多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説53
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
眞夜羽「帰ったら、おじいちゃんに食べられる。(此処で又深雪泣き出す。山羽、愚僧捨て置く。深雪云、もうなさけない。本当、情けない云々その繰り返しを小聲に暫し)
山羽「食べられるの(故意に殊更おどろき)
眞夜羽「ぜんぶ食べられる。
山羽「それ、困ったね。惡いおじいちゃんだね。
眞夜羽「関係ないよ。
山羽「関係あるよ。食べられたら痛い。死んじゃうよ。
眞夜羽「おじいちゃんもう死んでる。
山羽「眞夜くんも死んじゃうでしょう?食べられたら。
眞夜羽「死なないよ。
山羽「すごいね!死なないってすごいね!なんで?
眞夜羽「おじいちゃん、食べられないよ。
山羽「眞夜くん、食べられないの?
眞夜羽「おじいちゃんが、食べられない。
山羽「眞夜羽君は、海の月に帰ったら、おじいちゃんに食べられるって言ったね。
眞夜羽「言ったよ。
山羽「いま、おじいちゃんに食べられないって言ったね。じゃ、嘘だね。
眞夜羽「嘘?
山羽「なんで、嘘ついた?ついちゃった?つきたくなっちゃった?
眞夜羽「おじいちゃん食べられるわけない。齒、ないもん。
山羽「齒?
眞夜羽「口も無い。なにもない。
山羽「それって
眞夜羽「なにもない。
山羽「死んだら…ごめんね。しんじゃったら、ね?なにもなくなっちゃうの?
眞夜羽「おじいちゃん死んでないよ。
山羽「嘘よ、だって
眞夜羽「誰も死ねない
山羽「ごめん、死んだと思いたくないんだ。眞夜くんは。
眞夜羽「死んだ。
山羽「眞夜くんのなかでは、生きてる?
眞夜羽「死んでるけど、でも、(と、愚僧に)おじいちゃん死んだことある?
愚僧「まだ、ないね。
眞夜羽「死ねないから。だから死んでない。
山羽「でも、おじいちゃん、死んだんでしょ?
眞夜羽「でも、死ぬの、見た?
山羽「おじいちゃんが?
眞夜羽「死ぬの、見た?
愚僧「たぶんこの子、死などだれも知らないだろうと。死んだことも無いものがなんで死を云々できるかと。そんなものは生者の翫ぶ概念にすぎぬと
眞夜羽「そうなの?
山羽「ごめん、その、なにもないひと…
眞夜羽「なにもないひと?
山羽「口も、齒も、
眞夜羽「あれ、人じゃないよ。
山羽「それ、おじいちゃん?
眞夜羽「たぶん。
山羽「自信ない?
眞夜羽「そうでもない。
山羽「じゃ、ほかに、誰っぽい?おじいちゃんじゃなかった、誰だろ?
眞夜羽「他に?
山羽「誰か、思いつく?他にだれか、思いつかない?…ね、誰だろ?それとも、何?何か?例えばどんな事?
眞夜羽「無理。
山羽「無理?
眞夜羽「おじいちゃんじゃない?
山羽「なんで?
眞夜羽「だって、ぼく、おじいちゃんの子供だから。
此の時に深雪は笑った。和哉は嘆く眼差しをした。そして深雪は云った。「この子、おじいちゃんっ子だったから。
愚僧「孫にはどうしても、甘くなるからね。
深雪「甘やかせてばっかり。おばあちゃんも。叱るの、いっつもわたし。だから、嫌われるのも、いっつもわたし。
山羽「何言ってるの(笑う)。それが役割よ。
深雪「さびしいのかな。おじいちゃんいないと。
と。深雪は眞夜羽の肩に手をまわし、そして自分に引き寄せた。眞夜羽は從った。
山羽「ね。(と、思いついたように山羽は眞夜羽に問う)
眞夜羽「なに?
山羽「おばさん、質問(と、手を上げた)。
眞夜羽「なに?
山羽「余婆飛の時さ、…ね?
眞夜羽「なに?
山羽「眞夜くん、何してる?
眞夜羽「歩いてる。
山羽「なんで?
眞夜羽「與婆布から。
山羽「どこに?
眞夜羽「だから、月に、行かないとなんだけど、行けないから、
山羽「步いてる?
眞夜羽「そ。
山羽「目、見得てる?
眞夜羽「ぼく?
山羽「そ。
眞夜羽「見えてるよ。
山羽「そのときも?
眞夜羽「今も見えてるよ。
山羽「なにを見ながら、歩くの?
眞夜羽「道とか。
山羽「普通の?
眞夜羽「山とか。
山羽「他に、
眞夜羽「顏とか?
山羽「顏も見えるの?
眞夜羽「だって、いつも見えてるもん。普通に。だから、普通じゃない?
山羽「いまも?
眞夜羽「顏?
山羽「そう。
眞夜羽「見えるけど…
山羽「どんな?
眞夜羽「顏?
山羽「どんな顏?
眞夜羽「言えない。
山羽「なんで?顏、謂うなって言ってる?
眞夜羽「難しいもん。云うの。
山羽「どんな?
眞夜羽「いっぱい。ぐっちゃぐっちゃで、ごっちゃごちゃ。
山羽「ね。
眞夜羽「なに?
山羽「步いてるとき、…道、余婆飛のとき、なに考えてる?
眞夜羽「おじいちゃん?
山羽「眞夜くん。
眞夜羽「僕?
山羽「なに考えてる?なに、感じてる?なに、思ってる?
眞夜羽「普通。
山羽「普通?
眞夜羽「普通に…だから、普通…
山羽「そっか…ね。
眞夜羽「何?
山羽「疲れた?
眞夜羽「ぼく?
山羽「そ。
眞夜羽「ぜんぜん。
山羽「おばさんつかれちゃった。
と、山羽さん笑い、「じゃ、休憩ね」云って、そして眞夜羽を覗き込んだ顔を上げたのだった。
話を一度切って仕舞えば、我々の誰もが再びそれを継続さす意欲などもはや持っていないことにきづく。自然、此ののちは雑談になって頃合いでお開きとなる。山羽は追って和哉に連絡すると云った。いずれにせよ眞夜羽の眼耳のないところで話し合う必要があろうからである。故、それとなくに明日お店に伺います(和哉の土産物屋)と山羽。
いつでもいいですから、お待ちしてますと和哉。
住職には又折って連絡入れますので、と山羽。
これらは雑談に紛らし紛らしながらの会話である。
四人俱なって離れを出る。両方車の爲車まで見送る。
時に、離れを出て本堂を背に庭を步く時に頭上、今日一日中の曇りの空纔かに切れかけて、すこし薄らいだ雲を通して月が耀く。
故にか否か、山羽ふと眞夜羽に笑みながらに問う
「海って、…月の海。
「海の月?
「あの海って、何処の海何だろうね…四国の向こうかな?
「違うよ。海の一番そこのてっぺんの眞ん中に、月、浮かんでる海だよ。
「そんなの、あるのかな?
「あるよ。ここにもあるよ。どこにもあるよ。
眞夜羽は邪気も無く云った。わたしたちはそれ以上聞き糺すこともなく棄て置く。
爰に我々は別れた。
以上9月5日沙門圓位記
(圓位から久村へ、cc.香香美)
2019.09.06.メール
今回は9月5日午前の山羽香奈枝女史の眉村家訪問のこと、是、その足で沙羅樹院訪問くださり愚僧に口傳いただいたもを茲に愚僧記。附、そのときの山羽女史と愚僧の会談の次第。
添付資料参照のこと。
沙門圓位
(圓位文書B1)
2019.09.05.眉村家訪問ノ記(圓位口傳ヲ記)
如是我聞
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