修羅ら沙羅さら。——小説。79
以下、一部に暴力的な描写を含みます。
ご了承の上、お読みすすめください。
修羅ら沙羅さら
一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部
夷族第四
わざとあなたに見蕩れる、と。壬生は、仰向けたゴックの傍らに座って、そのショートパンツの下に、ざらついてさゝらと、粒だってつぶつぶと、生地越しの土の触感、あなたは感じる、と。
その肌に
肌にじかに
小さな堅いわずかな痛さの膨大な無數
さゝやき、心に、壬生はゴックの、腕の覆い隱した下の、閉じられた眼差しの前で、殊更にゴックに見蕩れたような表表情を顏に作ろうとして、豊満なおうとつ。肥滿すれすれの。あるいはすでに肥満しかけた。頸に横に肉附いた皴が二本だけよる。かならずしも、自分がそのいかにも女じみた肉體に、…雪菜は、と。
むしろ瘦せた、羸せた小さすぎる少年のようだった雪菜の肉躰は…と。
さゝやき、心に、壬生はあえて見なかった。そのさらされたゴックのからだは、寧ろ目を奪われたように唇の、かすかに拓かれた唇の感じる、と。
吐きそう
また?
はきそう
また?
ささやき、ゴックは心にささやき、かくて偈に頌して曰く
彼女を壊そうと思ったのではなかった
あなたに
完全に。…無慘な、…むしろ
あなたの爲に
もう取り返しもできないほどに
まさに
彼女を壞そうと思ったのではなかった
あなたの爲に話そう
完全に。…無惨な、…むしろ
雪菜はささやく
もう取り返しもできないほどに
覚えてる?
汗まみれの
雪菜はその
自分の肌をなすりつけた
六月の雨
雪菜に
店をさぼった日の朝
わざと
その六時あけかけた
エアコンを消した室内に
空の雨
なぜ?あるいは嗜虐
初めて見たとき
まさか…
わすれた?
彼女を汗まみれにしてやるために
おぼえてないよね?
いやがる雪菜に
あんた、さ
その耳元に
しってた?…あんた、さ
いうこと聞けよ
こ猫ちゃんみたい
さゝやく聲を
ぜんっぜん、ぜんっぜん可愛くない
棄てられたいの?
可哀想なくらい可愛くないの
嘲弄し
可愛くない、…ね?
いいよ。別に
こ猫ちゃんみたい
愚弄し、ことさらに
綺麗なんだけどさ
所詮、たいした女じゃないじゃん?
身寄りないの
その神經を
…うちもか
風俗嬢?
すぐみて判るけど
心の底まで
匂う、みたいな?
しかも家出人?
でもさ
逆剝くような
わたしどうだった?
且つ未成年?
なんか、すごい傲慢
あざけりの
かわいすぎて見蕩れた?
されど病氣持ち?
すっげぇ、むかつく傲慢
聲、わたしの口に
見蕩れた?
莫迦にしてんの?
傲慢すぎて…
唇に
わたしのこと、いつすきになったのかな?
棄てられたいの?
腹もたたない…
聲
と、いう、なんかナイーブそうな質問ぶつけたい感じなの
お前、価値あるの?
知ってた?
わたしは聞いた。雪菜を傷つけ
ね、あんた、じつはさ
棄てられたいの?
女なんて
毀していく聲を、わたしはひとりで
わたし誰からもね
彼女を
可愛いねって、…もう、さ
聞いていた
知ってた?
彼女を壊そうと思ったのではなかった
やばい
汗まみれの肌に
女なんて自分の家畜だくらい
完全に。…無慘な、…むしろ
やばいなんで?
ことさらに
下僕だ状態?
もう取り返しもできないほどに
勘違いだからねそれ
汗まみれの
やばいなんか、かなしい
愛の確認?
敢えて敢えて言うそれ
欲望の奔流?
勘違いだからね。いないよ
雪菜の体に発情を?…わたしが?
もう、いや
まさか…
いないよほんと、私以外に
齒をかみしめた
なんかね、もう…
雪菜は私の
あんたの家畜
私の下で
わたし以外に
歯をかみしめた
もうぜんぶ嫌
四肢を固く
ぜんぶ、かなしすぎてね…ぜんぶ
堅く力んで
なんで?
振るえる身躰
料理なんかさせないでよ
あえぐ息
熱、ある?
もがく肉體
やばい、もう、時間ない…
まるで今
熱、出た?
どうしようもない快感の中にのたうつように
結婚とか?そういうの…
彼女はひたすら不快な痒み
別に、それはそれで、結婚してもいい…なんかさ
その皮膚の内の
自分が見たことのない風景って
痛みにも似た痒みに暴れ
そういうのあるの、なんか、嫌
必死に耐えて(もはや堪えようともせずに?)
さびしくない?
わたしにすがった腕に埀れた
死にたい
わたしの汗に
死にたい
彼女を吹き出す
死にたくないけど…
自分の汗を
怖いじゃん、…ね
自分にふれて
何が怖いの?
他人のような
知ってる?
自分の分泌物にふれ
死ぬの、怖いじゃん
雪菜は目を剝き
やっぱ、怖いじゃん
雪菜は齒を喰いしばり
何が怖いの?
彼女を壞そうと思ったのではなかった
心にね…
完全に。…無惨な、…むしろ
春が来たよ
嗜虐?
心にね…
もう取り返しもできないほどに
聞いてみた
自虐的な嗜虐?
心にね…
まさか…
吐きそ。くさっ
さゝやく
痛いとか、苦しいとか
おれたちは愛し合うべきだから
死ぬまでの
と
所詮、それ、怖がってるだけじゃね?
おれたちは、おれたちで、おれたちだけでも愛し合わなかったら
ちがうの?
…ね?と
だったらさ…
だれもの予測通りになる
こわくないよ、こわくないよ、もうぜんぜん、ぜんぜん、ぜんぜんなにも
じゃない?
なきそう
あんなやつら
こわくないじゃん。だって
あんなやつらって…
わたし、いきてて
どうせ
いきてていきてて
あんなやつら、どうせって
ひっしひっしにいきてきていきて
俺たちの復讐
いたいのくるしいのもう…さ
じゃない?
まいにちだよ
おれたちがいっぱい、幸せになることが
しってるよね?
じゃない?
くるしいんだよ。わたし
だれもがおどろいちゃうくらいに
もうすでに
じゃない?
いたいんだよ、かゆくて、いたくて、もう
しあわせいっぱいになっちゃうことが
やばい、はく
おれたちの、おれたちだけの
かんけいなくない?
世界への、——世界という
しぬいたみ、くるしみ…
俺たちのついにふれなかった
かんけえねえっておもったら
いたましい大きな他人への
あれ?
せめての復讐
わたしさ、ぜんぜん
おれたち、おれたちの爲にだけ
あれ?…ゆき?
おれたちでだけ幸せになる
ぜんぜんぜんぜん
じゃない?
いきるのらくになって
汗と涙に
はきそ…
雪菜はもはや
だからさ、…
聲さえたてない
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