古事記(國史大系版・中卷12・垂仁1)
底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)
・底本奥書云、
明治三十一年七月三十日印刷
同年八月六日發行
發行者合名會社經濟雜誌社
・底本凡例云、
古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり
且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり
(垂仁)
(傳廿四)
伊久米伊理毘古伊佐知命坐師木玉垣宮治天下也
伊〔イ〕久〔ク〕米〔メ〕伊〔イ〕理〔リ〕毘〔ビ〕古〔コ〕伊〔イ〕佐〔サ〕知〔チ〕の命〔みこと〕。
師〔シ〕木〔き〕の玉垣〔たまがき〕の宮〔みや〕に坐〔ましまし〕て天下〔あめのした〕治〔しろしめしき〕。
此天皇娶沙本毘古命之妹佐波遲比賣命生御子
品牟都和氣命[一柱]
此〔こ〕の天皇〔すめらみこと〕
沙〔サ〕本〔ホ〕毘〔ビ〕古〔コ〕の命〔みこと〕の妹〔いも〕
佐〔サ〕波〔ハ〕遲〔ヂ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる/なした〕御子〔みこ〕
品〔ホ〕牟〔ム〕都〔ツ〕和〔ワ〕氣〔ケ〕の命〔みこと〕。[一柱。]
又娶旦波比古多多須美知能宇斯王之女氷羽州比賣命生御子
印色之入日子命[印色二字以音]
次大帶日子淤斯呂和氣命[自淤至氣五字以音]
次大中津日子命
次倭比賣命
次若木入日子命[五柱]
又〔また〕旦〔タニ〕波〔ハ〕比〔ヒ〕古〔コ〕多〔タ〕多〔タ〕須〔ス〕美〔ミ〕知〔チ〕能〔ノ〕宇〔ウ〕斯〔シ〕の王〔みこ〕の女〔むすめ〕
氷羽州〔ひばす〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕に娶〔みあひ〕まして
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
印〔イニ〕色〔シキ〕の入日子〔いりびこ〕の命〔みこと〕[印色二字以(レ)音]
次〔つぎ〕に大帶〔おほたらし〕日子〔ひこ〕淤〔オ〕斯〔シ〕呂〔ロ〕和〔ワ〕氣〔ケ〕の命〔みこと〕。[自(レ)淤至(レ)氣五字以(レ)音]
次〔つぎ〕に大中津〔おほなかつ〕日子〔ひこ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に倭〔やまと〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に若木〔わかき〕入日子〔いりびこ〕の命〔みこと〕。[五柱。]
又娶其氷羽州比賣命之弟沼羽田之入毘賣命生御子
沼帶別命
次伊賀帶日子命[二柱]
又〔また〕其〔そ〕の氷羽州〔ひばす〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕の弟〔おと〕
沼羽田〔ぬばた〕の入〔いり〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕を娶〔めし〕て
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
沼帶別〔ぬまたらしわけ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に伊〔イ〕賀〔ガ〕帶〔たらし〕日子〔ひこ〕の命〔みこと〕。[二柱。]
又娶其沼羽田之入日賣命之弟‘阿邪美能伊理毘賣命[此女王名以音]生御子(阿邪美、寛本卜本閣本此下有美字、恐衍)
伊許婆夜和氣命
次阿邪美都比賣命[二柱此二王名以音]
又〔また〕其〔そ〕の沼羽田〔ぬばた〕の入日〔いりび〕賣〔メ〕の命〔みこと〕の弟〔おと〕
阿〔ア〕邪〔ザ〕美〔ミ〕能〔ノ〕伊〔イ〕理〔リ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕[此女王名以(レ)音。]を娶〔めし〕て
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
伊〔イ〕許〔コ〕婆〔バ〕夜〔ヤ〕和〔ワ〕氣〔ケ〕の命〔みこと〕。
次〔つぎ〕に阿〔ア〕邪〔ザ〕美〔ミ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。[二柱。此二王名以(レ)音。]
又娶大筒木垂根王之女迦具夜比賣命生御子
‘袁邪辨王[一柱](袁邪辨、恐當據眞本作袁那辨、諸本邪作耶)
又〔また〕大筒木〔おほつつき〕垂根〔たりね〕の王〔みこ〕の女〔むすめ〕
迦〔カ〕具〔グ〕夜〔ヤ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕を娶〔めし〕て
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
袁〔ヲ〕邪〔ザ〕辨〔べ〕の王〔みこ〕。[一柱。]
又娶山代大國之淵之女苅羽田刀辨[此二字以音]生御子
落別王
次五十日帶日子王
次伊登志別王[伊登志三字以音]
又〔また〕山代〔やましろ〕の大國〔おほくに〕の淵〔ふち〕が女〔むすめ〕
苅羽田〔かりばた〕刀〔ト〕辨〔べ〕[此二字以(レ)音]を娶〔めし〕て
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
落別〔おちわけ〕の王〔みこ〕
次〔つぎ〕に五十日〔いか〕帶〔たらし〕日子〔ひこ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に伊〔イ〕登〔ト〕志〔シ〕別〔わけ〕の王〔みこ〕。[伊登志三字以(レ)音。]
又娶其大國之淵之女弟苅羽田刀辨生御子
石衝‘別王(別王次石衝、諸本无、宣長校本從延本補)
次石衝毘賣命
亦名布多遲能伊理毘賣命[二柱]
又〔また〕其〔そ〕の大國〔おほくに〕の淵〔ふち〕が女〔むすめ〕
弟〔おと〕苅羽田〔かりばた〕刀〔ト〕辨〔べ〕を娶〔めし〕て
生〔うみませる〕御子〔みこ〕
石衝別〔いはつくわけ〕の王〔みこ〕。
次〔つぎ〕に石衝〔いはつく〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は布〔フ〕多〔タ〕遲〔ヂ〕能〔ノ〕
伊〔イ〕理〔リ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。[二柱。]
凡此天皇之御子等十六王[男王十三女王三]
凡〔すべて〕此〔こ〕の天皇〔すめらみこと〕の御子等〔みこたち〕十六王〔とをまりむはしら〕。
[男王〔ひこみこ〕十三〔とをまりむはしら〕。女王〔ひめみこ〕三〔みはしら〕。]
故大帶日子淤斯呂和氣命者治天下也
御身長一丈二寸御脛長四尺一寸也
次印色入日子命者作血沼池
又作狹山池
又作日下之‘高津池(高津、宣長云恐高師之誤、又按或宜訓高津〔たけつ〕)
又坐鳥取之河上宮令作横刀壹仟口是奉納石上神宮
即坐其宮定河上部也
次大中津日子命者
[山邊之別
三枝之別
稻木之別
‘阿太之別([阿太]、宣長云或當君阿本〔アホ〕)
尾張國之三野別
吉備之石无別
許呂母之別
高巢鹿之別
飛鳥君
牟禮之別等祖也]
次倭比賣命者
[拜祭伊勢大神宮也]
次伊許婆夜和氣王者
[沙本穴太部之別祖也]
次阿邪美都比賣命者
[嫁稻瀬毘古王]
次落別王者
[‘小月之山君([小月]諸本作[小豆]、閣本傍書作[小日]、宣長云今意改)
三川之衣君之祖也]
次五十日帶日子王者
[春日山君
高志池君
春日部君之祖]
次伊登志和氣王者
[因無子而爲子代定伊登部]
次石衝別王者
[羽咋君
三尾君之祖]
次布多遲能伊理毘賣命者
[爲倭建命之后]
故〔かれ〕大帶〔おほたらし〕日子〔ひこ〕淤〔オ〕斯〔シ〕呂〔ロ〕和〔ワ〕氣〔ケ〕の命〔みこと〕は
天下〔あめのした〕治〔しろしめしき〕。
[御身〔みみ〕の長〔たけ〕一丈〔ひとつえまり〕二寸〔ふたき〕。
御脛〔みはぎ〕の長〔たけ〕四尺〔やさか〕一寸〔ひとき〕ましき。
次〔つぎ〕に印〔イニ〕色〔シキ/シコ〕入日子〔いりひこ〕の命〔みこと〕は
血沼〔ちぬ〕の池〔いけ〕作〔つくり〕、
又〔また〕狹山〔さやま〕の池〔いけ〕作〔つくり〕、
又〔また〕日下〔くさか〕の高津〔たかつ〕の池〔いけ〕作〔つくり〕たまひき。
又〔また〕鳥取〔ととり〕の河上〔かはかみ〕の宮〔みや〕に坐〔ましまし〕て
横刀〔たち〕壹仟口〔ちぢて〕令作〔つくらしめ〕たまひき。
是〔こ〕を石〔いそ〕の上〔かみ〕の神〔かみ〕の宮〔みや〕に奉納〔をさめまつり〕たまひき。
即〔すなはち〕其〔そ〕の宮〔みや〕に坐〔まし〕て
河上部〔かはかみべ〕を定〔さだめ〕たまひき。
次〔つぎ〕に大中津〔おほなかつ〕日子〔ひこ〕の命〔みこと〕は
[山邊〔やまのべ〕の別〔わけ〕、
三枝〔さきくさ〕の別〔わけ〕、
稻木〔いなき〕の別〔わけ〕、
阿太〔あだ〕の別〔わけ〕、
尾張〔をはり〕の國〔くに〕の三野〔みぬ〕の別〔わけ〕、
吉〔キ〕備〔ビ〕の石无〔いはなし〕の別〔わけ〕、
許〔コ〕呂〔ロ〕母〔モ〕の別〔わけ〕、
高巢鹿〔たかすか〕の別〔わけ〕、
飛鳥〔あすか〕の君〔きみ〕、
牟〔ム〕禮〔レ〕の別等〔わけら〕の祖〔おや〕なり。]
次〔つぎ〕に倭〔やまと〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕は
[伊〔イ〕勢〔セ〕の大神〔おほかみ〕の宮〔みや〕を拜祭〔いつきまつり〕たまひき。]
次〔つぎ〕に伊〔イ〕許〔コ〕婆〔バ〕夜〔ヤ〕和〔ワ〕氣〔ケ〕の王〔みこ〕は
[沙〔サ〕本〔ホ〕の穴太部〔あなほべ〕の別〔わけ〕の祖〔おや〕なり。]
次〔つぎ〕に阿〔ア〕邪〔ザ〕美〔ミ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕は
[稻瀨〔いなせ〕毘〔ビ〕古〔コ〕の王〔みこ〕に嫁〔みあひ〕ましき。]
次〔つぎ〕に落別〔おちわけ〕の王〔みこ〕は
[小月〔をつき〕の山〔やま〕の君〔きみ〕、
三川〔みかは〕の衣〔ころも〕の君〔きみ〕の祖〔おや〕なり。]
次〔つぎ〕に五十日帶〔いかたらし〕日子〔ひこ〕の王〔みこ〕は
[春日〔かすが〕の山〔やま〕の君〔きみ〕、
高〔コ〕志〔シ〕の池〔いけ〕の君〔きみ〕、
春日部〔かすかべ〕の君〔きみ〕の祖〔おや〕。]
次〔つぎ〕に伊〔イ〕登〔ト〕志〔シ〕和〔ワ〕氣〔ケ〕の王〔みこ〕は
[無子〔みこまさざる〕に因〔より〕て子代〔みこしろ〕爲〔として〕
伊〔イ〕登〔ト〕志〔シ〕部〔べ〕を定〔さだむ〕。]
次〔つぎ〕に石衝別〔いはつきわけ〕の王〔みこ〕は
[羽咋〔はぐひ〕の君〔きみ〕、
三尾〔みを〕の君〔きみ〕の祖〔おや〕。]
次〔つぎ〕に布〔フ〕多〔タ〕遲〔ヂ〕能〔ノ〕伊〔イ〕理〔リ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕は
倭〔やまと〕建〔たける〕の命〔みこと〕の后〔きさき〕と爲〔なり〕たまひき。]
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