修羅ら沙羅さら。——小説。57


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

夷族第四



かクに聞きゝ8月16日夜すでに更ケゆゑに夜ゆゑに暗き此レ照明等着けざルがゆゑなりきかクてもういきていることさえ壬生及びゴック居間のソファにもういきていることさえ横たわり壬生横たわりてゴックその上にもういきていることさえ横たわりかくて横たわりておのおノにもういきていることさえ仰向け壬生もういきていることさえわすれくらいの

そんな

しずけさのなかで…

素肌さらシたるまマ及びゴック素肌曝したる儘かクてすでにざわめきたったその戯れじャれ相ひケる後にざわめきたったその倦怠のみ觀じ壬生默シき外雨なりて内ざわめきたったその雨の音ノみ響きテかくて壬生ざわめきたったそのゴックが身を離シひとり立ち何處かざわめきたったその行かんとシ至近にざわめきたったその立チ止まりテざわめきたったそのあめのあまつぶのたてたおとたちの

ちらしたひまつを

こころにおもえ

立ち止まりたるを見きゴック何を云ふともなくにたダもはやなきだしたくなるくらいの背中ノみさらしかクて壬生もはやなきだしたくなるくらいの伸ばシたル左の手の指ノ先にゴックがもはやなきだしたくなるくらいの太もモにふれゴック敢ゑてもはやなきだしたくなるくらいの壬生ノ指先のふルるに気付かぬをもはやなきだしたくなるくらいの裝ひテ立ち止まりテもはやなきだしたくなるくらいのせつなさが

ただせつなさだけが

しっそうした

立チ止まりたる儘に壬生は見きゴックが背中なるちへどはいて肌に突き出シたる翳りそレちへどはいてこの女ノ弟のもノならん兩手をノみちへどはいて上に突き出して何にちへどはいてふれるともなくに何をかちへどはいて支えんとす形をのミなしちへどはいてくいつきかみつきくいつきくいついたままぶらさがったねずみ

とらにかみついたそのねずみのいっぴき

さいごに

みいだしたそら

そのいろ

頭部は右のミ下にずれ埀レ落ちて歪ミきもろノ手何をも支へズみみずをかめそレ無數なる死者らみみずをかめマた生者らマた未生の者らのみみずをかめ肉又骨また諸細胞等またみみずをかめ諸神経等また諸内臓等それらみみずをかめみみずそのみみずをいまこそくいちぎれその

ひらいたくちびるにたれさがる

ひっしのみみずの

のたうつちょーしん

壁または壁あるひは床又は床あるひは天井又は天井あるひはソファの部分又は部分あるひは窓そのガラス又はガラスあるひは窓そのサッシュ又はサッシュ等さまざまに突キ出シみヅからを曝シ曝しテみづからを突キ出し突き出シてかくてそれら無數なりき血ノ玉腐りたる匂ひあルが儘玉散り空間に及び壬生が目の眼差しが内にもたダよひてゆらぎゝ…弟、

なに?

弟。…かくて迦久爾壬生が唇なにといふともナくに發シたる言葉を壬生はひとり耳に聞きゝかクてゴックいまさらに

何?

さゝやきみづからがさゝやきたるに気付きかくてゴック振り返り壬生を見きゆゑ壬生はヒとり笑ミてひとり唇に聲シて笑ひきゴック首をよじりてそのまゝに壬生を見壬生ゴックの目あるひは憮然たりて壬生をのみ見けるを見かくて覩をはりて壬生白シてゴックにほゝ笑ミて言さク

元気なの?

かくなりゴック解せず

なに?

かくてかクに應へて言シけるを壬生ひとり笑みテひとり唇に聲シて笑ひゴック首をよジりてそノまマに壬生を見壬生ゴックの目あるひは憮然たりて壬生をのみ見けるを見かくて覩をはりて壬生白してゴックにほゝ笑みて言さく

弟さん…

かくなりゴック壬生が何を謂はんとシ又ゴック何とシて答ふべきか知らずまた攷へるだになしゑ無クて

なに?

かくてゴック終に聲シて笑ひ壬生が目にゴックが笑ミ媚びたルにも見へて壬生ひとり笑ミてひとり唇に聲シて笑ひゴック首をよじりてそのまゝに壬生を見壬生ゴックの目あるひは憮然たりて壬生をのミ見けるを見かクて覩をはりて壬生白してゴックにほゝ笑みて言さく

サイゴン?

かクなりゴック聞きて聞きながら壬生が聲ヲ聞きたル氣もせずてあなたは

ゴックは思ひき

あなたははいま

かくてゴックはひとり

ゴックは思ひき

あなたはいまわたしをだけ見た

かくてゴックはひとりひとりなりて心に

ゴックは思ひき

わたしを。なぜなら

とゴックはみづからの眼のいまだ笑みたるをも忘れ

なぜならわたし以外に

ゴックは壬生にもはや見蕩れるようにも

ゴックは思ひき

わたし以外に目に映ったものがなかった

一人想ひ壬生が口の何をか云ひかけたルが開きかけ

…だから?

かくて壬生が唇のふたタび閉じることなくにひらかれタる儘

…今も?

かくにゴック心にのみ云して壬生はひとり見きゴックが瞼また唇なんノゆゑなるかゝすかにふるえふるえシてかくて壬生言さく

元気なの?

さゝやき聲もて云さく

コロナとか…だいじょうぶ?

かくに壬生はゴックが爲にのみさゝやきゝかくて頌に曰く

   孤独な人ではなかった

    みあげるのだった

   かの女は

    ときには

   あきらかに孤独な人ではなかった

    わたしは、むしろ

   かの女の

    ひとりで

   話に聞くその家族たち

    ざわめきたつじゅもく、その

   父と母

    しげったはがひのひかりに

   父と、その父は同居しその妹と俱なりて

    かがやきたつその

   母はすでに死んだ

    まぶしさを

   なぜ?

    みあげるのだった

   話に聞くその家族たち

    ときには

   弟と、弟の友人たち

    わたしはむしろ

   友人と、あるいは女たち

    かおごとみあげたそのいっしゅんに

   弟の女

    めが

   いつか、…と

    あおぞらのいろを

   もうすぐわたしより先に結婚する…

    みいだすまえにわたしはめをとじ

   さゝやき聲で

    みるのだった

   かの女はそう云い

    とじたまぶたのくらやみに

   私に

    さわぎたつ

   何かをもとめるともなくて

    むすうのかがやき

   誰かに

    ざわめきたつ

   誰かの何かをもとめるともなくて

    むすうのきらめく

   もうすぐわたしより先に結婚する…

    さまざまなかたち

   結婚したいの?

    ひかりをみた

   さゝやいた聲に

    ひかりをみた

   しなくちゃならない

    わたしははじめて

   さゝやき、かの女は

    めにものを

   結婚したいの?

    みることのできた

   さゝやいた聲に

    ひとのように

   しないと…

    かんきしたふりを

   と

    かんきしたふりを

   さゝやき、かの女は

    みあげるのだった

   孤独な人ではなかった

    ときに

   かの女は

    むしろわたしは

   あきらかに孤独な人ではなかった

    うみべのみちで

   ほとんど鳴らないスマートホンに

    せをむけて

   メッセージだけ頻繁に送り

    のけぞって

   だれも尋ねない

    ひっくりかえったはんたいのむこうに

   鐵門にいつでも鍵をかけ

    うみをみた

   ふたりしかいない

    そらをみた

   家のドアをは明け放す

    うみをみて

   尋ねる者のいないせいで

    うみとともにそらをみて

   ゴックの家で

    うみがいまうえに

   ゴックにしか私は逢わずに

    そらがいましたに

   スマートホンの鳴らないせいで

    みえているのだとさっかくしようと

   ゴックの聲と

    たくらんだ

   それにかさなる自分の聲しか

    たくらんだ

   わたしは終に聞かなかった

    はしれにわとり

   犬が吠えた

    はしれにわとり

   時に

    いつでもふじゆうそうにあるく

   おそらくはゝす向かいの家が放し飼った犬が

    いつでもからだがふりょうひんだったかに

   鐵門の前を通り過ぎ

    いつでもふじゆうそうにあるく

   走り

    はしれにわとり

   駈け

    はしれにわとり

   その足音とゝもに

    わたしはみあげた

   吠えた聲を聞く

    ときに

   想った

    きぜつしそうなほどの

   その歯と舌の狭間に零れたあらゝいだ

    きゅうかくどで

   唾液塗れの息が立つのを

    くびをまげ

   聞いたように

    えづきえづき

   わたしはひとりで思った

    くびをまげ

   ゴックはすでに忘れていた

    よるのそらの

   私の指がその太もゝに

    そのくもを

   いまだにふれつゞけていた事さえも

    えづきえづき

   ゴックはすでに忘れていた

    くびをまげ

   その眼差しが

    みずからのいろを

   わたしをだけ見つめていた

    さらしきらない

   その事実をさえも

    よるのくもらを







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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