天人五衰——啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism。小説3


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



保牟囉厥レ黃色にも燃え立テり焰厥レ紅ゐにモ燃えタてり炎厥レ靑にも燃えたテり焰厥レ燃えアがリたリて迦虞摩が肉を燒きゝかくて肉が細胞ハ燒加流琉我麻麻に地を這ヒ比呂がりき故レ比登ら口に口々に叫き罵リきかクてそノ火照る肌に汗ノ雫し玉散らせたりき故レ汗の雫シ迸らせたりき故レ唾だに玉散らせ迸らせて泡吐き泡撒き散らしき爾に鐵ノ杖に蠢く肉ト肉ら打チ崩さんとシたりキ焰あげたる肉掻きまわせば虛空にも細胞飛び散り焰俱なりて燃え散りたりき故レ燒けて燒かれて未だに滅びざりし肉なす細胞の群れ平らに擴がりき焰ト俱なりテ比呂がリき這フようにモ比呂我利續けルを視レば加夜香爾にヒとり滑稽にさへ思ヒつツも怯エたりキ迦耶迦躬づかラが失なへるもノゝ異樣なル巨大に慄キたリき迦夜香のケぞル背筋をたダ引き攣ラせたリき迦夜香知りたりきすでに迦俱麻は滅びたるを迦虞麻失せたるヲ迦虞摩今もハや何處にも存在せざりタルそノ事實を故レ幻見ルは今後ロ向きに一步進メば即チ奈落ノ底なき闇ノ無間に墜ちヤらンと厥レうツつのことなシて思ひタる時誰かノつかみし手がなぎ倒せバ

 黙られせろ!

あル聲頭上に叫キ喚きゝ

 この女默られせろよ!

ある聲頭上に叫キ喚きゝ

 狂ってんだよ!

アる聲頭上に叫き喚きゝ

 もう狂ってんだよ!

ある聲頭上に叫き喚キてアスファルトが裂ク額の血ノ吹き出ス味をしたタるまゝ唇に味したルをだに思ヒ付かズて剝キ見た眼球に何も見えナくにタだわななかせレば蚊夜香すなハち爾に娑娑彌氣囉玖

 靜かで

  轟音よ

 匂いさえ

  むしろ

 色さえも

  せめて

 ただ靜かで

  轟音よ碎け

 なにも

  その轟音よ

 まるで

  この背骨をさえ

 なにもかも失神したにちがい

  響きとどろく

 そんな

  轟音よ

 靜かで

  この頭蓋骨ごと

 せめて

かくて迦夜香

  その轟音よ

ひとり

 あるいはせめても

爾に

  碎け

都儛耶氣良玖

 服を着た。

 まるで何週間かぶりかにも思えた。

 服を着るなど。

 着た。

 やわらかい?

 服を。

 肌ざわりは?

 ただ數時間だけさらしたにすぎなかった裸身。

 服に隱された。

 外氣。

 だから出た。

 外に。

 だからふれる。

 外氣に。

 ふたりで。

 だから外氣はふたりにふれた。

 道玄坂の傾斜の上。

 十二階の部屋。

 その髙い靜かな空氣から落ちた。

 エレベーターで。

 埀直に。

 だから步いた。

 地表の上を。

 敷かれた石。

 窪地の底に向かって。

 驛の方。

 人をよけながら。

 人々をそっと避けながら。

 步いた。

 だからわたしたちは身を離す。

 人の吐く息の無數からそっと。

 けれど殊更に躬をそらしながら。

 どうして?

 感染を恐れて。

 どうして?

 まだ人でいたいから?

 まさか。

 見えないヴィルス。

 細胞を覺醒させるヴィルスを避ける。

 馴れた。

 もう。

 恐怖にも。

 怯えにも。

 悲嘆にも。

 悔恨にも。

 懷舊にも。

 絶望にも。

 しがみつく。

 薰馬の腕に。

 いまだ怯える少女の擬態。

 甘えるように。

 薰馬の爲に?

 わたしの擬態。

 ささやかな。

 無邪氣な?

 わたしと薰馬の爲に。

 人のイノチ。

 他人のイノチ。

 生きる息。

 それらの存在する事への恐怖。

 他人の息吹きをすれすれのちかくに時にはあやうくようやくによけた。

 ふれないで。

 他人のイノチ。

 ちかづかないで。

 他人のイノチ。

 あなたたちは軈て移すから。

 わたしと薰馬に。

 あなたたちに繁殖した穢いヴィルス。

 そのイノチを。

 纔かにほほえむ。

 薰馬の爲に。

 底に降りる。

 窪地の底に。

 だから眼差しは視る。

 背の髙い薰馬のせいで。

 なにを?

 見上げる街路樹の色。

 かたち。

 見上げる繁った並木のかたち。

 色。

 見上げた木漏れに散る色。

 間違いなかった。

 おそらくそれらもすでに喰われていた筈だった。

 迦哩細胞。

 覺醒した萬能細胞に。

 だからさらすのだ。

 滅びを。

 みずからの。

 わたしたちの滅び。

 わたしの滅びをも。

 薰馬をさえまきぞえにして。

 だからさらす。

 せめて擬態したもとのかたちに。

 すでにして在った明日の滅びを。

 だから薰る。

 その色。

 染まらない綠りに。

 散りはじめる頃の色に。

 紅葉の寸前。

 染まらないまゝに。

 だから木漏れ日。

 光り。

 綺羅きらと。

 光る。

 由羅ゆらと。

 だから響き相う。

 さわぎあう光り。

 ほんのわずかの聲もなく。

 そのくせ沉默の氣配もない。

 だからさゞめく光り。

 言葉もないまゝ。

 その時かたわらの薰馬を見上げたわたしはすでに知っていた。

 彼の至近に。

 ふれてふれあう繊細な至近に。

 何を?

 自分にさえ秘密にしながら。

 何を?

 その氣もなくわたしにさえも隱し通しながら。

 何を?

 なぜわたしは彼を見上げなければならなかったのか。

 なかば無理やり笑みかけて。

 甘く匂った。

 薰馬は。

 ひとりで。

 甘く匂った。

 粉ミルクの粉の馨のような。

 ひとりで。

 甘く匂った。

 その肌。

 髪の毛も。

 嗅げばたぶん内臓さえも。

 蠱惑的なほどに。

 誘惑的なほどに。

 煽情的なまでに。

 薰り匂いたつ。

 甘く。

 ひたすらに。

 だからわたしは知っていた。

 すでに。

 ——雅樂川…

 と。

 ——うた…ね?

 いつでも名字の方で喚ぶ彼のいつものとおりに。

 ——うた…ル…たる…

 呼ぶ。

 ——うタ、ね?…ウるタ、さ。

 わたしを。

 ——るたル…らウ

 薰馬は。

 ——なに?

 さゝやいた。

 だからわたしは。

 だれの爲に?

 唇に。

 さゝやいた。

 顯らかにいまだわたしのものだったわたしの唇に。

 なにも氣遣いのないまゝに。

 なにも不安はないまゝに

 なにも氣づかないことを擬態したから。

 だれの爲に?

 ——どした?

 さゝやく。

 もはや

 ——なに?

 だれの爲でさえもなくに?

 ひとりで聲は

 ——ん?

 ひとりでにさゝやく。

 忘れたのだった。

 鹿倉薰馬の唇は。

 もう人間の言葉など。

 忘れていたのだった。

 容赦ない程完璧に。

 それは例えば——

 例えば?

 月に歸る遠い虛構の姫君の最後のように?

 沉默した。

 鹿倉薰馬の唇は。

 忘れたから。

 もうに人の聲など。

 だから唇はたゞ引き攣る。

 それは例えば——

 例えば?

 黄泉に歸る蘇生した死人たちのように?

 聞こえた。

 濁音の憑いたルの音が。

 いまだにわたしのものだったわたしの耳に。

 鹿倉薰馬の唇の淺くから。

 聞こえた。

 濁音の憑いたリの音が。

 いまだわたしのものでしかないわたしの耳に。

 鹿倉薰馬の唇の纔のかさつきの上に。

 ひびく。

  絽ロ絽宇琉ル絽宇琉絽ロ宇呂絽琉宇…

 と。

  埿ヒヒヒ埿イ埿埿ヒ埿ヒヒ埿ヒ埿イ…

 と。

  媺ゐ媺ゐゐ媺ゐイゐ媺ゐゐるゐ媺ゐ…

 と。

  比りゐゐゐ琉宇琉ううラゐラゐラひ…

 と。

 かさなりあう。

 もはや一瞬も引き分かたれる氣配さえなく。

 ひびきあう。

 最弱音。

 あまく匂う。

 やわらかな。

 ただあまく匂う。

 ふれあう微弱音。

 猶もあまく。

 かさなったひびき。

 匂いたつ甘さ。

 ゆらぐ音響。

 ただ無条件に泣き臥してしまいたくなるまでに甘やいだ匂いを嗅いでいた。

 芳香。

 鹿倉薰馬の體中から。

 匂う。

 例えばそれは——

 例えば?

 いまだ心のない乳兒の口元の皮膚の臭気を殊更に鼻孔の奧に最強音でなすりつけたにも似て?

 鹿倉薰馬の躰中から。

 まばたきさえもしない目にもはやなにを見るでもなく。

 薰馬は。

 まばたきさえもできない目に鹿倉薰馬の肌の汗を吹き出す樣を見て。

 私は。

 何ら心はかたちなさずに思わず終に目をそらしたそこに彼は居た。

 三十くらい?

 聞いた。

 彼の聲。

 綺麗で上品な葵色のシャツのその男の口がいまだ嘗て聞いたことのなかったほどのもはや言葉でさえない怒號をながく發したのを。

 ながく。

 人の聲とも思えなかった。

 長く。

 人の口の聲とも思えなかった。

 ひたすらに長く。

 生き物の聲とも思えなかった。

 同じ音だけを發したのを聞いた。

 叫んだ男は薰馬を殴打した。

 頭から。

 手に持つ鐵杖に。

 わたしはすでに引きはがされていた。

 誰かの腕に。

 なぎ倒された。

 誰かがわたしを救おうとした腕に。

 あお向けた眼差し。

 見た。

 樹木の葉ゝの翳りのむこう。

 空を。

 靑。

 失語の喉が息を吸う。

 いまだに顯らかにわたしのものだった喉が。

 見た。

 あお向けた眼差しは樹木の葉ゝの翳りのむこうに。

 雲を。

 白。

 雲母の綺羅らぎの色。

 散る灰色さえもが白い。

 感じていた。

 背中は。

 アスファルトと石と沙。

 たしかに。

 ふくらはぎも。

 アスファルトと石と沙。

 おそらくはふともゝも。

 アスファルトと石と沙。

 もはや衣服さえはぎとられたかに錯覺していたほどに皮膚の近くに。

 アスファルトと石と沙。

 あまりにも近くに感じさせられていた。

 アスファルトと石と沙。

 おしつけるようにふれた肌の表面に。

 聞いた。

 咆哮を。

 いちどだけの。

 その咆哮を。

 何度も聞いたことがある。

 覺醒するだれかの細胞から。

 その咆哮を。

 聞いたこともないような叫び。

 耳慣れない。

 覺醒の全身が立てる轟き。

 顎を裂かれて口から肛門まで鐵の棒をつきさされた獸にむりやりあげさせたような?

 薰馬の皮膚の。

 肉の。

 骨の。

 眼球の。

 齒の。

 内臓の。

 神経の。

 顎のかすかな脂肪の。

 髮の。

 体毛の。

 爪の。

 それらすべての細胞の咆哮にただ痛む。

 甘い臭気を嗅ぎながら。

 顏の斜め下。

 足の下の方。

 つま先の向こう。

 群がる人々。

 おそらくは溶け崩れ始めた薰馬の周囲に。

 空の靑。

 まなざしの中には。

 雲の。

 匂う。

 なぶられる薰馬をその音に見ながら。

 綺羅ら。

 雲母の。

 流れる。

 崩れもせずに。

 薰馬の甘い馨りを嗅いだ。

 かぐわしい。

 そして匂った。

 鼻を齧む臭気。

 だれかが携帯したガソリンがぶちまけられたに違いなかった。

 薰馬に。

 だからガソリンも匂った。

 まじりあう。

 ガソリンと焰。

 匂った。

 燒ける肉も。

 綺羅ら。

 甘やぐ芳香も。

 雲の綺羅。

 頭蓋骨を覆った皮膚さえもはやすべての髮がそりおとされたのを錯覺させて感じつづけていた。

 アスファルトと石と沙。

 燃えていた。

 足の下のほうに。

 すでにわたしの眼差しのなかから消えて。

 鐵杖の無數に崩壊の肉体を打たれ打ち散らされながら燃えた。

 鹿倉薰馬は一人で。

 もはや無數のト殺の炎。

 無數の細胞に覺醒した薰馬。

 だから薰馬は無數に死んだ。







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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