修羅ら沙羅さら。——小説。54


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

夷族第四




茫然とした眼差しに、ゴックは天井を見続けた。壬生はシャワーを止めた後もそのノズルをつかみ続けて、そして足元にホースが云うことを聞かない儘理不尽な抗いをさらし緊張し続けるを感じていた。つわり?と。壬生はゴックに問いかけようとして、そのあまりに謎めいて感じられた謎の無い言葉の顯らかさにひとりで倦んだ。ゴックは生むに違いないと思った。生み、育てるに違いない。それを壬生は良しとするとも抗おうとするともなかった。憂鬱になる程に、足元の先にあお向けた儘のゴック茫然としていて、穢いよ。

と。

とても、とても。

と、

…ね。

とてもとても穢いよ。

ゴックは思う、ひとりで

穢いよ。

秘密ごとめかして、ゴックは

穢な過ぎるよ

と、

さゝやき

穢いよ、ゴックは、それ。

天上に埀れかかった水滴のつぶが、その透明の向こうに天上に染みた褐色の沁みの色をそのままに透かし見せているのを、…ね、と、

——大丈夫?

壬生は云った。ゴックは我に返るともなくに、天井を見つめ続ける儘に、

——生きてる?

云った、その壬生の聲を聞いた。ゴックは今更に自分の肺の呼吸し続け、唇で息をし、吐き、吸っていた事をあからさまに冷たい水。

と。

想う、…びっくりするくらい

びっくりして

と。

驚くくらい

と。

驚いて、と、ゴックは、びっくりしてそして

失神?

と。

…嘘。——

冷たい水

と。

肌を濡らし、と、ゴックは肌を完全に濡らし

あふれだすそれ

髪を濡らし、産毛、…全身の、産毛。睫毛も…眉毛も?

と。

冷たい水

濡れ、濡らし、濡らされ、濡れ

と。

冷たかった水。もう、と

だから濡れた。…わたしは

もう、と。

もうすでに

水は?

と。

水はどこへ?

と。

どこへ…どこへ水は?——聞こえる?

壬生はさゝやき、——聞こえてる?壬生はさゝやき聲にささやき、壬生は、——俺の、…

ね?…と、

——俺の聲?

判った!

と、ゴックはいきなりに壬生を見て、そして——大丈夫だよ。

明日は…

判った!

我に返ったように見えた。ゴックは、そしてその唐突に正気付いた眼差しを

百合の花が海に降る

——心配しないで

判った!

——もう大丈夫だよ

壬生はひとりだけでつぶやいたように、さゝやいたゴックの聲を聞いた。かくて偈に頌して曰く

   見ていた

    いくつもの水滴が

     まさに彼女の

      肌を濡らした水滴が

   ふるえもしないで滑りを散るのを

    その色

     透明な儘で

      向こうを曝し切ることも無くて

   あるべき肌の

    その色を

     気付かないほどにゆがめた色彩

      水

   透明ではない…美豆

    透明な色…美都

     十九歳の春に…美津

      …嘘。——

   その

    冬(——いまだ嚴しく凍てつく)

     櫻に遠い春の直前の

      冬?

   明日も嚴しい冷え込みが予想され

    二月の半ばに

     雪菜は吐いた

      腹の中に

   子供の息吹きも無い儘に

    雪菜は吐いた

     なぜ?

      と。(——洗って)なんで?

   雪菜は云った

    のけぞるように(——叫ぶように)

     明日も嚴しい冷え込みが予想され

      背をのけぞらせて

   明日も嚴しい冷え込みが予想され

    のけぞるように

     雪菜は。…吐く

      へし折るように(——なぜ)

   首を折り曲げて

    息が(——洗って)もう

     出来ていないかのように唇を

      他人のように先をだけ(——なぜ叫ぶように)ふるわせ、そこだけが他人の部位だったかのように

   なんで?(——振り向きざまに雪菜は)

    わたしは見る

     なんで、(——洗って)吐くの?

      彼女をそっと

   わたし、(——水浸しにして)なんで…

    慈しむように

     なんで(——シャワーで)吐いてるの?

      雪菜だけを

   死ぬのかな?(——なんで?)

    私はその、あきらかな怯えの(——洗って)色の目に生起した一瞬を

     しにたくないの?

      見た。(——振り向きざまに)雪菜は

   なんども

    わたしが(——雪菜は)目を覚ます前に

     なんども

      ベッドをぬけて(——振り向きざまに)

   死のうとしたのに?

    ひとりで(——水浸しに)吐いた

     嘘なの?

      渋谷の(——、水びたしに)部屋…その

   死にたくないの?

    雪菜の(——はやく)部屋で

     怖いの?

      神宮の(——なんで?)森?

   死ぬのが

    いまだに(——振り向きざまに)なにも

     なんで?

      肌にまとわずに

   怖いの?(——雪菜は)

    さらされた褐色が

     死ぬのが

      わたしが(——なぜ?)電気をつけた瞬時に

   怖くないよ

    あざやかに

     俺は(——洗っていいよ)

      やわらかいオレンジの

   あなたが(——頭の先から)俺のそばにいるから?

    光に

     そして、(——つまさきまで)俺を

      くすんだその

   俺だけを(——いいよ)愛していてくれるから?

    褐色を(——ね?)曝した

     他人の死に怯えはなく

      見つめた。(——あらっていいよ)吐き

   怯え得るのはいつも自らの死だったというなら

    ひとり(——全部)

     雪菜のいくたびものその

      ひとりで(——やりたい放題)

   自殺未遂は

    なんども(——好きなだけ)

     あくまで(——洗っていいよ)他人の死だったに違いない

      何度も吐き、ようやく

   顏をあげた雪菜は、(——早く)怯え

    明らかに(——ね、…)

     雪菜は(——洗えよ)ひとりで

      のけぞるように

   あきらかに(——早く)怯えて

    背を(——ながせよ)のけぞらせて

     死ぬの?

      へし折るように(——糞だね)

   想う。(——あんた)わたしは

    首を折り曲げて

     一人だけで(——くそだね)

      息が(——なに…)もう

   死ぬの?(——なにやってんの?)

    出來ていないかのように(——なに見てんの?)唇を

     ひとりだけで(——くそ?)わたしは

      他人のように(——くそなの?)先だけふるわせ

   想う、(——なにやってんの?)…いつ?

    なんで?(——なにも…)

     わたしは(——なにもできないの?)見る

      なんでなの?

   彼女を(——はやくしろよ)そっと

    なんで、(——雪菜は)わたし

     慈しむように

      なんで(——振り向きざまに)吐いてるの?

   雪菜だけを(——くそ)

    死ぬのかな?

     その朝、(——はやっ、)ひとりで目を覚まし

      なぜ?

   かたわらに居ない(——や…)雪菜の

    どうしたの?(——ろよ。ろっ)どこへ…

     雪菜の不在に

      なんで?(——はやくしろよ)

   かすかに(——はやく)一度

    どこなの?(——ながせよ)

     一瞬だけ(——くそ)怯え

      寒かった。(——はやっ)なぜ?

   まるで、(——ねがう)外に

    どこ?(——わたしは)

     雪が降っているかのように?

      …嘘。(——その聲)まさか——

   雪菜が(——叫ぶ)居ない事に

    ベッドに(——雪菜の)

     雪菜が(——叫んだ聲が)居ないことに気付いたわたしは(——軈て)

      どこに?(——しずかに)

   彼女を探すつもりもない儘

    …尿意。(しずかに)

     そこにいたの?

      吐く(——沈黙することを)

   そこに?

    吐き、(——彼女を)雪菜は

     さらされた褐色が(——シャワーで)

      …だいじょうぶ

   わたしが電気をつけた瞬時に(——わたしは)

    怖くないよ

     あざやかに(——雪菜を)

      死ぬのさえも(——水浸しにしながら)

   やわらかい(——はやく)オレンジの

    俺があなたのそばにいるから?

     光に(——洗え!)

      そして、(——はやっ)あなたを

   くすんだ(——やっく、く)その

    あなただけを愛していてくれるから?

     褐色を(——はやっ)曝し

      なぜ?

   と。(——くそ)なんで?

    雪菜は(——ながせよ)云った

     のけぞるように

      背を(——はやく)のけぞらせて

   へし折るように

    首を(——ながっ)折り曲げて

     息がもう(——はっ)

      出來ていないかのように唇を

   他人のように(——なっ。な)先だけふるわせ

    わたしは(——なっ)次の(——なっく、)日に

     雪菜が日野市でひとりで死ぬのを一人で見た。その

      雪の白








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000