多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説12


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



 比。地球が?

 眞夜羽。だって浮かんでて、光ってるじゃん。何にもないとこ、浮かんでるじゃん。落ちないけど。知ってる。上も下も無いからね、落ちれら…落ちれ…落ちらないんだよ。でも、怖くない?

 比。神樣は居た。

 眞夜羽。いっぱいいるよ。

 比。神様にあった?

 眞夜羽。ぜんぶ、なにも、ぜんぶ神樣だよ。いまでも、神樣だよ。いっぱい死んで、いっぱい壞れて、全然なくならないの。

 比。じゃ、淋しくなかったね?

 眞夜羽。淋しいよ。

 比。どうして?神様、いっぱいいたよね。

 眞夜羽。だって、地球、ひとりで光ってるよ。月もひとりでひかってるよ。

 比。佛さまにあった?おばあちゃん、いっぱい、御經よんでくれたでしょう?会えた?

 眞夜羽。いないよ。だって、あれ、人間だもん。

 比。どうっやって、生まれて來たの?だれかに…神樣に…もう一度生まれなさいって言われたの?

 眞夜羽。空、割れた。

 比。空?

 眞夜羽。どがあーんって。音なんかしない。してないんだけど、どかーんって音、すっごいの。空われたら、炎が燃え上がるの。怖いよ。すっごいよ。全部が長く…ぜんぶ、ぜんぶ長くなるよ。燃えながら長くなるよ。ぐじゃって、ぼく、ぼくのお腹の中、食べちゃったよ。ぼくのお腹の中、ぐじゃって。全部、食べちゃったんだよ。一瞬だよ。

 比。生まれる時?

 眞夜羽。気が附いたらお腹の中にいるよ。すっごい、うるっさいの。お腹の中。すっごい、すっごい、まいにちうるさい。ずうっと、ずうっと、うるさいの。

 比。生まれる時どうだった?

 眞夜羽。悲しかったけど嬉しかった。

 比。なんで?

 眞夜羽。生きないといけないから。自分で。生きれらから(可能形?)。自分も。

比呂子曰く、此の時比眞夜羽の頭をなぜたあと、その頭髪に顏を埋めたのだ、と。そのときに髪の毛に「腐った獣の皮に乳を塗ったような匂い」がした、と。「」内比呂子の表現儘、

以下、此の日の質疑(問、私。答、比呂子。)

 問。最初に眞夜羽ちゃんと逢った時、正直どう思いましたか?

 答。比呂斗の…てことですか?

 問。そうです。

 答。なんとも…だって、そういう問題じゃない。体が、…だって肉躰があるでしょう?だから、目の前にいるのは眞夜羽ちゃんなんですよ。あったかくて、やわらかくて、かたさがあって、においもある。…

 問。心は?

 答。魂みたいな?

 問。あって、話して、心…あ、この内側にあるものって、比呂斗くんだ、とか。そういう印象…

 答。だって。心ってかたち無いものじゃない?今日のわたしと明日のわたしはちがう。まして何年も…しかも違う躰で、でしょ?

 問。確信は得られなかったってことですよね?

 答。確信とか、そういうもんだんじゃないと思う

 問。どういうもんだい?

 答。だって、變ってく物でしょ?

 問。じゃ、疑いを持ってるってことですよね?

 答。でもね…(謂い淀む)

 問。なに?

 答。あの子にしかわからない事も云ってた…

 問。比呂斗…

 答。そう。

 問。なに?

 答。それ(…と、庭の方を見した。雨のに植栽。「あれ…」と比呂子。「どれ?」

「あの梅の木ね…」

指も指していなかったので…そして樹木にうといわたしには單にそれぞれに若干だけ差異する細い枝ぶりの似たような綠葉の木の散亂としか認識できなかったので…「どれ?」

「あれ、あの子があんなふうになってから植ゑた。…それ、知ってた」

「なんて?」

「あの木知らない。いつ植えたの?あれ、何?って」

「何の木なんですか?」

「梅の木…あんまりにも…あの子死んで、あんまりにも私たち、ほら、あれだったから、だから、お寺さんが…そこのおばあ樣が…これでもどうぞ。お庭が殺風景になってるよ。荒んだ庭には心も荒むよって。それから、もう一回庭、手入れしはじめたの…」)

又、以下は比呂子が中座した時の髙長氏との会話(携帶電話に電話がかかってきたのである。仕事?)。

 髙。比呂子とは、今日で二度目?

 私。失礼ですが天涯孤獨云々っていう話を…

 髙。誰から?

 私。比呂子さん…それから、

 髙。嚴島の?

 私。眉村さんとか。聞いたんですが、

 髙。死んだんですよ。

 私。おひとりで?

 髙。兩親。一緒に。同時に逝かれちゃって。髙校生の時ね。妹も。

 私。だったら、大変でらしたでしょう?

 髙。叔父貴に世話になって。いや。岡山にね。母の實家の。元地主?小作人頭なんかな?大きい土間ある家でね。そういう造りなのよ。そういう家な。瀨戸のほうにね。

 私。海邊の方?

 髙。いや、内地よ。内陸よ。名前だけ瀨戸なんよ。

 私。でも、ご親族いらっしゃれば…

 髙。その叔父貴一人だけ。埼玉にもおられたけどね。親族な。でも疎遠でね。一人住まいだったの。叔父貴は。斜陽というの?みんな死んだり、遠くに出ていかれたりで、…名古屋とかな。その人だけ。ひとり実家のお屋敷守られてたけどな。せやけれども70ちかくなってられたけど、私、前の會社の…独立する前のな。わたし、むかし惡かったから。それなりにね。犯罪はせんかったけどな。ま、拾われて…拾うて戴いてな…最後裏切ってしもうたけれどもな。ま、獨立して…その前の会社勤め始めた比にな。ほら。倉敷の會社じゃから。遠いんよ。通勤するにはな。ですから、独り暮らしを…その一年目じゃなかった?火事おこされてな。

 私。叔父樣が?

 髙。まる焼け。焼き殺されしもうてね…むごいで。十九じゃったな。わたし。見たけれども。本人確認?…むごいよ。それをほ ら、火葬するじゃない?また燒かれにゃならんのかと思うとね。…あれ、最近煙でないよな?

 私。そうでしたっけ?

 髙。そうよ。煙突あるけど、煙出ない…せめて煙でればね…ああして生まれ變わって…煙にね。煙になってゆらゆら天國にいかれてるんやなと思うんじゃろうけれども…

むごいよ。

 私。そういえば、ずっと、岡山にいらっしゃった方なんですか?

 髙。私?

 私。ええ。

 髙。いや。高校の…十六の時。親兄弟ああいうふうになるまでは横浜。

 私。神奈川…

 髙。云うて、内陸の方ね。青葉臺というところがあって。そこに親父が家を買ってね。

 私。お父樣、ご出身は…

 髙。鹿島のほう。こっちの親族はもう音沙汰なしよ。

 私。そっちの家はどうされたんですか?ご資産でしょ。

 髙。売りました。それは埼玉の叔父貴がなんかしてたけど…一応、私にも、いや、口座にね。手渡しじゃないよ。貰って…ちょっと、その叔父貴がくすねてるよ。あれは。一千万もなかったもの。

 私。いつ渡されたんですか?お金。

 髙。就職した時。高校中退して二年、…三年か?游んでたから…サンホームに…これ、その社長の會社な、世話になった…就職した時に、叔父貴から…瀨戸のな。叔父貴から通帳渡されたん。

 私。だまされた?

 髙。誰に?

 私。勝手に売り飛ばされたとかじゃやなくて?

 髙。いや。そうじゃない。

 私。一千万はどう考えても、…横浜でしょ?

 髙。事故物件だから。

 私。事故?

 髙。殺されたの。空き巢かなんか。兩親、それから妹。…むごいで。

 私。いや、…なんとも。お察し…も。出來かねますけども、さすがに…

 髙。死んだ人間はみんなむごい。そう思う。だから、あいつもね…(と、庭の方を顎でしゃくり…其の時、額田比呂子は庭に出て電話していたので)むごいめ見てるよ。

 私。共感されるところがあったと。

 髙。理解した。心情を。わかりますよ。わからんけれどもね。遂には。それでも、…ね?わからんわからんと、そればぁ謂うても淋しいでしょうよ。なかなか忘れられない。心の傷は癒えないよ。今でも思い出すよ。雨降ると。6月にな。雨降るとな。

後、私たちは三人で(髙長氏の運転で)墓地に參った。墓地は離れていて(その事の経緯はしらない。比呂子も知ら無かった。おそらく先々代の先々代とかいつかの過去に引っ越してきたということなのだろう)下稲木という山間部の町の寺の裏山にあった(とにかく山、山、山なのだ)。車で十五分程度か(市民会館の前を通り過ぎた。家から山地をくだり山に閉じられた盆地をはしり又山を上る…)。雨。

綠は濃い。

霞む。木の頭のあたりの空氣が。向こうの山の頭に雲がぶつっかって、霧れて山肌を雪崩れる。いくつもの霞の雪崩れ雨の中(ちょうど霧雨程度だったので濡れて參ったのである)先導する比呂子のスポーツ刈りの上に水滴が小さく散っていた。

 山霧れる霧の露にし濡れめやも

 駈ける鼠もひそむ河蛙も

思い附きの戯れ哥。詞は山の命を思ふ、とでも。又

 心なき雲の歎きぞ刈る髪に

 ゆれる雫し零れ落つらん

代々の墓地ということなのだろう。二十ばかりの墓石。いくつか石を置いただけのものもある。その石が墓地だ気附いたのは比呂子がそこにも線香を立てていたからである。墓石を覆って樹木が山肌に斜めにかたむく。葉の繁茂の下もはや雨粒は落ちない。空中に舞う霧れた水滴がときに肌に感じられた。ここだという。見れば眞新しい墓が雙つ。片方が父親額田洋一郎、片方が比呂斗ということなのか。どちらの比呂斗なのだろう?…眞新しい墓石は二つしかない…あるいは、兄比呂斗(或は息子比呂斗)は父の墓石の下に同じく葬られているということなのか?

此の時の談話。

 比。私、主人には云ったんですけど…

 髙。何?(事あるごとにいちいち御主人が相槌を打つ、とはいえ嫌な感じはない…実際、仲のいい…少なくとも中の密な夫婦なのだ)

 比。比呂くんの…

 私。昨日の?

 比。比呂くん、よく出て來るの…

 髙(私に。但し目線は比呂子からはずさず)。見るって謂うんですよね。こいつ。

 私。(亡靈、といいかけて)魂?

 比。か、どうか、そういうことばが相應しいのかどうか、私の心の問題かもしれないし

 私。そんなことない。ぜんぜん、

 髙。いや、わからないから。

 私。見ててぜんぜんおかしいとろこは、

 髙。わからない。心の傷は…俺もわかる。

 比。わからないけど

 髙。深いよ(と私を見て)深いから。








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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