修羅ら沙羅さら。——小説。52


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

夷族第四



かクに聞きゝ8月28日壬生ゴックに白シて問へらク最近、どうなの?

なに?

コロナ。…いないよ。もう…最近は、…

いない?

あたらしい人、二三日くらい?…見つかってないよ

終わったの?

なに?

隔離。

…まだ。かクてゴック聲立てゝ笑へル聲胸元に聞きて聞きヲはるともなクに壬生ゴックを居間なるソファに抱きかゝえて坐する儘に想ひ附きてゴックに云さク海。

うび?

海。

うに?

うみ。…伊迦那ゐ?

海?

宇美。…伊迦那井?

うみ?

行かない?宇美邇

海に?

行こうよ。ひさしぶりに、…さ。かクてゴックふたタび聲立てゝ笑へる聲胸元に聞きて聞き遠波留とも那久邇壬生ゴック居間なるソファに抱きかかゑて坐すル儘にゴックが髮を撫でき時すデに夜九時を過ぎて壬生耳に觀ずるにいまダ封鎖さレたる町たゞ靜かなりキ壬生ゴックが行くや否や返答未だせざるに立チてゴックが手を引きかくてバイクに乘りテ俱なりテ海に行きゝ町の三車線大通り等人影も無シ家ゝが照明等又街道が街燈等のミ明らかなりきかクて壬生ゴックと俱なりて海に行き湾岸道路にバイク止メかくて海を見テ海そレ黑の一色ノ中に波の泡の白色ノみ靑ミてさまざマに際立ち消えり海を聞ひて波立つ音耳にさわぎさわぎ続けてもの狂をしキまでに寂なりて靜なりてあざやかナりき見上げたル空たダ昏く靑ミて黑く遠ク雲のさマざまを散らシて流シそれら流動する雲母ノ如かりき壬生我を忘レてそれらを見き又曾禮良乎聞きゝかクて頌して

   すさまじい

    うみ、よくくるの?

   遠い他人が流れて行った

    うみに?

   それらしら雲ら

    うみ、よくくるの?

   眼の前の

    うみ?

   遠い目の前で

    しずかだね

   せめて轟音が

    だれもいないね

   すくなくとも私にとっては

    しずかだね

   せめてとゞろく轟音が

    すずしいね

   立てられるべきだったすさまじい

    ささやくゴックの

   轟音さえ響かせないで

    いくつかのこゑを

   巨大な白い

    わたしのみみは

   雲母の塊りは流れ、その

    ききとりながら

   しら雲ら

    なんのこたえを

   かたちさえもくずさないままに

    するわけでもなく

   あまりにも澄んだ

    ただほゝえみ

   白い色彩の

    むねにだいた

   色彩の無垢に

    ゴックのためにだけほゝえみ

   或はそれら

    うみすき?

   しら雲ら

    うみ?

   もはや暴力的な息吹さえをも感じた

    すき?

   巨大なはずの色彩ら

    うみすき?

   まなざしにうかぶ

    うみ?

   巨大なはずのしら雲ら

    うみすきなの?

   遠くに光の粒立ちが見えた

    なにみてるの?

   線を描いて横に延び

    くも?

   途中で途切れた

    くもみてるの?

   向こうに広がっていた

    くもすき?くも

   それは海岸線の光り?

    くも?

   空と海との境界は

    くもすきなの?…くも

   黑と靑みた黑の一色のなかに

    うみすき?

   顯らかな差異を曝した

    うみ?

   かすかに湾曲した直線として

    くもすき?

   海が鳴った

    きれいだね

   さざめき、ざわめき

    だれもいないし

   リズムの一定など…

    しずかだし

   海が鳴った

    きれいだね

   どこまでも、容赦のない不意打ちの連鎖

    うみくる?

   もはや音響に

    うみ?

   どこまでも、無慈悲なまでに好き放題の生成

    よくくる?うみよくくる?

   寄り添いさえしないで

    だれと?だれ?

   どこまでも、

    ひとりで?だれ?

   波打ちの白濁はきらめいて砕けた

    うみすきうみ?

   あくまでも音響とはあまりにも無関係に

    うみすき?

   あくまでも音響とはあくまでもふれあいもせずに

    くもみてくも

   まして響き合い

    …くも

   まして呼応しあうことなどなくに

    きれいだね

   人と人ゝ

    ふいにおもった

   少なくはない人ゝは

    ゴックのこゑを

   周囲にはるかな遠くに

    みみにしながら

   自分ら以外の

    わたしがわたしでありえたことさえいちどもなかった

   海に集まった人と人らをそれぞれに離れ

    うみはうみでありえたことさえいちどもなかった

   離れ離れに

    くもはくもでありえたことさえちどもなかった

   ベンチに座り

    しずかだね

   海辺を歩き

    ゴックはいった

   砂浜に座った

    だれもいないね

   人ゝは

    しずかだね

   そこにいる人の群れを

    ゴックがささやく

   嫌悪も無くに忌避してちらばり

    だれもいないから

   人ゝは

    しずかだね

   生きた息吹さえも曝さなかった

    うみすき?

   話し合う聲の響きさえ聞き取れない

    すき?

   距離の中に

    うみすき?

   わたしはゴックを胸に抱きながら

    わたしすき

   そこにいる人の群れを

    すきだよ。すき

   嫌悪も無くに忌避してちらばり

    うみすき?

   彼等には

    およぐ?

   生きた息吹さえも曝さずに

    およぎたい?

   話し合う聲の響きさえ聞き取らせずに

    すき?

   ゴックの髪の毛の匂いを嗅いだ

    およぐのすき?

   見上げた儘に

    うみすき?

   空の雲母を?

    うみ?

   見上げた儘に

    すき?うみうみすき?

   不意に聞く

    すきなの?すき?

   私の耳は、不意にゴックの

    くもすき?

   淋しいの?

    きれいだね

   ささやいた聲を聞いた

    しずかだね

   ゴックは私の胸に顏をあげ

    だれもいないから

   鎖骨の上にのこぞるように

    うみすき?すき?

   そして唇が笑っていた

    うみすき?

   邪気も無く

    およぐ?

   まるで無辜なるかたちを見せて

    すき?うみ

   唇は。目が

    うみすき?またくる?

   潤んだままに

    すきなの?すき?

   無機物の質感をだけ

    すみすき?

   殊更にさらす









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000