多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説3


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



(承前)

 問。それから?

 答。それだけ。おとうさん、子供だね。

 問。なんだよ?

 答。それから?それからって話があるみたいに話しさせるの子供だよ。子供じゃないけど、子供っぽい、子供らしくなけど、子供だよ。

 問。それだけ?

 答。みんな、居るんだよ。

 問。その海に?

 答。それ、夢ね。いまのは、夢じゃないよ。ごめんね。みんな、いまも、ここにいるよ。

 問。だれ?笠原のおっちゃんとか?(母方叔父。此の年の前年に大阪で孤独死。)

 答。かさじいもいるけど。みんな。おとうさんも。お爺さんも。おかあさんも。お母さんの、まだ生まれないお母さんの未來の生まれてないお母さんも。みんな。死んだ人も。生きてる人も。生まれてない人も。

 問。待って。なに?魂?…みたいな?

 答。ぼく(保久)、あたまおかしい?

 問。なんで?

 答。だって(多(阿引)弖)ぼくがこのはなしみたいなの、話すと、だれ(多禮)も、みんなね。みんなもだよ(多於(引))みんなもへんなかこするよ。

 問。過去?

 答。顏だよ。

 問。みんなってだれ?

 答。安原先生。(小學校担当敎諭、女性。)

 問。安原先生だけ?

 答。でも先生すきだよ。いい先生だね。結婚できないけどね。

 問。未來見たの?

 答。誰が?

 問。安原先生、結婚できない未來、見えた?

 答。性格惡いから。結婚する人いない。

 問。過去が見えるの?

 答。過去?

 問。ちがう。顏?

 答。あるよ。いっぱい。手も。足も。

 問。誰の?

 答。皆の。

 問。死んだ人?

 答。みんな…暗いけど、あざやか(アシァヤカ)。きらきらして、まっくろな、

 問。むずかしいな、めちゃくちゃ。

 答。みんな、燃えてるよ。

 問。熱いね。

 答。燃えないよ。焰が、…眼とか。炎が。

 問。こわいね。

 答。ぼくもだよ。

 問。お前も?

 答。ぼくもくろくて、きらきらしてて、燃えてるよ。

 問。生きてるのに?

 答。匂う。花の匂い。花の…砂糖いっぱいの、ジュースみたいな、花のいっぱいのジュースみたいな、花の甘い匂い。

 問。そのひとが、敎えてくれたの?

 答。何を?

 問。未來を。

 答。敎えてないよ。ひとりごと話し續けてる。

 問。じゃ、なんでおじいちゃんの未來見たの?

 答。見てない。見たけど。でも、いま、見てない。知ってるだけ。もう、知ってるから、知ってただけ。

 問。おじいちゃん、お前が、…

 答。後悔してない。

 問。後悔?

 答。仕方ないから。だからね、人間、いなくなるよ。

 問。みんな死んじゃうの?

 答。死なない。もっとすっごい生き物になる。

 問。どんな?

 答。かたちないよ。ぐちゃくちゃ。木に張り付いたり、壁に張り付いたり、めちゃくちゃ。でも、もう死なないよ。燒いたら死ぬけど。

 問。順番に敎えてよ。

 答。風邪がはやるの。風邪みたいなの引くと、變るの。風邪のせいじゃないけど、躰の中がいろいろなって、變るの。ぜんぜん、自由だよ。

 問。なにが?なにが變るの??

 答。いきもののかたち。いきものの…いのちのかたち。

 問。だったら、いいじゃん。死なないんでしょ。

 答。でももう人間じゃないよ。別のものだよ。

 問。じゃ、顏は?魂?…燃えてる人たちは?

 答。關係ないじゃん。あったものはあったんだから。ずっとあるよ。昨日とか今日とか、あんなのぜんぶ嘘だよ。ぼくらがそう思ってるだけ。頭わるいから。昨日とか今日とか、全部一緒だよ。

 問。人間居なくなるの?

 答。全部、いなくなるよ。シンス(新種?)がぜんぶ食っちゃうから。

 問。シンス?

 答。ゆとんも食われたから。かみついたから(今思うに、神‐憑く?私見)。だからぼく(保久)は殺した。ぼく(保久)らは、にんげん(邇ン祁ン)として、死にたかったから。ぼく(保久)伊波良志邇伊久。

 問。いはらしにいく?

 答。知らない?…多分知らないね。岡山にあるよ。遠くない。福山の鄰り。

 問。茨市。

 答。知ってる?

 問。名前は。名前だけ、…岡山?どうしたの?

 答。ぼく(保久)が生きてるうちに、…

 問。シンスに喰われるまえに?

 答。ぼくは食われないよ。生まれ變わった次の僕だから。

 問。今のお前が、眞夜が死ぬの?

 答。たぶん、人間以下になる。

 問。以下?

 答。そういう扱い。その前に、お父さんとお母さんに…

 問。俺は?じゃ、俺、誰?

 答。眞夜羽のぼく(保久)のおとうさんじゃん。違う、

 問。未來の?

 答。昔の。比呂登のお父さんとお母さんに、逢う。

 問。前世?

 答。いまでも、時々泣いてた。泣いてる。泣く。知ってる。今も、お母さん、…奴麻多比呂古。ひろこさん…

此の時に既に十分以上経過していた爲、和哉は会話を打ち切り歸宅する。此の時聞き取ったのは、ヌマタヒロコ、ヌマタヒロトの名前。この日インターネットで検索する。岡山、茨、沼田、ひろこ、と。めぼしいものは當たらず。妄想を疑う。若年性の精神疾患か、成長の過程に伴う空想的な障害なのか、云々。此の時和哉は誰にも相談していない(息子の頭の中が、急に遠く感じて。その感じ、共有したくなっていうか。できないというか、云々)。

數日後ツアー客を案内する(社員旅行、楢リゾート關發株式会社)。その名簿の中に額田姓のあるのを見て思いつく、ぬかたひろこ、と。歸宅後検索し、岡山県茨市西蠅原町在住の額田比呂子のフェイスブックを見つける。但し見たところせいぜい二十代半ばであって、子供に死に別れたと見えない。不審に思う(單純に二十歳前後で眞夜羽の前世と死に別れていたなら、十代の出産でなければならない)。

 埠で會話した日の翌日、朝、月曜日。(是は佐伯某宅での一回目の會合では和哉話さず。後に話した。二日後にLine通話した時。雜談で。…そういえば云々、と)

 晴れ。早朝庭でストレッチ(ラジオ体操)和哉と眞夜羽の日課。(最初の夏休みから。島の小學生は夏休みの朝に地域で集まってラジオ体操するから。その流れで…(和哉の話))眞夜羽体操途中でやめる。いきなり笑いだす。和哉問う、どうした?(どうしたんならぁていゆうたんですわ、そしたら…)だって燃えてるから、と眞夜(もえとるんで、もえとるんじゃもん)和哉、例の「昏いあざやかな顏」の話だと理解。取り合わない(きこえないふりしたんですわ。きみわるいからな、…でしょうよ?——個人的な疑い。息子に對して此の父親にはある種の冷淡さがある、と。かつて結婚に失敗し子供も三歳までしか育てなかった男の單なる個人的印象として(判る?)。あくまで)。

 和哉云うには此の頃、和哉、インターネットで幼年期の妄想障害等について調べていたらしい。

 夏。7月の頭くらい(是は和哉の談話)。「ただなんとなく」「たまたま」先の額田比呂子のフェイスブックを見た。(土産物屋の営業中に。暇な時に。店で。和哉曰くパソコンにブックマークしていた。)二番目に新しい記事を見る(問、その額田さんのページに入ったんですか?答、そうです。それ、ブックマークしてて云々)百合の花の写真の接写。加工あり。今日は比呂くんの命日でした…忘れてないよ(改行)わすれられないからね。和哉曰く、背筋に冷たいもの走りましたよ云々。此の日は何もしない。誰にも告げず。(後、個人的にそのフェイスブックを確認したら、日付は7月8日付け。)

 一週間後。メッセージを送る。

 (7月20日)

 和。突然すみません

 広島の宮島に住んでいる眉村というものです

 いきなり、あやしいとおもうんですが、ちょっと相談したいことがあります

 連絡していいですか?

 是には返信なし。

 (7月21日)

 和。あやしいですよね?読むだけ読んでくれますか?

 すみません長いです

 子供がいるんですが6歳です

 子供が突然生まれ変わりだと言い始めました

 信じてなかったんですが沼田ひろとだと言いました

 沼田ひろこの息子だったと言いました。

 岡山の茨です

 沼田さん調べたんですが

 ネットで

 出てこない

 もしかと(註、もしかしてと)思って額田さんで検索したらあなたが出てきました

 失礼しますちょっと見たんです

 息子さんいました?比呂斗くんですか?なくなりました?

 6年前とか7年前とかですか?

 ぞっとしてて

 失礼しました

 たすけてほしいんです

 連絡あれば幸せですが

 (同日)

 比呂子(以下略記、比)。そうですけど。なんですか?

 (7月22日)

 和。息子の写真送ります

 信じてほしい。信じられないの、あやしいの、十重(儘)わかるんで

 添付画像。和、となりに眞夜(3歳くらい?)を抱く深。和の自撮り。

 (同日)

 比。くわしく、おしえて







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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