天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説13


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



それでも聞いた耳元にすぐちかくに笑った聲たぶん阿由哿の聞いた沙羅はだからそっと目をひらきかけた瞬間に思い出す沙羅は夢

と沙羅はこゝろに夢をだから沙羅は夢を見ていた

とひとり心にわたしは

と沙羅は見ていた

とその目の開いた網膜かたちを色をみていることだにもわすれて故に夢を

とさゝやきひとりで

とそのこゝろにだけさゝやき置き去りにして

と誰にも秘密にしたつもりもなくて沙羅はひとりあなたを

とひとりで置き去りにして

と夢を見たとつぶやき見ていた夢を沙羅はまばたきの内その須臾のうちにも空うす紫に染まる空燃えるその紫の空に燃え上がるそれ鳥空の巨大な逆光に色の無い鳥ひとり空のただなかに燃え上がるのを沙羅はだから耳元に聞く聲それ死人ら翳り陽炎その聲故れ斯毗登哿多羅玖かく聞きゝ故レ宇陁我破ノ哿耶伽ひトり彷徨ひ日に打たレすれ違フ比登と比登らことごトくに渇きゝ故レ時にガソリンを路上そノ頭にかブりテ火を放ツかくて躬づからノ躬の燒け焦げアがるに喚ク且つハ叫く且ツは號ブ且つは聲なクひた走れり又ひタ踊れり又ヒた暴レり爾にすデに比登と比登らがこトごトくは狂氣セり故レ狂人と狂人ラ步き彷徨ヒて步くウちに伽耶哿ひとり不死ノ山を見キ厥レ山肌乾きゝ厥れ雪ダに干上がりき故レ厥レ圡のみ曝しタりきかクて樹海に入りテ哿耶伽見き樹海だにも已に干からびたルを且つは枯れ枝と枯レたる樹肌を乾かシたるヲ且つハ枯レ枝と枯レたる樹肌を朽チさすを故レ哿耶伽ヒとり滅ビの樹木の渇きノ屍の海にそノおびただしき翳りノ下を這ひきカくテ伽耶伽爾に娑娑彌氣囉玖

 降ってくる

  あ…と

 塊りのように

  さゝやきかけて

 大きすぎる

  あ…と

 あまりにも巨大な

  つぶやきかけて

 塊りのように

  それでもなぜか

 光りは

  ことばをうしない

 枯れた死屍の翳りを散らして猶も

  だから沉默をきいた

 塊りのように

  だから沉默をきいた

かクて迦夜香

  あらゝぐ息に

爾に

  わたしの喉の

都儛耶氣良玖

 登った。

 不死ノ山を。

 その崖を。

 傾斜を。

 その磐肌を。

 轉がり落ちる小石のかたわら。

 登った。

 這う。

 這いのぼった。

 蜥蜴のように?

 這う。

 毛虫のように?

 這う。

 蚯蚓のように?

 這う。

 甲殻虫のように?

 這う。

 翅の折れた蛾のように。

 這う。

 翼の腐った蝶のように。

 這う。

 翅を喰われた羽蟲のように。

 這う。

 餓えの故に。

 自分の翼をさえ喰った羽蟲のように。

 覩た。

 羽蟲のように。

 やがて。

 羽蟲のようなその複眼に?

 見た。

 軈而。

 頭の千切れた蛾のように?

 その殘存した複眼で?

 わたしの裸眼に。

 霑いしたゝる霧は霧れた。

 冷ややんで。

 霑いしたゝる霧は霧れた。

 思った。

 霧れる白濁。

 切れ目もなく。

 肌を濡らす靄。

 髮さえも。

 濕った。

 眉さえも。

 濕った。

 睫毛さえも。

 濕った。

 だから網膜さえも。

 波紋。

 ひろがる。

 しずかないっぱいの水の面に。

 見た。

 心に。

 わたしは。

 霧れる白濁のおぼろげなうつろ。

 拡がる模樣を。

 心に。

 わたしは。

 むしろ眼こそは。

 ひらいた裸眼は。

 片目のつぶれた蝶の裸眼は。

 蟲に抉り出された蛾の裸眼は。

 抉り出した羽蟲の裸眼は。

 立ちのぼった。

 だから霧はゆらめきあがる。

 かさなりあった。

 だから霧はしたゝりおちる。

 水滴の群れ。

 まるで玉散る飛沫。

 碎けるしずくの無際限にも思われて。

 肌は霑れていた。

 顯らかに。

 わたしの肌は。

 肌の渇きは。

 渇きを盈たす。

 細胞の群れは。

 渇きに盈ちた殲滅の肌。

 その荒廢は。

 渇きを滿たす。

 渇きを癒す。

 すべては癒える。

と沙羅はさゝやくだから

と阿由迦はさゝやくなに?

と阿憂迦の問いかけるまもなく眼を閉じた沙羅はひとりで思った云ったこころのうちにだけ自分にだけ聞こえたことばでいつか見た

とはじけた

と遠いむかしの葉の茂りのうちのひとつに

とはじけた

とゆらぐ朝の雫の玉散るのをみたそのはじけちるのをとさゝやけばかくて眼の中に死人その翳り迦偈呂比弖斯毗登迦多羅久かクて迦夜加爾に眼を覺まシき故レ哿夜果躬ヅからが失神シたるに氣付きゝ故レ迦夜躬ヅからノ失神より覺醒シたるに氣ヅきゝ加夜果め覺メて先ヅは花の匂ひヲ嗅ぎゝ是レ焦げタる果肉の匂ヒに似たりて香ばシく且つは霑ハしかリき次にひらキたる眼差シを掩へる花の花々の無數ノ色を見キ是れ眞珠ノ色なす白地の端に紫に近キ紅の濃きをほノかにふチどりたりきかクて迦夜果ひトり身をもたげレば迦夜果ハ見き厥レ周圍沙漠なス荒れ野のみ拡がりタるを厥レ果テも地平線だにもなクに沙をのミ敷きツめたりきかクて迦夜果がカたわラ左右に雙樹あり沙漠ノ廣大に樹木その雙ツあるのみなり爾に雙樹そノ葉枝ひろげたりき雙樹の葉枝ヲ花おびたダしくも掩ヒき故レ雙樹の葉枝花ト花々の繁レるに隱れたりき散る花弁舞ヒ散り迦夜香ガ上に降りつモりきかクて迦夜果ひとり見テ見まわシて娑娑彌氣囉玖

 覆われる

  鳥の聲も

 降る花の匂いに

  蝶の羽搏き

 押しつぶされる

  その音さえも

 降る花の匂いに

  なにもなく靜寂

 匂いたち

  たゞ響く

 降る沙漠に纔かの風さえ

  こすれあう花の

 もはやないから

  花のかすかなざわめきだけ

かくて迦夜香

  花々だけはその花辨に

爾に

  ふれあいをかさねた

都儛耶氣良玖

 ——大丈夫?

 と。

 聲。

 頭の後ろに。

 聲。

 その聲。

 男の。

 聞いた。

 聲を。

 ——…ね?

 と。

 ひたすらにやさしく。

 無條件にやさしく。

 泣き臥したくなるほどにたゞやさしくしかない聲を。

 ——大丈夫?

 振り向いた。

 わたしは。

 不意に耳元に笑いかけられたなつかしい誰かの?

 そんな聲に。

 だからわたしは振り向く。

 ——目、覺めたね。

 と。

 笑う。

 おもわずに。

 わたしは。

 笑う。

 ひとりで。

 なぜ?

 おかしくもないのに。

 むしろ心はひたすらに切なく。

 たゞ無防備なまでに絶望し。

 絶望しすなおに力つき。

 力つきすでに紛いようもなく悲しく。

 笑った。

 わたしはひとりで。

 ひそめることなど。

 まさか。

 隱す氣さえなくて。

 まさか。

 單に素直に。

 だから私はひとりで笑っていた。

 聲もなく。

 わなゝく唇と頬の筋肉にだけ。

 うつくしい人。

 まなざしは見た。

 その稀なほどに美しい人。

 その頭の片方。

 いたゝまれないほどにうつくしい人の頭の左の片方に伸びたそれ。

 虛空に突き刺さる牡鹿の角を。

 繁りあう枝のつらなりのように。

 覆い隱した。

 そこに擴がってるべきだった虛空を。

 だからそれは角。

 雲の巢を散らすにも似た。

 それは角。

 見た。

 わたしは彼の鹿の角を。

 しなやかに伸び、だから笑った。

 わたしはひとりで。

 ——あなたが、…ね?

 と。

 ——ひとりで倒れてたから…

 彼は云った。

 ——磐の影に。ひとりで…

 さゝやく聲で。

 ——だから…

 耳元に息を吹きかけたように。

 ——大丈夫。

 艷のある音色。

 ——安心していい。…

 わたしのまなざしの中にだけひとりで立って。

 ——なにも…

 すこし離れた樹木の翳り、花散る翳りに。

 ——僕はなにもしないから…

 四本の足でひとり立ち

 ——安心すればいい。でも

 晒す。

 その白くなめらかな頸すじの肌。

 …比登の肌を。

 ——かならずしも

 鳩尾のくぼみ。

 ——あなたを救ったわけじゃない…

 やがて腹部の下を羞じたように

 ——もちろん、それは…

 鹿の柔毛を茂らせて

 ——助はしたけど…

 しなやかな獸。

 ——僕は何をも救わないから

 牡鹿の下半身。

 ——僕は…

 息づく筋肉。

 ——あなたたちとは違うから。

 野生の太ももは。

 ——ぼくは…

 鹿の躰の四本の足。

 ——だから…

 うかびあがる柔毛の模樣。

 ——ぼくはあなたを救わなかった。

 砂漠の沙をひとりで踏んだ。

 ——ぼくはあなたに同情しなかった。

 彼の足は。

 ——歎かなかった。

 ひとりで立った。

 ——磐の翳りで

 樹木の影に。

 ——たとえあなたが

 散る花の翳りに。

 ——一人で死んでも…

 と。

 花を蹈みしめ。

 ——あなた、だれ?

 わたしはさゝやく。

 ——悲しまなかった。

 彼は云った。

 ——だれ?

 わたしはつぶやく。

 ——ぼく?

 と。

 彼は初めて聞いた顏をした。

 わたしの喉の立てた聲を。

 耀かす。

 その若やいだ白い顏。

 眞珠の色のなめらかな顏を。

 目を閉じてしまえばたぶん思い出せない。

 二度ともう。

 綺麗な。

 まなざしが失えばもう決して思いだせしないほどの。

 見た。

 美しい顏を。

 だから見ていた。

 わたしは。

 彼の顏を。

 わたしを見詰めた。

 その顏を。

 わたしに已に戀をしていた。

 その顏。

 氣付かないまゝの。

 彼自身の戀には。

 いまも猶も。

 氣付かないふりを?

 或は自分の戀その不意打ちにはたゞ無邪気なまゝで。

 氣付こうともせず。

 かたくなゝまでに。

 氣付き得もせず。

 わたしを見詰めたその顏を見た。

 だから見て。

 と。

 見つめられながら。

 見つめたいなら。

 と。

 わたしの霑う網膜。

 わたしを見て。

 と。

 かさなりあうようにも。

 見つめてあげる。

 こすれあうようにも。

 時の果てるまで。

 溶けあうようにも。

 言葉もないまゝ。

 見つめてあげる。

 あなただけを。

 わたしは見ていた。

 彼の

 ——僕?

 聲を聽く。

 わたしの

 ——誰?

 聲を聞く。

 彼は

 ——僕?

 零れるように笑む。

 彼はその頬に。

 眼差しに。

 睫毛にさえも。

 ——僕は加愚耶。

 彼はさゝやく。

 弑殺されるべき加愚耶比古は。

 彼がさゝやく。

 弑殺するべきわたしを見つめながら

 ——加愚耶比古と呼ばれた。

 彼がさゝやく。

 加愚耶は。

 彼はさゝやく

 見つめられながら

 ——加愚耶比古ノ美古屠と

 彼はさゝやく。

 加愚耶は。

 彼がさゝやきだから不意に

 ——いつかだれかに。

 わたしはわたしの顏の笑んでいたのを知る。







Seno-Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Seno-Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキス、北一輝、など。 三島由紀夫もちょっと好き。そんな感じ。

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