修羅ら沙羅さら。——小説。39
以下、一部に暴力的な描写を含みます。
ご了承の上、お読みすすめください。
修羅ら沙羅さら
一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部
蘭陵王第二
ゆっくりと、むしろ浮き上がるようにゆっくりとコイの上半身が、そしてコイが前のめりに地にふして、そして尻をだけ揃った太もゝが突き上げるを見た。壬生は、その時に耳にアルミ板のテーブルが音を立てて、そして揺れてさえいたので壬生は、コイが頭をその隅にぶつけたにちがいないことを知った。人の口は、そして人ゝの口はふたたびさわぎはじめて、そしてユエン達の周辺数歩をだけにいつか隔離地帯をさラさセて置く儘さまザまに音響を、おちそう、と。
ヒエンはまばたたかずに想った。
あなたの肩の、ドレスの、その、と、その
細すぎる糸のような右の、
右の肩紐だけが。
——聲は立った。その騒音を壬生は周囲に聞いた。そして騒音の中心にいたユエンは、ひとりで怒り狂った顏の儘に泣いていた。聲もなく、そしてすくなともまさに滂沱のと、そう云って謂うべき淚を大量にながしていた。悲しんでいたに違いなかった。壬生はそう思った。聞いていた。耳に。ユエンの唇が発熱した嗔りにわなゝきながら罵声だけをコイにのみ浴びせるのを、そして事実としてコイはいまだに殴り続けられ蹴り上げられ続けた無垢の犠牲者のように、誰にもすて置かれた儘に頭を腕に守って尻を震わせた。壬生は彼がすでに失禁してるに違いないと想いかくて偈を以て頌して曰く
立ち去ろうとして
あなたはまだ生きて居る。だから
踵すを返した眼差しに見た
あなたはいまだにスイカをすする
私の目は
あなたはまだ生きてる
はなれた奥の祭壇の前で
はずかしげもなく
ふたりならんだ僧侶の前で
失禁の下着を洗濯機に抛る
その黄色の法衣のこちらに白い
あなたはまだ生きてる
褐色のレ・ハンの私を見なかった目がただ
恥知らずの儘に生まれたから
コイたちだけを見てあきらかに
恥を知らずに生きていける
嘲り笑むその目の色を
誰が彼を処罰できるだろう?
わたしは見た。かならずしも
処罰され得るのは
かのじょを咎める気も無くて
すでに恥を知ってあるものだけだ
又
タオはその時に
時に、まさにその時、まさにまさに
コイに、その時に
時に、まさにその時、まさにまさに
まさに見たことも無いような笑い顏をさらさしていたのだった
時に、まさにその時、まさにまさに
軽蔑?
あられもない、無防備な迄のまさに
羨望のような
あられもない、無防備な迄のまさに
侮蔑?
あられもない、無防備な迄のまさに
憧憬のような
時に、まさにその時、まさにまさに
コイの頭部が
時に、まさにその時、まさにまさに
娘の拳に打ちのめされる直前のその
時に、まさにその時、まさにまさに
須臾なる一瞬の、その時には
かくに聞きゝかクて壬生ユエンが家に歸りき歸りて鬱とシてたゞ鬱然たりき故に壬生思ひ出でるともなくに片岡が番号を鳴らしき鳴らし鳴らシゝて彼終に出ズ又やゝありて壬生鬱としてたゞ鬱然たりき故に壬生思ひ出でるともなくにふたゝびに片岡が番号を鳴らシき鳴らシ鳴らシゝて彼又も終に出ず又やヤありて壬生鬱としてたゞ鬱然たりき故にかくて迦留我由衞爾ゴック・アイン思ひ出でるともなくにゴック・アインが番号を鳴らシき鳴らし鳴らシゝて彼終に出ず又やゝありて壬生鬱としてたゞ鬱然たりき故に壬生思ひ出でるともなくにミたびに片岡が番号を鳴らシき鳴らし鳴らしゝて彼又ゝに終に出ず又やゝありて壬生鬱としてたゞ鬱然たるまゝに身を洗いながシかくて居間なるソファに横たわりてひとりなりてコイだにタオだに歸へらズして飛登里インターネット翫ぶまゝに寢うたゝ寐シて寢覺め又うつら宇都羅なりて醒めてメ覺メて日はすでに暮レタりテ室内暗がるにそノまマに放置して壬生ひとりなりてコイだにタオだに歸へらずして飛登利インターネット翫ぶまマに寢うたゝ寐して寢覺め又うツらウ豆良なりて醒めてメ覺めテ時すでに夜なりて外に物音なくうちに鼠の驅ける音何処にかに鳴りて壬生ひとりなりてコイだにタオだに歸へらずして日斗りインターネット翫ぶまゝに寢うたゝ寐して寢覺メ又宇都囉宇豆囉なりて醒めてかクて寢ね寐覺め寢ね寐醒めしねざめの寢ねめざむらんとするうちに見て夢を見て覩て夢覩見て覩キかクて頌して
あなたに話そう
玉散るのは血、その
まさにあなたの爲に話そう
腐った、その
その色を知るべきだろう
生き生きしたその
あなたはまさにひん曲がった背骨をへし折れる寸前に曲げてそれでいて猶
玉散ったのは血、その
翳り
翳るあなたの
深く、深く、ただ深く翳って極彩色の
鏡の内にも
色のない
見る翳りの
肉と腐った肉の、骨と噛み千切られた骨と、筋と千切れ飛んだ神経系の
まさにあなたの
極彩色のかたちが俱なり
咬む
むさぼり咬み千切る肉と肉の
噛みつき
骨と肉の
咬む、猶も
神経と筋と
猶も尚もあえてだに更に
筋と筋と肉と筋肉と
咬む
それぞれの無数の歯と
噛みつき
齒と齒ゝと
咬む
その肉
咀嚼し
肉と肉ゝの
咬む
血、玉
噛みつき
玉散るのは血、その
咬む、猶も
その時にも血、
咬む
玉散ったのは血
噛みつき
その時にも
咬む
見ていたのだった。わたしは
咀嚼し
その夢の内にも、だから
咬む
あなたも見ていたのでなければならなかった
噛みつき
そでに齒と齒に咬みつぶされた
咬む、猶も
眼球の飛び散らせた体液の玉さえ
猶も尚もあえてだに更に
玉散り失せた時にも猶も
咬む
その剥き出しの
噛みつき
肛門が加えた眼球を以て
咬む
又は
咀嚼し
鼻の孔で
咬む
又は
噛みつき
耳と耳のかさなりあう隙間で
咬む、猶も
あなたは見るべきだった
猶も尚もあえてだに更に
降る雪
咬む
まさに雪
噛みつき
あなたとあなたたちに
咬む
降る雪
咀嚼し
わたしと私たちに
咬む
降って居た雪
噛みつき
わたしたちとあなたに
咬む、猶も
あなたとわたしたちに
猶も尚もあえてだに更に
まさにすでに
咬む
降り続けていた雪
噛みつき
溶けもしない、その
咬む
零度の温度さえも無い、その
咀嚼し
雪
咬む
花、沙羅の
噛みつき
沙羅の白い花の夥しい
咬む、猶も
みだらなまでにも夥しい
猶も尚もあえてだに更に
卑猥なまでにも夥しい
咬む
無様なまでにも、容赦なきまでにも
噛みつき
穢らしいほどに降り
咬む
降り落ち、降り
咀嚼し
降りつづけたその
咬む
無数の花、沙羅の
噛みつき
白い花、花ゝ
咬む、猶も
花、花ゝ花
猶も尚もあえてだに更に
花、花ゝ花ゝ
咬む
花、花、そしてその花、それら花と、花の向こうに
噛みつき
花、花、そして花
咬む
花ゝ、そして花、花、花
咀嚼し
それら、白の
咬む
花、花、
噛みつき
白の
咬む、猶も
花、花、
猶も尚もあえてだに更に
沙羅の
咬む
花、むこうにも
噛みつき
花、沙羅の
咬む
白い、花、そして
咀嚼し
向こうのその奥の
咬む
花、花、花ら
噛みつき
花、
咬む、猶も
そして花、花
猶も尚もあえてだに更に
そして花、花、花ゝ
咬む
花、それら
噛みつき
地にふれるまえにはすでに
咬む
花、それら
咀嚼し
かたちにふれるまえにはすでに
咬む
花、腐り腐敗して行く花
噛みつき
沙羅の、白い
咬む、猶も
何をも
猶も尚もあえてだに更に
なにをも救おうとだにしなかった救いの欠片さえないただ白い花、その、それら、雪のような無限の散華を
又
夢を見た
喰うのだった
夢の中で、その中でも夢を見た
決して飢えた譯でも無くて
その、まさにその
ひたすらに喰い
まさにその夢にわたしは差し出すのだった。彼に
喰うのだった、その
わたしがその時殺した大津寄が
だれかの顏、顏
そのままに未だ
だれかの鼻、鼻梁
三十年以上も時を隔ててそのままに
あるいは軟骨、軟骨
微笑んでそのままに
睾丸、だれの?わたしの?
わたしが殺した時の儘に
誰かの、胃、胃、骨のある胃、心臓を咥えた
頭に血をながして夥しく濡れながら
すすりあげる腎臓、その
その、まさにその
噛みつかれた脳漿、もはや
まさにその少年にさしだす
噛みついた齒がすでに
わたしは差し出す、まさに私の肛門の齒が
わたしである必然などなどなかった、むしろ
噛み千切った腕を、わたしの
だれかである必然さえも、むしろ
すでに無数に甲殻虫じみて無数の足を
おびただしいそれぞれとしてまさに
いきいきと曝した未成熟な腕を
それぞれなる儘にまさに
玉散らす
わたしがわたしであったことなどなかった
血の腐臭さえそのままに、その
あなたがあなたであったことなどなかった
まさにその腕を、わたしは彼に
疾走する
さしだして、口がさけて、まさに
齒の無数の甲殻の鼻糞の疾走を
私の口は避けて噴き出した
あるいは
脳漿のような神経系の、無数に生やした齒と齒ゝの
かみ砕かれた眼球の失踪を
それらが生やした齒と齒ゝに
無言の咀嚼の、無残な唇が生やした
それらが生やした齒と齒ゝに食われる
七十八の膵臓の痙攣を
咬み、噛みつかれ、咀嚼の中に
その色を
差し出した腕を、わたしは見る
腐った匂いを
肛門の目、咥えられた目が吐き捨てられながらに
ねらって虛空を咬んだ鼻毛よ
大津寄の笑みを
又
取り残された水の面に
誰かが見ていた、その拡がる
波紋、ひろがる
波紋、その拡がった
波紋
又
内側に身をすべて長く引きのばした獸がむせぶ
その聲を聞く
又
無間に引きのばされた舌はすでに太陽を拘束し破壊した
その最期の無数の火花に消えた
又
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、垂れおちる
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こうたれおちる儘
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、落ちる前、その
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こうの、その
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、落ちる寸前の、その
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう、玉
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、玉散ろうとする、その
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう、玉、ふるえ
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、ふるえるままに
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう、落ちる直前の血の玉が
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き垂れた腸の
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう、千切れた肉の
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、たれずれする腸の
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こうかみちぎられた肉の
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、先端の
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう咀嚼の前の
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、血の玉の
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう、肉の血が
ろろ、ろろ、ろ、と、…ろろ、ろ、ろろ、ろろ、と
鳴った音を聞き、見る。震えるのを
りゆ、りり、ゆ、りゆ、ゆ、りり、りゆりゆ、りゆ、り、りりりゆ、りゆ、り、るる、と
鳴った音の向こう見ていた、その肛門の
かくて偈を以て頌して曰く
力つきるように眠り、
力尽きるように目覚める、いつも
なんども目を覚まし何度めかにも見た、その
天上に、市川雪菜の翳りが誰かの未生の誰かの肉を喰い千切った
力つきるように眠り、
力尽きるように目覚める、いつも
なんども目を覚まし何度めかにも見た、その
わたしのうでに取りついた見知らないすでに死んだ誰かが
わたしの知らない未生の誰かの骨と肉に咬まれる。まさに
彼がその眼球の指を咬みつぶしたその時に
力つきるように眠り、
力尽きるように目覚める、いつも
なんども目を覚まし何度めかにも見た、その
壁に生えた、翳りの肉の塊りが長い孤をかいて飛び散る
力つきるように眠り、
力尽きるように目覚める、いつも
なんども目を覚まし何度めかにも見た、その
翳る私が喰い散らした、その、未生の子
わたしの未生の子供を掌に陥没させた肛門の腸の齒の繁みに
力つきるように眠り、
力尽きるように目覚める、いつも
なんども目を
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