天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説7
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
かクて伽耶迦かクに知レり故レかク聞きゝ拘束帶ノ悉くスでに剝ぎ取ラれタりき看護師をシて醫師の剝ギ取らせたル故なりき故れ醫師笑ミて後ふたタび伽耶伽が素顏ヲ見て覩畢りてかクて視ツめ觀ツめ畢りテことサラにモ笑みたレば白さクもう大丈夫
と故レ伽耶迦かく知レり故レかく聞きゝ醫師爾に香耶迦が耳にそノさサやき聲もテ白さクもう心配ないからね
と故れ香夜迦問ひてサさやけらく心配って?
とかくて問へる聲聞きおハラぬに醫師白サくもう病氣終わったからね
と故レ迦夜香問ひてサさヤけらくなにが?
と故レ伽耶迦かく知リき伽耶伽問ひけらくなにが畢ったの?
と故レ伽耶伽かク知りキ伽耶伽問ヒけらくなにが?
といつ?
と故レ伽耶伽かく知りき伽耶迦問ひケらクなにが?
と故レ娑娑彌氣囉玖
あ…
息をひそめて
と
わたしは見ていた
厥れ
息をひそめて
その
わたしは嗅いだ
かたち
息をひそめて
あ
なぜ?
…と
理由さえなく
はじける
なぜ?
あ、と
理由もない
色
その理由など思いつきようもないまゝに
はじけ
息をひそめて
かくて伽耶可
ひとり
爾に
わたしは
ひとり都儛耶氣良玖
いまだ外しはしなかった。
それでも猶も。
彼。
眼差しの正面に覗き込んだ男。
ひとりの醫師。
マスクの向こうの男の聲は。
いまだ外しはしなかった。
自分を守るビニールの裝備を。
眼差しの斜め奧に覗き込む。
ひとり看護師は。
いまだ外しはしなかった。
ビニールの匂い。
眼差しの右の切れ端に窓の光。
そのあわい逆光にビニールの彼女。
ひとりの看護師は。
いまだ外しはしなかった。
何も。
ただひとつのパーツさえも。
眼差しの中に。
醫師の右肩の向こう。
なで肩のビニールの女。
絶望したにも似たなで肩に頸を埀れて。
ひとりの看護師。
絶望したに見えたゴムの眞白い手。
ピンセットにガーゼをつかむ。
完璧なかたちに想えた。
絶望の。
一瞬のそれらのかたち。
不意の實現。
たぶん心にもなく絶望をかたちだけ實現していた彼等。
ビニール製のイノチ。
それでも外しはしなかった。
ビニールとゴムとプラスティックの防護服を。
生き殘っていた彼等。
あるいはまがいもの?
みずから死んでいった人々の純粋さをは持ち得なかった所詮紛いものだと?
或はより多くの覺悟を決めた生きながらの殉敎者だと?
死んだ同僚を見殺しにした。
所詮誰も救えなかった。
或は滅びるまで生き殘っていくことを覺悟した彼等だと?
猶も無意味に違いなくて。
選んだ。
無益にすぎなくて。
生き殘りを選んだ。
——見えますね?
だから醫師は云った。
なにを?
と。
だから思った。
わたしは。
何を?
と。
何を答えろと?
——わかります。
醫師は云った。
私の唇が答えかけた言葉の斷片のいまだ喉の片端にさえふれないでいた瞬間に。
——見えてます…あなたは。
醫師は云った。
わたしは知った。
すでに知っていたその事實をより顯らかに。
いまさら?
ふたゝび?
わたしは知った。
わたしは見えていた。
その色彩。
淡い水色のビニールの防護服も。
ゴーグルの透明に隔てられた肌の色も。
眼球。
息あるものゝ霑い。
透明プラスティックが掩った纔かに變色の肌色。
透明プラスティックが掩った纔かに變色の眉毛の密集。
透明プラスティックが掩った纔かに變色の睫毛の振動。
透明プラスティックが掩った纔かに變色の網膜の反射光。
彼は見ていたに違いなかった。
剝き出しの網膜の綺羅ら。
わたしの。
反射の白濁の翳りのゆがんだ形態のなごり。
誰に見せる爲のものでもなくて。
誰かにみせた名殘でさえなくて。
ただ誰の爲にでもなくて。
網膜自らの爲にでもさえなくて。
反射光の白濁の翳り。
ふるえ。
睫毛の痙攣。
はじめてものを見るような?
たぶん眉毛の痙攣。
こまやかま。
信じるを事を拒否するでもなくて。
見い出すものを否定するでもなくて。
悉くを悉くに羞恥したでもなくて。
まして怯えたでも慄いたでもなくて。
ふるえた。
なぜ?
醫師は見ていたに違いなかった。
わたしの見えなかったそれら。
事實を。
わたしの顏面上の筋肉と皮膚と網膜にさらす事實を。
ただ眼に映る事象として。
ふるえた。
なぜ?
醫師はさゝやく。
——もう、隔離終わったからね。
さゝやく。
——もう、退院できるから。
だからわたしは心の内に笑う。
その下に。
醫師の見続けた同じ硬直の表情の下に。
引き攣ったまゝの表情の下に。
茫然としただけの表情の下に。
笑んだ。
わたしは——なのになぜ
と。
だから笑った。
わたしは。
——なぜあなたたちは未だに無生物狀態の儘なのだろう?
ひとりでわたしは。
——なぜあなたたちは未だに無性別狀態の儘なのだろう?
だから笑った。
——たぶん人類を救う至髙の叡智は
聲もなく。
——たぶん人類を救う気髙い自己犠牲と検診は
だから笑い續けた。
——まさにアメーバそのものなのだろう
ひそめるべき聲もなく。
——性別もなくてかたちさえも假初めの単細胞の息遣いなのだろう
だから笑い續けたのだった。
——あるいは
隱し偲ばすべき聲さえもなく。
——イノチモドキのヴィルスにも等しいものなのだろう
——淚、吹いたげて、…
と。
その醫師は云った。
立ち上がりながら。
立ち去り際に。
ビニールの彼は。
たぶん絶望とピンセットの看護師に。
ゴーグルの反射の白濁の奧のあいまいな眼差しに。
誰に言うとも顯さない儘に。
だから私は流していたのだろう。
滂沱の淚を?
だから私は漏らしていたのだろう。
嗚咽の騒音を?
赤裸々に喉は。
生き物でさえないことを擬態した生き物たちの監視のビニールの眼差しの中に。
ななめに差した光りのうちに。
彼等が殺したに違いない。
わたしは思った。
彼等がト殺して廻ったに違いない。
覺醒した細胞の群れを。
わたしは知った。
彼等が屠った命を償え。
こころがつぶやくわたしの言葉を。
だからわたしは笑った。
聞け。
燒きころされた未だ死んでいなかったものらの咆哮を。
だからわたしは笑った。
泣き聲も無く。
涙腺と頬の痙攣でだけ號泣しながら。
透明な淚を噴き出させながら。
ななめに差した光りのうちに。
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