修羅ら沙羅さら。——小説。81
以下、一部に暴力的な描写を含みます。
ご了承の上、お読みすすめください。
修羅ら沙羅さら
一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部
夷族第四
壬生は翳りの中にゴックが不意に我に返ったのを見た。その眼差し、ふいに息を吹き返し、いまさらに今に黄泉返ったかのような、…いま、と。
あなたはひとりで生き歸る
壬生は
ひとりで、そこで
と
だれの承諾もなくに
と、壬生は、見ていた、ゴックの唇。それはいまゝさにかすかに開きかけてもうすでに、と。それは知る。いまさらに、唇はすでに開きかかっていた。と、壬生は、見ていた、ゴックの瞼。それはいまゝさにかすかに開きかけてもうすでに、と。それは知る。いまさらに、瞼はすでに完全に開き切っていた。なにを今更開きかゝり、そして開きかかった眼差しの中に、いまさらに何を、殊更になにを。瞬いた、ゴックの眼差しの瞬きの一瞬を見て壬生は、…いま、と。
あなたはひとりで息き歸る
壬生は
ひとりで、そこで
と
だれの承諾もなくに
と、熱があるよ、と。
ゴックはささやいた。
まるで自分の爲にだけ、…壬生の見つめた眼差しに見つめられた儘に、その見つめられた事實に気付きしなかった一瞬を擬態して、その一瞬を停滯させた擬態のなかに、——ね?
と。
——わたし、熱があるよ?
顯らかな疑問形に、壬生は、…外国語だから?
發音上の、さゝいなミス?
——熱があるよ?
ゴックがさゝやく聲を聞く。
——熱?
壬生のさゝやく聲を聞く。
——熱が?
夷族第四
2020.08.04.-09.10. Se-Le Ma
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