古事記(國史大系版・上卷6・天照大御神、月讀命、建速須佐之男命1宇氣比)
底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)
・底本奥書云、
明治三十一年七月三十日印刷
同年八月六日發行
發行者合名會社經濟雜誌社
・底本凡例云、
古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり
且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり
(傳七)
(天照大御神、月讀命、建速須佐之男命)
此時伊邪那‘岐命大歡喜詔(岐、卜本伊本寛本閣本作伎)
吾者生生子而於‘生終得三貴子(生終、元々集二此下有時字)
即其御頸珠之玉緖母由良邇[此四字以音下效此]取由良迦志而
賜天照大御神而詔之
汝‘命者所知高天原矣(命者、イ本者作宜)
事依而賜也
故其御頸珠名謂御倉板擧之神[訓板擧云多那]
次詔月讀命
汝命者所知夜之食國矣
事依也[訓食云袁須]
次詔建速須佐之男命
汝命者所知海原矣
事依也
此〔こ〕の時〔とき〕伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕岐〔ギ〕の命〔みこと〕
大〔いたく〕歡喜〔よろこばし〕て詔〔のりたまはく〕
吾〔あれ〕は子〔みこ〕生〔うみ〕生〔うみ〕て生〔うみ〕の終〔はて〕に
三〔みばしら〕の貴〔うづ〕の子〔みこ〕得〔えたり〕。
とのりたまひて
即〔すなはち〕其〔そ〕の御頸珠〔みくびたま〕の玉緖〔たまを〕
母〔モ〕由〔ユ〕良〔ラ〕邇〔ニ〕[此四字以(レ)音、下效(レ)此]取〔とり〕由〔ユ〕良〔ラ〕迦〔カ〕志〔シ〕て
天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕に賜〔たまひ〕て詔之〔のりたまはく〕
汝〔な〕が命〔みこと〕は高天原〔たかまのはら〕を所知〔しらせ〕。
と事依〔ことよさし〕て賜〔たまひ〕き。
故〔かれ〕其〔そ〕の御頸珠〔みくびたま〕の名〔な〕を
御倉板擧〔みくらだな〕の神〔かみ〕と謂〔まをす〕。[訓(二)板擧(一)云(二)多那(一)]
次〔つぎ〕に月讀〔つくよみ〕の命〔みこと〕に詔〔のりたまはく〕。
汝〔な〕が命〔みこと〕は夜〔よる〕の食國〔をすくに〕を所知〔しらせ〕。
と事依〔ことよさし〕たまひき〕。[訓(レ)食云(二)袁須(一)]
次〔つぎ〕に建速〔たけはや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕に詔〔のりたまはく〕。
汝〔な〕が命〔みこと〕は海原〔うなはら〕を所知〔しらせ〕。
と事依〔ことよさし〕たまひき。
故各隨依賜之命所知‘看之中(看、閣本寛本作者)
速須佐之男命‘不知所命之國而(不知、諸本作不治、古事記傳亦同)
八拳‘須至于心前啼伊佐知伎也[自伊下四字以音下效此](須、釋紀六與此同、元々集作鬚、イ本作蘰)
其泣狀者‘靑山如枯山泣枯河海者悉泣乾(靑山、寛寫本此下有者字)
是以惡神之音如狹蠅皆‘滿萬物之妖悉發(滿、宣長云、恐涌字之誤)
故〔かれ〕各〔おのおの〕依賜〔よさしたまへる〕命〔みこと〕の隨〔まにまに〕所知看〔しろしめす〕中〔なか〕に
速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕
所命〔よさしたまへる〕國〔くに〕を不知〔しらさず〕して
八拳須〔やつかひげ〕心前〔むなさき〕に至〔いたるまで〕
啼〔なき〕伊〔イ〕佐〔サ〕知〔チ〕伎〔き〕。[自(レ)伊下四字以(レ)音、下效(レ)此]
其〔そ〕の泣〔なき〕たまふ狀〔さま〕は靑山〔あをやま〕を如〔‐〕枯山〔からやま〕になす泣枯〔なきからし〕
河海〔うみかは(儘)〕は悉〔ことごと/ふつく〕に泣乾〔なきほし〕き。
是以〔ここをもちて〕惡神〔あらぶるかみ〕の音〔おとなひ〕如〔‐〕狹蠅〔さばへ〕なす皆〔みな〕滿〔わき〕
萬物〔よろづのもの〕の妖〔あざはひ〕悉〔ことごと〕に發〔おこり〕き。
故伊邪那岐大御神詔速須佐之男命
何由以汝不‘治所事依之國而(治所、イ本无)
哭伊佐知流
爾答‘白(白、眞本伊本作曰)
僕者欲罷妣國根之堅‘洲國故哭(洲、眞本伊本作州)
爾伊邪那岐大御神大忿怒詔
然者汝不可住此國
乃神夜良比爾夜良比賜也[自夜以下七字以音]
故其伊邪那岐大神者坐‘淡海之多賀也(淡海、イ本作淡路)
故〔かれ〕伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕岐〔ギ〕の大御神〔おほみかみ〕
速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕に詔〔のりたまはく〕
何由以〔なにとかも〕汝〔みまし〕は所事依〔ことよさせる〕國〔くに〕不治〔しらさず〕て
哭〔なき〕伊〔イ〕佐〔サ〕知〔チ〕流〔ル〕。
とのりたまへば爾答白〔まをしたまはく/すなはち〕
僕者〔あ〕は妣〔はは〕の國〔くに〕
根〔ね〕の堅洲國〔かたすくに〕に罷〔まからん〕と欲〔おもふ〕が故〔ゆゑ〕に哭〔なく〕。
とまをしたまひき。
爾〔ここ〕に伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕岐〔ギ〕の大御神〔おほみかみ〕大〔いたく〕忿怒〔いからし〕て
然〔しから〕ば汝〔みまし〕此〔こ〕の國〔くに〕には不可住〔な‐すみそ〕。
と詔〔のりたまひて〕
乃〔すなはち〕神〔かむ〕夜〔ヤ〕良〔ラ〕比〔ヒ〕爾〔ニ〕夜〔ヤ〕良〔ラ〕比〔ヒ〕賜〔たまひ〕き。[自(レ)夜以下七字以(レ)音]
故〔かれ〕其〔そ〕の伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕岐〔ギ〕の大神〔おほみかみ〕は
淡海〔あふみ〕の多〔タ〕賀〔ガ〕になも坐〔まします〕。
故於是速須佐之男命言
然者請天照大御神將罷
乃參上天時山川悉動國土皆震
爾天照大御神聞驚而詔
我那勢命之上來由者
必不善心
欲奪我國耳
故〔かれ〕於是〔ここに〕速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕言〔まをしたまはく〕
然〔しから〕ば天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕に請〔まをし〕て將罷〔まかりなむ〕。
とまをしたまひて乃〔すなはち〕天〔あめ〕に參上〔まゐのぼり〕ます時〔とき〕に
山川〔やまかは〕悉〔ことごと〕に動〔とよみ〕國土〔くにつち〕皆〔みな〕震〔ゆり〕き。
爾〔ここ〕に天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕聞〔きき〕驚〔おどろかし〕て
我〔あ〕が那〔ナ〕勢〔セ〕の命〔みこと〕の上來〔のぼりき〕ます由〔ゆゑ〕は
必〔かならず〕不善心〔うるはしき/よき‐こころ‐ならじ〕。
我〔あ〕が國〔くに〕を奪〔うばはむ〕と欲〔おもへば〕に耳〔こそ〕。
と詔〔のりまたひて〕
即解御髮纒御美豆羅而
乃於左右御美豆羅
亦於御‘鬘(鬘、諸本作縵)
亦於左右御手各纒持八尺勾璁之五百津之美須麻流之珠而[自美至流四字以音下效此]
曾毘良邇者負千入之靫[訓入云能理下效此自曾至邇以音]
「‘比良邇者」附五百入之靫亦‘所取佩伊都[此二字以音]之竹鞆而弓腹振立而
(比良邇者、宣長校本從延本削、今據諸本補。所取、神本學本作臂、寛寫本作腕、中本旡所字、宣長云、延本作臂非)
堅庭者於向股蹈那豆美[三字以音]如‘沫雪蹶散而(沫雪、伊本作淡雪)
伊都[二字以音]之男建訓建云多祁夫蹈建而待問
何故上來
即〔すなはち〕御髮〔みかみ/みくし〕を解〔とき/あげ〕て
御〔み〕美〔ミ〕豆〔ヅ〕羅〔ラ〕に纏〔まかして/ひきまつひ〕
乃〔‐〕左右〔ひだりみぎ〕の御〔み〕美〔ミ〕豆〔ヅ〕羅〔ラ〕にも
亦〔また〕御鬘〔みかづら〕にも
亦〔また〕左右〔ひだりみぎ〕の御手〔みて〕にも
各〔みな〕八尺〔やさか〕の勾璁〔まがたま〕の五百津〔いほつ〕の美〔ミ〕須〔ス〕麻〔マ〕流〔ル〕の珠〔たま〕を
纏〔まき〕持〔もたし〕て[自(レ)美至(レ)流四字以(レ)音、下效此]
曾〔ソ〕毘〔ビ〕良〔ラ〕邇〔ニ〕は
千入〔ちのり〕の靫〔ゆぎて〕負〔おひ〕[訓(レ)入云(二)能理(一)、下效(レ)此。自(レ)曾至(レ)邇以(レ)音]
比〔ヒ〕良〔ラ〕邇〔ニ〕者〔ハ〕五百入〔いほり〕の靫〔ゆぎて〕附〔つけ〕
亦〔また〕伊〔イ〕都〔ツ〕[此二字以(レ)音]の竹鞆〔たかとも〕を所取佩〔とりおばし〕て
弓腹〔ゆはら〕振立〔ふりたて〕て
堅庭〔かたには〕は向股〔むかもも〕に蹈〔ふみ〕那〔ナ〕豆〔ヅ〕美〔ミ〕[三字以(レ)音]
如〔‐〕沫雪〔あわゆき〕なす蹶〔くゑ〕散〔はららかし〕て
伊〔イ〕都〔ツ〕[二字以(レ)音]の男建〔をたけび〕[訓(レ)建云(二)多祁夫(一)]蹈建〔ふみたけび〕て
待〔まち〕問〔とひたまはく〕
何故〔など/なのゆへに〕上(のぼり)來〔きませる/まうくる〕。
ととひたまひき。
爾速須佐之男命‘答白(答白、イ本作答曰)
僕者無邪心
唯大御神之命以問賜僕之哭伊佐知流之事故白都良久[三字以音]
僕欲往妣國以哭
爾大御神詔
汝者不可在此國
而神夜良比夜良比賜故以爲請將罷往之狀參上耳
無異心
爾天照大御神詔
然者汝心之淸明何以知
於是速須佐之男命答白
各宇氣比而生子[自宇以下三字以音下效此]
爾〔ここ〕に速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕の答白〔まをしたまはく〕
僕〔あ〕は邪心〔きたなきこころ〕無〔なし〕。
唯〔ただ〕大御神〔おほみかみ〕の
命〔みこと〕以〔もち〕て僕〔あ〕が哭〔なき〕伊〔イ〕佐〔サ〕知〔チ〕流〔ル〕事〔こと〕を問賜〔とひたまひ〕し故〔ゆゑ〕に
白〔まをし〕都〔ツ〕良〔ラ〕久〔ク〕[三字以(レ)音]
僕〔あ〕は妣國〔ははのくに〕に欲往〔まからむと‐おもひ〕て以〔‐〕哭〔なく〕。
とまをししかば
爾〔‐〕大御神〔おほみかみ〕
汝〔みまし〕は此〔こ〕の國〔くに〕には不可在〔な‐すみそ〕。
と詔〔のりたまひ〕て神〔かむ〕夜〔ヤ〕良〔ラ〕比〔ヒ〕夜〔ヤ〕良〔ラ〕比〔ヒ〕賜〔たまふ〕。
故〔ゆゑ〕に將罷往〔まかりなんとする〕狀〔さま〕を請〔まをさむ〕と以爲〔おもひて〕こそ
參〔まゐ〕上〔のぼり〕耳〔つれ〕。
異心〔けしき/きたなき‐こころ〕無〔なし〕。
とまをしたまへば
爾〔‐〕天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕
然〔しから〕ば汝〔みましの/いましが〕心〔こころ〕の淸明〔あかきこと〕
何以〔いかにして〕知〔しらまし〕。
と詔〔のりたまひき〕。
於是〔ここに〕速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕
各〔おのも‐おのも〕宇〔ウ〕氣〔ケ〕比〔ヒ〕て子〔みこ〕生〔うまな〕。[自(レ)宇以下三字以(レ)音、下效(レ)此。]
と答白〔まをしたまふ〕。
故爾各中置天安河而宇氣布時
天照大御神先‘乞度建速須佐之男(乞度、イ本无度字)
命所佩十拳劔打折三段而
奴那登母母由良爾[此八字以音下效此]振滌天之眞名井而
佐賀‘美爾迦美而[自佐下六字以音下效此](美爾、伊本眞本閣本及下文作美邇)
於吹棄氣吹之狹霧所成神御名
多紀理毘賣命[此神名以音]
亦御名謂奧津島比賣命
次市寸島上比賣命
亦御名謂狹依毘賣命
次多岐都比賣命[三柱此神名以音]
故〔かれ〕爾〔ここに/すなはち〕各〔おのもおのも〕天〔あめ〕の安河〔やすかは〕を中〔なか〕に置〔おき〕て
宇〔ウ〕氣〔ケ〕布〔フ〕時〔とき〕に
天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕
先〔まづ〕建速〔たけはや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕の
所佩〔みはかせる〕十拳劔〔とつかのつるぎ〕を乞〔こひ〕度〔わたし〕て
三段〔みぎだ〕に打折〔うちをり〕て
奴〔ヌ〕那〔ナ〕登〔ト〕母〔モ〕母〔モ〕由〔ユ〕良〔ラ〕爾〔ニ〕[此八字以(レ)音、下效(レ)此]
天〔あめ〕の眞名井〔まなゐ〕に振〔ふり〕滌〔すすぎ〕て
佐〔サ〕賀〔ガ〕美〔ミ〕爾〔ニ〕迦〔カ〕美〔ミ〕て[自(レ)佐下六字以(レ)音、下效(レ)此]
吹棄〔ふきつる〕氣吹〔いぶき〕の狹霧〔さぎり〕に所成〔なりませる〕神〔かみ〕の御名〔みな〕は
多〔タ〕紀〔キ〕理〔リ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕命の〔みこと〕[此神名以(レ)音]
亦〔また〕の御名〔みな〕は奧津島〔おきつしま〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕と謂〔まをす〕。
次〔つぎ〕に市寸島〔いちきしま〕[上]比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕
亦〔また〕の御名〔みな〕は狹依〔さより〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕と謂〔まをす〕。
次〔つぎ〕に多〔タ〕岐〔ギ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕。[三柱。此神名以(レ)音]
速須佐之男命乞度天照大御神所纒左御美豆良八尺勾璁之五百津之美須‘麻流珠而(麻流、恐此下當據上文及釋紀補之字)
奴那登母母由良爾振滌天之眞名井而
佐賀美邇迦美而
於吹棄氣吹之狹霧所成神御名
正勝吾勝勝速日天之忍穗耳命
速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕
天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕の
左〔ひだり〕の御〔み〕美〔ミ〕豆〔ヅ〕良〔ラ〕に所纒〔まかせる〕八尺〔やさか/やさかに〕の勾璁〔まがたま〕の
五百津〔いほつ〕の美〔ミ〕須〔ス〕麻〔マ〕流〔ル〕の珠〔たま〕を乞〔こひ〕度〔わたし〕て
奴〔ヌ〕那〔ナ〕登〔ト〕母〔モ〕母〔モ〕由〔ユ〕良〔ラ〕爾〔ニ〕天〔あめ〕の眞名井〔まなゐ〕に振〔ふり〕滌〔すすぎ〕て
佐〔サ〕賀〔ガ〕美〔ミ〕邇〔ニ〕迦〔カ〕美〔ミ〕て
吹棄〔ふきうつる〕氣吹〔いぶき〕の狹霧〔さぎり〕に所成〔なりませる〕神〔かみ〕の御名〔みな〕は
正勝〔あさか〕吾勝〔あかつ〕勝速日〔かちはやび〕天〔あめ〕の忍穗耳〔おしほみみ/おしほに〕の命〔みこと〕。
亦乞度所纒右御美豆良‘之珠而(之珠、イ本旡之字)
佐賀美邇迦美而
於吹棄氣吹之狹霧所成神御名天之菩卑能命[自菩下三字以音]
亦〔また〕右〔みぎ〕の御〔み〕美〔ミ〕豆〔ヅ〕良〔ラ〕に所纏〔まかせる〕珠〔たま〕を乞〔こひ〕度〔わたし〕て
佐〔サ〕賀〔ガ〕美〔ミ〕邇〔ニ〕迦〔カ〕美〔ミ〕て
吹棄〔ふきうつる〕氣吹〔いぶき〕の狹霧〔さぎり〕に所成〔なりませる〕神〔かみ〕の御名〔みな〕は
天〔あめ〕の菩〔ホ〕卑〔ヒ〕能〔ノ〕命〔みこと〕。[自(レ)菩下三字以(レ)音]
亦乞度所纒‘御鬘之珠而
(御鬘、伊本作右御手三字、卜本同、曼本小本同、而學本手字傍書美豆良、寛本作右御美豆良五字、延本作御迦豆良、
宣長云、今據上文用御鬘二字[幷五柱]、諸本皆大字而在訓註之下、宣長云、考前後例改)
佐賀美邇迦美而
於吹棄氣吹之狹霧所成神御名
天津日子根命
亦〔また〕御鬘〔みかづら〕に所纏〔まかせる〕珠〔たま〕を乞〔こひ〕度〔わたし〕て
佐〔サ〕賀〔ガ〕美〔ミ〕邇〔ニ〕迦〔カ〕美〔ミ〕て
吹棄〔ふきうつる〕氣吹〔いぶき〕の狹霧〔さぎり〕に所成〔なりませる〕神〔かみ〕の御名〔みな〕は
天津〔あまつ〕日子〔ひこ〕根〔ね〕の命〔みこと〕。
又乞度所纒左御手之珠而
佐賀美邇迦美而
於吹棄氣吹之狹霧所成神御名
活津日子根命
又〔また〕左〔ひだり〕の御手〔みて〕に所纏〔まかせる〕珠〔たま〕を乞〔こひ〕度〔わたし〕て
佐〔サ〕賀〔ガ〕美〔ミ〕邇〔ニ〕迦〔カ〕美〔ミ〕て
吹棄〔ふきうつる〕氣吹〔いぶき〕の狹霧〔さぎり〕に所成〔なりませる〕神〔かみ〕の御名〔みな〕は
活津〔いくつ〕日子〔ひこ〕根〔ね〕の命〔みこと〕。
亦乞度所纒右御手之珠而
佐賀美邇迦美而
於吹棄氣吹之狹霧所成神御名
熊野久須毘命[自久下三字以音幷五柱]
亦〔また〕右〔みぎ〕の御手〔みて〕に所纏〔まかせる〕珠〔たま〕乞〔こひ〕度〔わたし〕て
佐〔サ〕賀〔ガ〕美〔ミ〕邇〔ニ〕迦〔カ〕美〔ミ〕て
吹棄〔ふきうつる〕氣吹〔いぶき〕の狹霧〔さぎり〕に所成〔なりませる〕神〔かみ〕の御名〔みな〕は
熊野〔くまぬ〕久〔ク〕須〔ス〕毘〔ビ〕の命〔みこと〕[幷五柱。自(レ)久下三字以(レ)音]
於是天照大御神告速須佐之男命
是後所生五柱男子者物實因我物所成
故‘自吾子也(自、眞本伊本作白)
先所‘生之三柱女子者物實因汝物所成(生之、延本旡之字)
故乃汝子也
如此詔別也
於是〔ここに〕天照大御神〔あまてらすおほみかみ〕
速〔はや〕須〔ス〕佐〔サ〕の男〔を〕の命〔みこと〕に告〔のりたまはく〕
是〔こ〕の後〔のち〕に所生〔あれませる〕五柱〔いつはしら〕の男子〔ひこみこ〕は
物實〔ものざね〕我〔あ〕が物〔もの〕に因〔より〕て所成〔なりませり/なれり〕。
故〔かれ〕自〔おのづから〕吾〔あ〕が子〔みこ〕なり。
先〔さき〕に所生〔あれませる〕三柱〔みはしら〕の女子〔ひめみこ〕は
物實〔ものざね〕汝〔みまし〕が物〔もの〕に因〔より〕て所成〔なりませり〕。
故〔かれ〕乃〔すなはち〕汝〔みまし〕の子〔みこ〕なり。
如此〔かく〕詔〔のり‐〕別〔わけ‐たまひき〕也。
故其先所生之神多紀理毘賣命者坐胷形之奧津宮
次市寸嶋比賣命者坐胷形之中津宮
次田寸津比賣命者坐胷形之邊津宮
此三柱神者胷形君等之以伊都久三前大神者也
故〔かれ〕其〔そ〕の先〔さき〕に所生〔あれませる〕神〔かみ〕
多〔タ〕紀〔キ〕理〔リ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕は
胷形〔むなかた〕の奧津〔おきつ〕の宮〔みや〕に坐〔ます〕。
次〔つぎ〕に市寸嶋〔いちきしま〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕は
胷形〔むなかた〕の中津〔なかつ〕の宮〔みや〕に坐〔ます〕。
次〔つぎ〕に田寸津〔たぎつ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の命〔みこと〕は
胷形〔むなかた〕の邊津〔へつ〕の宮〔みや〕に坐〔ます〕。
此〔こ〕の三柱〔みはしら〕の神〔かみ〕は
胷形〔むなかた〕の君等〔きみら〕が以〔も〕て伊〔イ〕都〔ツ〕久〔ク〕三前〔みまへ〕の大神〔おほかみ〕なり。
故此後所生五柱子之中
天菩比命之子
建比良‘鳥命(‘鳥、閣本酉本小本寛本作邉、非是)
[此出雲國造
无邪志國造
上菟上國造
下菟上國造
伊自牟國造
津嶋縣直
遠江國造等之祖也]
次天津日子根命者
[凡‘川内國造([川]、イ本作[河])
額田部湯坐連
‘茨木國造([茨]、諸本旡[茨]字、宣長云據書紀及國造本紀等補、即常陸國郡名)
倭田中直
山代國造
馬來田國造
道尻岐閇國造
周芳國造
倭淹知造
高市縣主
蒲生稻寸
三枝部造等之祖也]
故〔かれ〕此〔こ〕の後〔のち〕に所生〔あれませる〕五柱〔いつはしら〕の子〔みこ〕の中〔なか〕に
天〔あめ〕の菩〔ホ〕比〔ヒ〕の命〔みこと〕の子〔みこ〕
建〔たけ〕比〔ヒ〕良〔ラ〕鳥〔とり〕の命〔みこと〕
[此〔これ〕は出雲〔いづも〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
无〔ム〕邪〔ザ〕志〔シ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
上菟上〔かみうなかみ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
下菟上〔しもうなかみ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
伊〔イ〕自〔ジ〕牟〔ム〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
津島〔つしま〕の縣〔あがた〕の直〔あたへ〕
遠江〔とほつあふみ〕の國〔くに〕の造等〔みやつこら〕の祖〔おや〕なり。]
次〔つぎ〕に天津〔あまつ〕日子〔ひこ〕根〔ね〕の命〔みこと〕は
[凡川内〔おふかふち〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
額田部〔ぬかたべ〕の湯坐〔ゆゑ〕の連〔むらじ〕
茨木〔うばらき〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
倭〔やまと〕の田中〔たなか〕の直〔あたへ〕
山代〔やましろ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
馬來田〔うまくだ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
道〔みち〕の尻〔しり〕の岐〔キ〕閇〔へ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
周〔ス〕芳〔ハウ〕の國〔くに〕の造〔みやつこ〕
倭〔やまと〕の淹〔アム〕知〔チ〕國〔くに〕の造〔みやつこ〕
高市〔たけち〕の縣主〔あがたぬし〕。
蒲生〔かまふ〕の稻寸〔いなき〕。
三枝部〔さきくさべ〕の造等〔みやつこら〕の祖〔おや〕なり。]
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