天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説4
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
そノ二年の前devi20型ヴィルス俗に云フ迦哩ヴィルス由來の風邪流行リき是レ鈍い發熱ヲ俱フ此のヴィルス比斗ノ細胞を萬能化させタりき故レ是に感染シたる比登そノ細胞の自由に崩壞ス是れベンガルより武漢ヲ渡りて米國に歸還シたるリチャード・ウェイン氏を以テその症例第一とすリチャード・ウェイン氏爐巢安牟是琉須なル空港に發症せり故に比斗らリチャード・ウェイン氏型症候群と名ヅく此レ發症しタる時芳香甘やかに漂ハす且ツは叫きに似タる微弱の騒音細胞に發セりかクて瞬ク間に比登型生體を崩壊さスと云へり又萬能化しタる細胞各ゝに生きソれぞレに生體的自由を得故レ自由に徘徊シ自由に分離融合シ自由に觸るルもノことごトくノ細胞乃至分子等喰らヒて同化さシ又或ハふれアひたル諸生體細胞に萬能化ヲ影響さす故レ是れを發症するもノを比登と比登らガソリン等に燒きタりきかクてリチャード・ウェイン氏沒シて半年にも充たヌ春には迦哩ヴィルス地表なス大陸のこトごとく又島ノことごくニ充滿せり故レ迦哩細胞地表なす大陸ノことごとくに充滿せり又島ノこトごとくニ充滿セり故れ發症シタる人體の燒却各國家ことゴトく容認又は奨励又ハ默認せり故レ比登等ガソリン又鐵杖携帯せり是レ燒却が爲及ビ發症身體駆逐が爲なリきかクて宇太賀破ノ香彌迦發症シ燒却されタりき又加愚摩が第一級濃厚接觸者とみナさレたる迦夜香ひとり捕獲さレたりき故レ美那斗久阿邪布なる阿邪布病院に隔離さレたりき故レ迦夜香の發症時の諸迦哩細胞の飛散又は逃走を抑止せムとシ迦夜香爾にそノ全身拘束帶に拘束されタりキ且つハ口蓋兩眼等各種粘膜部位ノことごトクを防御帶に掩れたリきかくテ拘束されたる迦夜香夜晝ダに定かナラぬ暗闇にありテ娑娑彌氣囉玖
たぶん
だれもいない
もう
そう思いこんでみた
狂って仕舞ったに違いなかった
注射器の
見えたから
針が淀んだその紅を
はっきりと
すいあげる
一度も目の見なかったはずのそれ
見たはずのない色彩を感じながらも
燃え上がる
日に三度
匂いある焰の焦げ上がるのを
それがわたしに
ゆらゆらと舞う
時間を知らせた
めらめらと儛い
もはやもう
ふらふらと舞う
いつの何度目のそれか
燃え上がる焰の儛いを
さだかでなくとも
氣が付けば
もはやもう
眠るうちにさえ眼差しに
だれのもでさえない時間の
顯らかに見えて
過ぎる事實をだけ知らせる
鼻は齅ぐ
突き刺さる鈎は
あざやかなほどにその臭氣
ちいさな傷みさえ
甘い芳香に混ざる肉の
惰性の内に
燒ける臭氣も
それでも時の過ぎる事實を
かくて迦夜香
かすかに敎えた
爾に
言葉もなく
都儛耶氣良玖
なんだっただろう。
最後に口が吸ったのは。
裸の口が。
なんだっただろう。
剝き出しの儘の口が吸ったのは。
最期に。
それは何だったのだろう。
隔離帶のチューブが食道に刺し込まれる前に。
生きてる?
隔離帶の酸素吸入器が口を掩う前に。
生きてるよ。
何十もの医療テープが卷かれるる前に。
わたしは。
まだすみやかに頬に血を循環せていたその口が㝡後に吸ったのは。
何?
綺麗な空間。
迦哩ヴィルスに穢れない隔離棟。
だからただ綺麗な筈。
空間。
だれかの發症に穢されながら。
わたしの裸眼は視なかった。
隔離帶に拘束されていたから。
すでに。
閉じ込められた時には。
味もない匂いも無い空氣。
その綺麗な空氣。
あるいはいつかは穢い空氣。
迦哩ヴィルスに穢れない筈の隔離棟に。
どこかで誰かの吐いた穢れをふくむ匂わない空氣。
今日は何人燒かれた?
薰馬の息に穢されたかもしれない私の吐いた覺醒前の呼吸。
あたらしい命のかたち。
他の目覺めつつあるものらの覺醒しかけの息吹き。
明日は何人燒かれる?
空氣は肺に進入する。
慥かに。
鹿倉薰馬の唾液はふれた。
わたしの唾液に。
だからたぶんわたしも燃えるだろう。
火をつけられて。
わたしのイノチのもうすぐのいつかに。
わたしの死に壞されもせずに。
わたしをただ失神するに似てわたしをだけ失ったそのわたしの覺醒。
無際限なまでの細胞の群れの自由なめ醒め。
人々はわたしの燃やすだろう。
肌を。
人々はわたしの燃やすだろう。
肉を。
人々はわたしの燃やすだろう。
髮を。
人々はわたしの燃やすだろう。
骨までも。
燃やすだろう。
わたしの粘膜を。
燃やすだろう。
内臓を。
燃やすだろう。
腦組織も。
燃やすだろう。
唾液さえ。
燃やすだろう。
胃液さえをも。
だから無數の焰をあげるだろう。
死ぬだろう。
わたしは。
すでに存在しないわたしは。
死ぬだろう。
もはやわたしでさえもないそれら無數の他人の死に。
わたしは。
生きるだろう。
そのそれぞれの躬づからに。
無數のト殺を生きるだろう。
絶命の刹那に。
無數の殲滅を生きるだろう。
絶命の刹那に。
無數の絶滅を生きるだろう。
絶命の刹那に。
それぞれに生きるだろう。
何?
最後に目が見たのは。
剝き出しの眼球。
わたしの裸眼に。
匂いの無い空氣にさらされた網膜。
それ。
霑う綺羅らの散乱をさらしたその表面に。
最後に目が見たのは何?
防護服の人々。
わたしを掩い隱そうとしたゴム。
手袋は靑。
その皮膚も。
淡い淸潔な殺菌ブルー。
醫療者という名のト殺人ら。
かれらは滅ぼすしかすべがない。
敵對するとみなされたすべてのイノチのその息吹きのすべてを。
見たのは何?
その追い詰められた見開いた眼?
何?
怯えと恐怖。
透明の防護ゴーグルの向こうにさえも。
彼は怯えて恐怖した。
彼女は怯えて恐怖した。
だから彼等はただいびつなだけのおののきだった。
だから彼女等もただいびつなだけのおののきだった。
歎いた。
ゴーグルの向こうに。
憐れんだ。
そのプラスティックの向こうに。
哀しんだ。
そのややくすむ透明の向こうに。
懐疑した。
汗に濕氣た空氣のうちに。
時にはイノチと死についての自分勝手な懊惱にひたる。
孤立のゴーグルの向こうの孤絶に。
そして痛み。
切ない程の。
苦痛。
ただの痛さ。
感じる。
ゴーグルの向こうに。
彼等の眼は。
だからもはや歎かないのだった。
わたしをなどは。
ゴーグルの向こうに。
もはや憐れまないのだった。
わたしをなどは。
ゴーグルの向こうに。
もはや悲しまないのだった。
わたしをなどは。
ゴーグルの向こうに。
もはや痛みにふれない。
わたしのすがたにもはや苦しみさえしないのだった。
わたしの爲には。
だから誰も歎かない。
わたしの爲には。
憐れまない。
わたしの爲には。
悲しまない。
わたしの爲には。
傷まない。
わたしの爲には。
滅びゆく人類全体の幻像が掩う。
ゴーグルの表面を。
彼等のその手は炎を放った。
あまりにも多くの。
彼等のその目は焰を見た。
その陽炎。
あまりにも多くの。
いまだ人のかたちをとどめた人型を燃やす。
見過ぎてしまった。
あまりにも多くの。
歎き憐れみ哀しみ痛みそして切ない程に赤裸々に苦しみ彼等は見續けた。
あまりにも多くを。
ただ彼等に目が殘存する爲にだけ。
燒け糜れるかたちを。
あまりにも多くの。
齅ぎ續けた。
ただ彼等に鼻が殘存する爲にだけ。
燒け焦げる匂いを。
あまりにも多くの。
一度齅げば十分だったその臭氣。
ただの妄想。
これらはただのわたしの妄想。
そんな氣がしただけ。
なんにも知らない。
マスクの上に掩うガスマスク。
もしわたしに開く目があれば。
それは他人。
ゴムとプラスティックの豚の口の向こうの鼻孔。
もしわたしに開く目があれば。
それは他人。
その肌の痙攣と引き攣り。
もしわたしに開く目があれば。
それは他人。
それらが与えたただの妄想。
だから他人。
完全防備のぶあつい防護服の必然的な無個性。
もしわたしに開く目があれば。
それは他人。
ゴーグルの光の反射の向こうに暗示されるべきかろうじての性別。
もしわたしに開く目があれば。
それは他人。
たぶん思い違いに違いない。
老いぼれた男かもしれない彼女は二十歳そこそこの女の子だろう。
ビニールの向こうにほのめかす。
ゴム手袋の向こうの華奢な少年は死にかけのお婆さんの最後の仕事だったのだろう。
だからわたしが性別をさえ無くさせる前に。
自由と萬能がわたしの性別を崩壞させる前に。
彼らにすでに性別はなかった。
彼女らにすでに性別はなかった。
淡いブルー。
もしわたしに開く目があれば。
反射光は白濁。
もしわたしに開く目があれば。
生き生きと息遣いながら。
すでに生きてさえなかった。
無性別の彼等は。
だれよりも見事に生きながら消えた。
無個性の彼等は。
知っていた。
もしわたしに知る心があれば。
わたしは。
すでに。
知っていた。
もしわたしに知る心があれば。
わたしは。
だれもが死んだ。
此の何か月もの間に。
無數に醫療關係者たちは屍をさらした。
だれもが死んだ。
だから一番最初に自分たちが死ぬ。
三割は燒かれた。
七割は自殺した。
それぞれのやり方で。
それぞれの流儀で。
それぞれに。
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