多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説54


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



午前八時半、祇樹古藤記念園より和哉携帯に電話。不通。深雪の番号未知。故眉村宅固定に電話。不在。眉村店に電話。眉村一重が応対。和哉深雪ともに今外出中、深雪は買い物行っただけなのですぐ帰るだろう、和哉は呼び出せばすぐ帰ってくるだろう。如何するか?

一重答えて、呼び戻し不用。午前九時半頃に宅に伺おうと思うが如何?

山羽答曰、不都合なら折り返し連絡されたし、冝しければ折り返し不用、と。

仍て九時半すこし過ぎた比に山羽単身眉村の店に詣。

その時の印象。

最初は知らず知らずに何やら奇しい雰囲気でもあるものと思っていた。実際に店に行けばこざっぱりと、又、夫妻共に在店し二人ともに昨日の印象に異なり焦燥の氣色の懊悩の氣色もなしと。すがすがしい印象。「全身夫婦で温泉使ってさっぱりしたような」云々(あれが商売人の営業の顏てふ叓なんでしょうね云々)。

一重さん以前、古藤園のボランティア新年会に協力数度戴いていたらしく挨拶される。このあたりのイベント等必ずしも山羽の管轄ならずて山羽に其の時の記憶なし。お茶をにごす。

一重店の留守番。店は閑散。平日、夏休み明け、因ってやむなし。

山羽、和哉、深雪で面談。場所は奧のお茶の間。店内の風景筒抜け。必ずしも狹くない。デスクトップパソコン一台、つけっぱなし。ノート型、閉じて二台。その他、本棚に他の各地の観光案内の本、パンフレット等多数。

まず山羽が夫婦に問て云。

問。今朝眞夜羽はどうだったか。

答。(和)又前日に同じくに起き出し今日は家の裏庭山肌の柿の木に登って茫然自失してをるを深雪の見つける。

問。ここに眞夜羽は善く來るか?

答。(深)毎日來る。ここに返ってきて、それからおばあちゃんか自分が連れて一緒に帰宅する。

問。ここで游んだりは?

答。(深)学校が休みの日などは。

問。眞夜羽、趣味は何か?

答。(和)一般的なもの。特にこれというものなし。(深)テレビで大人のドラマが好きである。内容がわかるのかと尋ねる。憤ってわかるよと答。故問、じゃ、この女の人、なんで泣いてるの?答え、ばれたから。問、なにがばれたの?答、此の人の夫、ころしちゃったのが。問、なんで殺しちゃったの?答、惡いやつだから。問、なにが惡いの?答、悪い事、怒って、いっぱい謂うから。やなやつだから。アウトラインの理解。金銭横領等の詳細は未理解(是は刑事もの)

問。他には?

答。(和)ゲーム。

問。どんな?

答。シューティングゲーム等。

問。何で?

答。スマートホン。

問。眞夜羽のか?

答。小学校の二年に上がった時、念の爲眞夜羽にはスマートホンを持たせてある。これは万一何事か起こった時のGPS捜索等考えた爲。抑此の是非には夫婦で意見が割れた。

問。どう割れた?

答。スマホ所持について夫は否、妻及び祖母は是。

問(深に)。子供にとってスマホはあぶないと思わなかったか。

答。家にいる時は自分が管理している。外出時だけ持たせることにしている。

問。保管場所はどこ?

答。自分のバックの中。

問。ひとりで翫ぶようなことはあるか?

答。ない。

問。インターネットは?

答。まだ自分でうまく打ち込めない。時にアニメの情報等自分が検索して開き見せてやることはある。自分で検索・アクセスしたことはないだろう。

問。小学校に毎日通っている。友達もスマホを持っている子は多いか?

答。詳細は知らない。持たせている親は持たせている。観光の島の爲、外部者多く、実際には何が起こるかわからないから。

問。みなそうなのか?

答。仲間内では念の爲そうしている。

問。他になにか趣味はあるか?

答。特に目に付く物はない。スポーツがすきだが、年の比から未だスポーツのかたちにもならない程度の遊びである。サッカーとバスケット。

問(二人に)。あなたにとって、どんなお子さんですか?

答。(和)基本的に素直だがときどき偏屈になる。頭が固いと思う時がある。(深)傷つきやすい。他人の身の上に同情共感が甚だしく自他の区別がついて居ないところがある。

問(深に)。どんな?

答。ともだちのおじいちゃんが胃の切開手術をした。手術とはなにかと聞かれたのでそれとなく教えた。そうしたその夜眠れなくなった。聞けば、おなかを切ると痛い、血がいっぱいである、痛くてしんじゃうくらい痛い、云々と怯えていた。

問。何歳くらいの時か

答。小学校の一年の時。夏休みの比。

問。聞きにくいが念の爲。夫婦仲は大丈夫?

答。(和)時には喧嘩する。

問。頻度は?

答。年に一二回

問。眞夜羽の前で?

答。(和)それはない。(深)喧嘩の意味あいによる。単純に痴話げんかのようなものならそんな頻度だし子供の前では出さないように気を付けている。しかし商売についての意見の相違はやっぱりある。その論議しあうところを口喧嘩といわれたらそう見えるのかも知れない。又、近所の人々の悪口は知っている。愚にもつかない僻んだ噂である。

問。なぐりあったりする?

答。(深)ぜったいにない。(和)いちどだけ、あれは眞夜羽の生まれる前だった、頭を叩いたことがある。

問。商売上の議論の頻度は?

答。(和)頻繁に。あくまで仕事に関してだから仕方ない。(深)多いときは毎日(繁忙期)。暇な時は一か月に一回もしないとか、頻度はばらつくのでどのくらいとも言えない。

問。眞夜羽の学力は?

答。(和)普通。

問。それについてどう思うか。

答。(和)まだ早いが時期が来たら塾に通わせるなりした方がよい。(深)いまはそれどころではない。仮になにも無かったとしても、のびのび大きくした方がいいだろう。それより自分のやりたいことを早く見つけた方が生活はよりはやく安定する。

問。将来、どんな子になってるのと思う?

答。(和)アーチスト。

問。理由は?

答。いまの現状をいってるわけではないが、それ以外にも何か鋭いな、人と違うなと思わせるところがある。

問。例えば?

答。詳細は覚えていない。

問。奥さんは?

答。(深)考えられない。出来れば医者などがいい。

問。なぜ?

答。医療がつぶれることはない。土産物屋等、たとえば(ここに原発はないけれども)福島のような災害があった場合、観光業はもろい。瀬戸内海に津波など起こりようもないが、なにがリスクで、どこにリスクがあるのか、起って見なければわからない。故、常に不安である。

以上。

つぎに山羽が夫婦に語りて云。

比呂斗転生云々の件

額田比呂子比呂斗親子の件、そもそも和哉もこの人たちの情報をネットから見つけた聞いて居る。事実か?(答、然)故、眞夜羽もそもそも友達とスマホいじりの中で見つけたのではないか?又額田の名字は希少。且つ額田王に同じ。且つこの名は奈良の観光パンフレット等で万葉の旅云々とあれば容易に目にする。且つ、此の店は土産物屋で、あなたがたも色々な観光地の情報収集をしておられるようだ。故、どこかしらで目にしたキーワードからひっかかったのが無意識的に印象に残ったのではないか。

所謂顏の妄想の件

亡くした祖父のイメージである。これに関して語る時眞夜羽の言い方はとかく難関・晦渋、即ち死という事態が未だ消化不良なのだ見える。故、いまのところ放っておくしかない。

睡眠時遊行の件

アルコール・薬物に起因する用例を除けば一般的に髙ストレスの時又興奮したまま睡眠した時等に見える。葢、轉生妄想等の爲、及び職業上の論議を口論と誤解した爲等潜在的に緊張の解けない爲なのではないか。その點注意し子供の前で仕事の話は避けるべき。又、転生の妄想自体なんらかのストレスの代替であるのかもしれない。例えば祖父の死とその事態そのものへの未理解による不安等。

転生妄想の件

抑々死んだから転生するので、此処でも祖父の死の影響を思わせる。理解できない祖父の死を自分の身に体験させ、そこからの復活(転生)によって祖父の不在の不安を解消しているように思われる。

補遺として

例えばオカルト・ホラー映画等創作に於て子供は非常に効果的に用いられる。フィクションに於てだいたい最初にお化けに触れ合うのは子供である。所以は即ち子供が真顔で語ったことをおとなは真に受けがちだから、である。この点、大人は注意すべき。子供は自覚なくして往々に嘘をつく。子供の嘘乃至妄想を鵜呑みにすれば家族全体が同じ妄想に影響される事を結果する。故、アドバイスとして言う、子供の言うことを信じ過ぎないことだ。思うに眞夜羽は空想的で、話しながら空想を展開する能力が髙いように思う。また、一般的に子供は大人の顏色を見大人の期待に添いながら、話しながらに話自体を造って且つその自覚がないどころか自分の話したことを信じ込む傾向あり、この點、眞夜羽には特に顕著に見える。故、一層その点注意すべき。

以上、説いて聞かせた。

深雪は納得し、和哉氏もうすこし腑に落ちない様子だったとのこと。

また何かあれば連絡するよう言っておいた、とのこと。

(圓位文書B2)

愚僧「それで、事はおちつきそうですか?

山羽「わたしとしては以上が真相だと思うので、それ以上には出来かねる、というのが実のところで…

愚僧「あの夫婦、どうだった?

山羽「おふたりが悪いのよ。

愚僧「なぜ?

山羽「自分の子供に怯えちゃって。

愚僧「そう思う?

山羽「そうじゃありませんか?あれじゃ、子供が図に乗る。自分の妄想を妄想として切り離せなくなる。子供さんよりもしろ親の方が妄想を信じてる。だっていちいち岡山の茨くんだりまで行ったんでしょう?姉妹施設あるから行ったことあるけど、結構陸の孤島だからね、あそこも。…だから駄目なんですよ。子供より親の方が心配。子供は話の上手ないい子ちゃんじゃない?いろいろあるのかもね。

愚僧「いろいろ?

山羽「夫婦間、嫁姑、母子間。ちょっと、作り物っぽかった。特に息子さんの方、ご主人、あの人、いろいろ現状を打破したいんじゃない?どんな現状か知らないけれども。これはカウンセラーの先生に懸かってみたら?あそこのストレスだのルサンチマンだのなんだの、それが眞夜羽に虚言言わせてる気がする。大好きなパパを喜ばせる爲。注意したげた方がいい。

愚僧「彼等?

山羽「旦那のほう。あれ、その中爆発したりして。

要点は以上。

  以上9月5日沙門圓位記

(圓位から久村へ、cc.香香美)

2019.09.06.メール

たてつづけに何度も、と、そう思われるでしょうが。

ここでは私からは何も申し上げない。

下のファイル、ご一読されたし。昨日、といいますか、今朝、夙夜の記。

                     沙門圓位

(圓位文書B2)

2019.09.05.

感覚的にはその前日、4日の深夜、という実感なのですが。とまれ。

沙羅樹院夜、離れの自室に就眠。









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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