古事記(國史大系版・上卷3・伊邪那岐命及び伊邪那美命2)
底本國史大系第七卷(古事記、舊事本紀、神道五部書、釋日本紀)
・底本奥書云、
明治三十一年七月三十日印刷
同年八月六日發行
發行者合名會社經濟雜誌社
・底本凡例云、
古事記は故伴信友山田以文山根輝實書大人が尾張國眞福寺本應永年間古寫の伊勢本他諸本を以て比校せしものを谷森善臣翁の更に增補校訂せる手校本二部及秘閣本等に據りて古訓古事記(宣長校本)に標注訂正を加へたり
且つ古事記傳(宣長記)の説を掲け欄外にはその卷數を加へて同書を讀まん人の便に供せり
然後還坐之時生吉備兒島
亦名謂‘建日方別(建、舊紀作速)
次生小豆島
亦名謂大野手[上]比賣
次生大島
亦名謂大多麻[上]流別[自多至流以音]
次生女島
亦名謂天一根[訓天如天]
次生知訶嶋
亦名謂天之忍男
次生兩兒嶋
亦名謂天兩屋[自吉備兒島至天兩屋島幷六島]
然後〔さてのち〕還坐〔かへりましし〕時〔とき〕に吉備兒島〔きびのこじま〕を生〔うみ〕たまふ。
亦〔また〕の名〔な〕は建日方別〔たけひがたわけ〕と謂〔いふ〕。
次〔つぎ〕に小豆島〔あづきしま〕を生〔うみ〕たまふ。
亦〔また〕の名〔な〕は大野〔おほぬ〕手〔デ〕[上]比〔ヒ〕賣〔メ〕と謂〔いふ〕。
次〔つぎ〕に大島〔おほしま〕を生〔うみ〕たまふ。
亦〔また〕の名〔な〕は大〔おほ〕多〔タ〕麻〔マ〕[上]流〔ル〕別〔わけ〕[自(レ)多至(レ)流以(レ)音]と謂〔いふ〕。
次〔つぎ〕に女島〔ひめしま〕を生〔うみ〕たまふ。
亦〔また〕の名〔な〕は天一根〔あめひとつね〕[訓(レ)天如(レ)天]と謂〔いふ〕。
次〔つぎ〕に知訶嶋〔ちかのしま〕を生〔うみ〕たまふ。
亦〔また〕の名〔な〕は天〔あめ〕の忍男〔おしを〕と謂〔いふ〕。
次〔つぎ〕に兩兒嶋〔ふたごのしま〕を生〔うみ〕たまふ。
亦〔また〕の名〔な〕は天兩屋〔あめふたや〕と謂〔いふ〕。
[吉備兒島〔きびのこじま〕より天兩屋島〔あめふたやのしま〕至〔まで〕幷〔あはせ〕て六島〔むしま〕。]
既生國竟更生神故生神名‘大事忍男神(大事忍男、宣長云、書紀一書所謂事解之男即是)
次生‘石土毘古神[訓石云伊波亦毘古二字以音下效此]
次生‘石巢比賣神(石土毘古石巢比賣、同云即上筒之男命又磐土命)
次生‘大戸日別神(大戸別、即大直日神)
次生‘天之吹[上]男神(天之吹男神、即氣吹戸主)
次生‘大屋毘古神(大屋毘古、即大綾津日神又大禍津日神)
次生‘風木津別之忍男神[訓風云加邪訓木以音](風木津別、即底筒之男神又底土命又速佐須良比咩)
次生海神名‘大綿津見神(大綿津見、即綿津見神三柱)
次生‘水戸神名速秋津日子神次妹速秋津比賣神[自大事忍男神至‘秋津比賣神幷十神]
(水戸神、即伊豆能賣神又赤土命即是(祝詞作速開都比賣)。[‘秋津]、此間恐脱[速]字)
既〔すで〕に國〔くに〕生〔うみ〕竟〔をへ〕て更〔さら〕に神〔かみ〕生〔うみ〕ます。
故〔かれ〕生〔うみませる〕神〔かみ〕の名〔みな〕は
大事忍男神〔おほことおしをのかみ〕。
次〔つぎ〕に石土〔いはつち〕毘〔ビ〕古〔コ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕まし[訓(レ)石云(二)伊波(一)、亦毘古二字以(レ)音、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に石巢〔いはす〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕まし
次〔つぎ〕に大戸日別〔おほとびわけ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕まし
次〔つぎ〕に天〔あめ〕の吹[上]男〔ふきを〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕まし
次〔つぎ〕に大屋〔おほや〕毘〔ビ〕古〔コ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕まし
次〔つぎ〕に風木津別〔かざけつわけ〕の忍男〔おしを〕の神〔かみ〕[訓(レ)風云(二)加邪(一)、訓(レ)木以(レ)音]を生〔うみ〕まし
次〔つぎ〕に海神〔わたのかみ〕
名〔な〕は大綿〔おほわた〕津〔ツ〕見〔ミ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕まし
次〔つぎ〕に水戸〔みと〕の神〔かみ〕名〔な〕は速秋津日子〔はやあきづひこ〕の神〔かみ〕
次〔つぎ〕に妹〔いも〕速秋津〔はやあきづ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕ましき。
[大事忍男神〔おほことおしをのかみ〕より
秋津〔あきづ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕至〔まで〕
幷〔あはせ〕て十神〔とはしら〕。]
此速秋津日子
速秋津比賣二神
因河海持別而生神名
沫那藝神[那藝二字以音下效此]
次沫那美神[那美二字以音下效此]
次頰那藝神
次頰那美神
次天之水分神[訓分云久麻理下效此]
次國之水分神
次天之久比奢母智神[自久以下五字以音下效此]
次國之久比奢母智神[自沫那藝神至國之久比奢母智神幷八神]
此〔こ〕の速秋津日子〔はやあきづひこ〕速秋津〔はやあきづ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕二神〔ふたはしらのかみ〕
河海〔かはうみ〕に因〔より〕て持別〔もちわけ〕て生〔うみませる〕神〔かみ〕の名〔みな〕は
沫〔あわ〕那〔ナ〕藝〔ギ〕の神〔かみ〕。[那藝二字以(レ)音、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に沫〔あわ〕那〔ナ〕美〔ミ〕の神〔かみ〕。[那美二字以(レ)音、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に頰〔つら〕那〔ナ〕藝〔ギ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に頰〔つら〕那〔ナ〕美〔ミ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に天〔あめ〕の水分〔みくまり〕の神〔かみ〕。[訓(レ)分云(二)久麻理(一)、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に國〔くに〕の水分〔みくまり〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に天〔あめ〕の久〔ク〕比〔ヒ〕奢〔ザ〕母〔モ〕智〔チ〕の神〔かみ〕。[自(レ)久以下五字以(レ)音、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に國〔くに〕の久〔ク〕比〔ヒ〕奢〔ザ〕母〔モ〕智〔チ〕の神〔かみ〕。
[沫〔あわ〕那〔ナ〕藝〔ギ〕の神〔かみ〕より
國〔くに〕の久〔ク〕比〔ヒ〕奢〔ザ〕母〔モ〕智〔チ〕の神〔かみ〕至〔まで〕
幷〔あはせて〕八神〔やはしら〕。]
次生風神名志那都比古神[此神名以音]
次生木神名久久能智神[此神名以音]
次生山神名大山[上]津見神
次生野神名‘鹿屋野比賣神(鹿屋、宣長云此上今本有麻字、從延本削去、眞本作麻屋)
亦名謂野椎神
[自志那都比古神至‘野椎幷四神]([‘野椎]、此下恐脱[神]字)
次〔つぎ〕に風神〔かぜのかみ〕名〔みな〕は志〔シ〕那〔ナ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕古〔コ〕の神〔かみ〕[此神名以(レ)音]を生〔うみ〕ます。
次〔つぎ〕に木神〔きのかみ〕名〔みな〕は久〔ク〕久〔ク〕能〔ノ〕智〔チ〕の神〔かみ〕[此神名以(レ)音]を生〔うみ〕ます。
次〔つぎ〕に山神〔やまのかみ〕名〔みな〕は大山〔おほやま〕[上]津〔ツ〕見〔ミ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕ます。
次〔つぎ〕に野神〔ぬのかみ〕名〔みな〕は鹿屋〔かや〕野〔ヌ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕を生〔うみ〕ます。
亦〔また〕の名〔みな〕は野椎神〔ぬづちのかみ〕と謂〔まをす〕。
[志〔シ〕那〔ナ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕古〔コ〕の神〔かみ〕より
野椎〔ぬづち〕至〔まで〕
幷〔あはせ〕て四神〔よはしら〕。]
此大山津見神
野椎神二神因山野持別而生神名
天之狹土神[訓土云豆知下效此]
次國之狹土神
次天之狹霧神
次國之狹霧神
次天之闇戸神
次國之闇戸神
次大戸惑子神[訓惑云麻刀比下效此]
次大戸惑女神[自天之狹土神至大戸惑女神幷八神]
此〔こ〕の大山津見神〔おほやまつみのかみ〕
野椎神〔ぬづちのかみ〕二神〔ふたはしら〕
山野〔やまぬ〕に因〔より〕て持別〔もちわけ〕て生〔うみませる〕神〔かみ〕の名〔みな〕は
天〔あめ〕の狹土〔さづち〕の神〔かみ〕。[訓(レ)土云(二)豆知(一)、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に國〔くに〕の狹土〔さづち〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に天〔あめ〕の狹霧〔さぎり〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に國〔くに〕の狹霧〔さぎり〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に天〔あめ〕の闇戸〔くらど〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に國〔くに〕の闇戸〔くらど〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に大戸惑子〔おほとまとひこ〕の神〔かみ〕。[訓(レ)惑云(二)麻刀比(一)、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に大戸惑女〔おほとまとひめ〕の神〔かみ〕。
[天〔あめ〕の狹土〔さづち〕の神〔かみ〕より
大戸惑女〔おほとまとひめ〕の神〔かみ〕至〔まで〕
幷〔あはせ〕て八神〔やつはしら〕。]
次生神名鳥之石楠船神
亦名謂天鳥船。
次生大宜都比賣神[此神名以音]
次生火之夜藝速男神[夜藝二字以音]
亦名謂火之炫毘古神
亦名謂火之‘迦具土神[迦具二字以音](迦、原作加、據閣本神本卜本イ本寛本改)
因生此子美蕃登[此三字以音]見炙而病臥在
多具理邇[此四字以音]生神名
金山毘古神[訓金云‘迦那下效此]([‘迦那]、[‘迦]、閣本神本卜本イ本作加)
次金山毘賣神
次於屎成神名
波邇夜須毘古神[此神名以音]
次波邇夜須毘賣神[此神名亦以音]
次於尿成神名
彌都波能賣神
次和久產巢日神
此神之子謂豐宇氣毘賣神[自宇以下四字以音]
故伊邪那美神者因生火神遂神避坐也[自天鳥船至豐宇氣‘毘賣神幷八神。]
([‘毘]、宣長云、諸本作比、今從一本、按眞本作妣、閣本作毗)
凡伊邪那岐伊邪那美二神共所生島壹拾肆島神參拾伍神
[是伊邪那美神未神避以前所生
唯意能碁呂嶋者非所生亦姪子與淡嶋不入子之‘例]([‘例]、伊本眞本此下有[也]字)
次〔つぎ〕に生〔うみませる/あれます〕神〔かみ〕の名〔みな〕は鳥〔とり〕の石楠船〔いはくすぶね〕の神〔かみ〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は天鳥船〔あめのとりふね〕と謂〔まをす〕。
次〔つぎ〕に大〔おほ〕宜〔ゲ〕都〔ツ〕比〔ヒ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕を生〔うみまし〕[此神名以(レ)音]
次〔つぎ〕に火〔ひ〕の夜〔ヤ〕藝〔ギ〕速男神〔はやをのかみ〕[夜藝二字以(レ)音]を生〔うみます〕。
亦〔また〕の名〔みな〕は火〔ひ〕の炫〔かが〕毘〔ビ〕古〔コ〕の神〔かみ〕と謂〔まをし〕
亦〔また〕の名〔みな〕は火〔ひ〕の迦〔カ〕具〔グ〕土〔つち〕の神〔かみ〕[迦具二字以(レ)音]と謂〔まをす〕。
此子〔このみこ〕を生〔うみ〕ますに因〔より〕て
美〔ミ〕蕃〔ホ〕登〔ト〕[此三字以(レ)音]見炙〔やかえ〕て病臥在〔やみこやせり〕。
多〔タ〕具〔グ〕理〔リ〕邇〔ニ〕[此四字以(レ)音]生〔なりませる〕神〔かみ〕の名〔みな〕は
金山〔かなやま〕毘〔ビ〕古〔コ〕の神〔かみ〕[訓(レ)金云(二)迦那(一)、下效(レ)此]
次〔つぎ〕に金山〔かなやま〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に屎〔くそ〕に成〔なりませる〕神〔かみ〕の名〔みな〕は
波〔ハ〕邇〔ニ〕夜〔ヤ〕須〔ス〕毘〔ビ〕古〔コ〕の神〔かみ〕。[此神名以(レ)音]
次〔つぎ〕に波〔ハ〕邇〔ニ〕夜〔ヤ〕須〔ス〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕。[此神名亦以(レ)音]
次〔つぎ〕に尿〔ゆまり〕に成〔なりませる〕神〔かみ〕の名〔みな〕は
彌〔ミ〕都〔ツ〕波〔ハ〕能〔ノ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕。
次〔つぎ〕に和〔ワ〕久〔ク〕產巢日〔むすび〕の神〔かみ〕。
此神〔このかみ〕の子〔こ〕を
豐〔とよ〕宇〔ウ〕氣〔ケ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕[自(レ)宇以下四字以(レ)音]と謂〔まをす〕。
故〔かれ〕伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕美〔ミ〕の神〔かみ〕は
火〔ひ〕の神〔かみ〕を生〔うみませる〕に因〔より〕て遂〔つひ〕に神避坐也〔かむさりまし〕ぬ。
[天鳥船〔あめのとりふね〕より
豐〔とよ〕宇〔ウ〕氣〔ケ〕毘〔ビ〕賣〔メ〕の神〔かみ〕至〔まで〕
幷〔あはせ〕て八神〔やはしら〕。]
凡〔すべて〕伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕岐〔ギ〕
伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕美〔ミ〕二神〔ふたはしらのかみ〕
共〔とも〕に所生〔うみませる〕島〔しま〕壹拾肆島〔とをまりよしま〕。
神〔かみ〕參拾伍神〔みそぢまりいつはしら〕。
[是〔こ〕は伊〔イ〕邪〔ザ〕那〔ナ〕美〔ミ〕の神〔かみ〕
未〔いまだ〕神避〔かむさりまさゞりし〕以前〔さき〕に所生〔うみませる〕。
唯〔たゞ〕意〔オ〕能〔ノ〕碁〔ゴ〕呂〔ロ〕嶋〔しま〕は非所生〔うみませるならず〕。
亦〔また〕姪子〔ひるご〕と淡嶋〔あはしま〕とも子〔みこ〕の例〔かず〕に不入〔いらず〕。
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