古事記(國史大系版・上卷18・大國主神8國讓)
底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)
・底本奥書云、
明治三十一年七月三十日印刷
同年八月六日發行
發行者合名會社經濟雜誌社
・底本凡例云、
古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり
且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり
故更且還來問其大國主神
汝子等事代主神
建御名方神二神者隨天神御子之命勿違白訖
故汝心奈何
爾答白之
僕子等二神隨白‘僕之不違(僕之、眞淵云疑當作僕亦、宣長云按又字之誤歟)
此葦原中國者隨命既獻也
唯僕住所者
如天神御子之天津日繼所知之登陀流[此三字以音下效此]天之御巢而
於底津石根宮柱‘布斗斯理[此四字以音](布斗、イ本作布刀)
於高天原氷木多迦斯理[多迦斯理四字以音]而
治賜者僕者於百不足八十坰手隱而侍
亦僕子等百八十神者
即八重事代主神爲神之御尾前而仕奉者違神者非也
如此之白而
「‘乃隱也故隨白而」(乃隱以下七字係宣長意補)
於出雲國之多藝志之小濱造天之御舍[多藝志三字以音]而
水戸神之孫‘櫛八玉神爲膳夫(櫛八玉神、宣長云他書无所見)
獻天御饗之時
禱白而櫛八玉神化鵜入海底
‘咋出底之波邇[此二字以音](咋出、眞本作吹上出三字)
作天八十毘良迦[此三字以音]而
鎌海布之柄作燧臼
以海蓴之柄作燧杵而
鑽出火云
是我‘所燧火者(所燧、宣長云舊印本又一本又一本作所燒、今從眞本延本)
‘於高天原者(於、宣長云諸本无、今從眞本舊紀)
神產巢日御祖命之
登陀流天之新巢之凝烟[訓凝姻云州須]之八拳垂‘摩弖燒擧[麻弖二字以音](摩弖、伊本作麻弖)
地下者
於底津石根燒凝而栲繩之千尋繩打延
爲釣海人之‘口大之尾翼鱸[訓鱸云須受岐]佐和佐和邇[此五字以音]控依騰而(口大、宣長云恐大口之誤)
‘打竹之登遠遠登遠遠邇[此七字以音]獻天之眞魚咋也(打竹、宣長云舊紀打作折、恐拆之誤)
故〔かれ〕更〔さら〕に且〔また〕還來〔かへりき〕て其〔そ〕の大國主〔おほくにぬし〕の神〔かみ〕に問〔とひ〕たまはく
汝〔な〕が子等〔こども〕事代主〔ことしろぬし〕の神〔かみ〕
建〔たけ〕御名方〔みなかた〕の神〔かみ〕二神〔ふたり〕は
天神〔あまつかみ〕の御子〔みこ〕の命〔みこと〕の隨〔まにまに〕勿違〔たがはじ〕
と白訖〔まをしぬ〕。
故〔かれ〕汝〔な〕が心〔こころ〕奈何〔いかにぞ〕。
ととひたまひき。
爾〔ここ〕に答白之〔こたへまつらく〕
僕〔あ〕が子等〔こども〕二神〔ふたり〕の白〔まをせる〕隨〔まにまに〕
僕〔あれ〕も不違〔たがはじ〕。
此〔こ〕の葦原〔あしはら〕の中國〔なかつくに〕は
命〔みこと〕の隨〔まにまに〕既〔すで〕に獻〔たてまつらむ〕。
唯〔ただ〕僕〔あ〕が住所〔すみか〕をば
天神〔あまつかみ〕の御子〔みこ〕の
天津〔あまつ〕日繼〔ひつぎ〕所知〔しろしめさむ〕登〔ト〕陀〔ダ〕流〔ル〕[此三字以(レ)音、下效(レ)此]
天〔あま〕の御巢〔みす〕如〔なし〕て
底津〔そこつ〕石根〔いはね〕に宮柱〔みやばしら〕布〔フ〕斗〔ト〕斯〔シ〕理〔リ〕[此四字以(レ)音]
高天原〔たかまのはら〕に氷木〔ひぎ〕多〔タ〕迦〔カ〕斯〔シ〕理〔リ〕[多迦斯理四字以(レ)音]て
治賜〔をさめたまは〕ば
僕〔あ〕は百〔もも〕不足〔たらず〕八十坰手〔やそくまで〕に隱而侍〔さもらひなむ/さもらひはべらむ〕。
亦〔また〕僕〔あ〕が子等〔こども〕百八十神〔ももやそがみ〕は
即〔‐〕八重〔やへ〕事代主〔ことしろぬし〕の神〔かみ〕神〔かみ〕の御尾前〔みをさき〕と爲〔なり/し〕て
仕奉〔つかへまつら〕ば違〔たがふ〕神〔かみ〕は非〔あらじ〕。
如此〔かく〕白〔まをし〕て「乃〔すなはち〕隱〔かくり〕ましき。
故〔かれ〕白〔まをし〕たまひし隨〔まにまに〕」
出雲〔いづも〕の國〔くに〕の多〔タ〕藝〔ギ〕志〔シ〕の小濱〔をばま〕に
天〔あめ〕の御舍〔みあらか〕を造〔つくり〕[多藝志三字以(レ)音]て
水戸〔みと〕の神〔かみ〕の孫〔ひこ〕
櫛〔くし〕八玉〔やたま〕の神〔かみ〕を膳夫〔かしはで〕と爲〔し〕て
天〔あめ〕の御饗〔みあへ〕獻〔たてまつる〕時〔とき〕に
禱白〔ねぎまをし〕て櫛〔くし〕八玉〔やたま〕の神〔かみ〕
鵜〔う〕に化〔なり〕て海〔わた〕の底〔そこ〕に入〔いり〕て
底〔そこ〕の波〔ハ〕邇〔ニ〕[此二字以(レ)音]を咋〔くひ〕出〔いで〕て
天〔あめ〕の八十〔やそ〕毘〔ビ〕良〔ラ〕迦〔カ〕[此三字以(レ)音]を作〔つくり〕て
海布之柄〔めのから〕を鎌〔かり/かぶ〕て燧臼〔ひきうす〕に作〔つくり〕
以〔‐〕海蓴之柄〔こもの‐から/くき〕を燧杵〔ひきり‐ぎね/きね〕に作〔つくり〕て
火〔ひ〕鑽出〔きりいで〕て云〔まをしけらく〕
是〔こ〕の我〔あ〕が所燧〔きれる〕火〔ひ〕は
高天原〔たかまのはら〕には
神產巢日〔かみむすびの〕御祖〔みおや〕の命〔みこと〕の
登〔ト〕陀〔ダ〕流〔ル〕天〔あま〕の新巢〔にひす〕の
凝烟〔すす〕[訓(二)凝姻(一)云(二)州須(一)]の八拳〔やつか〕垂〔たる〕摩〔マ〕弖〔デ〕
燒〔たき/やき〕擧〔あげ〕[麻弖二字以(レ)音]
地下〔つちのした〕は底津〔そこつ〕石根〔いはね〕に燒凝〔たきこらし〕て
栲繩〔たくなは〕の千尋繩〔ちひろなは〕打延〔うちはへ〕
爲釣〔つらせる〕海人〔あま〕が
口大〔おほくち/くちびろ〕の尾〔を〕翼〔はた/ひれ〕鱸〔すずき〕[訓(レ)鱸云(二)須受岐〔一〕。]
佐〔サ〕和〔ワ〕佐〔サ〕和〔ワ〕邇〔ニ〕[此五字以(レ)音]控〔ひき〕依〔よせ〕騰〔あげ〕て
打竹〔さきたけ〕の登〔ト〕遠〔ヲ〕遠〔ヲ〕登〔ト〕遠〔ヲ〕遠〔ヲ〕邇〔ニ〕[此七字以(レ)音]
獻天〔あめ〕の眞魚〔まな〕咋〔ぐひ〕獻〔たてまつらむ〕。
とまをしき。
故建御雷神返參上復奏言向和平葦原中國之狀
故〔かれ〕建御雷〔たけみかづち〕の神〔かみ〕
返參上〔かへりまゐのぼり〕て
葦原〔あしはら〕の中國〔なかつくに〕言向〔ことむけ〕和平〔やはしぬる〕狀〔さま〕を
復奏〔まをしたまひき〕。
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