多香鳥幸謌、附眞夜羽王轉生——小説2
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
(承前)
和哉の話がこのあたりに來た時深雪、不意に泣き出して仕舞う。佐伯祖母がなだめる。佐伯母は不審な目をして居た。私は抑々親子關係に問題があるに違いなく思っていた。故いちいち深雪を観察しさえすれなだめるべき必然を感じなかった。概ね虐待者は犠牲者に似る。
深。大丈夫です。
祖母。どうしてないちゃうの。泣いちゃうようなところじゃないでしょうよ。
深。それまで、わたしたち、本當に幸せだったんですよ。本当ですよ。
云々。
祖母がなだめる。曰く今も幸せじゃないの。なに莫迦言ってるの。これからもっと幸せになるわよ云々。なだめ詞はいつでも支離滅裂なもの。騰毗は眉一つ動かさず。不愉快になる。どこまでも他人事だから。尤も人眼にはわたしも同じだったに違いない。觀察者はつねに冷酷なもの…
二日後、スケッチブックに落書きをする(祖父眞砂の趣味が書と水墨画だった爲、眞夜羽は早くからスケッチブックと色鉛筆を与えられていた(深、クレヨンだと、色の微妙なニュアンスが描けないってお爺さんが言って。私、でも、抑々子供にそんな感性ありますかね?深、描けば身につくって。おじいちゃんが。やさしいおじいちゃんで。私。いつなくなられたんですか?深。一年前…この子、四つとか。泣くんです。人の死なんで理解できないでしょうに。さんざん泣いたんですよね。一人前に。やっぱり、悲しくって。云々))その落書きを見ればただ字のみ書いて有る。(深雪持参のものを見る。撮影する。)
登伎士久曾
由伎波布利都都
登伎士久曾
由伎波布禮騰母
登伎士久曾
波那能碁登
由伎布留母能乎
阿禮波波那迦夜
阿禮波波那迦夜
但し書き損じ散見される。例えば久字をク字、能字の月が日になっている、曾は一に口に日等。今改。見せながら深雪、私に問う。これ、意味があるんですか?
私。たぶん、雪がずっと降ってる。花のように。あれは花かな?ひょっとして花かな?
深。やっぱり。佐伯先生にもそう云われました。
見ると佐伯騰毗は如何にも興味なさげにスマートホンを弄り始めていた。
深雪は息子の異變に氣付けどもその時は捨て置く。但し息子に不穏の氣配を感じ始めた。(曰く、喉に吐くに吐けない(物理的に口より大きすぎて吐くに吐けない、と。)やわらかい味のある塊りを飲み込んでくるしんでる感じ云々)
更に数日後、食事時に眞夜羽唐突に言う。
(祖母に)死んだら、何に生まれ変わりたい?
深雪曰く、おばあちゃんに死ねなんて、よく言えるわね、と、わたし叱ったんですよ。(笑う)
一重答えて曰く、また眞夜羽(一重はマユワと呼んでいた。故に此の時も麻由和と云った)ちゃんのおばあちゃんになりたいね。何度生まれ變わっても、おばあちゃんは眞夜(麻由)ちゃんのおばばちゃんになろうね。云々
眞夜羽。無理だよ。お父さんは?
和哉。俺は昔の皇帝になりたいね。中國の。始皇帝とかね。項羽と劉邦とかね。孫子とかね。孔明とかね。
眞夜羽。無理だよ。お母さんは?
深雪。いっそのこと蝶ちょとかいいんじゃない?惱みなくて幸せそう。
眞夜羽笑う。無理だね。無理だけどなりたいね。(深雪、和哉を訂正し、なれたらいいねって言ったんだよ。なりたいなんていってない。云々)
深雪問う(いきなり幸せそうな顏していったんですよ、こいつ(和))。眞夜(麻與)ちゃんは?
眞夜羽云、なんでもいいけど、おじいちゃんを殺したくない。…生きる爲でも、…生き殘る爲でもね、やっぱり…おじいちゃんのこと、好きで殺したわけじゃないからね、僕(保久と發音。眞夜羽には濁音又拗音を落とす傾向があった。ボクをホク、エイギョウチュウをエイキウチウなど)。絶對殺したくて煞してないからね。でも、無理だね(むりらぁね)。殺しちゃったもん(ころしやぁ、たもん)。
和哉曰く、此処で深雪が眞夜羽を怒鳴りつけた、と。何て怒鳴ったんですか?和。理由なんか…(と彼は云った)忘れた…僕も気が動轉してて。云々。
割り込み深雪曰く、違う、と。息を呑んで、その瞬間に気が遠くなって、頭の中が眞っ白だった、と。だからあなたが眞夜羽をひっぱたいたのも止められなかったんですよ、云々(是らすべて方言で發話。おそらく微妙なニュアンスの相違あり歟)
いずれにせよ、
泣きもしないでうつむく眞夜羽に(…と一重が云った。こんこぉゆうたらなきぃもせんでじいっとぉうつむいとるばあでなじゃけんにわたしゆうたんよ、…)一重云、なんで、おじいちゃん殺したなんて言ったの?
但、祖父眞砂は交通事故死である。岡山の親族宅に(農家。ももを取りに來いと云われた、と。桃に殺されればイザナギも歎くか)言った返りの国道でトラックと正面衝突した、と(居眠り運轉)。故、自己の過失死であって他殺ではない。
眞夜羽云、だって、殺しちゃったんだよ。
一重云、殺してなんかないよ。眞夜(麻由)はいい子だもん(麻由阿安衣衣古士也阿祁惠那)
答。ぼく(保久)殺したよ。ビ(比)ルの上から突き落としたんだ(多)よ。
問。おじいちゃん、ビルから死んどらんで(儘。和哉の言った儘。)
答。ぼく(保宇)ふさいっちうくっかかの(未詳但し私もうろ覺え)變なびる(比留)からつきおとすんだ(多)よ。
和。誰が?
答。ぼく(保久)が。
和。誰を?
答。おじいちゃん(於斯(引)知ァン(ァ音はかすれ音。若干、かすかに、纔かに))を、殺すんだ(多)よ。だから(多阿羅)死んだ。ご(古)めんねって言い(由伊)なが(迦)ら殺した。煞したの。生まれ變わったらせめてひろこおとりに成ろうねって。
深。ひろこのおどりって?(笑う)なにそれ?
私は此の時に和哉を遮って眞夜羽に直接言った。比翼の鳥?比翼連理?…と。眞夜羽は始めて私がそこにいたのに気づいたような顏をした。答えないので、わたしは更に云、違う?と。ややあって眞夜羽はただ口を開かずに唇だけで笑む。恥ずかしい程に美しい少女。たかが7歳の。私は問う。だれに聞いたの?なんで讀んだの?漫画?アニメ?此の時は私が眞夜羽に單獨質問するには早すぎたようだった。だれもわたしがそんなことをするのを望んで居なかったのだった。冷や水をあびせて侮辱したような、そんないたたまれない雰囲気があった。だから私は敢えて今なにも質問をしなかったかのような振りをしてそして和哉を見た。興味深く、今も彼の話を聞き続けている人のように。沉黙しわたしから目を逸らしたままの和哉を。
答。波古伊(恐らく古伊音は「はくきょい」の「くきょい」が崩れた音)でしょ。波古伊くらい知って、…波古伊だよ(波古伊久良伊志弖波古伊多與)。おじいちゃんが敎えてくてた。死ぬとき、
一重(以下一)。おじいちゃんはひとりでしんだんじゃからな。
答。ひとりじゃない。
一。ひとりでしんだんで。
答。それじゃない。
一。ひとりじゃが。ひとりで…(和哉なだめる(正確には激昂しかかる一を不快がって手を振って默らせたと深))
答。そのおじいちゃんじゃない。
和。だれ?
答。ゆとん。
爰で、聞きなれない三音に一同須臾沈黙。後すぐさまに深雪が云、なに?と。
答。ゆぅとん。
夢見てるのよ、と深雪はつぶやく、なんども…なんども、ゆめゆめゆめゆうて自分に言いきかせて…云々、そう耳打ちするような聲に私を返り見もしないで云った。
和。誰?
答。雨の中のきり(音は方言であめんなかんきり。霧?桐?切り?乃至かんきり?ただし是は意味不明)…漢字はそう。正確な發音、できない。
一。誰や?
答。ゆうとん。
一。どこのひとや?
答。中國から來た。さいいいっちうくっかかの市場(伊知波)で逢った…話したくない。
和。何で?
ゆめゆめ、…夢を…と深雪独り言散る。故、夢見てる氣がした?と私が尋ね、深曰く、じゃ、なくて、此の子が…と。故私、眞夜波が夢の中にいると?深、眞夜が…と言いかけて默止す)
答。なんとか、するために。
和。なにを?
答。自分たちを。
和。自分たち?
答。生き延びるため?…みたいな
一。死にはしない、だれも、いま、だれも…(しにやぁせんだぁれものしにやぁせんでしにやぁ…)
答。そう。みんな、それも知ってる。死にはしない。
和。だったら、なんで生き延びるの?
答。ほろいるから、…
和。滅びる?
答。死にはしない。…新しくなるから。あたらしいイノチのカタチを手にするだけだから、…
一。それぁ漫画の話しか。
答。未來の話。おじいちゃんは、…ゆぅとんは、ひろこおとりになろうっていって、ほくにころされた。でもしってたよ。なんど生まれかわってもひろこおとりにもれりのぅえらにもなれないけど、ほくは、でも、…ね。ほくはゆぅとんを殺したくはなかった。
和。おじいちゃんが、未來に生まれ變わったのが、ゆとんってひとなの?
一。何人や?宇宙人か?
答。中國人。人種は。フィリピンで逢った。
和。なんで、そんな所にいたの?
答。ここらへんで、そこらへんしかもう生きてられないから。ひとかたがだよ(ひとかたかて(かてハがで。方言))。
和哉曰く、此の時は此處で深雪がもうやめよう、と云った。和哉も一重も云わんとすることは察した。一重曰く、「おかしくなりかけた我が子」を案じる親心が哀れだったと。和哉曰く、こいつ(深)が取り亂してて、眞夜羽どころじゃなくて…云々。
二日後、時機を見て和哉は眞夜羽を嚴島神社近くの海岸に誘う。名目は飼い犬蘭丸の散歩(柴。一か月前死んだ云々)。歩き、埠近くのベンチに座る。
和哉問。お前、未來が見えるの?(冗談めかして。但し、和哉云、此の子はこれがマジの質問だって氣付いてみたいですけどね、云々。佐伯騰毗。何でそう思ったの?和哉。答える答え方が、答えるさきから答えも含めて、答える態度で、なんか憐れんでるんじゃないけど、慮るっていうか、伺い見てて、むしろわざと話、冗談めかすんですよ、こいつは…(概ね儘。但し方言除く))
答。夢は見たよ。
問。夢?…未來の?ゆとんの?
答。ごめん。全然違う話しちゃったね。
問。いいよ。なに?夢見たの?
答。聞きたいでしょう?
問。話したいでしょう?
答。聞きたい?
問。聞かせたい?
答。きかさせた…きられされられ…きかさられ…
問。なに?
答。ちがうね。話させられたいでしょう?
問。話させたいでしょう。
答。話してあげるね。夢の中でね。ぼく(保久)夢だった知ってるんだけどね、夢見ながらね、夢だって知ってて、だから、自分の思い通りに夢、動せるよ。夢、作れるよ。けどね。夢の、夢が夢見る、…夢見られる…夢見させる…そのままに、夢の儘にしてあげた。…そうっと。
ほうっと。
ふうっと。
ぷわって。
ふわぷわわぁって。
海の眞ん中に立ってるよ。波に觸ってるのに、濡れないんだよ。波に搖られてるのに、ゆらゆらしないの。
すごくない?
だから海の眞ん中に立ってね、ずうっと、見てるよ。雪。
問。雪?
答。海に、雪が降ってるんだよ。それをずっとみてるんだよ。
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