古事記(國史大系版・下卷13・雄略3・歌謠)


底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)

・底本奥書云、

明治三十一年七月三十日印刷

同年八月六日發行

發行者合名會社經濟雜誌社

・底本凡例云、

古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり

且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり



又一時天皇登幸葛城山之時

百官人等悉給著紅紐之青摺衣服

‘彼時有其自所向之山尾登山上人(此時云々、此條宜參攷釋紀十二所引土佐風土記)

既等天皇之鹵簿亦其‘裝束之狀及人衆相似不傾(裝束、眞本作束裝)

爾天皇望令問曰

 於茲倭國除吾亦無王

 今誰人如此而行

即答曰之狀亦如天皇之命

於是天皇大忿而矢刺百官人等悉矢刺

爾其人等亦皆矢刺

故天皇亦問曰

 然告其名爾各告名而彈矢

於是答曰

 吾‘先見問故吾先爲名告(先、諸本无、宣長云今從眞本延本)

 吾者雖惡事而一言雖善事而一言

 言離之神

 ‘葛城之一言主大神者也(葛城之、眞本无之字、釋紀十二與此同)

天皇於是惶畏而白

 恐我大神有宇都志意美者[自‘宇下五字以音]不覺([宇]、卜本寛本此下有[都]字、宣長云今從眞本)

白而大御刀及弓矢始而脱百官人等所服衣服以拜獻

爾其一言主大神手打受其‘捧物(捧物、眞本學本作奉物)

故天皇之還幸時其大神滿山末於長谷山口送奉

故是一言主之大神者彼時所顯也

 又〔また〕一時〔あるとき〕天皇〔すめらみこと〕

 葛城山〔かづらきやま〕に登幸〔のぼりいで〕ませる時〔とき〕

 百官人等〔つかさづかさのひとども〕

 悉〔ことごと〕に紅紐〔あかひも〕著〔つける〕青摺〔あをすり〕の衣〔きぬ〕を給〔たまはり〕て服〔きたり〕き。

 彼〔そ〕の時〔とき〕に其〔そ〕の所向〔むかひ〕の山〔やま〕の尾〔を〕より

 山〔やま〕の上〔うへ〕に登〔のぼる〕人〔ひと〕あり。

 既〔すで〕に天皇〔すめらみこと〕の鹵簿〔みゆきのつら〕に等〔ひとしく〕

 亦〔‐〕其〔そ〕の裝束〔よそひ/すがた〕の狀〔さま〕及〔また〕人衆〔ひとども〕

 相〔あひ〕似〔に〕て不傾〔わかれず〕。

 爾〔ここ〕に天皇〔すめらみこと〕

 望〔みやらし〕て令問曰〔とはしめたまはく〕

  茲〔こ〕の倭〔やまと〕の國〔くに〕に吾〔あれ〕を除〔のぞき〕て亦〔また〕王〔きみ〕は無〔なき〕を

  今〔いま〕誰人〔たれ〕ぞ如此〔かく〕て行〔ゆく〕。

 ととはしめたまひしかば卽〔‐〕答曰〔こたへまをせる〕狀〔さま〕亦〔も〕

 天皇〔すめらみこと〕の命〔おほみこと〕の如〔ごとく〕なりき。

 於是〔ここに〕天皇〔すめらみこと〕大〔いたく〕忿〔いからし〕て矢〔や〕刺〔さし〕たまひ

 百官人等〔つかさづかさのひとども〕悉〔ことごと〕に矢〔や〕刺〔さしけれ〕爾〔ば〕

 其〔か〕の人等〔ひとども〕亦〔も〕皆〔みな〕矢〔や〕刺〔させり〕。

 故〔かれ〕天皇〔すめらみこと〕亦〔また〕問曰〔とはしたまはく〕

  然〔しから〕ば其〔そ〕の名〔な〕を告〔のらさね〕。

  爾〔‐〕各〔おのもおのも〕名〔な〕を告〔のり〕て矢〔や〕彈〔はなたむ〕。

 とのりたまひき。

 於是〔ここに〕答曰〔こたへまをさく〕

  吾〔あれ〕ぞ先〔まづ〕見問〔とはえたれ〕故〔ば〕吾〔あれ〕先〔まづ〕名〔な〕告〔のり〕爲〔せむ〕。

  吾〔あ〕は雖惡事〔まがごとも〕一言〔ひとこと〕

  雖善事〔よごとも〕一言〔ひとこと〕。

  言離〔ことさか〕の神〔かみ〕。

  葛城〔かづらき〕の一言主〔ひとことぬし〕の大神〔おほかみ〕なり。

 とまをしたまひき。

 天皇〔すめらみこと〕於是〔‐〕惶畏〔かしこみ〕て白〔まをし〕たまはく

  恐〔かしこき〕我〔あ〕が大神〔おほかみ〕

  宇〔ウ〕都〔ツ〕志〔シ〕意〔オ〕美〔ミ〕有〔まさむ〕とは[自(レ)宇下五字以(レ)音]不覺〔さとらざり〕き。

 と白〔まをし〕たまひて

 大御刀〔おほみたち〕及〔また〕弓矢〔ゆみや〕を始〔はじめ〕て

 百官人等〔つかさづかさのひとども〕の所服〔けせる〕衣服〔きぬ〕を脱〔ぬがしめ〕て

 以拜〔おがみて〕獻〔たてまつり〕き。

 爾〔かれ〕其〔そ〕の一言主〔ひとことぬし〕の大神〔おほかみ〕

 手打〔てうち〕て其〔そ〕の捧物〔ささげもの〕を受〔うけ〕たまひき。

 故〔かれ〕天皇〔すめらみこと〕の還幸〔かへります〕時〔とき〕

 其〔そ〕の大神〔おほかみ〕滿山末〔やまをめぐりまして〕

 長谷〔はつせ〕の山〔やま〕の口〔くち〕に送奉〔おくりまつり〕き。

 故〔かれ〕是〔こ〕の一言主〔ひとことぬし〕の大神〔おほかみ〕は

 彼〔そ〕の時〔とき〕にぞ所顯〔あらはれませる〕。


又天皇婚丸邇之佐都紀臣之女袁杼比賣幸行于春日之時

媛女逢道

卽見幸行而逃隱岡邊

故作御歌‘其御歌曰(其御歌曰、諸本无御字、宣長云今從眞本)

 袁登賣能 伊加久流袁加袁 ‘加那須岐母 伊本知母賀母 須岐婆奴流母能(加那、諸本作那加、宣長云今從延本)

故號其岡謂‘金鉏岡也(金、諸本作全、宣長云今從眞本延本)

 又〔また〕天皇〔すめらみこと〕

 丸〔わ〕邇〔ニ〕の佐〔サ〕都〔ツ〕紀〔キ〕の臣〔おみ〕が女〔むすめ〕

 袁〔ヲ〕杼〔ド〕比〔ヒ〕賣〔メ〕を婚〔よばひ〕に春日〔かすが〕に幸行〔いで〕ませる時〔とき〕

 媛女〔をとめ〕の道〔みち〕に逢〔あへる〕卽〔‐〕幸行〔いでまし〕を見〔み〕て

 岡〔をか〕邊〔び〕に逃隱〔にげかくり〕き。

 故〔かれ〕作御歌〔みうたよみしたまへる〕其〔そ〕の御歌曰〔みうた〕

  袁登賣能〔をとめの〕

  伊加久流袁加袁〔いかくるをかを〕

  加那須岐母〔かなすきも〕

  伊本知母賀母〔いほちもがも〕

  須岐婆奴流母能〔すきばぬるもの〕

   媛女の い隱る岡を 金鉏も 五百箇もがも 鉏き撥ぬるもの

 故〔かれ〕其〔そ〕の岡〔をか〕を謂〔‐〕金鉏〔かなすき〕の岡〔をか〕とぞ號〔なづけ〕ける。


又天皇坐長谷之百枝槻下爲豐樂之時

伊勢國之三重‘婇指擧大御盞以獻(婇、諸本作妹〔をとめ〕、宣長云今從眞本又一本、下傚此)

爾其百枝槻葉落浮於大御盞

其婇不知落葉浮於盞猶獻大御酒

天皇看行其浮盞之葉打伏其婇

以刀刺充其頸將斬之時

其婇‘白天皇曰(白、卜本寛本作曰、宣長云今從眞本)

 莫殺吾身

 有應白事

卽歌曰

 麻岐牟久能 比志呂乃美夜波

 阿佐比能 比傳流美夜

 由布比能 比賀氣流美夜

 多氣能泥能 泥陀流美夜

 許能泥能 泥婆布美夜

 夜本爾余志 伊岐豆岐能美夜

 麻紀佐久 比能美加度

 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流

 毛毛陀流 都紀賀延波

 本都延波 阿米袁淤幣理

 那加都延波 阿豆麻袁淤幣理

 志豆延波 比那袁淤幣理

 本都延能 延能宇良婆波

 那加都延爾 淤知布良婆閇

 那加都延能 延能宇良婆波

 斯毛都延爾 淤知布良婆閇

 斯豆延能 延能宇良婆波

 阿理岐奴能 美幣能古賀

 ‘佐佐賀世流 美豆多麻宇岐爾(佐佐賀、諸本賀作加、宣長云今從眞本延本)

 宇岐志阿夫良 淤知那豆佐比

 美那許袁呂 許袁呂爾

 許斯母 阿夜爾加志古志

 多加比加流 比能美古

 許登能 加多理碁登母

 許袁婆

故獻此歌者赦其罪也

 又〔また〕天皇〔すめらみこと〕長谷〔はつせ〕の百枝槻〔ももえつき〕の下〔もと〕に坐〔ましまし〕て

 豐樂〔とよのあかり〕爲〔きこしめす〕時〔とき〕に

 伊〔イ〕勢〔セ〕の國〔くに〕の三重〔みへ〕の婇〔うねべ〕

 大御盞〔おほみさかづき〕を指擧〔ささげ〕て以〔‐〕獻〔たてまつり〕き。

 爾〔ここ〕に其〔そ〕の百枝槻〔ももえつき〕の葉〔は〕落〔おち〕て大御盞〔おほみさかづき〕に浮〔うかべり〕き。

 其〔そ〕の婇〔うねべ〕落葉〔おちば〕の盞〔みさかづき〕に浮〔うかべる〕を不知〔しらず〕て

 猶〔なほ〕大御酒〔おほみき〕獻〔たてまつり〕けるに

 天皇〔すめらみこと〕其〔そ〕の盞〔みさかづき〕に浮〔うかべる〕葉〔は〕を看行〔みそなはし〕て

 其〔そ〕の婇〔うねべ〕を打伏〔うちふせ〕

 以〔‐〕刀〔みはかし〕を其〔そ〕の頸〔くび〕に刺充〔さしあて〕將斬〔きりたまはむとする〕時〔とき〕に

 其〔そ〕の婇〔うねべ〕天皇〔すめらみこと〕に白〔まをし〕曰〔けらく〕

  吾〔あ〕が身〔み〕莫殺〔なころしたまひそ〕。

  應白〔まをすべき〕事〔こと〕有〔あり〕。

 とまをして

 卽〔すなはち〕歌曰〔うたひけらく〕

  麻岐牟久能〔まきむくの〕

  比志呂乃美夜波〔ひしろのみやは〕

  阿佐比能〔あさひの〕

  比傳流美夜〔ひでるみや〕

  由布比能〔ゆふひの〕

  比賀氣流美夜〔ひがけるみや〕

  多氣能泥能〔たけのねの〕

  泥陀流美夜〔ねだるみや〕

  許能泥能〔このねの〕

  泥婆布美夜〔ねばふみや〕

  夜本爾余志〔やほによし〕

  伊岐豆岐能美夜〔いきづきのみや〕

  麻紀佐久〔まきさく〕

  比能美加度〔ひのみかど〕

  爾比那閇夜爾〔にひなへやに〕

  淤斐陀弖流〔おひだてる〕

  毛毛陀流〔ももだる〕

  都紀賀延波〔つきがえは〕

  本都延波〔ほつえは〕

  阿米袁淤幣理〔あやをおへり〕

  那加都延波〔なかつえは〕

  阿豆麻袁淤幣理〔あつまをへり〕

  志豆延波〔しづえは〕

  比那袁淤幣理〔ひなをおへり〕

  本都延能〔ほつえの〕

  延能宇良婆波〔えのうらばは〕

  那加都延爾〔なかつえに〕

  淤知布良婆閇〔おちふらばへ〕

  那加都延能〔なかつえの〕

  延能宇良婆波〔えのうらばは〕

  斯毛都延爾〔しもつえに〕

  淤知布良婆閇〔おちふらばへ〕

  斯豆延能〔しづえの〕

  延能宇良婆波〔えのうらばは〕

  阿理岐奴能〔ありぎぬの〕

  美幣能古賀〔みへのこが〕

  佐佐賀世流〔ささがせる〕

  美豆多麻宇岐爾〔みづたまうきに〕

  宇岐志阿夫良〔うきしあぶら〕

  淤知那豆佐比〔おちなづさひ〕

  美那許袁呂〔みなこをろ〕

  許袁呂爾〔こをろに〕

  許斯母〔こしも〕

  阿夜爾加志古志〔あやにかしこし〕

  多加比加流〔たかひかる〕

  比能美古〔ひのみこ〕

  許登能〔ことの〕

  加多理碁登母〔たかりごとも〕

  許袁婆〔こをば〕

   纏向の 日代の宮は

   朝日の 日照る宮

   夕日の 日翳る宮

   竹の根の 根足る宮

   木の根の 根延ふ宮

   八百土よし い杵築きの宮

   眞木拆く 桧の御門

   新嘗屋に 生ひ立てる

   百足る 槻が枝は

   秀つ枝は 天を覆へり

   中つ枝は 東を覆へり

   下づ枝は 鄙を覆へり

   秀つ枝の 枝の末葉は

   中つ枝に 落ち觸らばへ

   中つ枝の 枝の末葉は

   下つ枝に 落ち觸らばへ

   下づ枝の 枝の末葉は

   新り衣の 三重の子が

   捧がせる 瑞玉盞に

   浮きし脂 落ち浮づさひ

   水こおろ こおろに

   是しも 奇やに畏し

   高光る 日の御子

   言の 語り言も

   是をば

 故〔かれ〕此〔こ〕の歌〔うた〕を獻〔たてまつり〕しかば其〔そ〕の罪〔つみ〕赦〔ゆるさえ〕にき。


爾大后歌其歌曰

 夜麻登能 許能多氣知爾

 古陀加流 伊知能都加佐

 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流

 波毘呂 由都麻都婆岐

 曾賀波能 比呂理伊麻志

 曾能波那能 弖理伊麻須

 多加比加流 比能美古爾

 登余美岐 多弖麻都良勢

 許登能 加多理碁登母

 許袁婆

 爾〔‐〕大后〔おほきさき〕歌〔うたはしける〕其〔そ〕の歌曰〔みうた〕

  夜麻登能〔やまとの〕

  許能多氣知爾〔このたけちに〕

  古陀加流〔こたかる〕

  伊知能都加佐〔いちのつかさ〕

  爾比那閇夜爾〔にひなへやに〕

  淤斐陀弖流〔おひだてる〕

  波毘呂〔はびろ〕

  由都麻都婆岐〔ゆつまつばき〕

  曾賀波能〔そがはの〕

  比呂理伊麻志〔ひろりいまし〕

  曾能波那能〔そのはなの〕

  弖理伊麻須〔てりいます〕

  多加比加流〔たかひかる〕

  比能美古爾〔ひのみこに〕

  登余美岐〔とよみき〕

  多弖麻都良勢〔たてまつらせ〕

  許登能〔ことの〕

  加多理碁登母〔たかりごとも〕

  許袁婆〔こをば〕

   倭の 此の高市に

   小高る 市の高處

   新嘗屋に 生ひ立てる

   葉廣 五百箇眞椿

   其が葉の 廣り坐し

   其の花の 照り坐す

   高光る 日の御子に

   豐御酒 奉らせ

   言の 語り言も

   是をば


卽天皇歌曰

 毛毛志記能 淤富美夜比登波

 宇豆良登理 比禮登理加氣弖

 麻那婆志良 袁由岐阿閇

 爾波須受米 宇受須麻理韋弖

 祁布母加母 佐加美豆久良斯

 多加比加流 比能美夜比登

 許登能 加多理碁登母

 許袁婆

此三歌者‘天語歌也(天、酉本作文)

 卽〔すなはち〕天皇〔すめらみこと〕歌曰〔うたはしけらく〕

  毛毛志記能〔ももしきの〕

  淤富美夜比登波〔おほみやひとは〕

  宇豆良登理〔うづらとり〕

  比禮登理加氣弖〔ひれとりかけて〕

  麻那婆志良〔まなばしら〕

  袁由岐阿閇〔をゆきあへ〕

  爾波須受米〔にはすずめ〕

  宇受須麻理韋弖〔うずすまりゐて〕

  祁布母加母〔けふもかも〕

  佐加美豆久良斯〔さかみづくらし〕

  多加比加流〔たかひかる〕

  比能美夜比登〔ひのみやひと〕

  許登能〔ことの〕

  加多理碁登母〔かたりごとも〕

  許袁婆〔こをば〕

   百敷の 大宮人は

   鶉鳥 領布取り掛けて

   眞柱 尾行き合へ

   庭雀 群集り居て

   今日もかも 酒水食らし

   高光る 日の宮人

   言の 語り言も

   是をば

 此〔こ〕の三歌〔みうた〕は天語歌〔あまことうた〕なり。

故於此豐樂譽其三重婇‘而給多祿也(而、卜本寛本无、宣長云今從眞本延本)

 故〔かれ〕此〔こ〕の豐樂〔とよのあかり〕に其〔そ〕の三重〔みへ〕の婇〔うねべ〕を譽〔ほめ〕て

 祿〔もの〕多〔さは〕に給〔たまひき〕。


是豐樂之日亦春日之袁杼比賣獻大御酒之時

天皇歌曰

 美那‘曾曾久 淤美能‘袁登賣(曾、一本作斗。袁登賣、卜本寛本无袁字、宣長云今從眞本延本)

 ‘本陀理登良須母 本陀理‘斗理

(本、寛本拆夫、卜本作大、宣長云今從眞本。斗、諸本作計、眞本作許、宣長云今從延本及契沖本、下傚此)

 加多久斗良勢 ‘斯多賀多久(斯多賀多久、諸本賀下有加字、宣長云今從眞本)

 ‘夜賀多久斗良勢 本陀理斗良須古(夜、宣長云或當作麻)

此者宇岐歌也

 是〔こ〕の豐樂〔とよのあかり〕の日〔ひ〕

 亦〔また〕春日〔かすが〕の袁〔ヲ〕杼〔ド〕比〔ヒ〕賣〔メ〕が

 大御酒〔おほみき〕獻〔たてまつる〕時〔とき〕に天皇〔すめらみこと〕の歌曰〔うたひたまへる〕

  美那曾曾久〔みなそそく〕

  淤美能袁登賣〔おみのをとめ〕

  本陀理登良須母〔ほだりとらすも〕

  本陀理斗理〔ほだりとり〕

  加多久斗良勢〔かたくとらせ〕

  斯多賀多久〔したがたく〕

  夜賀多久斗良勢〔やがたくとらせ〕

  本陀理斗良須古〔ほだりとらすこ〕

   水灑ぐ 臣の孃女

   秀だり取らすも 秀だり取り

   堅く取らせ 下堅く

   や堅く取らせ 秀だり取らす子

 此〔こ〕は宇〔ウ〕岐〔キ〕歌〔うた〕なり。


爾袁杼比賣獻歌其歌曰

 夜須美斯志 和賀淤富岐美能

 阿佐斗爾波 伊余理陀多志

 ‘由布斗爾波 伊余理陀多須(由布斗、宣長云眞本延本斗作計、今從舊印本又一本又一本)

 ‘和岐豆紀賀 斯多能(和岐、卜本寛本作知岐、恐非)

 伊多爾母賀 阿世袁

此者志都歌也

 爾〔ここ〕に袁〔ヲ〕杼〔ド〕比〔ヒ〕賣〔メ〕歌〔うた〕獻〔たてまつれる〕其〔そ〕の歌曰〔うた〕

  夜須美斯志〔やすみしし〕

  和賀淤富岐美能〔わがおほきみの〕

  阿佐斗爾波〔あさとには〕

  伊余理陀多志〔いよりだたし〕

  由布斗爾波〔ゆふとには〕

  伊余理陀多須〔いよりだたす〕

  和岐豆紀賀〔わきづくが〕

  斯多能〔したの〕

  伊多爾母賀〔いたにかも〕

  阿世袁〔あせを〕

   やすみしし 我が大君の

   朝戸には い倚り立たし

   夕戸には い倚り立たす

   脇机が 下の

   板にもが 吾兄を

 此〔こ〕は志〔シ〕都〔ツ〕歌〔うた〕なり。


天皇御年壹佰貳拾肆歲「[‘己巳年八月九日崩也]」([己巳]以下分註、據眞本及他諸本補)

御陵在河内之多治比高‘鸇也(鸇、寛本作嶋、卜本作鵄、宣長云今從眞本延本、舊事紀亦作鸇、書紀作鴐)

 この天皇〔すめらみこと〕御年〔みとし〕壹佰貳拾肆歲〔ももちまりはたち〕。[己巳年八月九日崩也。]

 御陵〔みはか〕は河内〔かふち〕の多〔タ〕治〔ヂ〕比〔ヒ〕の高鸇〔たかわし〕に在〔あり〕。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000