修羅ら沙羅さら。——小説。28


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

蘭陵王第二



壬生はユエンのなすがままに隨いながら、不自然にもたげた儘の両腕の、その指先に穢れの靜かに拡がって、空気に触れ、やわらかく拡散し落ちてゆく幻を、うたゝ寢するでもない褪めた目に見てみ、ユエンはさゝやき、自分の爲にささやき、蛇が、

と。

蛇が殻をぬぐように、

あなたは素肌をさらしてしまう、

と。

いつでも、

と、いつでも

…今も。

時に、その蛇を、——はいゝろの虵、うるおった肌の、そして日のひかりの差す路上を、そのものゝみづからの落とした翳りをくぐってさえ這い匐う蛇を、壬生は、その穢てない肌を思った。そのうるむ素肌を。穢れにふれて穢れず、むしろみずからそのものが穢れでさえありた、それらの強靭、例えば蜥蜴の。又は乾いた甲殻虫の。又は蟻の。又は毛ば立つ蜂の。又は毛虫の。又はぬめる蝸牛の。又は光る蠅の。又はしたたるような蛆の。又は気配のない猫の。又は疾走する鼠の。かくて偈を以て頌して曰く

   ふれてはいけない

    見なければならない

     聞いた

   手を

    あなたは

     耳に

   その手をはふれてはいけない

    あなたは見なければならない

     雨の音

   穢いから

    あなたの

     音

   穢れた手

    こころのあどけなさを

     聞いた

   手の穢れに穢れた手は

    いまもなおも

     耳は

   手にふれた

    見なければならない

     耳を澄ませた譯でも無くて

   つかみとるように

    あなたは

     雨のおと

   あやすように

    あなたは見なければならない

     降りそうだった雨が

   むさぼるように

    じゅんなかんかく

     今漸くに

   いたぶるように

    まるでむじゃきで

     漸く今

   空中に浮かぶ

    じょうだんにもならない

     ふれたのだった

   穢れた手

    むじゃきなかんかく

     土に

   手の穢れに穢れた手は

    いまもなおも

     石に

   たてられはいけない

    なおも

     トタンに

   聲を

    見なければならない

     葉に

   その聲を立ててはいけない

    あなたは

     枝に

   開かれているから。ドアは目の前に

    あなたは見なければならない

     花

   時に喉が

    びっくるするどじゆう

     蔓に

   かすかにでも聲をたてそうになっても

    びっくりするほど

     鳥に

   わめくように

    おどろくほどたんじゅん

     蜥蜴に

   なじるように

    びっくりするほど

     ミミズに

   くるしむように

    見なければならない

     蛇に

   いたがるように

    あなたは

     肌に

   ののしるように

    あなたは見なければならない

     人の

   ひらかれた

    なんにん死んだ?

     たとえば二の腕の

   唇が兆す

    死んだ?…なんにん

     肌に

   無音の聲を。その音響を

    なんにん死ぬの?

     聞く







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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