修羅ら沙羅さら。——小説。73
以下、一部に暴力的な描写を含みます。
ご了承の上、お読みすすめください。
修羅ら沙羅さら
一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部
夷族第四
かクに聞きゝ8月24日昼壬生寢台が上に肌を曝シてありきゴック壬生が上にかぶさりテ肌を曝シてありき汗ノ匂ひありき夏のまさに夏の温度ありき熱氣籠りキ壬生耳にゴックが寝息聞きゝ壬生目を開かず目を閉じたる儘部屋ノ暗きを感ジき壬生はすデに知りき空曇りき空いまこそ雨落とさんがまでに暗くクらクして雲に白濁シ白濁の色さまザまに白濁せり雨ハ未だ降らズ壬生は見ずシて壬生はすでに知りき壬生目を閉じタる儘ゴックが頭をなぜ指にそノ髪のかすかに汗ばミてあるヲ感ジきかクて夢を見き夢がうちに花あり花芳香はなチてたダ靜かなりき壬生未だみヅからが眠らざるにまたうたゝ寐せざるにまタまどろみだになキに見ル夢を見ながラに恠シみて夢を見き鼻ハ匂ひて夢がうチの花の馨を嗅ぎき又花は同じクに嗅ぎきうつツなるゴックの髮または肌が立テたる馨を嗅ぎきゴックが髮またハ肌が馨壬生は何度も嗅ぎてゆゑに此レすでに知りき花が馨壬生が心に心覺ゑなし壬生指先にからまるゴックが髮ノ毛先つまミそノ無機物じみたる触感に何を思うともなくたダ感ジて觀じきかクて頌シて
花はまき散らされていた
目を閉じた暗闇に
ゴックの寝室のなかに
耳は音を聞いた
身をよじって
壁の向こうで
ないし
まるで
首をすこしでも左に曲げて?
耳の近くで鳴ったように
眼を開けて
響いた音響
目に見させすれば
き音の
拡がるはずの視界の中の
淸音のき音の
ゴックの寝室の床に
おそらくは
花は撒き散らされていた
鼠が立てたに違いない
色彩
その聲
白と生々しい赤
吠えはしなかった
紅、紫がかったそれとむしろ
鳴きはしなかった
靑みを帶びた紅
鼠は歯を咬みしばったような
黄色、かぎりなく
聲をあげた
白に近づく。黄色、かぎりなく
言語とも言えない
かぎりもなく白に擬態した
彼等の音声が
白、…あくまでも黄色
ささやき合う
不可解な程に
いきものたちは音を立てる
靑みを感じさせた黄色
その口に
それら
その歯
さまざまの色彩が
そのこすれあう
床の上にみづから光った
うすい羽根にも
光も無いはずの
窓の外に
暗がりの中に
耳をすませば
わたしは怯えていた
その音響の方に
ゴックが
耳を澄ましさえすれば
眠るゴックが花の
私の耳は
咲き
聞き取った筈だった
乱れて
蟬の羽根の
落ち
その音声
すでに撒き散らされた
吠えるでもなく
足の踏み場もない床の
鳴くでもない
床の上にみづから光る花々を
聲というしかないそれら
気付かない儘に目を覚まし
聲
気付かない儘に立ち上がろうとし
私は思った
気付かない儘に床を踏めば
言葉以上のものはなかった
その足の裏は
人の口の
おびただしくもその皮膚の一面に
言葉。それ以上に
踏みつけられた花の
醜いものは
つぶれてにじませた
それ以上に
花汁を感じるに違いなかった
暴力的で
わたしはひとりで
壊すためにのみ存在し
抗いがたく、ただ
穢く
一瞬たりとも
意味をなさず
忘れる事さえできなくに
曖昧で
花のつぶれてにじませた
ひたすらな
花汁をあやぶんだ
暴力でしかない
かたわらに
穢れたものは
わたしたちのすべてに容赦なく
耳を覆うしかない
無慈悲なまでに
破壊の轟音
口を開いたその危機を
その言葉もて
わたしはひとりで
なにを語る?
あやぶみつづけた
愛をでも?
又頌して曰く
床の上に
喉を
その(…うごきも)床の上に
まさに
うすくたった煙(…うごきもない花ら)のように
此の喉を
停滞、(——まさか!)それ(——滞留?)
するどく
煙の(…うつくしく)薄くたった(あくまで、…それでも猶もうつくしく?)停滞のように
するどく深く
無数の(——立ち止まった、…)花
深く
ちいさな、(…猶も)煙り立った(——不意に。)
深く深く
煙の(——立ち)ような(…立ち止まった?)
どこまでも、そして
小さな(…滞留。)はな
あからさまにするどく
さまざまの(…滞留)
噛み千切りもせずに
極彩色の(——あきらかな停滞)色に
噛みついたままの
色めき(——花よ。)
痛みのように
花ら(——花よ。)
哀しさ
花ら(——花よ)
哀しさ
花ら
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