古事記(國史大系版・下卷17・安閑・宣化・欽明・敏達)
底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)
・底本奥書云、
明治三十一年七月三十日印刷
同年八月六日發行
發行者合名會社經濟雜誌社
・底本凡例云、
古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり
且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり
(安閑)
‘廣國押建金日‘命坐勾之金箸宮治天下也(廣國、眞本此上有御子二字。命、眞本作王)
此天皇無御子也「[‘乙卯年‘三月十三日崩]」御陵在‘河内之古市高屋村也
([乙卯]云々分注、據眞本補。[三]諸本作[二]又无傍訓。河内之、諸本无之字、宣長云今從眞本)
廣國〔ひろくに〕押建〔おしたけ〕金日〔かなひ〕の命〔みこと〕。
勾〔まがり〕の金箸〔かなはし〕の宮〔みや〕の坐〔ましまし〕て
天下〔あめのした〕治〔しろしめしき〕。
此〔こ〕の天皇〔すめらみこと〕御子〔みこ〕無〔ましましまさざりき〕。
[乙卯年三月〔二字やよひ〕十三日崩。]
御陵〔みはか〕は河内〔かふち〕の古市〔ふるいち〕の高屋〔たかや〕の村〔むら〕に在〔あり〕。
(宣化)
建小廣國押楯命坐檜坰之廬入野宮治天下也(建小、眞本此上有弟字。坰、學本作隈)
建〔たち〕小廣國〔をひろくに〕押楯〔おしたて〕の命〔みこと〕
檜坰〔ひのくま〕の廬入野〔いほりぬ〕の宮〔みや〕に坐〔ましまし〕て
天下〔あめのした〕治〔しろしめしき〕。
天皇娶意祁天皇之御子橘之中比賣命生御子
石比賣命[訓石如石下效此]
次小石比賣命
次倉之若江王
この天皇〔すめらみこと〕
意〔オ〕富〔ホ〕祁〔ケ〕の天皇〔すめらみこと〕の御子〔みこ〕
橘〔たちばな〕の中〔なかつ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
石〔いし〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕[訓(レ)石如(レ)石、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に小石〔をいし〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に倉〔くら〕の若江〔わかえ〕の王〔みこ〕。
又娶川内之若子比賣生御子
火穗王
次惠波王
又〔また〕川内〔かふち〕の若子〔わくこ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕を娶〔め〕しいて
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
火〔ほ〕の穗〔ほ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に惠〔ヱ〕波〔ハ〕の王〔みこ〕。
此天皇之御子等幷五王[男三女二]
故火穗王者[志比陀君之祖]
惠波王者[韋那君多治比君之祖也]
此〔こ〕の天皇〔すめらみこと〕の御子等〔みこたち〕
幷〔あはせ〕て五王〔いつはしら〕。[男〔ひこみこ〕三〔みはしら〕。女〔ひめみこ〕二〔ふたはしら〕。]
故〔かれ〕火〔ほ〕の穗〔ほ〕の王〔みこ〕は
[志〔シ〕比〔ヒ〕陁〔タ〕の君〔きみ〕の祖〔おや〕。]
惠〔ヱ〕波〔ハ〕の王〔みこ〕は
[韋〔井〕那〔ナ〕の君〔きみ〕多〔タ〕治〔ヂ〕比〔ヒ〕の君〔きみ〕の祖〔おや〕なり。]
(欽明)
‘天國押波流岐廣庭天皇坐師木嶋大宮治天下也(天國、眞本此上有弟字)
天國〔あめくに〕押〔おし〕波〔ハ〕流〔ル〕岐〔キ〕廣庭〔ひろには〕の天皇〔すめらみこと〕
師〔シ〕木〔き〕嶋〔しま〕の大宮〔おほみや〕に坐〔ましまし〕て天下〔あめのした〕しろしめしき。
天皇娶檜坰天皇之御子石比賣命生御子
八田王
次沼名倉太玉敷命
次笠縫王[三柱]
この天皇〔すめらみこと〕檜坰〔ひのくま〕の天皇〔すめらみこと〕の御子〔みこ〕
石〔いし〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
八田〔やた〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に沼名倉〔ぬなくら〕太玉敷〔ふとたましき〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に笠縫〔かさぬひ〕の王〔みこ〕。[三柱。]
又娶其弟小石比賣命生御子
‘上王[一柱](上王、延本此上補石字、賀茂本亦同、宣長云恐妄補)
又〔また〕其〔そ〕の弟〔おと〕小石〔おいし〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
上〔かみ〕の王〔みこ〕。[一柱。]
又娶春日之日爪臣之女‘糠子郎女生御子(穅、山本此下有若字)
春日山田郎女
次‘麻呂古王(麻呂古王、諸本无呂王二字、宣長云今從眞本)
次宗賀之倉王[三柱]
又〔また〕春日〔かすが〕の日爪〔ひつま〕の臣〔おみ〕の女〔むすめ〕
糠子〔ぬかこ〕の郎女〔いらつめ〕を娶〔め〕して
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
春日〔かすが〕の山田〔やまだ〕の郎女〔いらつめ〕。
次〔つぎ〕に麻〔マ〕呂〔ロ〕古〔コ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に宗〔ソ〕賀〔ガ〕の倉〔くら〕の王〔みこ〕。[三柱。]
又娶宗賀之稻目宿禰大臣之女岐多斯比賣生御子
橘之豐日命
次妹石坰王
次足取王
次豐御氣炊屋比賣命
次‘亦麻呂古王(亦麻呂古王、種松云亦恐當作袁、古躰相涉而誤者、按書紀作椀子皇子)
次大宅王
次伊美賀古王
次山代王
次妹大伴王
次櫻井之玄王
次麻奴王
次橘本之若子王、
次泥杼王[十三柱]
又〔また〕宗〔ソ〕賀〔ガ〕の稻目〔いなめ〕の宿禰〔すくね〕の大臣〔おほおみ〕の女〔むすめ〕
岐〔キ〕多〔タ〕斯〔シ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕を娶〔メ〕して
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
橘〔たちばな〕の豐日〔とよひ〕の命〔みこ〕。
次〔つぎ〕に妹〔いも〕石坰〔いはくま〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に足取〔あとり〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に豐御氣〔とよみけ〕炊屋〔かしや〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に亦〔また〕麻〔マ〕呂〔ロ〕古〔コ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に大宅〔おほやけ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に伊〔イ〕美〔ミ〕賀〔ガ〕古〔コ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に山代〔やましろ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に妹〔いも〕大伴〔おほとも〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に櫻井〔さくらゐ〕の玄〔ゆみはり〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に麻〔マ〕奴〔ヌ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に橘本〔たちばなもと〕の若子〔わくご〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に泥杼〔とね〕の王〔みこ〕。[十三柱。]
又娶岐多志比賣命之姨‘小兄比賣生御子(小兄比賣、按上宮法王帝説曰支多斯比賣同母弟乎阿尼命)
馬木王
次葛城王
次間人穴太部王(間人穴太部王、眞本太字大)
次三枝部穴太部王
亦名須賣伊呂杼
次長谷部若雀命[五柱]
又〔また〕岐〔キ〕多〔タ〕志〔シ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕の姨〔をば〕
小兄〔をえ/をあね〕比〔ヒ〕賣〔メ〕を娶〔め〕して
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
馬木〔うまき〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に葛城〔かづらき〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に間人〔はしびと〕の穴太部〔あなほべ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に三枝部〔さきくさべ〕の穴太部〔あなほべ〕の王〔みこ〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は須〔ス〕賣〔メ〕伊〔イ〕呂〔ロ〕杼〔ド〕。
次〔つぎ〕に長谷部〔はつせべ〕の若雀〔わかさざき〕の命〔みこと〕。[五柱。]
凡此天皇之御子等幷廿五王
此之中沼名倉太玉敷命者治天下
次橘之豐日命治天下
次豐御氣炊屋比賣命治天下
次長谷部之若雀命治天下也
幷四王治天下‘也(也、諸本无、宣長云今從眞本)
凡〔すべ〕て此〔こ〕の天皇〔すめらみこと〕の御子等〔みこたち〕
幷〔あはせ〕て廿五王〔はたちまりいつはしら〕。
此〔こ〕の中〔なか〕に沼名倉〔ぬなくら〕太玉敷〔ふとたましき〕の命〔みこと〕は天下〔あめのした〕治〔しろしめし〕き。
次〔つぎ〕に橘〔たちばな〕の豐日〔とよひ〕の命〔みこと〕も天下〔あめのした〕治〔しろしめし〕き。
次〔つぎ〕に豐御氣〔とよみけ〕炊屋〔かしや〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕も天下〔あめのした〕治〔しろしめし〕き。
次〔つぎ〕に長谷部〔はつせべ〕の若雀〔わかさざき〕の命〔みこと〕も天下〔あめのした〕治〔しろしめし〕き。
幷〔あはせ〕て四王〔よはしら〕も天下〔あめのした〕治〔しろしめし〕ける。
(敏達)
‘沼名倉太玉敷命坐他田宮治天下‘壹拾肆歲也
(沼名、眞本此上有御子二字。他、卜本眞本作池非是。壹、眞本无、宣長云據前後例非是)
沼名倉〔ぬなくら〕太玉敷〔ふとたましき〕の命〔みこと〕
他田〔をさだ〕の宮〔みや〕に坐〔ましまし〕て
壹拾肆歲〔とをまりよとせ〕天下〔あめのした〕治〔しろしめしき〕。
此天皇庶妹豐御食炊屋比賣命生御子
‘靜貝王(靜貝、諸本貝作見、眞本作貝、宣長云今從眞本、下同。)
亦名貝‘鮹王(鮹、諸本作鮪、宣長云今從眞本延本)
次竹田王
亦名小貝王
次小治田王
次葛城王
次宇毛理王
次小張王
次多米王
次櫻井玄王[八柱]
此〔この〕天皇〔すめらみこと〕
庶妹〔ままいも〕豐御食〔とよみけ〕炊屋〔かしや〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕娶〔みあひ〕まして、
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
靜貝〔しづかひ〕の王〔みこ〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は貝鮹〔かひだこ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に竹田〔たけだ〕の王〔みこ〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は小貝〔をかひ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に小治田〔をはりだ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に葛城〔かづらき〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に宇〔ウ〕毛〔モ〕理〔リ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に小張〔をはり〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に多〔タ〕米〔メ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に櫻井〔さくらゐ〕の玄〔ゆみはり〕の王〔みこ〕。[八柱。]
又娶伊勢大鹿首之女小熊子郎女生御子
布斗比賣命
次寶王亦名糠代‘比賣王[二柱](比賣王、諸本无王字、宣長云今從眞本)
又〔また〕伊勢〔いせ〕の大鹿〔おほか〕の首〔おびと〕の女〔むすめ〕
小熊子〔をくまこ〕の郎女〔いらつめ〕を娶〔めして〕
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
布〔フ〕斗〔ト〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に寶〔たから〕の王〔みこ〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は糠代〔ぬかで〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の王〔みこ〕。[二柱。]
又娶息長‘眞手王之女比呂比賣命生御子(眞手、諸本无、宣長云今從眞本延本)
忍坂日子人太子
亦名麻呂古王
次坂騰王
次‘宇遲王[‘三柱](宇遲、諸本作宇庭、宣長云今從一本。[三柱]、諸本无、宣長云今從一本)
又〔また〕息長〔おきなが〕の眞手〔まで〕の王〔みこ〕の女〔むすめ〕
比〔ヒ〕呂〔ロ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
忍坂〔おさか〕の日子人〔ひこひと〕の太子〔みこのみこと〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は麻〔マ〕呂〔ロ〕古〔コ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に坂騰〔さかのぼり〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に宇〔ウ〕遲〔ヂ〕の王〔みこ〕。[三柱。]
又春日中若子之女老女子郎女生御子
難波王
次桑田王
次春日王
次‘大股王[四柱](大股、諸本釋紀作大俣下同)
又〔また〕春日〔かすが〕の中〔なかつ〕若子〔わくご〕が女〔むすめ〕
老女子〔おみなこ〕の郎女〔いらつめ〕を娶〔め〕して
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
難波〔なには〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に桑田〔くはだ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に春日〔かすが〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に大俣〔おほまた〕の王〔みこ〕。[四柱。]
此天皇之御子等幷十七王之中
日子人太子娶庶妹田村王亦名糠代比賣命生御子
坐岡本宮治天下之天皇
次中津王
次多良王[三柱]
此〔この〕天皇〔すめらみこと〕の御子等〔みこたち〕
幷〔あはせ〕て十七王〔とをまりななはしら〕之中〔ませるなか〕に
日子人〔ひこひと〕の太子〔みこのみこと〕
庶妹〔またいも〕田村〔たむら〕の王〔みこ〕
亦〔また〕の名〔みな〕は糠代〔ぬかで〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
岡本〔をかもと〕の宮〔みや〕に坐〔ましまし〕て天下〔あめのした〕治〔しろしめし〕し天皇〔すめらみこと〕。
次〔つぎ〕に中津〔なかつ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に多〔タ〕良〔ラ〕の王〔みこ〕。[三柱。]
又娶漢王之妹大俣王生御子
智奴王
次妹桑田王[二柱]
又〔また〕漢〔あや〕の王〔みこ〕の妹〔いも〕
大股〔おほまた〕の王〔みこ〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみまる〕御子〔みこ〕
智〔チ〕奴〔ヌ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に妹〔いも〕桑田〔くはだ〕の王〔みこ〕。[二柱。]
又娶庶妹玄王生御子
山代王
次笠縫王[二柱]幷七王
又〔また〕庶妹〔ままいも〕玄〔ゆみはり〕の王〔みこ〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
山代〔やましろ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に笠縫〔かさぬひ〕の王〔みこ〕。[二柱。]
幷〔あはせ〕て七王〔ななはしら〕。
「[‘甲辰年四月六日崩]」御陵在川内科長也([甲辰]云々分注、據眞本補、諸本无傍訓)
[甲辰年四月〔二字うつき〕六日崩。]御陵〔みはか〕は川内〔かふち〕の科長〔しなが〕にあり。
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