古事記(國史大系版・上卷14・大國主神6少名毘古那神、光海依來之神)
底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)
・底本奥書云、
明治三十一年七月三十日印刷
同年八月六日發行
發行者合名會社經濟雜誌社
・底本凡例云、
古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり
且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり
(傳十二)
故大國主神坐出雲之御大之御前時
自波穗乘天之羅摩船而
内剝‘鵝‘皮剝爲衣服有歸來神
(鵝、宣長云恐當據延本作蛾、種松云眞本作䳋、即雀字、宜訓左左伎。皮剝、寛本无)
爾雖問其名不答
且雖問所從之諸神皆白不知
爾多邇‘且久‘白言[自多下四字以音](且久、宣長云恐當作具久。白言、伊本作自言)
此者‘久延毘古必知之(久延以下至即召九字、宣長云舊印本又一本脱、今從眞本延本)
即召久延毘古問時答白
此者神產巢日神之御子
少名毘古那神[自毘下三字以音]
故爾白上於神產巢日御祖‘命者答告(命者、伊本无者字)
此者實我子也
於子之中自我手俣久岐斯子也[自久下三字以音]
故與汝葦原色許男命
爲兄弟而作堅其國
故自爾大穴牟遲與少名毘古那
二柱神相並作堅‘此國(此國、伊本无此字)
然後者其少名毘古那神者度于常世國也
故顯白其少名毘古那神所謂久延毘古者
於今者山田之‘曾富騰者也(曾、卜本寛本神本作首〔ひとこのかみ〕)
此神者足雖不行盡知天下之事神也
故〔かれ〕大國主〔おほくにぬし〕の神〔かみ〕
出雲〔いづも〕の御大〔みほ〕の御前〔みさき〕に坐〔ます〕時〔とき〕に
波〔なみ〕の穗〔ほ〕より天〔あめ〕の羅摩〔かがみ〕の船〔ふね〕に乘〔のり〕て
鵝〔ひむし/ささぎ〕の皮〔かは〕を内剝〔うつはぎ〕に剝〔はぎ〕て衣服〔きもの〕に爲〔し〕て
歸來〔よりくる〕神〔かみ〕有〔あり〕。
爾〔かれ〕其〔そ〕の名〔な〕を雖問〔とはすれども〕不答〔こたへず〕。
且〔また〕所從〔みとも〕も諸神〔かみたち〕に雖問〔とはすれども〕
皆〔みな〕不知〔しらず〕と白〔まをし〕き。
爾〔ここ〕に多〔タ〕邇〔ニ〕且〔グ〕久〔ク〕白言〔まをさく〕[自(レ)多下四字以(レ)音]
此〔こ〕は久〔ク〕延〔エ〕毘〔ビ〕古〔コ〕ぞ必〔かならず〕知之〔しりたらむ〕。
とまをせば即〔すなはち〕久〔ク〕延〔エ〕毘〔ビ〕古〔コ〕を召〔めし〕て問〔とはす〕時〔とき〕に
此〔こ〕は神產巢日〔かみむすび〕の神〔かみ〕の御子〔みこ〕
少名〔すくな〕毘〔ビ/ヒ〕古〔コ〕那〔ナ〕の神〔かみ〕[自(レ)毘下三字以(レ)音。]なり。
と答白〔まをし〕き。
故〔かれ〕爾〔ここ〕に神產巢日〔かみむすび〕の御祖〔みおや〕の命〔みこと〕に白上〔まをしあげ〕しかば
此〔こ〕は實〔まこと〕に我〔あ〕が子〔みこ〕なり。
子〔みこ〕の中〔なか〕に我〔あ〕が手俣〔たなまた〕より
久〔ク〕岐〔キ〕斯〔シ〕子〔みこ〕[自(レ)久下三字以(レ)音。]なり。
故〔かれ〕汝〔みまし〕葦原〔あしはら〕色〔シ〕許〔コ〕男〔を〕の命〔みこと〕
兄弟〔あにおと〕と爲〔なり〕て其〔そ〕の國〔くに〕作堅〔つくりかためよ〕。
と答告〔のりたまひき〕。
故〔かれ〕爾〔それ〕より
大穴〔おほな〕牟〔ム〕遲〔ヂ〕と少名〔すくな〕毘〔ビ〕古〔コ〕那〔ナ〕と二柱〔ふたはしら〕の神〔かみ〕
相〔あひ〕並〔ならばし〕て此〔こ〕の國〔くに〕作堅〔つくりかため〕たまひき。
然〔さて〕後〔のち〕には其〔そ〕の少名〔すくな〕毘〔ビ〕古〔コ〕那〔ナ〕の神〔かみ〕は
常世〔とこよ〕の國〔くに〕に度〔わたり〕たまひき。
故〔かれ〕其〔そ〕の少名〔すくな〕毘〔ビ〕古〔コ〕那〔ナ〕の神〔かみ〕を顯〔あらはし〕白〔まをせり〕し
所謂〔いはゆる〕久〔ク〕延〔エ〕毘〔ビ〕古〔コ〕は
今〔いま〕に山田〔やまだ〕の曾〔ソ〕富〔ホ〕騰〔ド〕といふ者〔もの〕なり。
此〔こ〕の神〔かみ〕は足〔あし〕は雖不行〔あるかねども〕
天下〔あめのした〕の事〔こと〕を盡〔ことごと〕に知〔しれる〕神〔かみ〕なり。
於是大國主神愁而告
吾獨何能得作此國
孰神與吾能相作此國耶
‘是時有光海依來之神(是時、寛本此下有而字、宣長云、非是)
其神言
能治我前者吾能共與相作成
若不然者國難成
爾大國主神曰
然者治奉之狀奈何
答言
吾者伊都岐奉于倭之靑垣東山上
此者坐御諸山上神也
於是〔ここに〕大國主〔おほくにぬし〕の神〔かみ〕愁〔うれひ〕まして
吾〔‐〕獨〔ひとり〕して何〔いかでか〕此〔こ〕の國〔くに〕を能得作〔えつくらむ〕。
孰〔いづれ〕の神〔かみ〕と與〔とも〕に吾〔あれ〕は
此〔こ〕の國〔くに〕を能相作〔あひ‐つくらまし〕。
と告〔のりたまひ〕き。
是〔こ〕の時〔とき〕に海〔うなはら〕を光〔てらし〕て依來〔よりくる〕神〔かみ〕有〔あり〕。
其〔そ〕の神〔かみ〕の言〔のりたまはく〕
我〔あ〕が前〔みまへ〕を能〔よく〕治〔をさめ〕ば
吾〔あれ〕能〔‐〕共與〔ともども〕に相〔あひ〕作成〔つくりなしてむ〕。
若〔もし〕不然〔しからず〕ば國〔くに〕難成〔なりがてまし〕。
とのりたまひき。
爾〔かれ〕大國主〔おほくにぬし〕の神〔かみ〕曰〔まをしたまはく〕
然〔しから〕ば治奉〔をさめまつらむ〕狀〔さま〕は奈何〔いかにぞ〕。
とまをしたまへば
吾〔あれ〕をばも
倭〔やまと〕の靑垣〔あをかき〕東〔ひむがし〕の山〔まや〕の上〔へ〕に伊〔イ〕都〔ツ〕岐〔キ〕奉〔まつれ〕。
と答言〔のりたまひ〕き。
此〔こ〕は御諸〔みもろ〕の山〔やま〕の上〔へ〕に坐〔ます〕神〔かみ〕なり。
故其大年神娶神活須毘神之女伊怒比賣生子
大國御魂神
次韓神
次曾富理神
次白日神
次聖神[五神]
又娶香用比賣[此神名以音]生子
大香山戸臣神
次御年神[二柱]
又娶天‘知迦流美豆比賣[訓天如天亦自‘知下六字以音]生子(知、伊本作和。[知]、宣長云按當作[迦])
奧津日子神
次奧津比賣命
亦名大戸比賣神
此者諸人以拜竈神者也
次大山[上]咋神
亦名山末之大主神
此神者坐近淡海國之日枝山
亦坐葛野之松尾
‘用鳴鏑神者也(用鳴鏑、宣長云用疑成字、或化字或丹字之誤)
次庭津日神
次阿須波神[此神名以音]
次波比岐神[此神名以音]
次香山戸臣神
次羽山戸神
次庭高津日神
次大土神
亦名土之御祖神[九神]
上件大年神之子自大國御魂神以下大土神以前幷十六神
故〔かれ〕其〔そ〕の大年〔おほとし〕の神〔かみ〕
神〔かむ〕活〔いく〕須〔ス〕毘〔ビ〕の神〔かみ〕の女〔むすめ〕
伊〔イ〕怒〔ヌ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕に娶〔みあひ〕て
生〔うみませる〕子〔みこ〕
大國〔おほくに〕御魂〔みたま〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に韓〔から〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に曾〔ソ〕富〔ホ〕理〔リ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に白日〔むかひ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に聖〔ひぢり〕の神〔かみ〕。[五神。]
又〔また〕香〔かが〕用〔ヨ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕[此神名以(レ)音]に娶〔みあひ〕て
生〔うみませる〕子〔みこ〕
大香〔おほかが〕山戸〔やまと〕臣〔おみ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に御年〔みとし〕の神〔かみ〕。[二柱。]
又〔また〕天〔あめ〕知〔しる/和ワ〕迦〔カ〕流〔ル〕美〔ミ〕豆〔ヅ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕[訓(レ)天如(レ)天、亦自(レ)知下六字以(レ)音]に娶〔みあひ〕て
生〔うみませる〕子〔みこ〕
奧津〔おきつ〕日子〔ひこ〕の神。
次〔つぎ〕に奧津〔おきつ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。
亦〔また〕の名〔な〕は大戸〔おほべ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕。
此〔こ〕は諸人〔もろひと〕の以〔も〕て拜〔いつく〕竈〔かま〕の神〔かみ〕なり。
次〔つぎ〕に大山〔おほやま〕[上]咋〔くひ〕の神〔かみ〕。
亦〔また〕の名〔な〕は山末〔やますゑ〕の大主〔おほぬし〕の神〔かみ〕。
此〔こ〕の神〔かみ〕は近〔ちかつ〕淡海〔あふみ〕の國〔くに〕の日枝〔ひえ〕の山〔やま〕に坐〔ます〕。
亦〔また〕葛野〔かつぬ/かとの〕の松〔まつ〕の尾〔を〕に坐〔ます〕。
鳴鏑〔なりかぶら〕に用〔なり〕ませる神〔かみ〕なり。
次〔つぎ〕に庭津〔にはつ〕日〔ひ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に阿〔ア〕須〔ス〕波〔ハ〕の神〔かみ〕。[此神名以(レ)音]
次〔つぎ〕に波〔ハ〕比〔ヒ〕岐〔ギ〕の神〔かみ〕。[此神名以(レ)音]
次〔つぎ〕に香山戸〔かがやまと〕臣〔おみ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に羽山戸〔はやまと〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に庭高津〔にはたかつ〕日〔ひ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に大土〔おほつち〕の神〔かみ〕。
亦〔また〕の名〔な〕は土〔つち〕の御祖〔みおや〕の神〔かみ〕。[九神。]
上〔かみ〕の件〔くだり〕
大年〔おほとし〕の神〔かみ〕の子〔みこ〕
大國〔おほくに〕御魂〔みたま〕の神〔かみ〕より以下〔しも〕
大土〔おほつち〕の神〔かみ〕以前〔まで〕幷〔あはせ〕て十六神〔とをまりむはしら〕。
羽山戸神娶大氣都比賣[自氣下四字以音]神生子
若山咋神
次若年神
次妹若沙那賣神[自沙下三字以音]
次彌豆麻岐神[自彌下四字以音]
次夏高津日神
亦名夏之賣神
次秋毘賣神
次久久年神[久久二字以音]
次久久紀若室葛根神[久久紀三字以音]
‘上件羽山戸神之子以下若室葛根神以前幷八神
(上件云々、宣長云、戸神二字及自若山咋神五字、根下神字、諸本无、今從延本、而戸下神字根下神字延本未補故依例補)
羽山戸〔はやまと〕の神〔かみ〕
大〔おほ〕氣〔ゲ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕[自(レ)氣下四字以(レ)音]に娶〔みあひ〕て
生〔うみませる〕子〔みこ〕
若山咋〔わかやまくひ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に若年〔わかとし〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に妹〔いも〕若〔わか〕沙〔サ〕那〔ナ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕。[自(レ)沙下三字以(レ)音]
次〔つぎ〕に彌〔ミ〕豆〔ヅ〕麻〔マ〕岐〔キ〕の神〔かみ〕。[自(レ)彌下四字以(レ)音]
次〔つぎ〕に夏高津〔なつかたつ〕日〔ひ〕の神〔かみ〕。
亦〔また〕の名〔な〕は夏〔なつ〕の賣〔メ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に秋〔あき〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に久〔ク〕久〔ク〕年〔とし〕の神〔かみ〕。[久久二字以(レ)音]
次〔つぎ〕に久〔ク〕久〔ク〕紀〔ギ〕若室〔わかむろ〕葛根〔つなね〕の神〔かみ〕。[久久紀三字以(レ)音]
上〔かみ〕の件〔くだり〕
羽山戸〔はやまと〕の神〔かみ〕の子〔みこ〕より以下〔しも〕
若室〔わかむろ〕葛根〔つなね〕の神〔かみ〕以前〔まで〕幷〔あはせ〕て八神〔やはしら〕。
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