捨てず、即ち共に聲を同じうして偈を說いて言さく、
『大雄猛世尊、
諸釋の法王、
我等を哀愍したまふが故に、
而も佛の音聲を賜へ。
・
若し我が深心を知ろしめして、
授記せられなば、
甘露を以て灑ぐに、
熱を除ひて淸涼を得るが如くならん。
・
饑ゑたる國より來つて、
忽ちに大王の膳〔そなへ〕に遇へらんに、
心、猶、疑懼を懷いて、
未だ敢て即ち食せず、
・
若し復、王の敎へを得ては、
然る後に乃し敢て食するが如し。
我等も亦、是の如し、
每(常)に小乘の過(咎)を惟(思)うて、
・
當に云何にして、
佛の無上慧を得べきと知らず。
佛の音聲の、
我等、作佛せんと言たまふことを聞くと雖も、
・
心、尚、憂懼を懷くこと、
未だ敢て便ち食せざるが如し。
若し佛の授記を蒙りなば、
爾〔しか〕も乃し快く安樂ならん。
・
大雄猛世尊、
常に世間を安せんと欲す。
願はくは我等に記を賜へ。
饑ゑて敎へを須〔ま〕つて食するが如くならん。』
〇
爾の時に世尊、諸の大弟子の心の所念を知ろしめして、諸の比丘に告げたまはく、
「是の須菩提は當來世に於て、三百萬億那由佗の佛を奉覲して、供養、恭敬、尊重、讚嘆し、常に梵行を修し、菩薩の道を具して、最後身に於て佛と成〔な〕爲〔る〕ことを得ん。
號をば名相如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世間解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と曰はん。
劫をば有寶と名づけ、國をば寶生と名づけん。
其の土、平正にして頗黎を地となし、寶樹莊嚴して、諸の丘坑、沙礫、荊棘、便利の穢れ無く、寶華、地に覆ひ、周徧して淸淨ならん。
其の土の人民、皆、寶臺、珍妙の樓閣に處せん。
聲聞の弟子、無量無邊にして、算數、譬喩の知ること能はざる所ならん。
諸の菩薩衆、無數千萬億那由佗ならん。
佛の壽ひは十二小劫、正法、世に住すること二十小劫、像法、亦、住すること二十小劫ならん。
其の佛、常に虛空に諸して、衆の爲に法を說いて、無量の菩薩、及び聲聞衆を度脫せん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『諸の比丘衆、
今、汝等に告ぐ。
皆、當に一心に、
我が所說を聽くべし。
・
我が大弟子、
須菩提は、
當に作佛することを得べし、
號をば名相と曰はん。
・
當に無數、
萬億の諸佛を供して、
佛の所行に隨つて、
漸く大道を具すべし。
・
最後身に、
三十二相を得て、
端正姝妙なること、
猶、寶山の如くならん。
・
其の佛の國土、
嚴淨第一にして、
衆生の見る者、
愛樂せずといふこと無し。
・
佛、其の中に於て、
無量の衆を度せん。
其の佛の法の中には、
諸の菩薩、多く、
・
皆、悉く利根にして、
不退の輪を轉ぜん。
彼の國は常に、
菩薩をもって莊嚴せん。
・
諸の聲聞衆、
稱數す可からず。
皆、三明を得、
六神通を具し、
・
八解脫に住して、
大威德有らん。
其の佛の說法には、
無量の、
・
神通變化を現じて、
不可思議ならん。
諸天、人民、
數、恒沙の如く、
・
皆共に合掌して、
佛語を聽受せん。
其の佛は當に、
壽ひ十二小劫なるべし。
・
正法、世に住すること、
二十小劫、
像法、亦、住すること、
二十小劫ならん。』
〇
爾の時に世尊、復、諸の比丘衆に告げたまはく、
「我、今、汝に語る、是の大迦旃延は當來世に於て、諸の供具を以て八千億の佛に供養し奉事して、恭敬、尊重せん。
諸佛の滅後に、各、塔廟を起てん。
高さ千由旬、縱廣正等にして、五百由旬ならん。
金、銀、瑠璃、硨磲、碼碯、眞珠、玫瑰の七寶を以て合成し、衆華、瓔珞、塗香、抹香、燒香、繪蓋、幢幡を塔廟に供養せん。
是れを過ぎて已後、當に復、二萬億の佛を供養すること、亦復、是の如くすべし。
是の諸佛を供養し已つて、菩薩の道を具して、當に作佛することを得べし、
號を閻浮那提金光如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と曰はん。
其の土、平正にして頗黎を地と爲し、寶樹莊嚴し、黃金を繩と爲して以て道の側を界ひ、妙華地に覆ひ、周徧淸淨にして、見る者、歡喜せん。
四惡道の地獄、餓鬼、畜生、阿修羅道無く、多く天、人有らん。
諸の聲聞衆、及び諸の菩薩、無量萬億にして其の國を莊嚴せん。
佛の壽ひは十二小劫、正法、世に住すること二十小劫、像法、亦、住すること二十小劫ならん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『諸の比丘衆、
皆、一心に聽け。
我が所說の如きは、
眞實にして異ること無し。
・
是の迦旃延は、
當に種種の、
妙好の供具を以て、
諸佛を供養すべし。
・
諸佛の滅後に、
七寶の塔を起て、
亦、華香を以て、
舍利を供養し、
・
其の最後身に、
佛の智慧を得て、
等正覺を成ぜん。
國土淸淨にして、
・
無量萬億の、
衆生を度脫し、
皆十方に、
供養せらるることを爲(得)ん。
・
佛の光明、
能く勝れる者、無けん。
其の佛の號を、
閻浮金光と曰はん。
・
菩薩聲聞の、
一切の有を斷ぜる、
無量無數にして、
其の國を莊嚴せん。』
〇
爾の時に世尊、復、大衆に告げたまはく、
「我、今、汝に語る、是の大目犍連は當に種種の供具を以て、八千の諸佛を供養し、恭敬、尊重したてまつるべし。
諸佛の滅後、各、塔廟を起てて、高さ千由旬、縱廣正等にして五百由旬ならん。
金銀、瑠璃、硨磲、碼碯、眞珠、玫瑰の七寶を以て合成し、衆華、瓔珞、塗香、抹香、燒香、繪蓋、幢幡を以て供養せん。
是れを過ぎて已後、當に復、二百萬億の諸佛を供養すること、亦復、是の如くすべし。
當に成佛することを得べし。
號をば多摩羅跋栴檀香如來、應供、正徧知、明行足、善逝、世閒解、無上士、調御丈夫、天人師、佛、世尊と曰はん。
劫をば喜滿と名づけ、國をば意樂と名づけん。
其の土、平正にして頗黎を地となし、寶樹莊嚴し、眞珠華を散じ、周徧淸淨にして見る者、歡喜せん。
諸の天、人、多く、菩薩聲聞、其の數、無量ならん。
佛の壽ひは二十四小劫、正法、世に住すること四十小劫、像法、亦、住すること四十小劫ならん。」
〇
爾の時に世尊、重ねて此の義を宣べんと欲して、偈を說いて言たまはく、
『我が此の弟子、
大目犍連、
是の身を捨てお已つて、
八千、
・
二百萬億の、
諸佛世尊を見たてまつることを得て、
佛道の爲の故に、
供養恭敬し、
・
諸佛の所に於て、
常に梵行を修し、
無量劫に於て、
佛法を奉持せん。
・
諸佛の滅後に、
七寶の塔を起てて、
長く金刹を表し、
華香、伎樂をもつて、
・
而も以て、
諸佛の塔廟に供養し、
漸漸に、
菩薩の道を具足し已つて、
・
意樂國に於て、
作佛することを得て、
多摩羅栴檀の香と
號づけん。
・
其の佛の壽命は、
二十四劫、
常に天、人の爲に、
佛道を演說せん。
・
聲聞無量にして、
恒河沙の如く、
三明六通あつて、
大威德有らん。
・
菩薩無數にして、
志、固く精進し、
佛の智慧に於て、
皆、退轉せじ。
・
佛の滅度の後、
正法、當に住すること、
四十小劫なるべく、
像法、亦、爾かなり。
・
我が諸の弟子の、
威德具足せる、
其の數、五百なるも、
皆、當に授記すべし、
・
未來世に於て、
咸く成佛することを得ん。
我、及び汝等の、
宿世の因緣、
・
吾、今、當に說くべし、
汝等、善く聽け。』
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