天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説6


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



有雅阿憂迦は笑うその耳に聞いたとき南南西のビル崩れるその音響を遠くだから笑うかならずしも妹の肌に没頭していたわけでもない自分をだけ不意の発情を裝う自分をだけ躬づからにもだに裝う自分をだけ聲もなくすこしの表情さえなく聞いた自分の笑い聲を阿憂迦は嘲けたともなくに後頭部の奧のほうに聲邪氣も無い素直な自分のだから阿憂迦は聞いたひとりで他人事じみて

足元のその先つま先の下を見やれば見えていた筈だったあたらしい風景嘗て見えていたビルのかたちやや傾いていた厥れ跡形もなくに新たに拔けた空霞む綺羅らぎ見さえすればきっとたぶん絶対に阿由迦はまばたく見たはずだった一度こんにちは靑空一度だけのまばたき阿憂迦はのけぞった沙羅の胸に自分の脇を押し付けるようにして背をすこしのけぞらせた彎曲唇に咥えた鼻の頭のかたち沙羅の開きかけた眼差し見えた厥れただ躬づからのみが一方的に強姦されているかにも見えて見えた剝き出した目かたくなに逸らした侭に沙良が笑った氣がした何の根拠もなかった思う氣のせいに違いないとそっとあてる齒を鼻に沙羅の鼻ひとり思う齧み千切ってやろうかとひとり思い戯れ阿憂迦肌ふれあうそこにこゝに接觸感じた紗囉の体温を雙子の妹肌のかくおびただしい汗水滴をぶちまけたかにも思えてだから阿憂迦をかすかにぬらした舊東京市街区澁谷02区分B1級隔離の廃墟羣のうち鳥の聲の聞こえない處はなくてビルの一番上寢そべる阿由迦遙か下の草生う地表好き放題にひゞ割れて樹木の綠茂みそれらのひとつの先端に見上げられるべき空の鳥らの聲阿憂迦は背中の下に聽く割れて時に鐵骨をむき出した床スラグのコンクリート禿げたタイルのこちらにもむこうにもそれら死人の翳る陽炎の群れはかくて無殘な形態の奇形をだけ曝した貪り合うゝちに玉散らす腐った血宙に玉散り阿憂迦は自分がまばたいのをさえもはや忘れたすぐさまに沙羅は氣付かない阿由迦のこゝろのふるえのさゞめきは阿憂迦はだからひとり見た突き出した顏斜めにねじれた頭部らしき形態不意にゆがんだ表面に裂けて開く肛門突き出し始める長い筒狀の翳り見た阿由迦は腸なのか何か繊毛じみてもはやわからなかった厥れが一体何なのかは阿憂迦には唐突に三つ開いた焰の眼窩肛門の右に偏って開く焰知っていた阿憂迦は厥れ加猊利香猊呂布斯毗登の眼差しの見るのが阿憂迦自身だったことはなぜ

なぜならそれは阿憂迦の死人翳りに違いなかったから故に或いは思った阿憂迦はその焰時には見蕩れながらにその焔の向こうに見る明らかに風景顯らかに阿憂迦はむしろ自分を見た死人の燃えた眼窩に見ていたかすかに笑む自分すべてを赦したようにも見えてほほ笑み且つは沙羅の鼻の穴にさえも舌をふれその穴の背後の翳りに焰をなしてまっすぐに水平に流れ出した血その色濃い紅の流れだすを見た返り見られない儘沙羅の翳り陽炎沙羅腕を雙つに裂いて變形し柔弱なしなりを五股にふるわす骨をさらすも神經の筋をゆらがすも誰の目にふれるでもなくに故れ死人は迦猊唎故レ死人ハ迦猊呂比故れ斯毗登迦多羅久かク聞きゝ隔離されて既ク幾日も經ルに迦夜香が閉ざサれた摩那古夢ノ如くシて見る朧ノ形のさまざマのいツか伽耶香そノ朧ノ香愚囉ノ香俱摩に似ルを知りテ先ヅは驚き次に祈り次に歎キ次に憐れミ次に疑ひ次に懷かシみ軈而はひトり歡喜しタりき故レ香夜加爾に娑娑彌氣囉玖

 かげろう

  かたちではなくて

 朝靄に

  色をのみ

 かげろい

  眼差しは見るのだ

 靄の水滴はこまやかに

  その事實を

 それ。いま

  そして思わず言葉をうしなった瞬間に

 かげろう

  わたしは知った

 あざやかすぎた朝やけ

  隱しようもなく

 紅蓮の色

  わたしがかつて言葉を知っていた

 かたちさえなくたゞ

  その事實を

 綺羅めくまゝに

かくて

  剝き出しの

迦夜香爾に

  その事實を

ひとり都儛耶氣良玖

 忘れたかのように?

 なにを?

 かたちを。

 そのものゝあるべきかたちを。

 かつてわたしのかたちにさえふれていた筈のそのかたちを?

 躬づからのかたちにさえ自由にふれていたはずのかたちを?

 終に思い出せもしなかったかのように。

 見た。

 顯らかに。

 明らかに崩れたかたちを。

 玲らかに頽れたかたちを。

 視た。

 厥れ。

 すでにない。

 もとのかたちはすでに。

 すでに滅びた。——あるいは變化し?

 すでにない。

 失われたかたち。

 すでに滅びた。——あるいは變態し?

 すでにない。

 消え失せたかたち。

 すでに滅びた。——あるいは厥れたとえばもはや毛虫でさえ無く。

 蛹でさえなく。

 蟲の毛衣も蛹の甲羅も脱ぎ捨てた厥れ。

 蝶のように?

 すでに滅びた——あるいは厥れたとえば殻を脱ぎすてた蘇生の虵の夭い素肌のように?

 滅びた人たち。

 そのかたちをさえもなさないかたちがふれた。

 色もなく。

 ふれた。

 眼差しにだけ。

 かれらのイノチ。

 だから吐いた。

 わたしはひとり。

 嘔吐した。

 染まる。

 胃液はチューブを。

 その穢れた色。

 染めぬく色。

 たぶん聞いたからだ。

 塞がれた耳が。

 聞いたからだ。

 慄く聲の群れと響きを。

 聞いたからだ。

 怒りにも似た聲。

 男たち。

 女たち。

 數人の彼等の聲だけに曝す性別の名殘り。

 眼帶の闇に響く。

 聲だけの存在。

 聞いたからだ。

 怒號にも似た響きの群れを。

 響き合う。

 聞いたからだ。

 罵聲にも似た響きの塊りを。

 聞いたからだ。

 耳にあきらかにふれたから。

 だからささやいた。

 嘔吐の騒音が盈たす身躰の外側に。

 ——大丈夫?

 その聲はさゝやき

 ——もう、…ね?

 耳にふれ

 ——大丈夫?

 顯らかに。

 その聲。

 薰馬の

かくて

 その聲が耳にふれ續けても

香夜加ひとり娑娑彌氣囉玖

 弔う術も無い儘に

  救われるべきだった

 わたしは寧ろ弔い續けた

  なにもかも

 すでにもう

  耳元の怒號

 その魂のかたちもなくて

  罵倒の聲も

 それでもまさに生誕し

  救われるべきだった

 それでもなおも生きるべきだった

  耳元の叫喚

 細胞の群れの慘殺を

  騒音の響きも

 殲滅された命の群れが

  救われるべきだった

 すでにもとの魂でないのなら

  救われてあるということの

 その或は

  かたちがなにかも知らない儘に

 鮮明なひとりの死に

  ただ祈られた

 わたしは何を弔うべきかのか

  無防備な救濟の祈りは

 あなたの不在は

  間違いも無く

 死だったのか

  からっぽな

 死にさえしなかった

  ただの茶番にすぎない儘に

 あなたの魂は

  救われるべきだった

 にもかかわらずそれはあなたの

  切れ目なく耳を掩った

 死だったのか

  叫びの聲は

 それでもなおも

  救われるべきだった

 ただ純粋な

  叫ぶべき感情さえ

 ここに居ないだけの

  すでになく

 あなたの不在は

  ただ叫ばれた 

かくて

  わたしの叫びは

香耶伽

  その喉がたてはずの

爾に

  轟音は

都儛耶氣良玖

 彼は云った。

 薰馬は。

 耳元で。

 ——びっくりした?

 さゝやき聲で。

 ——安心して

 耳にふれそうな至近。

 ——もう…

 彼は云った。

 ——ね?

 彼のさゝやき聲で

 ——なかなくていいよ

 息の温度。

 ——ね?

 彼は云った。

 ——もう…

 薰馬のさゝやき聲で。

 ——さ。…ね?

 吐く息の湿気さえ。

 ——おれ、…ね?

 彼は云った。

 ——祈らなくていい。だって…

 そのさゝやき聲で。

 ——俺、…ね?

 くすぐったいほど。

 ——俺の爲に。

 彼は云った。

 ——俺、…ね?

 彼のさゝやき聲で。

 ——祈らなくていい…

 欷きの聲?

 ——俺、…ね?

 彼は云った。

 ——もう、

 薰馬のさゝやき聲で。

 ——俺の爲には。

 やさしい聲。

 ——俺、もう

 彼は云った。

 ——死ななかったから

 彼の喉のさゝやき聲で。

 ——俺、もう

 壞れそうな聲。

 ——滅びなかったから。

 彼は云った。

 ——俺、もう

 薰馬のさゝやき聲で。

 ——なにもかも…

 消え失せてしまいそうな。

 ——失ったもの。

 彼は云った。

 ——なにもなくて、

 彼の自分のさゝやき聲で。

 ——失われたもの。

 立つたびに消え失せ聲は虛空に。

 ——なにもなくて。

 彼は云った。

 ——もう

 彼自身のさゝやき聲で。

 ——ね?

 ひびく。

 ——泣かなくていいよ。

 彼は云った。

 ——俺、…ね?

 薰馬のさゝやき聲で。

 ——哭かなくていいよ。

 わたしの耳元に。

 ——俺、ね?

 彼は云った。その

 ——わかる?

 あきらかに薰馬のささやき聲で。

かくて迦耶香ひとり

 ——おれ、…ね?

娑娑彌氣囉玖

 夢を見た

  零れる淚が

 たぶん厥れは

  むしろ。…その

 夢だから

  零れる淚が

 きっとわたしは夢を見た

  手の施しようもないほどに

 その正面に見る

  燃え上がる炎でさえあったなら

 果てもない

  灼熱の

 どこまで擴がる

  すでてやきつくす

 海の夢

  炎でさえあれば

 知った

  わたしはすぐに

 水平線さえさらさずにだから

かくて

 慥かにいま海に

加夜加爾に

 果てはなかった

都儛耶氣良玖

 知っていた。

 ——ね?

 わたしの狂氣を。

 ——なに?

 わたしはすでに。

 ——逢えない?

 知っていた。

 ——大丈夫だよ。

 わたしの狂氣を。

 ——いつ?

 わたしはすでに。

 ——待って。

 知っていた。

 ——いつまで?

 わたしの狂氣を。

 ——ちょっと待って。

 わたしはすでに。

 ——ね?

 知っていた。

 ——なに?

 わたしの狂氣を。

 ——それ、さ…

 わたしはすでに。

 ——なに?

 知っていた。

 ——ん、…

 わたしの狂氣を

 ——云えよ。

 わたしはすでに。

 ——嘘じゃない?

 知っていた。

 ——かもね。

 わたしの狂氣を。

 ——なにそれ?

 わたしはすでに。

 ——違うから。

 知っていた。

 ——なにが?

 わたしの狂氣を。

 ——嘘じゃないからさ。

 わたしはすでに。

 ——それ、嘘。

 知っていた。

 ——違うって

 わたしの狂氣を。

 ——それも嘘じゃない?

 わたしはすでに。

 ——待って。

 知っていた。

 ——いつ?

 わたしの狂氣を。

 ——もうちょっと。

 わたしはすでに。

 ——ね?

 知っていた。

 ——ちょっとだけ待って。

 わたしの狂氣を。

 ——嘘?

 わたしはすでに。

かくて

 知っていた。

ひとり

 わたしの狂気を。

哿夜迦爾に娑娑彌氣囉玖

 死よりむごたらしいものが消滅なら

  玉散る

 わたしたちはみなむごたらしかった

  雫が

 なぜなら

  朝の草の

 生と死が絶対的に差異するのなら

  花の上に

 生は終に

  羽搏いた

 躬づからの死にさえ

  蝶のふみしだく

 ふれ得はしないのだから

  その細い

かくて伽夜哿

  足の先にも

爾に

  玉散った

都儛耶氣良玖

 眼差しに。

 ——知ってる。

 まるで眼差しに。

 ——なにを?

 すなおに開かれた

 ——知ってるよ。

 眼差しに。

 ——ね?

 曇りもない

 ——俺ね、

 眼差しに。

 ——なに?

 まるで見るように。

 ——お前の

 聞いていた。

 ——何知ってる?

 わたしは。

 ——ながした淚。

 なにを?

 ——泣いてないから。

 耳に。

 ——感じてた。…その溫度も。

 聞いていた。

 ——だから、

 なにを?

 ——その透明な

 ささやき合う。

 ——泣いてないから

 自分の聲を?

 ——色の無い、

 視ていた。

 ——ね?

 まるで

 ——淚の色さえ…

 眼差しに。

 ——ね?

 まるで

 ——なに?

 顯らかすぎる

 ——ね…知ってる?

 眼差しに。

 ——なにを?

かくて迦夜果ひとり

 見出したように。

娑娑彌氣囉玖

 光はふれる

  開きなさい

 いつでも素手で

  と

 光はふれた

  開きなさい

 なにも毀さず

  と

 痕跡さえも

  怖がらないで

 殘さずにただ

  と

 萠え上がる

  その閉じた眼を

 色をだけ

  と

 見えたと思った

  その

 その錯亂を

  と

 思え

かくて迦夜香

  かたくなに

爾に

  閉じた瞼を

都儛耶氣良玖

 洪水なす。

 光は。

 洪水なす白濁。

 知った。

 その事實を。

 わたしは。

 眼帶の解き放たれたその事を。

 知った。

 わたしは。

 いまだに閉ざされていたかにも。

 眼帶。

 とざされつづけていたかにも。

 その同じ眼帶に。

 同じに。

 暗闇に見続けた同じ白濁の閃光の氾濫におぼれつづけるのだった。

 同じに。

 わたしは。

 氣付く。

 光り。

 ゆっくりと。

 光り。

 それは網膜に存在していた。

 光り。

 それは網膜に。

 洪水なす光。

 それは存在していた。

 洪水なす白濁。

 色もない色の群れ。

 だから眼差しは見ていた。

 光りの轟音を。

 むしろ。

 夥しい濁音を。

 むしろ。

 聞き取ったに違いない光の洪水を。

 その音響を。

 耳は。

 言った。

 担當醫は。

 その口はさゝやく。

 ひさしぶりに眼の見たマスクの靑。

 隱された口は。

 だから言った。

 男の聲は。

 耳元に。

 だからそのマスクの靑の性別は男。

 ——見えます?

 と。

 ——まだ見えない?

 知った。

 彼の笑っているのを。

 微かに。

 知った。

 彼の故意に笑っていたのを。

 微かにだけ。

 軈て見た。

 目は。

 おぼろげにでも。

 すでに視ていた。

 いまだ解かないその防護服を。

 完全防備。

 猶も。

 ガスマスク。

 すでに見ていた。

 ゴーグル。

 すでに。

 その無性別の。

 視ていた。

 無生命の。

 すでに。

 目は。

 もはや。

 だから知った。

 すでに。

 まなざしが朧に色を見出す光と腦の錯亂。

 存在。

 知った。

 ふれ得る形になって。

 存在。

 あくまでも眼差しの内に。

 開かれた眼差し。

 その内に

 表面に。

 網膜の。

 素手に触れ得る表面に。

 存在の存在。










Seno-Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Seno-Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキス、北一輝、など。 三島由紀夫もちょっと好き。そんな感じ。

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