天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説8
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
まばたく沙羅はひとりその鼻に齅ぐ厥れ馨り誰の姉の厥れ阿憂迦の馨り舌はいまふれる阿由迦の舌はまぶたにそのかすかな溫度と俱にそのわずかな霑いと俱にだからふれる沙羅の右のまぶたにだけすこしだけひらいた唇だからほのかにだけさしだされた舌故に沙羅ひとり思へらくすきにすれば
と沙羅はすきにすればいい
と沙羅はわたしは
とだからまばたき沙羅はいちどもあなたの
とうすくとじた沙羅の瞼それにさえも光りはあなたのものではなかったいちども
と沙羅に光りはだからまるでわたしがじぶんのものだったかのようにも
とほのかに且つはあざやかにもだから沙羅はすきにすればいい
と沙羅は思い好き放題にふれる光りに沙羅はじぶんのものだったとぎたいして
と沙羅は自分のこゝろにだけさゝやき見る厥れとじた眼にも見い出す翳りの陽炎厥れ死人らのかたち或は色その無數の蠢く孔らに立つ焰見つめれば迦猊唎迦猊呂比爾に斯毗斗迦多羅久かク聞きゝ伽耶蚊かク知りキかくテ宇多娥破ノ果夜香解放されタりき故レ爾に看護師加夜伽を病院ロビーまデ案内せリ伽夜蚊が足又腰その筋又は骨久方ノ二足步行に戸惑へり故レ看護師蚊耶伽が步行を助けたリき看護師名を哿多夜麻ノ阿須美と曰フかクて翳りもなクほの笑ひて阿須美云ひケらくだいじょうぶ?
としかスがに伽夜加返スべき言葉を思い得ずテたダ目を剝き聲なク息にノみ笑ヒき故レ伽耶伽がまなザしノ異樣を阿須美敢えテ見咎めずシかスがにやヤその眼差シ翳らすヲ蚊耶迦は見い出シきビニールその反射光とプラスティックそノ反射光とゴムそノ反射光の向かウに笑み直したルその皮膚ノ蠢きの武骨ヲ軈而ビニールの看護師そのビニールの衣擦れト俱に云ヒけらくゆっくり、ね
と
ゆっくり…
と
もうすこしおちついたら
と
…ね?
と
ほんとうのあなたにもどれるから
と
ゆっくり。だからいまは
と
なにもかんがえないで
と
…ね?
と
リラックスして
と
…そ
と
わらって
と
…そ
と
なにもかんがえないで
と
…そ
と
すなおに
と
…そ
と
わらって
と
…そ
と
だいじょうぶ
と
…そ
と
もうすぐ…ね?
と
…そ
と
あなたはあなた自身にきっと
と
…そ
と
ほんとうの自分に
と
もどれるからね
と
…そ
と看護師ノ云ひけるヲ伽耶迦が耳は聞きゝしカすガに返す言葉知らズて默止すとモなくて終に言葉にふレざルが儘の唇の無音ノ開閉を阿須美ひソかに憐れみテしかモひそかに歎きテしカもひそカに悲しミて軈而終に云ひけラくもう大丈夫なんだからね
と
何日前かな?…あのヴィルス、…ね?
と
あの、たくさん人が亡くなった、…ね?あれ。リチャード・ウェイン氏症候群?
と
あれ、もう…ね?わたしたち…ね、いまも
と
こんなの…ね?マスクとかね(と笑ひて)防御服とかね
と
念のため(とほゝ笑みて)…院内感染とか、ありますから…でも、
と
もう、何日かな?(と首をかしげて)ご存じないでしょう?
と
いま、ゼロ。(と幾度目かにも笑みて)…新規の發症例ね
と
實際、雅樂川さんの血液検体しらべても(…ね?とささやきて)なんの變化もないから
と
もうみなさん(…と唾をのみ込みて)何の變化もないですからね、だから
と
まだ正式には(…でもねとささやきて)確認できてないけどね
と
あれ、また變異したんじゃないか(と言葉を不意に切りて)と。…ね、そう…
と伽耶迦ハ聞きゝ
でも、たぶんそう
と伽耶迦は聞キゝ
だから、町に出ても心配ないからね。まだ
と伽耶迦ハ聞きゝ
みなさん鐵の杖以て
と伽耶迦ハ聞きゝ
念の爲ね?
と伽耶迦は聞キゝ
ガソリン携帯されて(…あれ、臭いよね)ね?
と伽耶迦は聞きゝ
念の爲ね?
と伽耶迦は聞キゝ
みなさんマスクとゴーグルされて…ね?
と伽耶迦ハ聞きゝ
念の爲ね…
ト伽耶迦は聞きゝ
でも、もう大丈夫だからね
と伽耶迦は聞きテ故レ看護師かくに語りテひとり受付に退院の手續きせりカくて爾に宇陁我破ノ果夜加が代理とシて阿須美悉くの処理を濟ませたりキ故レ正面出入り口の外に出て伽夜哿が目に白濁の光横溢セり爾に迦夜蚊光の中に踏み出シかけて猶光に拒絶されて思フ又躬づからノ躬の光を拒絶しタるかにも思フ故レなにモのにモ孤立シて思ひなにもノにモ孤立しビニールの看護師迦夜蚊がまなザしのウちにヒたすらに際立てバ伽耶伽思ハずに目ヲ更に剝キ驚くもビニールとプラスティックとゴムの向カうに看護師笑みてふたタび語りカけラくいま大切なのは
と
…ね?
と
あなたにとって(…だけじゃないかも、みんなに)
と
…ね?
と
大切なのは(…そうなんですよね。本当は)なにより(そ)大切なのは
と
…ね?
と
じぶんをね?…わかる?…わかります?
と
…ね?
と
自分自身をしっかりもって、もう(…ね?だけど)前の、そう
と
…ね?
と
伽哩ヴィルスの無かったころにはもどれないけれどね(もう実際、変形した細胞、いまだに、ね?いたるところに)
と
…ね?
と
けれども
と
…ね?
と
もう一度しっかり自分を見つめ直してね
と
…ね?
と
自分をしっかり持って(莫迦なこと、考えないようね?あなたも)大切でしょう?
と
…ね?
と
あなたって、大切なひとだからね。譬え(かけがえないから)今、あなたに身寄りが
と
…ね?
と
それは(かけがえないから)それ
と
…ね?
と
わかる?(かけがえないから)
と
…ね?
と
あなたは(かけがえないから)強い(かけがえないから)ひとだから
と
だからだいじょうぶと阿須美さサやきテ看護師ビニールとプラスティックとゴムの向こうに云ヒ訖ルともなクに加夜加ひトり光の横溢が内にそノ右足を蹈ミ出シタれバ爾に娑娑彌氣囉玖
異物だったろう
怒號のような
わたしは
轟音のような
光の散乱の中に
浴びた
その白濁の中に
光を
まぎれもなく
喚き聲のような
異物だったろう
啼き聲のような
だれの目にも
叫び聲のような
蛾の目にも
浴びた
蠅の目にも
光を
蚊の目にも
口も無いくせに?
蟬の目にも
よくも叫ぶね?
蛇の目にも
光の渦は
蝶の目にも
齒もないくせに?
蝶の羽の模樣の目にとってさえも
よくも咬みつくね?
わたしは慥かに異物だった
光の渦は
その時に
乳を吹き出さず
こゝに際立つ
血をも吐かずに
わたしはひとり
よくも增えるね?
かくて迦夜香
光りの繁殖
爾に
光りの繁茂
都儛耶氣良玖
靑。
見上げれば。
ひたすらな靑。
空。
靑くて雲の綺羅。
その白い翳りさえないのを。
思った。
存在しなかったのだと。
たぶん最初から曇る雲など。
たぶん。
存在しなかったのだと。
最初から白濁の雨など。
だから。
狂える狂人の狂った妄想だったに違いない。
慥かに。
狂える狂人の狂った妄想だったに違いない。
故に空は晴れ、靑。
紅蓮。
厥れ。
ふいに返り見た看護師の無性別且つ無生物のかたちの向こうに無垢なまでに。
紅蓮。
無垢なまでに。
無防備なまでに。
あわいうつくしい水色の無性別且つ無生物のかたちの向こうにそれら。
樹木の紅蓮。
紅葉の。
色。
やがて散る。
ただの枯れ葉の。
美しがる目。
腐る前の葉の死穢の魁けをしか見なかったくせに。
狂っていたにちがいない。
だからその目のすべても。
狂っていたに違いない。
故に——ありがとうございます
と。
言った。
わたしは。
自分の口で。
いまだ自分のものだった口で。
まるで自分の口でないかに不器用に。
喉で。
息を吐く。
肺は。
あるいは薰馬の口を借りながら?
振り返れば見えたはずだった。
そんな氣がした。
あるいはあの變化した形の儘に?
薰馬は。
燒け爛れた薰馬の細胞をも借りながら?
言った——お世話になりました
と。
わたしは。
聞いた。
看護師が云ったから。
ガスマスクの向こうに頬と唇をふるわせて。
看護師は女聲にささやいたから。
ガスマスクそれ自躰を顎にふるわせて。
——いえ…何もできませんでしたけど…
——そんな…ぜんぜん。わたし…
——今日は、いまは、すごく、いいみたい。調子が。
——わたし、大変だったでしょう?いろいろ、
——いや、でも、拘束帶でね…だから、あれで、あんなことがあってすぐに
——でも本當、みなさんに
——普通でいろなんて…ね?でも、
——すみませんって、先生にも
——いま、安心しました。すごく…
——おかげさまで
——いや、でも…
と。
言って看護婦は刹那の沉默を。
見た。
ゴーグルの白濁は。
わたしを。
だからさゝやいた。
ビニールとプラスティック。
それにゴムは。
——しっかりね。…應援だけはしてる。何もできなくとも。
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