無量義經德行品第一


底本、「國譯大藏經、經部第一卷」(但し改行施し難読以外の傍訓省略又、一部改変)

奥書云、

大正六年六月廿三日印刷、同廿六日發行。昭和十年二月二十四日四刷發行。

發行者、國民文庫刊行會



(蕭齊天竺三藏曇摩伽陀耶舍譯


無量義經

  德行品第一

是の如く、我、聞きき。

一時、佛、王舍城、耆闍崛山の中に住したまひ、大比丘衆、萬二千人と與〔とも〕に倶なりき。

菩薩摩訶薩、八萬人あり。

天、

龍、

夜叉、

乾闥婆、

阿修羅、

迦樓羅、

緊那羅、

摩睺羅伽、

諸の比丘、比丘尼、

及び優婆塞、優婆夷も倶なりき。

大轉輪王、

小轉輪王、

金輪、銀輪、諸輪の王と、

國王、

王子、

國臣、

國民、

國士、

國女、

國大長者と、各〔おのおの〕眷屬、百千萬數の(者ら)、而も、自ら圍遶せると、佛所に來詣して、頭面に足を禮し、遶ること百千匝して、香を燒き華を散じ、種種に供養すること已つて、退いて一面に坐しぬ。(者ら二字今意補)

其の菩薩の名をば、文殊師利法王子、

大威德藏法王子、

無憂藏法王子、

大辯藏法王子、

彌勒菩薩、

導主菩薩、

藥王菩薩、

藥上菩薩、

華幢菩薩、

華光幢菩薩、

陀羅尼自在王菩薩、

觀世音菩薩、

大勢至菩薩、

常精進菩薩、

寶印首菩薩、

寶積菩薩、

寶杖菩薩、

越三界菩薩、

毗摩颰羅菩薩、

香象菩薩、

大香象菩薩、

師子吼王菩薩、

師子遊戯世菩薩、

師子奮迅菩薩、

師子精進菩薩、

勇鋭力菩薩、

師子威猛伏菩薩、

莊嚴菩薩、

大莊嚴菩薩と曰ふ。

是の如き等の菩薩摩訶薩、八萬人と倶なりき。

是の諸の菩薩は、皆、是れ法身の大士ならざるといふこと莫〔な〕し。

戒、

定、

慧、

解脫、

解脫知見の成就する所なり。

其の心、禪寂にして、常に三昧に在り。

恬安澹怕にして、無爲無欲なり。

顚倒亂想、復〔また〕入ることを得ず。

靜寂淸澄にして、志玄虛漠なり。

之〔これ〕を守りて動ぜざること億百千劫、無量の法門、悉く現在前せり。

大智慧を得て、諸法に通達し、性相の眞實を曉了し分別し、有無、長短、明現顯白なり。

又、善く諸の根性欲を知り、陀羅尼、無礙辯才を以て、諸佛の轉法輪、隨順して能く轉ず。

微〔み〕渧〔たい〕先づ墮ちて以て欲塵を淹し、涅槃の門を開き、解脫の風を扇ぎで、世の惱熱を除き、法の淸凉を致す。

次に甚深の十二因緣を降らして、用〔も〕つて無明、老、病、死等の猛盛熾然なる苦聚の日光に灑ぐ。

而して、乃〔いま〕し洪〔おほい〕に無上の大乘を注いで、衆生の諸有の善根を潤ひ漬し、善の種子を布(敷)きて、功德の田に遍じ、普く一切をして菩提の萌〔芽〕を發さしむ。

智慧の日月、方便の時節、大乘の事業、扶踈增長して、衆をして疾く阿耨多羅三藐三菩提を成じ、常住の快樂、微妙眞實に、無量の大悲、苦の衆生を救はしむ。

是れ諸の衆生の眞善知識なり、是れ諸の衆生の大良福田なり、是れ諸の衆生の請ぜざるの師なり、是れ諸の衆生の安穩の樂處、救處、護處、大依止處なり。

處處に衆生の爲に大良導師、大導師と作〔な〕れり。

能く衆生の盲せるが爲には、而も眼目を作し、聾、劓〔ぎ〕、瘂〔あ〕の者には耳、鼻、舌を作し、諸根毀缺せるには能く具足せしめ、顚狂荒亂せるには大正念を作す。

船師なり、大船師なり、群生を運載して、生死の河を度して、涅槃の岸に置く。

醫王なり、大醫王なり、病相を分別し、藥性を曉了して、病に隨つて藥を授け、衆をして樂(願)うて服せしむ。

調御なり、大調御なり、諸の放逸の行無し、猶、象馬師の能く調するに調せざること無く、師子の勇猛なる、衆獸を威伏して沮壞すべきこと難きがごとし。

菩薩の諸の波羅蜜に遊戲し、如來の地に於て、堅固にして動ぜず。

願力に安住して、廣く佛國を淨め、久しからずして阿耨多羅三藐三菩提を成ずることを得べし。

是の諸の菩薩摩訶薩は、皆、斯の如きの不思議の德有り。

其の比丘の名をば、大智舍利弗、

神通目犍連、

慧命須菩提、

摩訶迦旃延、

彌多羅尼子富樓那、

阿若憍陳如、

天眼阿那律、

持律優婆離、

侍者阿難、

佛子羅雲、

優波難佗、

離波多、

劫賓那、

薄拘羅、

阿周陀、

莎迦陀、

頭陀大迦葉、

優樓頻螺迦葉、

伽耶迦葉、

那提迦葉と曰ふ。

是の如き等の比丘、萬二千人なり。

皆、阿羅漢にして、諸の結漏を盡くし、復、縛著無く、眞正の解脫なり。

爾の時に大莊嚴菩薩摩訶薩、遍〔あまね〕く衆の坐して、各、定意なるを觀じ已つて、衆中の八萬の菩薩摩訶薩と與に俱に、坐より而も起つて、佛の所〔みもと〕に來詣し、頭面に足を禮し、遶〔廻〕ること百千匝して、天華、天香を燒散し、天衣、天瓔珞、天無價寶珠、上空の中より旋轉して來下し、四面に雲のごとく集まつて、而も佛に獻〔たてまつ〕る。

天厨、天鉢器には、天の百味、充滿盈溢し、色を見、香を聞ぐに、自然に飽足せり。

天幢、天旛、天軒蓋、天妙樂具、處處に安置し、天の伎樂を作して、佛を娯樂せしめたてまつる。

即ち前(進)んで胡跪し、合掌して、一心に俱に聲を同うして、偈を說いて讚めて言〔まを〕さく、

『大なるかな大悟大聖主、

 垢無く、染無く、著する所無し、

 天、人、象、馬の調御師、

 道風德香一切に薰ぜり。

 智、恬(靜)かに、情泊(靜)かに、慮凝静なり、

 意滅し、識亡じて、心も亦、寂なり、

 永く夢妄の思想念を斷じて、

 復、諸大陰入界無し。

 其の身は有に非ず、亦、無に非ず、

 因に非ず、緣に非ず、自他に非ず、

 方に非ず、圓に非ず、短長に非ず、

 出に非ず、沒に非ず、生滅に非ず、

 造に非ず、起に非ず、爲作に非ず、

 坐に非ず、臥に非ず、行住に非ず、

 動に非ず、轉に非ず、閑靜に非ず、

 進に非ず、退に非ず、安危に非ず。

 是に非ず、非に非ず、得失に非ず、

 彼に非ず、此に非ず、去來に非ず、

 靑に非ず、黃に非ず、赤白に非ず、

 紅に非ず、紫種種の色に非ず。

 戒、定、慧、解、知見より生じ、

 三昧、六通、道品より發し、

 慈悲、十力、無畏より起り、

 衆生善業の因緣より出でたり。

 示して丈、六紫金の暉〔光〕りを爲し、

 方整に照り曜(耀)きて甚だ明徹なり、

 毫相は月のごとく旋(廻)りて項〔うなじ〕に日の光りあり、

 旋れる髮、紺靑にして頂きには肉髻あり。

 淨き眼は明鏡のごとくにて、上下に眴〔まじろ〕ぎ、

 眉‘䀹は紺にして舒(延)び方(正)しき口頬なり、(䀹字、目に妾、睫毛)

 唇舌は赤く好くして丹華の若く、

 白き齒の四十は猶、珂〔か〕雪〔せつ〕の如し

 額は廣く鼻は脩(長)く面門は開け、

 胸に萬字を表はして師子の臆(胸)なり、

 手足は柔軟にして千輻を具へ、

 腋掌には合縵あって内外に握れり。

 臂は脩く肘は長く指は長く纖(細)し、

 皮膚は細輭にして毛は右に旋れり、

 踝〔ら〕膝〔しつ〕は露〔あら〕はに現はれ、陰馬のごとくに藏(隱)れ、

 細き筋鎖の骨、鹿の膊〔し〕脹〔ちやう〕なり。

 表裏、映〔やう〕徹〔てつ〕して淨くして垢無く、

 濁水も染むる莫く塵をも受けず。

 是の如き等の相三十二ありて、

 八十種好、見る可きに似たり。

 而も實には相非相の色無く、

 一切の有相の眼の對絕せり、

 無相の相にして有相の身なり、

 衆生の身相のごとく相も亦、然なり。

 能く衆生をして歡喜し禮して、

 心を投じ敬ひを表して慇懃ならしむ、

 是れ自高我慢の除こるに因りて、

 是の如き妙色の軀〔身〕を成就したまへり。

 今、我等、八萬の衆、

 俱に皆、稽首して咸く歸命したてまつる、

 善く思相心意識を滅したまへる、

 象馬調御の無著の聖に。

 稽首して歸命したてまつる、

 法色身の、戒、定、慧、解、知見聚に。

 稽首して歸依したてまつる、

 妙種相に。稽首して歸依したてまつる、難思議に。

 梵音は雷のごとく震ひて響き八種あり、

 微妙淸淨にして甚だ深遠なり。

 四諦、六度、十二緣、

 衆生の心業に隨順して轉じたまふ。

 若し聞くこと有れば意、開けずといふこと莫く、

 無量の生死の衆結を斷ず。

 聞くこと有れば、或は、

 須陀洹、斯陀、阿那、阿羅漢。

 無漏無爲の緣覺處、

 無生無滅の菩薩地を得、

 或は無量の陀羅尼、

 無礙樂說の大辯才を得て、

 甚深微妙の偈を演說し、

 法の淸渠に遊戲し澡浴し、

 或は躍り飛騰して神足を現じ、

 水火に出沒して身、自由なり。

 如來の法輪の相、是の如し、

 淸淨無邊にして難思議なり。

 我等、咸く復、共に稽首して、

 法輪轉ずるに時を以てしたまふに歸依したてまつる。

 稽首して梵音聲に歸依したてまつる。

 稽首して緣、諦、度に歸依したてまつる。

 世尊は往昔の無量劫に、

 懃苦に衆(諸)の德行を修習して、

 我、人、天、龍神王の爲めにし、

 普く一切の諸の衆生に及ぼしたまへり。

 能く一切の諸の捨て難き、

 財寶、妻子、及び國城を捨てて、

 法の内外に於て恡(惜)む所無く、

 頭目髓腦、悉く人に施したまへり。

 諸佛の淸淨の禁を奉持し、

 乃至、命を失ふまでも毀傷したまはず。

 若し人、刀杖をもつて來つて害を加へ、

 惡口罵辱すれども終に瞋りたまはず。

 劫を歷(經)て身を挫(碎)けども惓惰したまはず。

 晝夜に心を摂めて、常に禪に在り。

 遍く一切の諸の道法を學して、

 智慧深く衆生の根に入りたまへり。

 是の故に今、自在の力を得て、

 法に於て自在にして法王と爲りたまふ。

 我、復、咸く供に稽首して、

 能く諸の勤め難きを勤めたまふに歸依したてまつる。』








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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