修羅ら沙羅さら。——小説。35


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

蘭陵王第二



かくに聞きゝ壬生かくてゴック・アインが傍らに寝台に背預けて坐しきゴック・アインかクて壬生の傍ら寢台に横たワりタる儘身もたゲて彼の髮を撫でき壬生背後にゴック・アインが体臭嗅ギ鼻に惡臭未ダ馴れず馴染まズ又壬生背後にゴック・アインが裸身息ヅきたるを感ジてかクてみづからの目を閉ジき壬生仍て気配にのみゴック・アインが在る肉躰の息吹き又そ乃心ノ息吹く息吹き觀ジて感ジきかくて頌して

   あなたに話そう。

    ——どう思う?

   まさにあなたの爲に話そう。

    ——どうって?

   私は云った。

    ——あなたはどう思う?

   誰に?

    ——何を?

   ゴック・アインに。

    ——今度のコロナ、何人死ぬかな?

   彼しかそこに居なかったから。

    ——ベトナムの?

   ゴック・アインの爲に?

    ——ここの

   かならずしも彼にまさに告げたかった譯ではなくて。

    ——前より、三月と四月より

   だから私は想うのだった。

    ——多いみたい。…

   自分が実は嘘をついているようにも。

    ——前は死ななかったね

   彼をなぐさみものにし、むしろ

    ——ほかの国、いっぱい死んだけど…

   彼をないがしろにし、むしろ

    ——なんでだろ?

   彼のまさに彼が彼である事実をなきものにし、或いは

    ——今度は、ひとり、…もう、ひとり死んだんじゃない?

   彼をまさにそこにいなっかたかのようにして、むしろ

    ——なんでだろ?

   彼を目隱しゝたまゝにし、例えば

    ——なんで、だれも死ななかったんだろ?

   顏を燒き彼の彼であった意味をはぎ取り

    ——惡い藥、いつも一杯飲んでるから…

   生き生きしたままに、例えば

    ——暑いから

   目隠しし、後ろ手にしばりあげて、そして最早

    ——なんだっけ、体質?

   誰でもなくなった彼を

    ——今度は死にそう

   まさに彼がゴック・アインその人だったと知りながら

    ——そうなの?

   彼が誰であったのかもわすれたとこそ擬態して、そして

    ——たぶん…

   だから最早名前さえ奪われたゴック・アインを侮辱の内に

    ——あなたは?

   独善的な愚弄と

    ——だれ?

   理不尽な凌辱と

    ——死ぬの?

   聲の、そのやさしい色の儘に

    ——あなたも、死ぬの?

   無慈悲な迄の嘲弄と

    ——日本、いっぱい、増えたね…

   聲の、その慰めるような気配のうちに

    ——信じられない。

   肌にひざしが、それでもふれていたのは知っていた。

    ——日本、アジアで…

   聞いた。

    ——中国とか、ベトナムとか、…

   時に背後に彼の鼻に

    ——ここらへんで、

   聞き取れ無い程の微弱の

    ——中華圏?

   隱そうとした譯でも無い

    ——カンボジア、…ラオス、

   息遣いの音が

    ——どこらへん?

   私は想う。まさに

    ——一番死んだね、…日本。

   わたしは事実として彼に嘘を

    ——いちばん、…

   あり得もしない嘘を語る、と

    ——なんで?

   ただ

    ——あなたは?

   素直に言葉を漏らす須臾のわずかな一瞬の

    ——俺?

   一音にすらならない音声の

    ——あなたは、死にの?

   揺らぎさえも

    ——今回のコロナで、あなたは。

   そうささやいて、たくらむように笑ったゴック・アインを

    ——不思議なんだ。

   わたしは振り返った。いまだに

    ——自分は…

   かたくななまでに目を閉じたままに。嗅いだ。

    ——自分だけは生き残ると思ってる

   彼の肌の悪臭を。

    ——そして間違いじゃない

   忘れることさえできない、その

    ——今、そう思うということは、

   鼻をつくひどい匂い。笑うしかない

    ——事実、すくなくとも自分だけは生き残ってるということだから

   笑うさえできない

    ——不思議なんだ

   冷たく嘲笑されたような匂い、例えば

    ——でも、その確信は

   彼を愛する心の真実を

    ——結局は根拠もない狂気…まさに

   血も涙もなく、罵倒する誠意さえもなく

    ——俺たちはくるってるんだよ

   一瞥の内に軽蔑され捨て置かれたような

    ——そう思わない?…だって

   彼の

    ——あなたも自分は死なないと思ってる

   獸のような?

    ——すくなくとも

   獸の柔毛のような?

    ——心のどこかでは顯らかに

   降りしきる雨をあびた後の

    ——…じゃない?








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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