多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説65
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
和哉「讒言。…誹謗中傷。…でたらめ。…いいがかり。
愚僧「じゃ、今日の始末はなによ?
和哉(このときなにか言いかけ、そして云い淀み、不意に笑んだに近い顏に云った)「そっちの方信じてるんだ?
愚僧「なに?
和哉「住職、そっちの奴ら方信じてるんだ。
和哉聲を立てて笑う。
愚僧「今日の始末は一体何?
和哉「あいつがひとりで暴れ始めたんですよ。
愚僧「暴れた?
和哉「…見ればわかるでしょ?…まだ客の來る時間じゃないからよかったけど、
愚僧「でもさっきあんた、その客の前でやっておったけどな
和哉「8時すぎ?…わすれたけど、
愚僧「それで?
和哉「そこらここらのもの手当たり次第投げる蹴飛ばす叩きつける…片付けた?
と、和哉氏奥の母上を返り見る。
一重さん顏手のひらに埋め肩ふるわせ啜り泣く。
愚僧、鼻に淚の温度だに感じられ心痛く、此の時に店内に荒れた様子なくいつもどおりに整理されてあり。
和哉「母が、掃除してくれたんですね。
愚僧「なんで?
和哉「知らない…だって、たぶん。荒れ放題だと客も入れられない…から、
愚僧「じゃなくて。なんで深雪さん暴れたの?
和哉「知らないですよ。おかしくなったんじゃないですか?信用できない…いきなり。咬みつかれるかと思った。振り向きざまですよ。髪ひっつかまれて。般若の鬼の面でも化けたみたいな、
深雪「あんたが云ったからじゃない?
和哉「默れよ。
深雪「あんたが、
和哉「いきなり、人の店ぎちゃぐちゃにしやがって
深雪「殺そうかって、知ってます?(と顏を上げ愚僧に)
和哉「出て行けよ。もう、
深雪「わたしのお腹撫でて、で、な、
和哉「お前のせいで全部ぐちゃぐちゃ。
深雪「今、なぐってやろうか?腹、
和哉「全部壊れた。
深雪「なぐってっやるよ、な、
和哉「全部だいなし
深雪「始末して遣るよ。
愚僧「そんなこと言ったの。
深雪「言いましたよ。耳元。後ろから抱きつく見たい。いきなりきて。…気落ち惡い。ほんと、…なにあれ?…なに?…ほんと、気持ち悪い…で、にたぁって笑って、…口くさいし、…な、な、な、って。云うの。…本当にもう無理。気持ち悪い、暑苦しい、息くさいの!殴ってやるよ、な、な、な、臭い!いま、始末して遣る、腹、始末して遣るよ、な、な、って口臭い!
和哉「殺すぞお前、
深雪「言った!聞きました?謂った!ほら云った!
愚僧だまりなさいと一喝、しばらく默止し思案して曰く「祇樹園から、人、呼ぶわ。
深雪「まだあんなじゃない…あんな、廢人じゃない。あんな、地獄の底の人みたいに堕ちてない…
愚僧「助けてもらう、あそこの人、
和哉「また?
愚僧「放っておけないから。取り敢えずはだれか、話聞いてもらう人がひつようよ。…だってそうでしょ?あんなたたち、今わたしがじゃ、二人で、…三人で、話って、頑張ってね、て、出て云って、それ、いやでしょう?
だれかに話聞いてもらうワン・クッションほしいんじゃないん?息つぎ必要よ。だから、…島でいろいろあそこの悪口いってるのは知ってるけれども、それだったらそれだったで、あそこの人ら介護相談ケアのプロということ、違う?深雪さん曰く地獄の底の人のお手伝いお助け、毎日してられるんだから、どれだけ手馴れていよう、あんたたちの問題なんか朝飯前よ、…な?違う?
ちょっと、電話するわ…
と、愚僧祇樹古藤記念園に手すきの者をまわす様に連絡したのである。
園長曰くそれは大変と、但し、今毎朝の大混乱の一大事たる朝食の最後のところでたぶん手すきの者の手も埋まっておろう由、たぶん三十分以内には行かせられるがそれでいいか?
故、冝し、と。
故、愚僧そのままにうずくまる和哉氏といつかスマートホンを弄り始める深雪を目に入れながらに奥の事務の間に腰を下ろす。
泣き已み時に鼻すする一重さんと語る。
愚僧云、ご心配でしょうと。
于時一重さん曰くこんな年にもなってまだこんな目を見る、と。
痛ましく愚僧しばし默止し軈て一重さん息子らの耳を憚りながら小声で、しかれどももとより和哉氏心ここにあらずひとり懊悩するらし深雪さんスマートホンに誰そやとメッセージ送り合うにいそがしいらしそれら悉くなにというでもなく愚僧の眼に痛くて耳は聞く
「毎日なにごともなく、今日は何事もなく、と、まあそう祈るような気持ちでおっても、それでも、それはそれで、今日の日にこうなって、こうもなってしまったんならいっそなるようになって、それでもそれもそれこそいい機会で、是れを機にでもないんですけれども、うまくなんとか、なるようになって、まわりの人ら、心配心配あげつらい半分、けれども、あの人らあの頃あんなだったけれども、いまはこうなって偉いなと謂うてもらえるようにならないといかんのよと思いながら、自分に謂い言いしながら、それでもね…
「そんなに、毎日、あるの?
「あるよ。…ない。ないけれども。…あるよ。心配よ。ちょっとの事。ほんのちょっとの事でも、…心にささってね。
「痛ましいな…なんで…時に眞夜羽くんは?
「今日木曜日でしょう…金曜?どっちだっけな、…学校。
「もう行かれた?
「あの、佐伯の当主も行方くらましたらしいね。
「知ってられる?
「門田のおっさんから、…どっちもこっちも、なんとも行かんね。
「息子さんらも、心さえ落ち着けばね、
「夢、見たのよ(…と。
そう不意に一重さんは言い始めたのだった)
「夢?
「おじいやんの。…先代の眞砂の…あれも住職の世話になってね、…あのひと、…
いつもは呼んでもうんともすんとも出てもこないんだけれどもな、今朝がた、ふいにこう、夢に、…
あの人、詫びるの。…家の、台所で大根切ってて。難儀でね。いっつも、そんな大根なんかに難儀する事無い、そんなもの、だけれどもどうしても捌けないのね、それで、奧から眞砂が呼んでね。
いま忙しいから待っといてくれと、謂うにもすぐに來い、こっちも急ぎじゃと謂って、…
行けばあの人、なんにも急ぐことない、畳の間…昔のね、ホットカーペットあの人が買ってきて敷いて仕舞うまえのね、あそこ、…
すまんな、謂うて。
寝っ転がって片肘でね、あんたそれ人に頭下げる態度じゃない、人見られたら笑われなさるよというたら、謂うの。
俺が惡いんよな、と。
あんたが悪いんか。
そうじゃ。
あんた何したん?
そうじゃ、と。なにを云うてもそうじゃ、そうじゃ、そうじゃ、此れを云うてもそうじゃ、あれを謂うても、…
それで、眞砂謂うの、ごめんな、と。
此の人もう、ひっぱたいてやろうかと思って。
それで手を上げたら、…な?
其の時なんじゃない?眼、褪めたのは。
もっとなんかあった気もするけど…でも、一緒よ。…たぶんね、…そうじゃ、そうじゃ、と。
たぶんね…
「あなた、何か知っておられるんじゃないの?
「私?
「何か聞いておるの?
「眞夜羽のこと?
愚僧默止す。故一重さん語る、
「あれは眞砂の子供なんでしょ?
「なんで?
「似てるな…顏な。
「そんなことは、
「聞いた。
「誰に?…眞砂さんに?
「ふたりに。
「誰と誰?
「深雪さんと和哉さん
「そんなもの、
「前からよ、…前から知ってたのよ、和哉は何日か前…その前、ずっと前、
「いつのこと?
「眞砂の四十九日過ぎた比じゃない?
「眞砂さんの…
「その頃、真夏でもないのに、深雪さんやつれたように…夏痩せ?ときどきあるでしょう?いまあまりないけどね…クーラークーラーとね、寒くて風邪ひく始末な、…やつれて。大した事ない、すこし…そう見えた。
だから、深雪さんに…もうひとりくらい、孫、な?眞砂もいなくなったし、その形見じゃないけれども、もう一人くらいな?
ほしいものんだから、もちろん、わたしなんか口だすもんじゃない、けれども、…だいじょうぶ?と。
心配でね。なんぞかあったら、事だからね、だから、あんた羸せたんじゃないの?ちょっと、大丈夫なの?
そうしたいきなり真顔になって、…朝よ。こっち来る前に、向こうで、家で、朝ご飯つくっておって、…いきなり。
突然ですよ…くるっと、わたし、向いて、おかあさんごめんなさいと。
其の時、包丁持ってたから。何や、わたし、この娘に刺されるの?って、そう思うような、…
異様な顏よ。だから、どうしたの?一体、どうしたの?と。
いいのよ、別に刺されるなら刺されて…こんな、それでもそれであの子らの爲になるんなら、草葉の陰で百回二百回死んであげるよ、…
けれども。謂うの。泣きそうな顔してね、秘密にしてました、と。
何をよ。
実は眞夜羽は和哉さんの子供じゃないんですと。
…まあ。
其の時はね、…まあ。詞もなかったけれども、其の時はそれ、朝だし、もうすぐ和哉も起きて來るし、それで、まあ。後で話そうよと。
後、夜にね。その二日後じゃないの?その時和哉が遅番でひとりで店守ってて、わたしらお言葉にあまえますと謂うて先に帰ってきてね、…暇だったからな。
いまがいい機会なんかなと。それで深雪さんに聞いたの、せんだっての話、あれ、なに?と。
そうしたらば、今度は、いいえ、違います。なんでもないです、と。
そうならいいけれども、本当はなにかあったの?
何でもないです。
子供は子供だけれども、眞夜羽もいたしな…
それで、眞砂がなにかしたんかと聞いても、今度は何も言わない。違います、心迷い、心が迷うただけですから、と。
それでおしまいよ…そんなことが在ったの。
忘れはしないけれども、覺えてもいないでしょうよ、毎日毎日、…それでも幸せ、毎日波風たつけどそれも幸せ、そう思うが花、そうもこうもしてるうちにこう、…こうなってね、…
あなた、知っておられた?
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